死ねばいいのに

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062161725

感想・レビュー・書評

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  • 独特な文章なので最初は読みにくいかと思ったが、テンポの良さが心地よくクセになる。ほとんどの場面が会話か心の声で構成されており、情景描写はあまりなく、すごくセリフの多い会話劇を見ているような感覚になった。
    わたらいけんやは独特なキャラクターで、一番の特徴は自分に対しても他人に対してもとにかく正直であるということだろうか。馬鹿正直なキャラクターが出てくる物語はよくあるけれど、大抵の場合その正直さゆえ、多少無礼でも憎めず魅力的で、読んでいてスカッとするようなことが多いが、わたらいけんやはそうではない。正直すぎて失礼で、イライラさせられる。でも言ってることは一理あることも多く、もしかして気分を害している自分がの方がおかしいのかという気持ちになってくる。
    会話の中でそれぞれの抱えている秘密や死んでしまったあさみとの関係性が明らかになっていくのが興味深く、最後まで飽きずに読めた。

  • 面白かった。
    京極夏彦ってこんなに読みやすいっけ?
    とか思いながらスラスラ読んでいった。
    犯人は薄々わかっていたが、なんかなんとも言えないというか。
    死にたいって言うから殺して、どんな子だったかを殺した後に聞きにまわるって異常ではないか?
    しかも、もっともらしい事を言って、相手を論破しているが「お前が言うな」感がすごい…

  •  ひとりの女性が絞殺される。その直後、「ワタライケンヤ」と名乗る謎の男性が彼女の家族や知人の元を訪ねて話を聞いて回る。この男性のキャラクターが秀逸。自分バカなんで、学も知識もないしなんもわからないんで、と言いながらオブラートも遠慮もなく思ったことを口にし、それが結果的に相手をじりじりと追い詰めていく。新しい尋問スタイル。むしろ本人も意図していない。どうにもならないなんてことないじゃん。死にたいなんて言うけど嘘じゃん。若いし、頭悪いし、立場もないし、自分より下に見ていたワタライケンヤの予想外の的を射た口撃に、徐々にあたふたしていく登場人物たちの姿は、かなり痛快。愚かだなあ、フフフ。でも一方、自分自身が日常生活でよく言ってしまう言い訳と似た発言を繰り返す人物もいて、そういうときはワタライケンヤの台詞が彼らを貫通してわたしにもグサグサ突き刺さって、目を逸らしたくなった。

     内容云々よりも(とか言ったら作者に失礼だけど)とにかくワタライケンヤというキャラクターが立っている作品なので、最後に印象的な台詞をいくつか。

    ---

    p.22
    「それに身許っても、別にないンすよ身許。肩書きねえつうか。俺、仕事してねーし。してねえっつうか、出来ねえつうか、コンビニとかでバイトしても解雇(クビ)になるっつーか」

    p.255
    「あのさ、俺、今まで結構何人もにアサミのこと聞き回って来た訳。みんなテキトーなんだよな。関わり深かった奴も浅かった奴も、誰もアサミのこと能く知らねーの。自分のことばっか喋るんだよ。尋いてねーつうの」

    p.331
    「だから俺は、アサミのことが知りたくなった。でも他の連中はさ、みんなぐずぐず不平ばっか言って、気分が世界一不幸だみてえなことばっか言って、それでもみんな死ぬとは言わねーの。そんな我慢出来ねえ程不幸なら、死ねばいいじゃんて思うって」

    p.396
    「俺が話尋き回った連中は、みんな死ねばいいのにって言ったら、嫌だって言ったんすよ。きっとそれが普通なんすよ。だって、みんな生きたいに決まってるじゃないすか。未練ありますよ。未練たらたらっすよ。みんな、満ち足りてねーもん。ああだこうだ理屈捏ねて、自分は不幸だ自分は不幸だって言うじゃないすか。それが当たり前なんすよ。人間って、みんなダメで、屑で、それでも生きてるもんすよ。あんたの言う通り生きるために生きてるんすから、死にたくなんかねーよ。」

  • 各章の表紙のタロットカードモチーフの絵が美しい。

    渡来の愚直さに、関係者の卑屈さが反応するのか。
    各章の主役たちのそれぞれに言い訳がましい「阿佐美と自分について」を語ってくれる。
    基本的にクソな人物が多いので、グジグジと煩いなと思うから、渡来の愚直さにスッキリする。
    ただやはりタイトルの「死ねばいいのに」は力が強すぎる言葉だと思う。

  • 最初の数ページで、「こいつ、なんだ?」と普通じゃなさにザワザワする。不思議な存在感のケンヤくん。
    私、ケンヤ側かケンヤに質問された側かというと、たぶんケンヤ側。死にたい環境にずっといるのが苦手。でも、仕事がはちゃめちゃに忙しくなったときには、質問された側の思考になった。愚痴ばっかり、全部他人のせいで、自分から行動は起こさない。そんな人生は何一つ楽しくないし、何一つうまくいかなかった。それなのに、そういうときに死ねばいいのに、ともし言われても、「なんで私が死ななきゃいけないんだ」って思ってしまうんだよなー。被害者意識ってまじめんどくさい。
    一方で、「死ねばいいのに」って言われて「そっか。死ねばいいのか」と思うことは幸せかというと、それはそれで違うと思う。執着できるものがないからしんでもいいということは、心のなかになにもないということ。それは幸せなことじゃない。不幸が絡み合ってしまった事件。
    ケンヤの「死ねばいいのに」カウンセリングとかあったら、すごく繁盛しそう。

    ミステリーはあとで思い出しやすいように、今まで読んだ◯◯系統、とメモがわりに書いているんだけど今回はネタバレに直結してしまうのでやめとく。

  • 亜佐美という女性が殺された。
    「4回しか会ったことがない」ケンヤという男が、亜佐美と関わりのあった人々を探し聞く。

    「アサミのことをおしえてほしい」

    でも、誰も亜佐美がどんな女性だったか…ということよりも、亜佐美と関わった“自分”のことしか話さない。

    自分も苦しかったんだ、辛かったんだ、でもどうしようもなかったんだ…。

    「死ねばいいのに」

    ケンヤの返すその言葉に、皆そういう発想を全くしていなかったことに気づく。

    どんなに苦しいことも、辛いことも、逃れることができないと思うことも、見方さえ変えれば普通のことに見えるようになる。解決方法がどこかにある。
    他人から見ると不幸のどん底にいるような亜佐美だけれど、自分のことを不幸だなどと思っていなかった。

    最後の最後に明かされる事実。
    ストンと心に落ちる。

  • 不幸とはなんだろう。幸せとはなんだろう。
    思いやりとは?優しさとは?
    世間とは?自分とは?
    少しは自分の頭で考えろ。

    そういうお話だと思います。

  • 死ねばいいのに・・・

    今なに読んでるの?
    死ねばいいのに
    え?
    だから死ねばいいのに
    は?

    なんとも口に出しにくいタイトル。

    主人公の渡来健也
    この男の一語一句に登場人物全員が踊らされる。
    この男の態度や感性がズレているにも拘わらず
    人の本性を暴き出すから面白い。

    人は生きるために生きてるんでしょ
    死にたいなら・・・タイトル。

  • ニュースを見ていて、周りを見ていて、思うこと、言いたいこと、でも言っちゃいけないから言えないことを渡来が代弁してくれていた。なんというか、スッキリする。
    犯人は自分だから、他の関係者が疑われたら迷惑だろうなと思ってしまう渡来にも、幸せなうちに死にたいと思うアサミの気持ちも、それを汲んでやりたくなるのも、だからと言って殺してあげようとは思えないけども、わかる気がする。

    ストレートで愚直な彼の言葉は視野が狭くなっている人たちを、荒いけれどもカウンセリングしているような気がしてならない。
    そして、己の理屈や理論で凝り固まったものを、見事に、その愚直さでぶち壊す。
    もちろん、私もぶち壊され、気付かされた。
    京極さんのイメージとは逆のやり方かもしれない。

    死ねばいいのに、誰でもたぶん一度は思うんじゃないかと思う。
    でも人の数だけ感情、考え、言動、理屈、人生があること、それを常に置いて多角的に見ることの大切さを思い出す。

    本が好きでよかった

  • “自分の中の常識” を変えずに生きようとするからうまくいかないのかなと感じた。

    アサミは、本当に“幸せ”と感じていた。そういう認識、振る舞いが彼女を幸せにしたんじゃないかな。
    ”従順さ”は、処世術だったんだろう。

    しかしみんな卑屈だ。
    アサミみたいに、主観を変えられたら何が起きても楽しくて幸せなんだろう。

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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