- Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532171155
感想・レビュー・書評
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ボクシング、全然興味なかったけど、生で試合みてみたくなった。
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運動音痴の編集者が不本意ながらやってきたのは、ボクシング雑誌の編集部。勉強のためにとたまたま入門したジムでの運命的な出会い。そこから男と男の熱い殴り合いにのめり込んで行く。どんどん強くなっていく「作られた」悪童、先に入門した友人に誘われてボクシングを始めた二人の若者が進む対照的な人生。一見すれば暑苦しく野蛮なこの格闘技にも、純粋で奥深い真理が秘められている。だからこんなにも人を熱くさせるのだと、主人公と共に追体験できた。
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角田さんの新境地開拓作品と呼んでよさそうなボクシングを題材とした作品。
百田さんの『ボックス!』は未読ですが(宿題ですね)、想像するにボックス!ほど熱い作品ではないであろうと思っています。
敢えて女性読者の多い角田さんはそのあたりは想定済みですよね。
だから本作は主人公を出版社に勤務する“文科系”のオトコである空也の目を通している点がこの作品のポイントであると思います。
ひたすら一般的な読者レベルに近い視点で語ることによってボクシング自体わかりやすく語られているのです。
そしてもうひとりの主人公とも言えるプロボクサー立花、彼の出自に関する詐称問題も物語の重要な部分を占めています。
何よりそうですね、夢と言ったら大きすぎるでしょうか、人生における自分探しの物語となっているところが読ませどころなのでしょう。
それは他の角田作品同様、登場人物だけではなく読者も身につまされるでしょう。
もちろん角田さんの試合の描写も予想よりも凄く的確でわかりやすいし、他のボクサーである坂本や中神、トレーナーの有田や萬羽それぞれの生きざまも素敵です。
でも私はどちらかと言えば文芸編集部希望だった主人公が隔月出版のボクシング雑誌編集部に追いやられたのにもかかわらず、自らボクシングジムに練習生として入り努力して順応することに拍手を送る物語だと思います。
私はボクシング編集の3年間で空也が成長した姿を終盤に見れたことに大きな喜びを感じました。 -
480ページからなるボクシングをモチーフとした長編。
個人的にボクシングという競技は全く興味がないのだけど(たぶんこれからも)、面白く読めました。読後感も爽やか。
文芸部に配属されることを熱望していた主人公空也が自分の希望とは真逆の「ザ・拳」という名前もコテコテのボクシング雑誌に配属されてしまう。この作品はその傍観者である空也の目を通して描かれているのがちょっと新鮮です。
ボクシングジムに流される形で入会してしまった空也が、そこで知り合って見続けていく青年たちの描き方が、スポーツ小説だけど変に暑苦しくなく描かれているので読みやすかったです。
また、トレーナーの有田の選手立花への経歴詐称アドバイスや、試合中の中神への相手選手に対する侮蔑の言葉を言うアドバイス、同じく試合中の坂本へのセコンドアドバイスを途中でやめる行動。
これが、根の深い悪意なのか、それとも無邪気な悪意なのか、もしくは本当に彼が選手のことを考えて行った行動なのかは、作中ではモヤモヤっとしたままなのも妙にリアルだな、と思いました。
物語の主人となる立花の試合結果も、勝ったり、負けたり、を地道に繰り返すところもリアル。
地道な試合結果ではあるが、試合の描き方が傍観者である空也が徐々に徐々に魅入られていく様子と、簡潔な描き方ではあるけれどまるで自分も本当に試合を見ているかのように思えてしまうのが不思議でした。さすが角田さん、とちょっと唸ってしまいました。
三年間「ザ・拳」の編集とジム通いを続けていた空也が本来の希望の文芸部に配属されてからの、ボクシングとのかかわり合いが徐々に開いてくるところも、なるほど普通はこうなるよね、と思ってしまうリアルさ。
空也がこれからボクシングとあれほど関わることはたぶんもうないだろうけど、彼の人生の何かを少し変えてくれたような、そんな気がします。
女性が読んでも楽しめるボクシング小説だと思います。 -
ボクシングに打ち込む青年達を描いたスポーツ小説。
語り部となる主人公を、ボクサーではなくボクシング雑誌の編集者兼ジムの練習生に設定したことにより、ボクシングの世界を一歩引いた立場から描くことに成功しており、結果として、この独特な世界の非日常性とそれゆえの魅力がより鮮やかに読者に伝わってくる。
圧倒的な強さを誇るボクサーが登場するわけではなく、また描かれる試合のレベルもせいぜいが日本タイトル戦レベルなので、地味といえば地味なストーリーだが、たとえ強くなっても報われることがほとんどなく、リスクだらけのボクシングという競技に魅せられた人々の姿が全編を通して丁寧に描かれており、余韻の残るラストも、タイトル名にかけた作者の思いとつながって、非常に印象的だった。
ボクシングをテーマとした作品となると、「あしたのジョー」をはじめ漫画には名作が数多いが、小説としては高校のアマチュアボクシングを描いた百田尚樹氏の「BOX!」以来の傑作だと思う。 -
ボクシング小説。主人公をボクシング専門誌の新人編集者(しかもフェミニン)にしたところが新しい。若いトレーナーの「悪意」が物語全体に毒を回らせていてスパイスが効いている。
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これは面白い、視点が非常に特徴的。
ボクシング自体をすることがほぼない主人公を通してボクシングを語る点、これは物語を立体的にするという意味で効果的。
主人公はじめとした登場人物が冷めているようでいて、皆熱さにたぎっている(あるいはそれに覚醒していく)描写など、『八日目の蝉』はあまりピンと来なかったが、これは力のある作家の文字通りの力作。
この作家もボクシングの魅力に取りつかれたのかも。
新聞に連載されていた時は読まなかったのだが、損をしていた気分。
新聞連載小説って昔から日本小説の王道なんだから粗末にしてはいかんということですな。 -
ボクシングを通して、2人の男の成長を描く。
1人は記者、1人はボクサー。
ボクシング小説なんだけれど、全体を覆っているのは優しい空気。 試合のシーンは迫力あるし、展開もスピードがある。
一方で、丁寧に描かれている部分も多くあって、それらが”優しさ”の出処か。
ラスト直前のシーンがいい。すごく好きだ。 -
大人のスポ根小説初めて読んだかも。というかそれ系も森絵都さんのDIVE、佐藤多佳子さんの一瞬の風になれ、朝井リョウくんのチア男子くらいしか読んだことないのですが。
ほんと読み進めるのが大変だった。しかもめっちゃくちゃ分厚いし。長いし。しかもしかも馴染みないボクシングだし。
それでも読めたのは角田さんが書いたということ、それと主人公空也が編集者で文芸誌を希望しているのに「ザ・拳」という隔月ボクシング誌に配属になったところかな。
登場人物もそれなりに魅力あり。読み応えもまあある。
けれど。それでも好きだな、と思うことは一度もなかった一冊でした。