空の拳

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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感想 : 112
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  • Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532171155

感想・レビュー・書評

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  • 序盤を読み始めていた時点では、正直、あまり好きになれる小説ではないような印象を抱きました。
    何より主人公=空也のキャラクタ造形に違和感を憶えてしまって。
    如何にも女性作家が創造した男性キャラというか、いくらなんでもこんな男いないだろ、という感じ。
    酔っぱらうと女言葉になるってのが全く持って意味不明。

    ドラマ性も薄くて、淡々と展開していって、ワルキャラ作りと経歴詐称の件りも、何だか亀田兄弟を安易にモデルにしてるようで心踊らず…

    ところが不思議なもんで、読み進めていくうちにジワジワーっとくるんですよね。
    空也がボクシングの世界に馴染んでいく位相が読んでいるこちらがらにもシンクロしてくるというか。
    そうなってくるとこの淡々とした時系列の展開が、なんだか現実感を生む。
    しかもそれが出版社の人事異動の周期で切り取られたりするからなお一層。

    才能ある奴ない奴、精神的にタフな奴弱い奴、その辺の人間模様もまた現実感をじんわり滲み出す。

    なんなんだろう。
    やっぱりボクシングって素材が独特の現実感を呼び込むんだろうか。
    殴り殴られるというプリミティブな営みが。

    子供の頃『がんばれ元気』を読んだときの、踏み込んではいけない領域に触れたような、ある意味隠微な感覚が呼び戻されたような気がしました。

  • 数年前に読んだ本。たしかボクシング雑誌の担当になったのを機会にボクシングジムに通うようになった編集者目線で、書かれている。ボクシングには興味はなく、試合もテレビでたまに見る程度。でも、この編集者と同じく、どんどん引き込まれていく。角田光代とボクシングは結び付かなかったが、ジムに通う知り合いにもおすすめした。ラスト、せつない。

  • 何者かになる為に闘い続ける。いつかそこを離れていくとしても。実は、なにも掴んでいない幸せもある。

  • 角田光代、驚きのボクシング作品。意表を突かれまくりです(´⊙ω⊙`)

    主人公はヒョロヒョロのへっぽこ雑誌編集員。ボクシングなんて全く興味がなかったのに、どんどん引き込まれてゆく。
    彼と一緒に、読んでいるこちらもどんどん引き込まれてゆく。私だってボクシングなんて全く興味ない。角田作品だから読んだのだ。

    どんどん強くなっていくプロボクサー・立花。彼の悪タレぶりが某兄弟ボクサーにダブる。うーん 彼らももしかして演じてるのかもしれないね(笑)

    主人公は結局、別の部署に異動になって、ボクシングへの熱も失ってゆく。こちらも同じように、読み終えたらボクシングへの興味はまた薄れる。
    でも、こんな世界があるのだ、ということに気づけたのはこの本のおかげだ。

  •  スポーツによる感動は、映画や音楽から得られるそれよりも長く持続するそうだ。それは試合の結果はもちろんだがそこに至るまでのストーリーを共有するからだという。ボクシングではKOする一撃、野球ならホームラン、サッカーならゴール。それぞれの一発のために選手はひたすら練習する。 立花に負けた矢部達也の「たまたまはない」という言葉は印象的だ。スポーツは身体にいいというが、それはほどほどにやっている場合であり、勝ち負けの試合を伴うスポーツは試合はもちろん練習でも怪我をすることは度々だし、死んでしまうことだってある。空也は、立花をはじめ坂本や中神の練習に対するひた向きな態度からボクシングに魅了されたんだろうな。文芸出版部に異動になってジムを退会してしまうけど。プロテストでKOされたのが理由かな。空也にしてみれば、プロになることもなく練習生のままだけど、ボクシングは引退だったんだろうな。

  • 角田光代にしてはちょっと冗長?
    彼女自身ジムに通っているということで、思い入れが強すぎ、書き込みすぎたのかもしれない。
    もうちょっとコンパクトにできたはず。特に前半。

    でも、本人も気がつかない、けれども人を潰してしまえるほどの無意識の悪意や、それをものともしない高みに上っていこうとする思いの強さ、何も得られないかもしれないのにそれでもそこに存在しようとする気持ちなどなど、細部はやはり最高に面白かった。
    ボクシング小説にはあるまじきヘナチョコ君を主人公にしたところも○。

  • 読む順番を間違えたんだな~。
    「拳の先」を先に読んでしまったから。

    先にこちらを読めばまた違ったのかもしれない。
    結末がわかっているせいもあるけど、とても冗長に感じてしまい、読み進まず…パラパラ~っと読み終えた。
    力作?なのに、ごめんなさい。

    でも、この2冊のお陰で、年末のボクシングの試合が楽しめた。

  • 文芸誌希望の文学青年な編集者が、何の因果かボクシング専門誌へ配属されてしまう。そうして否応なくかかわることになったボクシングの世界だったが、彼はやがてその魅力にはまりこんでいく…

    物語はいわゆるスポーツ物の「熱さ」とは違い、あくまで物語のテーマのひとつとして「ボクシング」を扱っている、とう角田さんらしい俯瞰的な視線を感じる描き方がなされているように思います。

    だからかえって、主観的すぎないボクシングの世界を深くいろんな角度から楽しむことができたように思いました。

    実際に戦っている選手、トレーナー、家族、友人、編集者。それぞれの視点でのボクシングへのかかわりかたの違いが丁寧に描かれていて、背伸びしすぎない現実的な人びとの一喜一憂をじっくりと感じ取れます。

    ことさらに泣かす描写も、スポ根的に燃える展開も用意されてはいませんが、彼らの静かでひたむきなドラマに気づくとハマっていました。それこそ執拗で的確なボディブローのように、徐々に面白さが染み込んでくるのです。

    かなりの分量のある物語ですが、それだけ、ボクシングとボクシングの魅力と、そしてかかわる人々の生きざまが詰め込まれているということです。ずっしりと読み応えのある物語でした。

  • 読み応えあり。ボクシング小説は初めて読んだかも。
    そうか。たっちゃんとか原田君はこんな世界(の手前)で戦ってたんだな、と(笑)
    それはともかく。
    ふと防御を下げて弱っちそうなことを排除しようとする立花はとても好ましいし、私が好きなのは坂本くん。主人公の空也もなかなか。
    だけど、なんとなくもうちょっと、書き込まれていればなぁと、少しもったいなく感じてしまった。
    これ以上分厚くしてどうすんだ、とも思うけどw
    中神くん目線でアナザーストリートとかないかな。

  • ボクシング物にはあるまじきナヨナヨとした主人公
    でも面白かったな
    ボックスよりずっと良かった

    恋も友情も青春も紙の上でしか知らない主人公がボクシングを通じて恋以外のものを得ていくのが良かった
    僕も小説でしか知らない世界がたくさんある
    そういう世界に憧れてはいるけど諦めが強い
    空也は憧れに手が届いてどんな気持ちなんだろうな

    僕にとってはスポーツが憧れなんだと思う
    だからこうやって読むけど、自分からは手を出さない
    手を出さなくてはいけなくなることなんてこの先あるのかな

    空也は貴重な経験をしたんだろう
    現実に神様はいるのかしら

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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