- Amazon.co.jp ・本 (459ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309021263
感想・レビュー・書評
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伊藤計劃の絶筆を円城塔が引き継いだ魂の小説。
ワトソン、ヴァン・ヘルシング、007、カラマーゾフ兄弟・・・
フランケンシュタインの怪物を土台に様々な物語のキャラクターが登場し交錯する物語は、それそのものがバラバラなものから縫い合わされたフランケンシュタインの怪物のようである。
伊藤計劃のプロローグから円城塔の本章へと移行する場面は成程彼らしい。「言葉」とせめぎ合う本文も円城。しかし随所に仕込まれるエンターテイメントは伊藤の面影がある。
このプロローグは各所で拝見できるものだが、読む都度、伊藤計劃が最期に屍を扱い自己の存在を問うたのには迫力さえ感じる。叶わぬ事だが、彼のイメージしたクライマックスはどうだったのだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いかんせん意味不明。
伊藤さんはプロローグのみ。第一部以降は円城さんだそうな。
どこまでが共通の構想で、どこからが円城さんのオリジナルなんだろう?
人の生とは?死とは?自意識とは?という伊藤さんの構想を、円城さんがお得意の「言葉によって定義される自意識」という物語に捻じ曲げてしまっているとしか思えなかった。真相はわからないが、そうとしか思えなかった。本来であれば、時代設定を明治維新頃に持ってきているあたりで、「この事件以降の我々人類は自意識を乗っ取られた状態で現在も生きているのだ。つまり我々こそが屍者なのだ。」みたいな結論なのかと思ったのだが、それはあまりに安直というものか。。。?
いかんせん意味不明(特に後半に行くにつれ)な物語だったのだが、ひとつだけわかったことは、円城さんに活劇は似合わない、ということだった。 -
よくぞ続きを書き上げてくださった、と感謝したい。あんな人やこんな人が出てきちゃう、あの映画のアレっぽい、など遊びがいろいろと仕込んである上に、「緋色の研究」にもつなげられる終わり方なので、層がある面白さだった。
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まさに着想・構成伊藤計劃、文章円城塔といった作品。テーマやモチーフはいかにも伊藤計劃だけれども、伊藤計劃らしさを期待すると漂う違う感。
円城塔の思考遊び・言葉遊びが前面に出てるので、より一層ミステリアスであはあるのだけれども、ミステリとしての読みにくさを感じてしまった。
内容は面白い。
これは完全に円城塔の作品だと思った。 -
早逝の天才、伊藤計劃が遺したプロローグを円城塔が書きついで完成した小説。
19世紀末を舞台に死体を蘇らせた「屍者」たちを労働や軍事面で活用する、というパラレルワールドを設定した伊藤計劃もすごいが、その骨子に肉付けして素晴らしいエンターテイメント作品に仕上げた円城塔もすごい。
ワトソン、カラマーゾフ、フランケンシュタインなど、実在、架空を問わずこの時代の人々がどんどん出て来て活劇を繰り広げるのがクラクラするほど楽しい。しかし同時に進化、言語、魂とは、という伊藤計劃らしいテーマを真摯に問いかけてくる。
たぶん私は知識の欠如で元ネタの半分くらいしか気づいていないと思われるが、それでもためらいなく傑作と言える。 -
SFファンだけでなく、この本がちゃんと出版される幸せな環境を守らなけれればならない。
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伊藤計劃という死者の遺した物語を、いま生きている作家が書き継いで完成させる。そのことに、まず心動かされる。
本作は、シャーロック・ホームズでお馴染みの語り手にして記述者のワトソンが、動物磁気やら霊素やらがはびこり、屍者たちが日常的に存在、利用されている世界で巻き込まれる冒険の物語。
実在の人物と虚構のキャラクタが入り乱れて、アフガニスタンから日本までスマートさの欠片もないドタバタ活劇であり、魅力あるキャラ(バーナービー無双最高)や、ハリウッド映画に出てきそうなカッコ良くて映像的な描写など、考えなくても楽しめる一流のエンターテイメント小説として作られている。
新しい人物名で知らない名前が出てくるたびにネットで検索していたが、こうしてすぐさま情報を取得できることはこうした物語の作者と読者の相互作用みたいのを変化させているのかも。
虚実入り乱れた固有名詞であっても、ネット上では同一上(wikiとか)にあることもあり、ネット以前の前提知識が必要となるような物語を読む行為と、今の時代で行う読書は別モノなんだと強く感じる。
作中では、現実での世界を瞬時につなぐネットはないけれど、この物語を愉しむためにネットを使うというのがなんだか面白い。
またエンタメとして一流でありつつ、一方でこれは間違いなく『虐殺器官』と『ハーモニー』の次にあるものだ。
屍者の設定は『虐殺器官』の兵士たちの在り様をまずは想起させるし、屍が蔓延している世界は『ハーモニー』の過剰な生に満ちた世界と表裏に思える。
「可能なことはいずれ実現されてしまう」
作中で何度か繰り返されるこの言葉のように、この世界は別の道に進化しているが、そこでも革新や進化は問答無用で進んでいく。
人の意思、人の進化。人類はそこにどれだけ介入できるのか。
SFとして伊藤計劃の描いてきたものの後を描き、とても面白いエンタメであることも成功させたことに賞賛を。
エピローグの最後は、円城さんらしいと思いました。
物語のバトン渡し。 -
わたしの今年のエンタメベスト。
最高です。読めばきっと分かるはず…! -
伊藤計劃未完の長編を円城塔が完成、という作品ですが、うーむ、期待以上の面白さでありました。
屍者を自在に操ることが可能という設定は、懐かしのサイバーパンクな世界観でありますが、そこに伊藤計劃らしい「生と死」や「意識」への問いかけが据えられ、さらに円城塔らしい「言葉」の発現が巡る。
主人公ワトソンの師はヴァン・ヘルシング、追うのはフランケンシュタイン、出会うのはカラマーゾフなどと、名作キャラのファンタジックな交錯にも単純にワクワクしちゃいました。