高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150105686

感想・レビュー・書評

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  • 913-D
    文庫

  • 実験小説。『1Q84』をあんまり面白くなくした感じ。「高い城の男」は作者本人、っていうメタフィクションだったけど、展開に惹きつけるものがないので星2つ。
    「易占」でプロットを立てつつ、人物描写においてはしっかり肉付けを行う、という手法を試してみた、って感じなのかな。
    これがヒューゴ賞とるんだなぁ。実験的だから?戦勝国の罪悪感だとしたら、趣味が悪い。

  • 本物と偽物の区別
    『イナゴ身重く横たわる』

  • アベンゼンは『易経』を使って小説『イナゴ身重く横たわる』を書いていた。ジュリアナが「なぜその本を書いたか、我々はその本から何を学ぶべきか」という問いを立てて易を行うと、「真実」という回答を得る。ジュリアナは、本に書かれていることが真実であるというメッセージとして受け取る。これが、本作の幕切れ直前、結論のような位置に置かれているシーンだ。
    ここから読者は何を読み取ればいいのだろうか? 
    (a)彼らの世界で起こった出来事は真実ではないということか? それとも、(b)これからドイツ帝国の崩壊や、日本への水爆投下が起こり、プロセスこそ違えど、最終的には本に書かれた世界と同じような結果にたどり着くという予言なのか? あるいは、(c)幾千幾万もの偶然の積み重ねにより、無数の可能世界が生じているという視座を暗示しているのか(この解釈は弱い。もしそうならば、彼らの世界も、本に書かれた世界も同等に「真実」なのだから)。しかし、(d)そもそも『易経』は単なる占いであり、占いは信じなければ無意味だし、信じる人には、曖昧な示唆のレベルで意味を持つものだ。アベンゼンの本が占いの結果の集積であるなら、その本が価値を持つのは、それを真摯に受け止める場合のみである。だから、アベンゼンの本から学ぶべきことは、「戦勝国となった枢軸国がアメリカを支配する現状を宿命と受け止めて、その現状に馴致するような生き方をするな。彼らの勝利は確率的なものでしかないし、彼らは勝ちながらにして実質、負けていることすらあり得る」といったメッセージだ。

    本作では、個人がさまざまな選択を迫られ、よくわからないままにどれかを選択しながら生きている様子がしばしば描かれている。田上にしろ、フランクにしろ、ロバートにしろそうだ。その都度選択をし、そして人生が展開していく。そのことを肯定的に書いていると思う。反対に、「あり得たかもしれない世界」「選ばなかった世界」についてあれこれ考えを巡らせることは停滞でしかない。だから、パラレルワールドの存在を示唆しているといった解釈は、本作の場合、そぐわないと思う。ロバートは、日本人たちに表面的に媚びへつらう商売をしながら、やがて西欧文明を受け継ぐものとして自信を取り戻していった。戦争に負けても、そのことを絶対視する必要はなし、ましてや卑屈になる必要はない、という価値観を示すためにロバートというキャラクターは作られたのだと思える。だから、私は解釈(d)こそが一番もっともらしいと思う。

    負けは負けとして認める。けれど、そのことを絶対視して卑屈になるべきではない。戦争の話じゃなくて、個人の人生の教訓。

    「ディック作品にありがちなプロットの破綻が見られず」(訳者あとがき)という点が高評価(1963年ヒューゴー賞受賞)の一因らしいが、私はプロットが破綻しているディック作品のほうが断然スリリングだと思う。プロットをあまり決めずに書くようになった『OUT』以後の桐野夏生のほうが、彼女の初期作品より素晴らしいように。

  • 第二次世界大戦が枢軸国側の勝利で終わったという世界。
    日本やドイツに統治されている米国。

    ドイツが統治する地域では禁書となっているという小説が、それ以外の地域では話題になってヒットしている。内容は、第二次大戦が連合国側の勝利で終わった世界を描いたもの。

    登場人物の多くが自らの進むべき道を「易経」で占っている。
    本作は1962年に執筆されているが、この時代には易経が流行っていたのだろうか…。1978年に出版された『宇宙船とカヌー』でも、ジョージ・ダイソンが旅の出立をいつにするか易経で占うべきかなぁ、なんて言うくだりがあった。

    この世界で売れているという小説の作者も、ストーリーの展開を易経で占っていたと告白する場面があるが、実はP.K.ディック自身が本作を書く上で実際にそうしたことがあると解説にあった。

    作中の小説の内容と、現実の歴史と、登場人物の振る舞いとディック自身の振る舞いと、最後の平行世界的どんでん返しで目くるめく感覚に陥る。

    骨董品屋と贋作メーカーとの関係など、本物とレプリカをめぐる物語などもディックの真骨頂と思わせる。

    なかなか面白かった。

  • 海外の小説の翻訳本は、横文字の登場人物名が覚えられない事や、情景描写や精神描写のニュアンスが堅苦しく感じたり、ジョークを理解しづらい為、自分には合っていていないと改めて痛感した。

  • 第二次世界大戦で枢軸国側が勝利した世界を舞台にした小説。そしてその小説世界には、もしも連合国側が勝利していたらという世界を描いた「イナゴ身重く横たわる」という珍妙なタイトルの小説がある。そしてどうやらその「イナゴ・・・」の世界は、連合国が勝利しているものの、いまこの「高い城の男」を読んでいる私の住む世界とも少々様子が違うようだ。
    もしかしたらこの「イナゴ・・・」の世界には枢軸国勝利の別の小説があり、その世界には連合国勝利の別の小説があり、そんな小説世界が果てしなく続いているのかもしれない。だとすると私が生きているこの世界も小説の一部で、その小説は枢軸国が勝利した世界で読まれており、さらにその世界も連合国勝利世界で読まれる小説世界で、だとしたら私は一介の小説的存在にすぎず、あぁこの私という人間は本当に存在しているのか!?


    ・・・とまではさすがに思わない。

  • 第二次世界大戦にドイツと日本が勝利した世界、だれもが易経の占いで未来を把握し行動する。ドイツの首相逝去に伴う権力者たちの後継者争いを背景に、美術商、アクセサリー製造販売業、日本軍部の代表者たちの関わり。職工の妻が訪れるベストセラー作家。

    いつSFになるんだろうと思いつつ読み進めていましたが、この世界構築そのものがSFだったんですね。占いに信頼感のある世界っていうのも面白いかも。

  • ディックの作品は少しだけ読んでいるが、中でもこれは難しかった。歴史改変物なので、歴史が苦手な私には辛いものがある。「偽物」と「本物」がテーマになっていることは辛うじて理解した。話としては特に大きな盛り上がりもなく、歴史改変以外にはあまりSFらしいところも見当たらない。ただラストの易経のくだりはなかなか好きだった。色々調べて高く評価されているようだから私の理解が足りないのだろう。詳しい解説が欲しいところだ。

  • メタメタなラスト

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