海馬 脳は疲れない (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101183145

感想・レビュー・書評

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  • とても勇気の出る本。
    「物忘れは老化のせいじゃない」とか「30歳を過ぎてから頭は爆発的によくなる」とか。
    常に新しい刺激を入力していけば海馬がどんどん成長していく、という話は、「新しいことを始めたいんだけど、どうしようかな」と迷うときに、心強い励ましになる。
    「やり始めればやる気は出る」
    とにかくやってみることが大切なのだ。

  • 糸井重里と脳科学者池谷裕二氏との対談集。
    脳の中でも記憶を司る部位「海馬」について、13時間もの時間をかけて語り合っており、ためになる知識がびっしりとつまっています。
    脳科学というと、とても難しく、理解できそうにない領域に思えますが、理系の実証や論理を、文系代表として糸井氏がわかりやすく言い直してくれているため、どの話も納得できます。
    畑違いの専門的な話をきちんと理解し、自分の解釈も表現できる糸井氏の力量に脱帽しました。
    興味の範囲が幅広いからこそ、できるのでしょう。

    痴呆症は別として、「年を取ったから物忘れをする」というのは科学的には間違いなんだという世間の常識を覆すような話に、驚きました。
    脳は、刺激がないことに堪えられないもので、全く刺激がない状態が続くと、幻覚や幻聴を生み出すそうです。
    中でも海馬にとって一番刺激となるものは、空間情報のため、旅は脳を鍛えるのだとか。
    引きこもりは、脳に良くないということですね。

    謎だらけの未知の領域かと思いきや、かなり解明されている人の脳。
    世に流布されている知識は、実際の脳の機能と比べると、必ずしも正確なことばかりではないということもわかりました。
    脳は、常に元気で、一生使い続けても疲れることはないんだそうです。
    勉強しすぎて脳みそのキャパを超えて頭が狂うということは、ありえないんですね。

    タクシードライバーは、日々新しい道を運転しているため、新鮮な体験をすることで脳が鍛えられており、海馬はとても大きいんだとか。
    やり始めないと、やる気は出ないなど、日常の過ごし方を変えるヒントも与えてくれる、興味深い一冊です。

  • たまに読み返したくなる本。
    元気が出る本。

  • つねづね、頭がかたいよりは柔らかいほうが、幸せだよなあ、と思っていて、そして、「頭の柔らかい人」といえば子どもです。頭の柔らかさっていうのは脳科学的にはどういうことなのかなあと興味があり、手に取ってみました。
    対談形式ということもあり、結局あまりよくわからなかったのですが、「海馬」「扁桃体」「可塑性」という、いままでなじみのなかった言葉を知りました。「学ぶ」というのは、海馬が記憶するってことなのかな?だとしたら、新しいことをどんどん学べる、受け入れられるっていうのは、頭のやわらかさに通じるものがあるし、海馬が関わっていそうな気がしました。

  •      -2006.07.21記

    とにかく解りやすく、面白くてためにもなる。
    新進気鋭の脳科学者.池谷裕二と糸井重里による対談で、脳と記憶の最新の知見に触れながら、老若を問わず読む者を明るく元気にしてくれる本といえる。
    初版単行本は糸井重里の「ほぼ日ブックス」で2002年7月刊だが、新潮文庫版はその後の追加対談も増補して昨年6月に発刊、すでに20万部を突破しているというからベストセラーといっていい。
    池谷裕二物としては出版のあとさきが逆になったが「進化しすぎた脳-中高生と語る大脳生理学の最前線」朝日出版社をたしか刊行直後に読んでいるが、こちらはアメリカのハイスクールの生徒たちを相手にレクチャー形式でディスカッションを交えながら、柔軟性に富んだヒトの脳のメカニズムについて語って、先端の脳科学に触れ得たが、解りやすく面白く読める点では本書が数倍するのは、やはり聞き手.糸井重里の引き出し上手の所為だろう。

    あとは煩瑣を省みず長くなるけれど、本書よりアトランダムなピックアップ.メモ。――
    ◇脳がコンピュータと決定的に異なる点は、外界に反応しながらどんどん変容する自発性にある。すなわち脳はその「可塑性」において、経験、学習、成長、老化と、人の本質ともいえる変化の相を生きる。
    ◇脳の「可塑性」という事実は、個人のだれもが潜在的な進化の可能性を秘めているということであり、個を超えた「可塑性の普遍性」は科学的に実証されている。
    ◇好きか嫌いに反応する「偏桃体」と、情報の要不要の判断をする「海馬」とは隣り合っていてたえず情報交換している。
    好きなことならよく憶えていて、興味のあることなら上手くやってのけられるのも、脳機能の本性に適っている。
    ◇宗教の開祖はみんな喩え話上手なのは「結びつきの発明」に長じているから。
    ものや人との結びつきをたえず意識している力、コミュニケーション能力の高い人、一流といわれるような凄い人は、みんな自分流ではあってもお喋り上手で、「結びつきの発明」能力が豊か。
    ◇脳自体は30歳や40歳を超えたほうが、むしろ活発になり、独特なはたらきをするようになる。つながりを発見する能力が飛躍的に伸びる。
    すでに構築したネットワークをどんどん密にしていく時期であり、推理力も優れている。
    ネットワークを密に深めていくことはどんなに年齢を重ねても、どんどんできる。
    ◇脳は1000億もの神経細胞の集合体だが、その98%は休火山のごとく眠っている。
    神経細胞を互いにつなぐシナプスによる網状のさまざまなパターン、その関係性が一つ一つの情報であり、感情をつくり、思考を形成している。
    ◇「脳は疲れない、死ぬまで休まない」
    夢は記憶の再生であり、夢も無意識も、tryとerrorの繰り返しを果てしなく続けて、いろいろな組み合わせをしている。
    脳は刺激がないことに耐えられない。何の刺激もない部屋に二、三日放置されると、脳は幻覚や幻聴を生み出してしまう。
    脳は見たいものしか見ない、自分の都合のいいようにしか見ない。
    ◇「海馬は増える」
    脳はべき乗でよくなる。
    方法的記憶=経験メモリー同志の類似点を見出すと「つながりの発見」が起こって、急に爆発的に頭のはたらきがよくなっていく。
    ◇「脳の可塑性」
    人間の脳の中で最も可塑性に富んだところが海馬。
    海馬は記憶の製造工場、海馬の神経細胞は、ほぼ1000万個くらいだが、一つ一つの神経細胞が2~3万個の他の細胞とつねに連絡を取っている。
    ◇人は一度に7つのことしか憶えられない。Working-Memory=現在はたらいている記憶-短期記憶-の限界は7つ程度。
    記憶は海馬の中に貯えられのではない、情報の要.不要を判断して、他の部位に記憶を貯える。
    いろいろな情報は海馬ではじめて統合される。
    脳の神経細胞は死んで減っていく一方だが、海馬では細胞は次々と死んでもいくが、次々と生み出されてもいる。その需給バランス次第で、海馬は全体として膨らんでもいく。
    海馬と偏桃体の密接な関係は、好きなものは憶えやすいというように、偏桃体を刺激、活性化すると、海馬も活性化される関係にある。海馬は、偏桃体の感情を参照しながら情報を取捨選択していく。
    ◇ある一人の人間がその人である痕跡が残るように「入れ替えをしない構造」=固有性を脳はつくるのだが、唯一、海馬は入れ替わるという不思議。しかもその海馬が記憶をつかさどるのである。
    ◇海馬にとって最も刺激になるのが「空間の情報」であり、絶えず偶発性の中に身を置いている状態は、海馬にとって刺激的であり、神経細胞の死と生が間断なく繰り返される。
    ◇クリエイティブな作業は脳への挑戦――
    経験をすればするほど飛躍的に脳の回路が緊密に複雑になる。
    凡人と天才の差よりも、天才同志の差のほうがずっと大きい。
    刺激を求めてはいるが、同時に安定した見方をしたがるのが脳の習性である。創造的な作業は、画一的なほうへと流れやすい脳への絶えざる挑戦であり、脳の高度化への架け橋となる。
    ◇シナプスの可塑性-海馬における可塑性は、一つ一つの神経細胞に数万あるというシナプスにある。
    ものを憶えるWHATの暗記メモリーとものの方法を憶えるHOWの経験メモリーでは、HOWの経験メモリーが重要。
    眠っているあいだに考えが整理される。海馬は今まで見てきた記憶の断片を脳の中から引き出して夢をつくりあげる。
    朝起きて憶えていられる夢は1%もないといわれるが、夢というのは記憶の断片をでたらめに組み合わせていく作業であり、もし多くの夢を憶えていたら夢と現実の区別がつかなくなって、日常生活に危険が伴う。
    ◇睡眠は、きちんと整理整頓できた情報をしっかりと記憶しようという、取捨選択のプロセスなのだ。
    眠っているあいだに海馬が情報を整理することを「レミネセンス-追憶-」というが、この作業によって、突然、解らなかった問題が解けたり、なかなか弾けなかったピアノの曲が、次の日にすらすらできるようになったりする。
    ◇おなじ視覚情報が入ってくるにも拘わらず、認識するためのパターンの組合せが違う。だからそれぞれの人の見方に個性が出るわけだし、創造性が生れる。
    認識のための基本パターンは現在のところ500くらいだとされているが、それだけでも、その中から適当に10個組み合わせるだけでも、10の20乗くらいの膨大な組合せが成り立つ。
    ◇カート.ヴォネカットが言う「世界は酸化していく歴史である。あらゆるものは酸化していく。」
    酸化するプロセスは、「腐る」ということとほぼ同義であり、人間も酸化するプロセスで年を取るのではないか、と提唱されている。
    「やる気は側坐核から生れる」が、自分に対して報酬があるとやる気が出るもので、達成感が「A10神経」という快楽に関わる神経を刺激して、ドーパミンという物質を出して、やる気を維持させる。
    偏桃体を働かせ、感情に絡むエッチな連想をすると物事を憶えやすい、ということもある。

  • 読了)2021/09/18
    脳の仕組みをキーとして、いろんな考え方や表現が展開されてあっという間に読み終わった。
    とにかく、新しい体験がいろんなことを導き出すと解釈したので、新鮮な体験を探し続けなければ。

  • 糸井重里と脳科学者である池谷裕二の対談。脳の海馬についてを中心にテンポよく進んでいく。一冊通して興味深い内容だったが、特に「 30 歳過ぎてから頭はよくなる」という話は目から鱗だった。単なる暗記(意味記憶)は子どもの方が得意だが、 30 歳過ぎてから自分で試してみないと分からない記憶(方法記憶)どうしの繋がりが起きて爆発的に頭の働きが良くなるとのこと。しかもべき乗で成長するのでやればやるほど飛躍的に方法記憶の繋がりが密になっていくらしい。やはり継続は力なりということだろう。

  • 池谷氏と糸井氏による対談形式の書籍。
    メインテーマとして海馬を取り扱いながら、脳のしくみを平易な言葉で解説し、「頭がいい」とは何かについて2人の考えを披露しあっている。
    へぇ!と思ったこととしては、脳は疲れ知らずで、仮に「頭が疲れたな」と思うときがあってもそれは脳ではなく目が疲れていたり肩が凝っていたりするときらしい。同じ姿勢が何時間も続く活動は控え、適度に身体を動かすのが良さそう。
    また、歳をとると物忘れがひどくなる、というのは本当に忘れているわけではなく、若い頃と比べて脳の中に蓄えられた記憶が増えてきたから。これにより、アクセス対象が増えてしまい、「引き出すこと」が難しくなることに起因する。本書においては子供のような新鮮な視点で物事を見るといわゆる物忘れは減ると書いてある。
    加えて、勇気づけられた内容として、「30歳を過ぎてから頭が良くなる」というものがあった。これは、今まで蓄えてきた知識同士が頭の中で結びつきやすくなり、色々とアイデアが生まれてくることによるらしい。これからどんどん歳を重ねていくことになるが、結びつけるための「点」を頭の中にたくさん作れるよう、引き続きいろいろなことを学んでいきたいと思った。

    最後の方に、心と脳について触れられている箇所があり、「心とは脳のプロセス上の産物に他ならない。つまり、心は脳が活動している状態を指す。」という文があった。少し前にカルロ・ロヴェッリ氏の『時間は存在しない』を読んだとき、実はこの世の中は、「モノ」として考えるより「モノとモノとの関係性・出来事」として考えた方が整合的であり本質的だと思われる、というような趣旨のことを学んだ。上記の心の話も同様で、「心」という確固たる何かが存在するわけではなく、脳の活動のプロセスとして(出来事として)捉えるのが正確であるというのは『時間は存在しない』と整合的な捉え方だな、と感じた。

  • 「脳は疲れない」(疲れるのは目)、「脳は使い尽くせる」など励まされる言葉が多かった。「『認識を豊富にしてネットワークを密にしていく』ということがクリエイティブな仕事というものに近づいていくヒント」。頑固になって停滞したくないなあと思った。あと例え話が上手だと頭が良く見える、例えば教祖とか、というくだりは言い得て妙。

  • 人間は論理的な生き物だから、分からないことがあると納得のいく答えを探したくなる。

    でも、一つの答えに縛られて固定化させてはいけない。

    本当は無数の要因があるかもしれないのに、決めつけて自ら見えなくしている可能性がある。物事の因果関係は複雑に絡まりあっていることが多いので、勝手な憶測だけで知った気になるのは良くないなと思いました。

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著者プロフィール

監修:池谷裕二
脳研究者。東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻医療薬学講座教授。薬学博士。一般向け書籍の累計発売部数100万部超え。

「2023年 『3ステップ ジグソー知育パズル どうぶつ だいずかん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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