嘘の木

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010737

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀後半、英国。フェイスは父、母、弟と共に、追われるようにヴェイン島にやってきた。父の発見した化石に、捏造の疑惑が持たれたのだ。島でも厳しく孤立する一家に、さらなる悲劇が重なる。父が死んだのだ。何者かに殺されたのではないかと疑うフェイスは、父の秘密にせまる。

    あれっ、児童文学っぽいなって思ってたら、やっぱりそうみたいです。身分格差と男女差別、そしてムラ社会の窮屈さの中でもがく、大人になりかかっている少女の物語。大人たちや島民への反発から、自ら危険に飛び込んでゆくフェイスですが、反抗期は大人への階段。だけど、自分がついた嘘がどんどん大きくなり、自分の手では制御できなくなって初めて、その恐ろしさに気がつく。子どもの無知ゆえの大胆さだったことに気が付き始める。
    そして少し成長してふと周りを見てみたら、尊敬していた父、反発していた母や周りのご婦人達、島の少年と言ったみんなが、それぞれに個性的で、自分と同じようにもがきながら生きていることに気がつく。
    王道ですが、こうしたストーリーが非常に丁寧に描かれていて、爽快な気持ちで読み終えられるお話でした。

    にしても「嘘の木」は怖い。願いを叶える「猿の手」とか、あんな話を想い出しました。

  • 武蔵野大学図書館OPACへ⇒ https://opac.musashino-u.ac.jp/detail?bbid=1000153157

  • 4/1はエイプリルフール
    嘘をテーマにした一冊を。嘘を養分に育ち、
    真実を見せる実をつける不思議な木が謎を解く。

  • 男尊女卑が厳しい19世紀のイギリス。博物学者の父が謎の死を遂げたことで、娘のフェイスが真相を暴こうとします。自分は他の女性とは違うと思う、賢く小さな少女。彼女のすることの是非はともかく、この時代で立ち向かおうとする彼女の若い無鉄砲さと強さがまぶしく、切ないです。また嘘の木という不思議な木をめぐることで、嘘とは何かを認識させられます。嘘ではなくても意味深なところで言葉を止めれば、それは噂として風に乗る…。彼女があることに気づくラストもとても良かった。大変読み応えのある一冊。この時代の女性に思いを馳せました。

  • 女性というだけで受けている抑圧の数々に胸が苦しくなる。今なおなくなってはいないことをひしひしと感じているから。それでも、ミス・ハンターやフェイスのような女性たちが積み重ね、切り開いてきた道を閉ざさせてはいけない。

  •  ある一家がイングランドから逃げるように小島へ移住するところから物語が始まる。一家の娘である14才のフェイスは、尊敬していた父親にまつわる醜聞が信じられず、父が密かに隠した不思議な植物を調べる決心をする。
     後半になると、人間の嘘を養分にして育つという不思議な植物が登場し、フェイスは図らずもその”嘘の木”の力を使って一家を迫害する島の人びとにさざ波を起こさせ、植物からの啓示によって、父の死の真相に徐々に迫っていく。

     若くて賢いのに、女性だからという理由で幼稚な弟よりも下に見られていたフェイスが勇気を振りしぼり、科学的探究心を忘れず、泥だらけになりながら真実にたどりつこうとする姿は健気でカッコいい。
     読み終わってみるとファンタジー小説という形をとりながら、主人公のフェイスに限らず、女性の武器を最大限に使おうとしているフェイスの母マートルや、治安判事の妻、女郵便局長も含めて、それぞれの立場で新しい時代に突き進もうとする女性たちを描いた作品だった。
     フェイスの目から見て無知でやっかいな存在だと思われたマートルが、実は母親らしく現実的な心配をしていたことにもちょっと胸をつかれる。

  • 児童書(?)にしては難しくないかい?って思ってしまった。
    この時代の女の人の生きづらさを感じさせられた。主人公の母親も、はじめは結構反感を持ったが、生きるための彼女なりの処世術というか。男の人になんとかしてもらうしかない?から。だからといって誰にでもできるわけではない。やはり美しい人に限られる技だけど。自分にはできない…。

  • 化石の発見などによって科学的な見方が進み進化論が唱えられ、宗教的な立場との対立があったりする19世紀後半、女性はまだまだ男性より劣ったものとみられていて、骨相学なんかが幅を利かせていた(『問題だらけの女性たち』の世界!)。
    主人公フェイスの父は博物学者で牧師。フェイスは博物学に憧れ、父を尊敬しているが、一家が島に移住することになる冒頭から、状況は不穏。14歳の少女は大人たちから事情を説明してもらえない(読者にも状況は明示されない)ので、フェイスは自分自身の手で情報を収集することにする。
    やがて、父が謎の死を遂げることとなり、フェイスは嘘を広めて「嘘の木」を育てることで、真相に近づこうとしていく。
    女子だからという理由で抑圧されているが知的好奇心が旺盛な主人公は、およそ品行方正ではない。いい子か悪い子かで言えばだいぶ悪い子なのだが、知識への渇望も父への憧れも全く認めてもらえない状況がつらく、これは仕方ないよ…とハラハラしながら見守った。
    テーマがちゃんと最後までついてきて、謎解き(真犯人)の部分で感心した。

    「ヤングアダルト」が自分ではもう大人だと思っているのに周囲からはそうはみなされない世代の人たちだとすると、まさにヤングアダルトな小説。

  • 「嘘を養分に育ち、食べた者に真実を見せる実のなる」偽りの木。ダーウィンの進化論の衝撃が冷めやらぬイギリス、博物学者の父を殺した人を探すため、14歳のフェイスは偽りの木に嘘を与える。
    嘘がテーマとあって、ゲッスい(それも身近にいそうな)大人がわんさか出てくる。時代も時代で女性蔑視も甚だしい。賢く勇気のあるフェイスが怒りにまかせて、嘘にとりこまれていく様子がつらくてひやひやした。
    嘘のズルさ悲しさをこれでもかと書きながら、ラスト、くるりと反転して、したたかさも前面に出てくる。いい悪いじゃ割り切れない人間は複雑で、フェイスが愛おしくて、ビルドゥングスは希望があるからすきだ。

  • この本の歴史、文化背景を理解していると、もっとすらすらと、そして切実に内容が頭に入ってくるのかなあと思った。例えば、エスコートされるべき存在としての女性と背景にある性差別。聖書、そして創世記に描かれるひとが食した知恵の木の実、それをまつわるヘビのイメージ。主人公のフェイスが抱える父への複雑な思いは、私が生きている社会の考え方をそのまま当てはめるだけでは収まり切れない部分もあるのでしょう。

    一方で、ここで書き込まれている問題は、全てが過去のことではなくて、現代社会に通じる面もありそう。ダーウィンの進化論を教えることを否定する人々は確固として存在する。また、フェイスが成長していくために広げなければならなかった視野や選択肢にも共感する。様々にひも解くべき課題を見つけられる本だと思う。

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