華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119553

感想・レビュー・書評

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  • 今年はディストピア小説をさんざ読んできたので、本著を読まずには年を越せない気がしたので、締めくくりとして読んでみました。この状況下で厄落としの意味も込めつつ(笑
    読了して感じたのは、ディストピア小説の中では最も希望を感じることができる作品だということです。中盤以降の疾走感はなかなかで、映像化されたらさぞかし美しいだろうなという光景も。最後に読んで良かった。。

    さて本著、「本を焼く」という仕事、昇火士(英語だと消防士と同じファイアマン)に就いている主人公。ある晩に風変わりな少女と出会ったことで人生が変わって…というのがあらすじです。
    本を焼くのは何故かと言うと、「色んな意見があって矛盾してると混乱するし、誰かを傷つけるような表現がある本は要らない」ということを皆が望んだからだ、というロジックだそうで。
    ここらへんで、何となく「1984年」とは違うんだなぁという印象を受け、これって、本著の刊行が1953年だったというのも大きく影響しているのでは、という推論が浮かんできました。
    反共マッカーシズムの中ではあったにせよ、ドイツや日本に勝利したアメリカの中のムードはそれなりに明るかったはずで、ある種民主主義的だし、政府そのものをそこまでおどろおどろしく描く必要もなかったのではないかと。
    ※もちろん、上記が本著で語られた「タテマエ」であって、本著内の政体が民主主義的だと言うつもりは一切ないのですが。

    細かいツッコミはあれど、読後感も素敵で、勇気が湧いてくるような一冊でした!
    翻訳も、解説を読むに従来のものよりは格段に優れたもののようで、新訳で読めて大変有難いと感じました。

    ということで、以下細かいツッコミです(笑
    ・本文中に出てくる「カブト虫」って、VWビートルで良いんですよね?
    ・本はダメなのにヘロインはOKなのか…

  • 暗黒世界を生きる主人公が世界に違和感を覚え、体制に反逆・逃亡するというディストピア小説の典型といえるプロット。現代を生きる我々に対する警鐘ともとらえられる普遍的なテーマのメッセージ性がある。

    私が読み取った二つのメッセージは「無知が愚かであること」「読書の価値は高い」ということだ。無知であればあるほど支配に気づけない、一方で知識は生涯の最も大きな武器になり得る。特に社会のシステムなどにおいて無知であると損をする日本でうまく生きていくためには知識を得て「賢く」なる必要がある。

    また、近年SNSであふれかえっているショート動画を、無意識に何時間も眺めてしまっている経験をしたことのある若者も多かろう。私もそのうちの一人だ。メディアが私たちに提供する「瞬間的・感覚的」面白さで成り立つコンテンツで、人はバカになる。考えた先・知識や教養の向こう側にある面白さこそ至高であり、本がその最も優れたツールになるということを、我々はこのディストピア小説から学ぶことができる。

  • 中学生の頃から名前だけ知っていて、ようやく読んだ。
    現代を予言しているという評があったけど、これってあれの事では?と思い浮かべる場面が確かにいくつかあった。

    ミルドレッドがかじりついてるテレビ壁、映像が目まぐるしく展開し見ることをやめられない…依存とまでは言わないけど、何気なくSNSを開いて延々とスクロールし続けてるのと近いものがある。

    川を越えたあたりの、いかに世界が匂いで満ちているか気づくあたりから、ようやくリラックスして読めるようになった。

    面白くて一気読みした。
    映画を一本観終えたような感じがする。

  • 1953年の作品を新訳して2014年に発行された不朽の名作と言われる小説、今読んでも十分に面白いし示唆に富んでいますね♪
    紙が燃え始める温度 華氏451度(ほほ摂氏233度)がタイトルの名作、百害あって一利無しとされて書物が燃やし尽くされた時代が舞台で花形職がファイアマン、消防士 ではなくて昇火士と和訳されているのでイメージしやすい。その昇火士モンターグが主人公で、仕事に最大限の誇りを持っていた彼がとある少女との語らいに由り ふと感じ始めた違和感から劇的変化の道を歩むことになる。良い本に出逢えました(^^)

  • 火を消す仕事だった消防士(fireman)が本を焼き払う昇火士になった近未来を描いたディストピアSF小説。

    この作品で焼き払われる本とは人類が蓄積してきた知識や文化の暗喩であり、インターネット、PC、スマホなどの発達により生きる上で本当に大切な情報に触れる時間が激減している現代は実は作中の世界とあまり変わらない世の中なのかも知れないと感じた。

  • 怖いのは誰かに本を燃やされることではない。知らず知らずのうちに自ら燃やしてしまっていることだ。
    本書で描かれる世界では、「本」を知る人がまだ残っているが、「本」を知る人が残っていない世界はどんな世界となるのか。

    現状に疑問を抱くことは重要だが、その先で同士に出会うことで陥る新たな思考停止もまた怖ろしい。

  • 情報が洪水のように溢れる現代。検索すればSEO対策で上位に表示される情報しか閲覧できず、サブスクで動画を見れば勝手に趣味嗜好を判断されオススメを提供される。情報を利用する私たちは、その利便性に溺れ、考えて選択しているようで実は考えていない。

    そんな不安な気持ちを抱えることもある中で、この作品が訴えかけるメッセージはかなり刺さるものがあり、読んでいて苦しくなる場面が多かったです。それと同時に、「時間をつくり、本に向き合い、じっくり考えてはじめて知る喜びがある」という気づきもあたえてくれ、もっともっと読書を楽しんでいこうと前向きな気持ちになれました。

    本好きの方すべてに読んでいただきたい素敵な作品です。おすすめ!



  • YouTubeで海外SFのお勧めの本で紹介されて気になったので読んでみた。
     
    正直、初めは何のことかさっぱり分からなくてなかなか読み進められなかったけれど、諦めずに読んでいたら第一部の終わり頃にやっと内容を理解できるようになってきたので、第一部はもう1回読み直した。

    どんどん省略化されてスピードが早くなっていった華氏451度の世界も、なんだか他人事じゃないように感じてびっくりした。動画などを倍速で観る人が増えていたり、映画や本などを要約した動画が流行っていたり、自分で考える前に答えを求めてしまう人が増えたのかなってある出来事で感じてたから、いつか現実でも考えることをやめてしまう時が来るんじゃないかってちょっと思ってしまった。

    ところどころ理解しにくい部分もあったけれど、読めてよかった作品。考えること、伝えることって大事だと改めて思い知らされた。

  • 「ずっと昔、本を手に持っていた時代でさえ、われわれは本から得たものをまともに利用してはいなかった。われわれは死者を侮辱することばかりに汲々としていた。われわれより先にこの世を去ったあわれな人たちの墓に唾を吐きかけるようなことばかりしていた」

    この部分にこそブラットベリのメッセージが詰まっているように感じた。
    どんな類の情報にも瞬時にアクセスできる現代にあって、いやというほど情報の量だけが僕たちを圧倒し、情報量が少なかった時代よりむしろそれを活用できていない。
    ごくごく身近な例としてはウォークマンにツタヤで借りてきたCDをいちいち取り込ませてた中学生時代とスマホとサブスクサービスでどんな音楽も聴き放題な今。どっちが大切にアルバムを聴いていたかというと中学生時代だった気がする。
    もう少し視野を広げて考えれば月並みすぎて申し訳ないけれど失って初めて気づくそのものの大切さということなんだろう。

    ディストピア社会の描写としては1984の方が恐ろしいし、設定の奇抜さは素晴らしい新世界の方が優れていたように思うが何故か心に残る華氏451度。何を読んでも家を燃やされない幸福を噛み締めながら読書を続けていきましょう。

  • 描かれる近未来では、いわゆる愚民政策としての焚書が行われているのだろう。その愚民政策の結果なのかは分からないが、3秒で終わった戦争は、今後の希望の始まりなのだろうか?
    決して荒唐無稽なSFではなく、現実がこの世界に近づいているような気もする。

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

レイ・ブラッドベリの作品

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