蘇我の娘の古事記 (ハルキ文庫 す 6-1 時代小説文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758442329

作品紹介・あらすじ

栄華絶頂の蘇我氏が討たれた乙巳の変から数年。緑あふれる野中の里で国史編纂に力を注ぐ父のもと、ヤマドリとコダマの兄妹はすくすくと育っていた。盲目の妹コダマは一度聞いたことはけっして忘れない聡耳の持ち主で、物語を愛する美しい少女へと成長する。だが日本の黎明に揺れる政争が、彼女を数奇な運命へと導いて──。時を越えて愛される日本神話の数々と、激動の世を生きたひとりの女性を鮮やかに描く長篇小説。続々重版した話題作が、待望の文庫化。(解説・三浦佑之)

感想・レビュー・書評

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  • 乙巳の変から壬申の乱を舞台に百済系渡来人の一家を描く歴史小説。蘇我入鹿と言えば山背大兄王一族を虐殺し、専横を極めた悪逆非道の人物とのステレオタイプがあった。それは中大兄皇子や藤原鎌足が自己を正当化するために作った歴史である。

    蘇我入鹿は自邸を宮門、息子を王子と呼ばせ、大王に取って代わろうと非難されたとされる。これは根拠のない冤罪とする説が有力である。一方で『蘇我の娘の古事記』の入鹿は、そのようにして当然という論理があった。

    乙巳の変の中大兄皇子も壬申の乱の大海人皇子も相手をだまして権力を奪う存在である。中臣鎌足も下劣な存在に描かれる。関裕二『藤原氏の正体』(新潮文庫、2008年)の鎌足に重なる。

    中大兄皇子は百済復興という無謀な戦いを進め、白村江で大敗した。これは近江朝の汚点になった。敗戦後は唐の圧迫を受け、植民地化の危険があった。再び外国に出兵するのではないかという不安から近江朝の離反者が出た。

    古事記は稗田阿礼が誦習したものを太安万侶が編纂したとされる。『蘇我の娘の古事記』は、そのように伝わった理由も述べながらもそれとは異なる事実を描く。『古事記』『日本書紀』は中国の史書に比べて権力者を正当化する要素が強く、史料価値が乏しいとされる。司馬遷のような歴史を伝えようという歴史家の反骨精神や良心が乏しい。これに対して『蘇我の娘の古事記』では歴史家の反骨精神や良心が少しは感じられる。

  • ゆきれぽ » 蘇我の娘の古事記 - FMとやま
    http://www.fmtoyama.co.jp/blog/tajima/?p=6863

    古事記のドキドキとワクワク 周防柳『蘇我の娘の古事記』刊行記念エッセイ | エッセイ | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/527282

    蘇我の娘の古事記|書籍情報|株式会社 角川春樹事務所 - Kadokawa Haruki Corporation
    http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=5984

  • 大化の改新、白村江の戦い、壬申の乱。そして、天武・天智両天皇が崩御し、持統帝が歴史書をまとめ上げるように命ずるまでの長い物語です。



     日本で最初に編纂された歴史書は聖徳太子が編纂した「天皇記」「国記」と言われていますが、実物が残っていません。彼は歴史上敗者であるからです。そして、残っていないものは歴史では存在したことにはなりません。



     歴史とは常に勝者のものです。上代と言いながらも、それなりに長い時間にかかれたものが、古事記や日本書紀だけということもないとは思います。(万葉集もですが)

     この物語の主人公であるコダマの出生に大きな秘密があり、それが後々大きな苦難として降りかかってくるのですが……。

     冒頭ではお話をねだるあどけない幼子。その子がたくさんの物語を、その身に蓄えていく姿が面白かったです。

     そうして、彼女がその心打ちにためていったものが古事記になる。おもしろい



     実際のところ、古事記の作者である稗田阿礼についての記録はありません。誰かもわからない。

     

     この作品は各章の合間に古事記にある恋物語が様々な人物に語られるという形で挟まれています。

     こーいうのは憎いなぁと思いながら、この話は子供の時からすきだったなぁとか、(さすがに子供向けの古事記はかなり小さいころに読んでます、いくつくらいだったろう? おぼえていない)イナバの白兎にこんなに意地悪しなくてもいいじゃないかとか(笑)



     その辺りも面白かったです。あー、やはりこの時代は楽しい。



     梅原猛さんなどは古事記は持統帝のためにかかれたものではないかということを言われていたようですが、確かに、この物語は女性が読んだ方が楽しいんですよ。日本書紀もすきですが、どちらかを選べと言われれば古事記を取ると思います(苦笑)



     それがこうした形で小説になると、私にはとても楽しく、時間を忘れて読みふけってしまいました。

     

     そう、歴史よりもお話のほうが子供のころから好きでしたから♪

  • 今いる私と、遠い昔に生きていたかもしれない人。ただ遠い存在のはずなのに、古事記という今に残る触媒を経て、実感を持って近くに感じた。そんな感覚を覚えさせてくれた本。
    (創作とは承知しつつ)
    時々覚えるその感覚を味わうことが、私が物語を読むモチベーションのひとつ。
    以前、奈良へ旅したとき、このまま何回も季節を遡ったら彼らもここにいて同じ景色をみたのだろうかと強く思った。時間も場所も越えられないことが不思議に感じるくらい。我ながらロマンチストだなと思いつつ…説明しづらいこの感覚がやっぱり好き。

  • 大化の改新から壬申の乱の時代は、小説として読んで面白い激動の時代だが、活躍する有名人が少ないせいか、または比較的ストーリーが確立されてしまっているためか、戦国時代のように、それを題材とした小説がたくさん出版されているわけではない。
    (出しても売れないから、だろうけど)

    ↑上に、"比較的ストーリーが確立されてしまっている"と書いたが、古い時代のものなのに、確固たる定説がある…みたいなのは何故だろう?
    戦国時代のようにいろいろな人が日記をつけていたわけではなく、歴史を文字に起こせる人間が少なかったから。
    そして、この作品の中にも書かれているように、勝ち残った人たちが、自分に都合のいい歴史書のみを残したせいだろう。
    どこぞの遺跡が掘り返されて、何か書かれた木簡でも見つかれば、これからも歴史はひっくり返る。

    そして…この作品は、真に大胆な仮説とオリジナルキャラをぶっ込んできた。
    一章ごとに、何人かの語り部がきかせるのは、日本の建国神話から、天孫降臨、国譲りを経て、大和政権の大王たちのお話(順番通りではない)だが、小説本文の内容を暗示、連動している。

    "妹背"に隠された、イザナギ・イザナミ以来の兄妹の想いがある。
    百済人の史(ふひと・文官)である船恵尺(ふねのえさか)の家で育てられた蘇我の娘・コダマと、兄のヤマドリの悲恋も読みどころだが、今までの"大海人は豪放磊落で笑顔がさわやかな好人物"というイメージを覆してくれたことも衝撃である。

    半島との関係や、政治的駆け引きの内容は出来る限り簡略化し、分かりやすく説明しているのが良い。
    それゆえ、重厚さ、ドラマチックさを多少欠く部分もあるかもしれないが…

    悲しい運命を乗り越えて、「消えて行った人たちの歴史こそが、自分が残すべき歴史である」と決心したコダマの思いは、現代に伝わっているのだろうか。

    今年、2019年の7月には「百舌鳥・古市古墳群」も世界遺産に登録されたし、この本も含めて古代史小説は読み時ではないだろうか。

  • 解説の三浦佑之さんの古事記に対する認識をもとに書かれたラヴロマンス。もちろんフィクションである。

    作者の周防柳さんを全く知らないので、もしかして三浦さんが実際には書いてるのかと思ったくらいだ。普通に面白く、古代に対するロマンスも掻き立てられるのだが、もう一工夫、もう一捻り欲しい。三浦さんの一連の著作の方がスリリングであった。

  • 古代史が好きで中でも壬申の乱がらみに興味を持っている。大化の改新から壬申の乱に至るまでの流れは複雑で謎に満ちている。主な資料は古事記と日本書紀だがこれとて勝者の記録。それらと少ない記録の隙間から様々な壬申の乱や天智、天武天皇や蘇我一族が誕生する。
    本書もそうした物語の一種。入鹿の隠し子の盲目の娘が渡来人の家で育てられて「古事記」の元を作ったという話で、随所に古事記の説話が挿入されている。
    その古事記の部分以外はー創作部分には感情移入ができなかった。
    発想に描写がついていけなかったような気がする。
    購入の決め手の一つは10版も重ねていることなのだが、そんなに売れているのかと自分の感性に疑いを持った。

  • 中大兄皇子による蘇我入鹿の暗殺から大海人皇子の壬申の乱を扱い、物語のスケールは大きい。そういった史実に伝奇的要素を加え、さらに男女主人公のラヴロマンスもたっぷりで、歴史物語としての要素は揃っています。
    でも、なんか軽いのです。
    巻末には沢山の参考文献が挙げられているのですが、どこか劇画的な軽さが有ります。主要な脇役として登場する中大兄皇子、大海人皇子、蘇我入鹿、中臣鎌足ら人物像の薄さから来るものでしょうか。重厚な歴史小説を期待してしまった私にはやや肩透かしでしたが、良く言えば軽快でそれを好む人も多いと思います。
    周防柳さん、初読み。読み終わった後で女性だと知りました。なるほど我が家から見ればお隣の大竹市(安芸)→岩国市出身で周防さんですか。そういえば、同じく女性作家の澤田瞳子さんも、よくこの時代を描かれますね。

  • 兄妹として育ち、やがて夫婦になったヤマドリとコダマの純愛がたまらなく愛しかった。
    愛しかったゆえに、そんな二人が幸せに暮らしていくことを許してくれなかった時代の流れが、血筋が、憎くも辛い。
    本音を言えば、やっぱりこの二人には、たくさんの子供たちに囲まれて、最後まで幸せに生きて欲しかった……
    何度も危険な目に遭ったし、ずっとそばにいられた訳ではないから、余計に。
    それでも、ヤマドリは最期までコダマのために戦って、これからもコダマが健やかに生きていける世界を守るために戦って、命を捧げた。
    最初から最後まで、彼の彼女への想いは変わらなかった。
    それが、本当に尊い。
    勿論、コダマの想いもそう。
    だからこそコダマは後に決意し、父が情熱を注ぎ、兄であり夫であったヤマドリと共に「聞いた」物語を歴史として、そして「古事記(ふることぶみ)」として作り上げていく。
    実際の日本書紀にある恵尺の記載、そして古事記の「序」から発展させた壮大な物語は、古事記の「本当の作者」そんなコダマの生涯の物語でした。
    当時の飛鳥や近江の空気感も伝わってきて、盲目のコダマのように、実際に読者側もその光景が見える訳ではないのに、目の前にあたかもその光景が広がっているかのような臨場感がありました。
    解説にもあったけど、極上の読書体験をさせていただきました。
    歴史小説ですが、読みやすい文体で、すらすら読めるのも、個人的にはポイントが高かったです。
    分厚さを全く感じさせない作品でした。

  • 大化の改新から壬申の乱そして時がたち古事記が世に出る。
    古事記製作異聞のようなお話。

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著者プロフィール

1964年生まれ。作家。早稲田大学第一文学部卒業。編集者・ライターを経て、『八月の青い蝶』で第26回小説すばる新人賞、第5回広島本大賞を受賞。『身もこがれつつ』で第28回中山義秀文学賞を受賞。日本史を扱った他の小説に『高天原』『蘇我の娘の古事記』『逢坂の六人』『うきよの恋花』などがある。

「2023年 『小説で読みとく古代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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