嘘の木

  • 東京創元社
3.79
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010737

感想・レビュー・書評

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  • 化石捏造が露見し追われるように島に逃げてきた博物学者と、その家族。
    しかし島にもその醜聞は伝わり、一家は村八分同様の扱いを受ける。
    家に籠り憑かれたように植物の世話だけに没頭する父。娘が疑念を抱きはじめたとき、その父が崖から身を投げた死体として発見される。自死か、殺人か。
    謎の手掛かりは、父が秘匿する「嘘の木」が握っていた。

    従順さしか期待されない娘である主人公の、うちに秘めた怒りと野心が、闇に隠された真実を明々と照らしだす。
    これは、男たちの影として生きることを強いられた女たちの、復讐の物語だ。

  • 外国文学は読みにくい印象がありますが、これは翻訳がわかりやすくてとても読みやすかったです。ビジュアルが目に浮かんで来ました。当時の状況も生き生きと描かれていてイメージしやすく、作品をさらに深めてくれています。ストーリーもとても面白かったです。最後のどんでん返しも印象的でした。映画化に向いてると思います。

  •  牧師で博物学者の父が捏造スキャンダルを起こし、家族でロンドンを追われることになった。フェイスは厳格な父が捏造するなんて信じられず、何か父の力になれないかと考えていた。
     海を渡った小さな島に化石研究者として招かれた父だったが、すぐに島中にスキャンダルが知れ渡り、家族全員が冷たい視線をあびることになってしまう。
     フェイスが父の秘密に気付き始め、力になれるのではと思った矢先、父は亡くなってしまった。

     自殺を疑われた父が正式な埋葬もしてもらえずにいることにいたたまれないフェイスは、父の秘密を解明しようと動き始めた。そして父は殺されたのだと確信する。

  • ファンタジーなんだろうけど、ミステリでサスペンス。
    女は何も望むことが出来ず、選ぶことができなかった時代。
    フェイスの鬱積した気持ちと、人々の生き方や抱える苦悩がわかりやすい細やかな背景描写は印象的。
    反発する心と反面、諦めるざるを得ない惨めさ、だけど折れない必死な気持ちが儚くも力強くて、ページを追う目と感情がもたついて、頭が追いつかない。
    面白かった。

  • 観察知に基づく科学の話、なのかと思いきややっぱりファンタジーなのかもしれない。フェミニズムという言葉も(まだ)存在しない世界での少女の身体的精神的冒険。関係者を皆殺しにしたいぐらいむかついたけど最後はおもしろかった!

  • ダーウィンの進化論が世に出て間もないころ、女性は家でつつましくしているものだとされていたころが舞台。
    著名な博物学者の父は、化石をねつ造したという疑惑を持たれ、追われるようにしてある島へ家族ともども引っ越してきた。その島での発掘作業に招かれていたのだ。だが、父は島で事故で亡くなってしまう。事故なのか、自殺なのか。原因がはっきりするまで埋葬もしてもらえない。父を尊敬し、父のように学問をしたいと思っている娘のフェイスは、父の死に疑問をいだく。そして、父がこっそり島に持ち込んだ植物「嘘の木」の秘密を知り、父の死の真相を突き止めようと島の人々を巻き込む嘘を広げていく。

    カーネギー賞など多数の児童文学賞の候補作になったというファンタジー大作。と、あとがきには書いてあるが、これは児童文学なのか。舞台は過去だがSFチックな少女の大冒険という感じ。
    尊敬する父親のねつ造問題や、真相究明のためとはいえ嘘で住民をだまし続けるフェイスとか、児童文学としてどうなんだろうか。これは、大人向きの物語として提供したい。

  • ファンタジーでもあり、ミステリでもあり、少女フェイスの成長譚でもあり。
    嘘を養分とする木だなんて!ピノキオの原材料かしら。

  • 主人公は博物学者を夢見る14歳の少女。19世紀半ばのこの時代、女性は生き方を限定され、知識を得ることは無意味とみなされた。体面を取り繕う母の言動と、尊敬する父の支配的な威厳の下で、主人公は抑圧された毎日を送っている。序盤はひたすら耐える読書だったが、父の不審死をきっかけにどんどん面白さが増し、その後は傑作を確信しながらの一気読み。

    「嘘の木」の設定以外にSFファンタジー的な要素は一切なく、主人公が覚悟を決めてからは謎解きミステリとして展開していく。木の特異な設定を巧みに謎解きに取込み、観察眼と論理的思考という主人公の得意技を引き立たせた鮮やかな着地は、ミステリ作品としても秀逸。

    主人公の14歳という大人でも子どもでもない年齢設定が絶妙。利口な主人公は木を操り呼吸を合わせ、どんどん嘘が上達する。彼女が実感する、“さしだすのは嘘の一部だけでいい。あとは人の想像力がすきまを埋めてくれるのだ”、という想いが、現在の情報拡散社会を風刺しているようにも見えるのは深読みかな。そんな嘘の拡散から垣間見える大人たちの裏の顔を咀嚼するたび、少女は少しずつ成長する。特に、ラストで口にするひとつの嘘に大人への脱皮が見えて心を揺さぶられた。児童文学賞を数々受賞しているらしいが、大人にこそ読んでほしい傑作。宮部みゆきが年間ベストワンに推すのも納得だわ。

  • CL 2018,1.20-2018.1.26

  • 評判がいい本の場合、かなりきびし目に読む癖があるのだが、これは、期待していた以上に良かった。
    ファンタジー的な要素が現実世界に入ってくる場合、嘘っぽくなると、とたんに読むテンションが下がるのだが、こんなとんでもない設定なのに、実際ありえない話なのに、読んでいる間は全く気にならなかった。(それは細部がきちんと書かれているせいだと思う。)
    ファンタジーでありながらミステリでもあり、歴史小説でありビルドゥングスロマンでもありながら、そのどの要素もいい加減なところがなく、きちんと練られていることに驚く。時代考証も申し分なく、その時代(1860年頃)に生きる人々の姿が目に浮かぶ。
    「種の起源」が出た後の時代に科学を志す少女の成長譚としては『ダーウィンと出会った夏』を思い出すが、同じような境遇でありながら、こちらはずいぶんと暗い。しかし、『ダーウィンと出会った夏』の主人公には理解のある家族がいた。こちらにはない。他にも違いはいろいろあるが、思春期のパワーを封じ込められ、敬愛する父から女の賢さには何の値打ちもないと繰り返し言われ、賢くない弟の庇護のもとに生きなければならない将来を突き付けられていれば、こうなってしまうことは納得できる。父親の権力が強大で社会的地位も高いので、その威圧感は少女から見ればとてつもないものだ。しかし、この作家は少女に共感させるだけでなく、家督を背負う運命にある弟の苦しみ(左利きを無理やり矯正され、吃音が出ている)や、美貌しか武器のない母はじめ、他の登場人物の苦悩も、少女の内的成長とともに読者にもわかるように描かれている。
     いやあ、ホントに上手さに舌を巻くとはこのこと。他の作品も読んでみたい。

    それにしても値段はどうにかならないのかなあ。こんなに面白い本でも、これが初邦訳の作家だから売れそうにないので、こういう値段設定なのかもしれないが、読んだことのない作家の、あらすじだけ聞くと妙なファンタジー小説に3000円出す勇気がある人は少ないと思う。読めば3000円でも納得するのだけど、2000円くらいだったらもっと他の人にも薦めやすいのに。

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