宮沢洋氏のやさしさと味のあるイラストで後世に残すべきと思われるヘリテージ(遺産)的な建築物を紹介する本。

2023年7月2日

読書状況 読み終わった [2023年7月2日]
カテゴリ 建築

中世のロシア歴史についての知識、というより、認識自体したことがない。すっぽり抜けている事に本書を手にするまで気づかなかった。
十三世紀、チンギス・ハーンに始まるモンゴル帝国が東欧まで侵攻し征服。これは世界史の授業で習った記憶がある。
しかし征服されたルーシ公国(ざっくりいうと現在のモスクワを中心としたロシア西部やウクライナ地域)と言われたところが、どの様な状態だっのかは全く知らなかった。
そして十五世紀末までの約240年に渡り、直接、間接的に、タタール(モンゴル)がルーシを支配し続けた時期を「タタールのくびき」というそうだ。
タタールによる一方的な圧政だったのかと思いきや、乱暴に言うと、元々そこを支配していた一族の分裂と権力闘争の戦乱の時代。で、タタールは、その闘争にいいように使われていた様な感じだ。
ロシアによるウクライナ侵攻の思想を、理解とはいかなくても、そういう考え方によるものなのかなと思わせてくれる。

2023年6月3日

読書状況 読み終わった [2023年6月3日]
カテゴリ 歴史

主人公の父親は、大御所ミステリ作家。父親とは生前一度も会ったことの無い存在だったが、異母兄より遺作の原稿を探してほしいという奇妙な依頼が主人公に舞い込む。
原稿探しご物語のテーマではあるものの、本作の醍醐味はそんなものではない。
何を言ってもネタバレになってしまうので言いにくい。
読了後は、ページを読み返し、尻労と伏線が散りばめられているのに気付かされる。とてつもない労力で書かれた作品であるのは確かだ。

2023年6月25日

読書状況 読み終わった [2023年6月25日]
カテゴリ ミステリJP

七万石を所領する神宮寺藩江戸藩邸にて、差配役の頭として取りまとめをしている里村五郎兵衛。藩邸の雑務全般をする藩邸の運営には無くてはならない潤滑剤のような役目。しかし陰では〈なんでも屋〉とも揶揄される。
現代社会で言うところの総務婦庶務課帳といったところか。
五郎兵衛の元には、藩邸内のあらゆる揉め事が持ち込まれる。上役の家老等からの命令に従い、配下の武士が何故こんなことまでやらなくてはならないのかと憤ることもしばしば。
そんなときに五郎兵衛は「勤めというのは、おしなべて誰かが喜ぶようにできておると」と冷静に諭す。
揉め事にも真摯に取り組む姿勢、上にも下にも気を配るデキる中間管理職の鏡。
5作の連作短編だが、それぞれがゆるく繋がり、最後には読者を唸らせる内容。
季節を感じさせる情景描写、舌舐めずりしそうな江戸の食、そして上手い構成。上質の時代小説だ。

2023年5月18日

読書状況 読み終わった [2023年5月18日]
カテゴリ 時代小説

滋賀県大津市のJR膳所駅近隣を舞台とし、そこに住むちょっと変わった女子中学生、成瀬あかりと彼女に何かしらの繋りをもった人物が織りなす連作短編集。
西武大津店の閉店という実際の出来事が、それぞれの作品に上手く取り込まれ連作の小道具となっている。
とにかくストレートな成瀬と、彼女に関わることで人生が少し変化する登場人物たちの描写が、透明感というか清々しい。
そして著者の圧倒的な地元愛を感じる作品だ。

2023年5月7日

読書状況 読み終わった [2023年5月7日]
カテゴリ 大衆小説

牧野は幕末の土佐藩の商家の出ながら、学問に勤しみ、植物に興味を持ってからは生涯を植物の研究に没頭した人物。
よく見る肖像写真は、優しい笑顔が絶えない学者だが、エピソードを辿ると、研究熱心な故なのか、頑な性格故なのかは判らないが、色々と確執や衝突があったようだ。見かけには選らないものだ。
何連にせよ牧野の残した功績は大きい。

2023年4月2日

読書状況 読み終わった [2023年4月2日]
カテゴリ 植物

このミステリーがすごい大賞!を受賞して作家デビューした新川帆立のエッセイ集。
受賞作の『元彼の遺言状』に続き『競争の番人』もドラマ化が決まり、自署累計発行部数も100万部を突破。デビューから1年ちょっとでエッセイ集が刊行されるのは人気の作家さんならでは。
思えば氏を初めて知ったのはラジオ番組のゲストに登場していたのを思い出した。
インタビューで紹介されていた経歴が色々と凄過ぎて、それなら作品を読んでみたいと思ったのだった。
東大出身。作家になりたくも、まずは収入に困らない国家資格を。という目的で司法試験に合格。
なのに司法修習中にプロ麻雀士として1年間活動。
晴れて大手弁護士事務所にて弁護士と活動するもハードワーク過ぎて退職し、企業内弁護士となる。そして作家になるべく小説講座等で研鑽して見事、作家デビューを果たす。
新川帆立の作品は、お仕事エンタメ小説として面白く非常に読みやすい。
なので、今ではファンになったのだが、いかんせん作家になるまでの経緯がドラマティック。
一体どんな人なのだろう。と気になる。
好きなモノには凝り性。ある意味、努力家。なのかな。
目標を定め、その為に進むべき道を、自ら切り開いたことで、今の新川帆立があるのだなあ。と思えた。

2023年7月17日

読書状況 読み終わった [2023年7月17日]
カテゴリ エッセイ

主人公は特許などの発明者の権利を守ったりする弁理士。
特許侵害で警告を受けたVTuberの事務所からの難しい依頼にどうやって対応するのか。
個性的なキャラクター達、小難しい法律系を平易な文章で読ませるエンタメ小説。
リーガル系デキる若い女性。このミス大賞。といえば新川帆立。
特許絡みのミステリ、圧倒的に不利な状況からの逆転劇。といえば、池井戸潤の下町ロケット。
それぞれのいいとこ取りしたような作品だがラストまで一気読み。
シリーズとしてまた次作を読みたくなる痛快さ。

2023年6月25日

一度読んでも理解しにくいこの本のタイトル。
官公庁の発行する文章はやたらと長い。法令の名称もまた然り。なのでなんか取っつきにくいリーガルモノなのかな?と尻込みしがち。
でも読みだすとそれは杞憂。タイトルの意味も、あーナルホド!となる。
本の内容を端的に説明すべく、全く無駄のない文言で作れたタイトルであると納得する。
体裁は夫々独立した内容の短篇集。テーマは動物愛護、酒造、VRと領土、労働問題、電子通貨、麻雀賭博。
舞台は日本、たはだし時代はレイワ。年号の読みはレイワだが、礼和だったり、麗和だったりと、ようは各ストーリーの設定がある種パラレルワールドの設定。
どの作品にも、現実には無い法令なのだが、日本の国民性故、ちょっと間違えたら、さもありなん的な法令が制定された世界でのお話だ。
いずれもウイットに富んだ切れ味鋭いオチが待っている。

2023年3月26日

読書状況 読み終わった [2023年3月26日]
カテゴリ ミステリJP

2008年6月、千葉県銚子市沖の太平洋上でカツオ漁を行っていた中型漁船の第58寿和丸は、碇泊中に突如として沈没し、17名もの犠牲者を出した。これは事実である。
生存者の証言によると、碇泊にもっとも適したパラアンカーを使っており、天候による影響も考えられない。周辺には船団を組む僚船が複数いたにもかかわらず、第58寿和丸のみが転覆し短時間で沈没。
また救出された当時は海面に大量の重油に覆われていたという。
関係者としても何故沈没することになったのか不明のまま月日が経ち、事故から3年も経過してからようやく事故調査報告書が公表される。
船から漏れ出たとされる油はごく少量とされ、積荷による船の傾斜と、偶然に発生した大波によって転覆し沈没したものだった。
あまりに不可解な内容だった。
著者は、とあるきっかけから、この事件について知り、地道に当事者へのインタビューと調査を進めていく。
そここら導かれた事件の全体像が見えてくる。

不可解な出来事と思えるような事故や事件がままある。その際、直後の速報報道は大量に流れるが、続報が聞こえることはまずない。ひっそりとコレコレこうでした的な原因が報告される。納得出来ない場合、状況証拠から推論はいくらでもできる。推論だけだと、それは所謂陰謀論的なものになってしまう。

しかし本作では、調査で明らかになった点と点を一つづつ繋いだまさにノンフィクションである。

2023年5月27日

読書状況 読み終わった [2023年5月27日]

イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ。
この3人の共通点はというと、まず思い浮かぶのはテック企業の起業家、経営者、億万長者…。そして本書でも肝になっているように彼らは大変な読書家という点である。
ジャンルも様々。歴史書、伝記、SF、ファンタジー、哲学、経済学、科学、文学…。興味を持った色んな本を読むことで、関連のなさそうな事柄が結びつき、イノベーティブ・フュージョンが頭の中で起こり、そしてがむしゃらに実行した結果が今の彼らの成功に繋がっている。
本書は、彼らに多大なる影響を与えたと思われる書籍100点を、著者が選定しガイドブック的に解説した本。
選定にあたっては、過去のインタビューや書評などを参考にし、今現在日本語で読める書籍に限定し、かつ著者自身も実際にその書籍を読んだ上で選定したとのこと。また著者は、3人へそれぞれ直接インタビューした経験もあるので決して寄せ集め的なものではなく、彼らの人となりを踏まえた上での選定らしいので、まさに充実の内容である。
書籍を読み、咀嚼して、そこから何かしらを得て、アウトプットに上手く繋げられる人になりたい。


2023年3月25日

シリーズ5作目。3作品からなる連作中編。
都会で溜まったストレスを癒やすべく、デジタル・デトックスのメニューを提供する山荘を訪れた先での出来事から始まり、3作夫々に結末がありながら、全てが繋がった内容。
日本には古来より身近な植物でありながら、近代ではタブーとなったモノの背景が物語で上手く語られ勉強にもなる。
探偵役の薬剤師毒島花織の豊富な知識と経験に裏付けられた冷静な判断による推理が今回も活躍。

2023年1月25日

12月になると『このミス』が本屋の店頭に並び、年末であることを意識します。って去年も似たようなこと言った気がする。
巻頭特集は、ジョジョです。荒木飛呂彦先生のインタビュー。意外と言っては失礼ですが、海外ミステリーを中心に結構な読書家なんですね。
そしてトラベルミステリーの大家西村京太郎の追悼特集。私的には初期の社会派やパロディモノが好きだったなあ。懐かしいです。

2022年12月19日

読書状況 読み終わった [2022年12月19日]
カテゴリ ミステリJP

料理本のdancyuによる毎年恒例の日本酒特集や日本酒解説本と似たような内容にはなってはいるが、散歩の達人と唎酒師のタッグによって、独自の視点やフードペアリングなどの記事が面白い。
また名前は聞いたことのある唎酒師についての解説が新鮮。

2022年12月24日

読書状況 読み終わった [2022年12月24日]
カテゴリ グルメ

万葉集に詠まれた植物の図説集。
牧野の生前での完成を見ることはなかったものを、残された資料から再現した一冊。
図案は、原色もの他、線描スケッチもあり、植物の解説、詠まれた万葉集の歌も収録されたボリューム満点な一冊。

2023年4月2日

読書状況 読み終わった [2023年4月2日]
カテゴリ 植物

刑務所等にいる受刑者も人間であり怪我や病気はするもの。その被収容者の診察に当たる医師は、法務省矯正局の医師となる。
悪い事した人をなぜ国の税金で助けるのか。と安直に考えていると、本書にて早々にその説明がある。
刑務所は罪人を閉じ込めて懲らしめる場所ではない。犯した罪に対して懲役という労働をさせ、社会復帰をさせる矯正施設だということ。被収容者が健康で元気に労働するために医療施設があり医師がいるのだということ。なるほど、ハッとする。
とはいえ、ぶっちゃけ待遇も環境も良い訳では無いようで
なり手は少なく、かと言って志高い医師達が任にあたっているかというとそうでもないらしい。
知られざる刑務所の中の出来事を、軽妙に、時には制度を含めた社会的課題についても鋭く切れ込む内容。
そして終章では明るい話題で締める内容。巧い。

2023年1月9日

精神疾患の疑いがある人の刑事事件の場合、
精神鑑定医と呼ばれる精神科の医師による鑑定の結果をベースに起訴されるか否かがほぼ決まるらしい。
本作は、若手女性新人神経科医が、日本有数の精神鑑定医の助手となり、被疑者の精神鑑定を行う世界を描いた作品。
連作短編の体裁をなしているが、一冊丸ごとで長編の内容。
精神鑑定は、事件の捜査をするものではなく、あくまで被疑者の精神状態を鑑定する立場なのだが、精神鑑定医の影山と助手の弓削、二人の妥協を許さない詳細な調査と面会による精神鑑定によって、被疑者に隠された闇を明らかにしていく。
心神耗弱、統合失調症、解離性障害など知ってるようでいて今ひとつ判らない病名、詐病など、聞き慣れない専門用語が多用されるているが、それが物語にリアリティを増している。それでいて至って読みやすくストーリーにのめり込む。



検査により数値化された結果を元に診断することができない精神科の症状。
被疑者がもし心身衰弱医

2023年4月14日

神と王シリーズの2作め。
王が統治する国々があり、各国では基本的に信仰する神がいる。
古くから伝えられている神話や伝説があり、神と人々の信仰の度合い、接する距離感は、その国それぞれ。
1作目からの登場したキャラクター達と共に、本作では、小国、丈国が舞台の物語。
神は何故、存在するのか、人は何故、神に縋るのか。哲学的な課題が提示されながらも、独特のファンタジーの世界に読者を誘う。
この世界に、一体いくつの国があるのか。3つあるとされるミステリアスな闇戸の存在。そして、神と世界のはじまりとは何なのか。壮大な舞台設定がどのように展開していくのか。まだまだ謎だらけ。

2023年1月22日

読書状況 読み終わった [2023年1月22日]
カテゴリ ファンタジー

八丁堀のおゆうシリーズ9作目。
前作に続き、現代はコロナ禍の最中。
江戸時代の本作のテーマは蘭学。杉田玄白の弟子の大槻玄沢も登場する。
不可思議な死に方をした武士の内偵をはじめた、おゆう達。すると似たような急死をした商人の主の事件が発生。
長崎の出島からもたらされる蘭学のウンチクも楽しめる本作。楽しめました。

2022年12月1日

幕末から明治にかけて活躍した絵師の河鍋暁斎。
氏の残した絵本群から厳選した図案に、それぞれ解説を加えた文庫サイズの画集。
森羅万象のあらゆる物、そして妖怪や幽霊など空想の物も卓越した技量で描き尽くした『画鬼』と呼ばれた暁斎の魅力を味わえる一冊。
絵本なので、それほど多くない色数、ほとんどが墨一色の木版による図案だが、生き生きとした絵の数々に圧倒される。
巻末には、澤田瞳子さんの寄稿が掲載されてて読み応えあり。

2022年12月25日

城塚翡翠シリーズ3作目で、中編1作+の長編のボリューム満点な一冊。
前作同様、バリバリの倒叙ミステリー&翡翠のあざとい推理で魅せる内容。
伏線が仕込まれてるのはわかっちゃいるけど、今回も、あーこう来ちゃいましたかぁ!と、見事にやられました。
そして、次作がとっても気になるようなラスト数ページ。
待ち遠しい。

2023年4月15日

読書状況 読み終わった [2023年4月15日]
カテゴリ ミステリJP

学生時代のサークル仲間男女7人が、山奥にある曰く有りげな、洞窟を加工した地下施設を興味本位で訪れる。
日も暮れ始め、そこに山中で遭難しかかったと言う怪しげな親子3が合流。
そんな10人が施設で一晩を明かすべく探索し始めると、地震が発生し施設から脱出不可能な状態に陥る。そして外界との交信が閉ざさられた状態で、殺人が発生する。
どうして彼がこの状況で殺されなければならないのか。犯人は残る9人の内の誰か。
ミステリーの王道のテーマの一つ、いわゆるクローズド・サークル物。
本格モノに、あるあるな説明長すぎ、理屈こねくり回し。これ、正直苦手なのだが、本作では、若者7人夫々の人間関係と部外者的な親子3人の絶妙な距離、そして舞台となる方舟の存在が、グイグイ物語を進めてくれる。
そして最後の最後に、ガツンとくる驚き。してやられたり。シンプルに楽しめた。

2023年2月26日

読書状況 読み終わった [2023年2月26日]
カテゴリ ミステリJP

公正取引委員会を舞台とした競争の番人シリーズ2作目。
主人公の白熊楓が九州事務所に異動し、地元の呉服業界の調査に乗り出すが、 新しい職場にての人間関係も仕事内容もなかなかうまくいかない。彼女の同僚は、掴みどころのない好青年の常盤。
難解な法令、お役所のしきたり、地方都市の昔からの利権が絡まる話も 軽快に読ませる作品。

2023年5月13日

独特のファンタジー世界を繰り広げる『十二国記』。
そのエピソード0に位置づけられる『魔性の子』が1991年の刊行されてから30周年を記念してのガイドブック。
十二国記シリーズの舞台、登場人物や各国と、作品との相関関係、年表の基本データの他、著者ロングインタビュー、関係者へのインタビュー、エッセイ等などが掲載。中には魔性の子のタイトル由来が明かされていたりして気が抜けない。
巻末には、外伝の短編小説『漂舶』が特別掲載。まあこれが、この本のメインディッシュなんだけど。
『白銀の墟 玄の月』から早3年が経ち、『漂舶』にて久しぶりに十二国記の世界に触れてしまった今更、新作を渇望している。

2023年1月3日

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