華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119553

感想・レビュー・書評

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  • 本を読むことで得られる感覚、覚醒、異端になること、恐れぬこと、救われることを、皮肉とロマンチシズムとともに、本が失われた世界の中で、全力で肯定してくれる。
    この本が書かれた時より、既にこの本が描いた年代の方が近い今、預言書としてここまで現在の空気を批評してくれるなんて。

    ”ただ芝を刈るだけの人間と、庭師とのちがいは、ものにどうふれるかのちがいだ”

    ”いまは、なんでも見てみたい。見たものがおれのなかにはいるときには、そいつはまるでおれじゃないが、しばらくたって、はいったものがおれのなかでひとつにまとまると、それはおれになる。”

  • 時計じかけのオレンジや未来世紀ブラジルのように有名なものしか知らないけれど、昔の人が描く未来というのは面白い。
    科学技術がへんてこな方向に進化していて全然スマートじゃなかったり、政治が極端な絶対主義や管理社会になっていたり、人々が浅はかで考えなしで訳のわからない社会を喜んで受け入れていたり。その違和感が面白いんだと思う。

    この作品もそう。あらゆる少数派を考慮した結果本の存在が抹殺された社会という設定にもかかわらず、一方で人々はスリル満点のデスゲームに興じ平気で命を落としていく。戦争がはじまるのにまるで危機感がない。
    どうなってるんだ、昔の人はなんでこんな未来を想像してしまうんだ?と思うけれど、よくよく考えるとまさに今の社会は自然とそういう方向にすすんでいるんだと気づかされる。

    いい歳こいて電車で漫画ばっかり読んでるおじさん。バブルランやらハロウィンやらのバカ騒ぎとツイッターでのアピール。大衆的で、享楽的で、自分の世界しか見ていないカラッポなリア充。
    中東かどこかで戦争が起きようがそんなこと知らない。これは本に描かれた極端な未来に結構近い。

    そういう意味では、単に面白いSFというだけだなく、この小説はメッセージ性が強く、まさに燃やさず記憶していくべきなんだろうと思った。

  • 独特の文体に最初は戸惑ったが読み進めていくうち慣れて楽しんで読めた。
    少女クラリスの問いかけは読者である自分自身に向けたようなものにも聞こえる。

    ちなみに動画サイトで「華氏451度」と調べると作品のネタバレ解説などが出てくる。なんとなく皮肉を感じる…

  • 確かにいろんな人が言うように現代が今作の内容によってきていると言うのは感じた
    そして最近読書にハマっている自分にはかなり刺さる部分が多かった
    確かに本を読むことで劇的に何かを解決できることはないかもしれないけど、なにかしらの拠り所にはできるよねと。

    読みにくさと一部単語や情景を想像で頑張って補う必要があったので星4

  • フェルプスとボウルズとミルドレッドが大画面のテレビに狂乱している姿は一昔前であればテレビ、今ではスマートフォンやパソコンに取りつかれた人たちと重なりましたね。

    本書でも警鐘されていたように、現在は情報が溢れていてどんどん情報が簡略化されていっていると思います。(特にYoutube、X、インスタグラム、TikTokなどのSNS)その情報がただ膨大に流れ込んできて、その情報を消化することで疲弊しており、考えられる人、行動を起こせる人が年々少なくなってきていると感じました。

    現実世界では紙から電子書籍へ移行しつつある中で、こういった焚書はより火で燃やす行為よりもより簡単になり現実味を帯びてくるかもしれませんね。

  • 今の世界は、情報も、人間も、この本の言う通り、早く、短く、浅くなっている。
    読書はゆっくりで深いものだから、本をたくさん読んで豊かに生きたいと思った。
    比喩の多さによる読みづらさを、面白さでカバーしてる。

  • そもそも本だけ目の敵にされるモチベーションがピンとこず、いまいち乗り切れなかった。時代に追い越されちゃったかな…

  • 「英語ではファイアマンと呼ばれている消防士が、火を消すのではなく火をつける職業になってしまった世界、検閲や監視された社会を描いたディストピア小説。」であると始めは思い込んでいたが、読み進めるうちに、この世界を招いたのは一般大衆の意思であるというのがこの小説の本題であった。誰か強い権力者の意思ではなく、思考を失い快楽だけを求めた我々国民が世界を悪い方向にもっていってしまうということは、現代社会でも往々に起こりうることだと思う。むしろ物が溢れて、数多の商品を消費し、情報が加速した現代だからこそ人は考えることをやめてしまうのかもしれない。現代に生きる人にこそ読まれるべき本であると思う。

  • 洗練された文章には、ひとつひとつにメッセージが込められていた。
    最後は胸にグサグサとくる金言がパレードのように押し寄せて、自分の中に染み渡る感覚があった。

    「本を表紙で判断してはいかんぞ」と誰かが言いった。全員が静かに笑い、下流への旅はつづいた
    「ぼくはおじいちゃんのために泣いているんじゃない、おじいちゃんがしてくれたことのために泣いているんだ」

  • ヨルシカの『451』なる曲から。そういや読んでないなあと思って手に取ったのは、伊藤典夫訳の2014年新訳版。
    firemanを「焚書官」じゃなくて「昇火士」と造語した訳者の感性にやられた。しょうか(消火と昇火)の価値が変転した世界の倫理すら表現する名訳!

    1952年、(日本じゃ昭和27年!)に書かれたこの小説がポルノチックな男性誌『プレイボーイ』に連載されていたという事実を知り、アメリカの出版文化の豊穣な世界を垣間見た気がした。

    ストーリーは、確かにシンプル!
    そしてヒロイン・クラリスの消失とか、援助者フェーバーの中途半端感とか、逃走の果ての尻切れトンボ的なラストとか、もちっとなんとかできたんじゃと思ったり思わなかったりしたけれど、名作だった!

    この詩的な、哲学的な物語の描いた世界がフィクションであることを願う。
    スマホ、生成AI、人が考える力を奪われる世界がすでに進行しているからこそ、私は本を買い、本を読むのだ。



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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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