働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書 15)

著者 :
  • メディアファクトリー
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784840136617

感想・レビュー・書評

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  • 遺伝子のくだりが理解できなかったのは己の頭の限界か。
    総じて面白く読めたし、色々考えさせられた。
    ヒトも細胞という群れである、ヒト一人もはアリの群れと同じである、というのは発見。

  • 音痴で不器用な僕は、気候の良ときにはバイオリンを弾いて遊びまくり、寒くなって働き者のアリさんに泣きついて結局助けてもらって、なんだ、人生って楽勝じゃん、って印象のキリギリスくんにいつも憧れていました。でも、夜這いしてせっせと子作りだけする社会寄生種のアリは、その遥か上を行っている!著者の文才溢れる序章でがっちり掴まれてグイグイと読みましたが、遺伝子関連の話でやや集中力が弱まった。いずれにしても、もう同じ感覚でアリを見ることが出来ません。多くのアリはとっても一生懸命なんですね。もう踏み潰せません。

  •  ネット記事で紹介をみて、ネット書店でその本を買う。でもまだ紙の本は手放さないぞ。
     この本はまさにそんな風に知ってそんな風に買った。一般向けの書物として軽いタッチで描かれているが、実にまじめな生物学の本である。しかし、生物学といっても真社会性生物といわれる、社会を作る生物を扱っているので、俄然、人間という社会性生物の生態と対照されることで、「身につまされる」のである。
     社会を作る生物というとハチやアリは誰もが思い浮かぶところだろうが、『新世界より』でネタになっていたハダカデバネズミから、粘菌の一種までいろいろあるという。
     何しろタイトルにもある、働きアリが働いていないというのが、衝撃的というか、面白くて買ったのだ。実際、ある瞬間をとると、7割くらいの働きアリは働いていない。つまり休憩中。休憩が終われば働き出すのだが、それでも、2割くらいのアリは一生働かないのだそうだ。そういう話を人間社会、端的には自分の周囲の状況に照らし合わせて、「身につまされる」と思うわけだ。
     ではなぜ働かないアリがいるかといえば、いくつか理由があるが、ひとつは個々の個体の知的能力が低い集団が状況に応じて適度に労働力を供給するためであり、また、いざというときの予備力として必要と説明される。後者の理由は、現代の人間社会が効率ばかりを求めるあまり、実は長期的には社会の生存に適していない状況に陥っているのではないという警鐘となる。
     しかしながら、前者の理由にあるように、個々の個体が高度な知的機能を持った人間の社会と単純な反応しかできない個体によって構成されるアリの社会を比べるのは実は詭弁である。それは筆者もわかっているのだが、それでも人間と引き比べたくなるのが、面白いところ。基本的に生物の行動原理は自分の遺伝子をよりたくさん残すことを目的とするという前提に考察されるが、目下、苦闘を強いられている独裁者たちをみても、アリと一緒みたいだし。
     そして、「働かないアリ」とは、自嘲的に筆者たち生物学者たちのことでもある。こうした研究がネットで紹介されたら「なんてひまな奴らなんだろう」と書き込みがあったそうだ。いわゆる会社の仕事はしていないし、すぐに役に立つこともしていないし、でも、夏のさなかにアリのコロニーを探して歩いて、働かないアリの数を数えたり、すごく大変らしい。そんな面倒なことを飽くことなく続けているなんて、なんてひまな人たち!
     本書は200ページに満たず、とても薄いのだが、700円を越える。本も高くなったものだと思ったが、もしや、このメディアファクトリーという会社、働かない社員を飼っているので、本の値段が高くなってしまうのであろうか。

  • 進化生物学者が、アリやハチのような特殊な集団構成をもつ生物(昆虫)の行動の実態を研究・解明した、画期的な著作。
    著者が対象としたのは、単に群れを作って行動する生物ではなく、繁殖を専門にする個体(女王アリ・女王バチ)と労働を専門にこなす個体(ワーカー。働きアリ・働きバチ)からなるコロニーと呼ばれる集団をつくる「真社会性生物」と呼ばれる生物である。
    生物進化には、「子どもをたくさん残せる、ある性質をもった個体は、その性質のおかげで子孫の数を増やし、最後には集団の中には、その性質をもつものだけしかいなくなる」という大原則があるにもかかわらず、真社会性生物のワーカーは多くの場合子どもを生まないので、「子孫の数を増やす」という法則とは矛盾する性質が進化してきた生物であり、これはチャールズ・ダーウィンが謎と考え、昔から生物学者の注目を集めていたのだという。
    そして、その研究の結果、以下のような面白い事実が判明したという。
    ◆コロニーの7~8割のアリは、何もせずに休んでいる。働くアリだけを選抜したコロニーでも、働かないアリだけを残したコロニーでも、やはり、一部のアリは働くものの、7~8割のアリは働かない。これは、それぞれの個体に「反応閾値(仕事に対する腰の軽さの個体差)」があるためであり、疲労という不可避の要素を考慮すると、働くものばかりのシステムよりも、働かないものを常に含む一見非効率的なシステムの方が、長期的な存続が可能となるためと考えられる。
    ◆多くのアリ・ハチではコロニーには普段はメスしかいない。ミツバチのオスは新しい女王バチが交尾を行うごく短期だけ現れ、役割を終えるとエサを与えられず、巣から追い出されて死んでしまう。
    ◆自ら子どもを生まずに、他者のために自らを犠牲にして働くワーカーがどうして存在するのかについては、手伝う相手は血縁者であり、それが生む血縁個体を通して利他者の適応度が上がるという「血縁選択説」と、血縁関係がなくとも、群を作ることに大きなメリットがあるという「群選択説」がある。
    著者の「働きアリの2割ほどはずっと働かない」という研究結果が新聞で取り上げられたところ、翌日の新聞に「この研究やった人ヒマだよね」という読者の投書が載ったというのは何とも笑える話だが、人間社会を考える上で、参考になるような、ならないような、ちょっと楽しい一冊である。
    (2013年3月了)

  • シミュレーションすると当然、全てのアリが働いている方が仕事量が上がるのだけれど、その中で一定時間仕事が滞るとコロニーが死滅するという条件を加えると、全てのアリが常時働いていない方がコロニーは長く続く。
    例えば蜂は一定の温度で部屋に風を送って、部屋の温度が上がり過ぎないようにいするが、その温度への感度が個体によって異なる(反応閾値という)。それはより柔軟な温度調節を可能にする。
    アリの巣が地下の穴という事は、常に菌やカビに触れているという事になり、卵や幼虫は常に殺菌作用のある唾液で舐めて保護している必要がある。これを一日も怠ると卵は全滅してしまう。
    アリも含め、筋肉で動く生物は働くと乳酸が生じ=疲労する。なので、反応閾値に強弱があった方が仕事が滞らない。
    反応閾値だけでなく、例えば兵隊アリは(大きな顎は大きな餌を切るために使われ、他のアリとは闘わないそうだが)仲間のアリを見ると避ける動きをする。だから、働きアリが巣の中にたくさんいる時に幼虫の世話などをすることができない。だけど、何かの要因で働きアリが少なくなってくると、巣内で働きアリに出会わないので、幼虫の世話などを行うことが観察されている。
    成程!

    ・ちなみに、私たちが最初に「働きアリの2割ほどはずっと働かない」という結果を学会で発表したところ、ある新聞がそれを記事にしました。すると翌日「――働きアリの2割働かず――この研究やった人ヒマだよね」という読者の投稿ジョークが紙面に載り、思わず笑ってしまいました。実際は1日に7~8時間の観察を2ヶ月以上続けるというハードな研究で、観察を担当した1名は疲労から途中で点滴を打ちながら研究をつづけ、血尿まで出したという大変な実験だったからです。

  • アリやハチなどの真社会性(利他・利己者が存在する特殊な社会)生物に焦点を当てて、その特殊な生態を紹介した本。種が全く異なる昆虫と人間においてもその社会性に関してはどことなく共通する部分があり、非常に興味深かった。
    例えば、アリのコロニーには8割の働く働きアリと、2割の働かない働きアリが存在する。これは、2割の働かない働きアリを存在させてある程度余力を残しておくことによって、緊急時に必要に応じてその2割のアリたちが働き出して対処するらしい。ここで、8割の働く働きアリだけで一つのコロニーを作ると、またその中で8:2で働くものと働かないものに分かれるという。
    また、アリは餌を発見するとフェロモンによって巣からの道しるべを残して他のアリもそのフェロモンの道しるべに従い餌場に向かうことができる。しかし、中には道しるべ通りには進まないマヌケなアリも存在する。このマヌケなやつが時に道しるべ通りに進むより短い距離で餌場に到達できる近道をたまたま発見することがある。
    このように一見無駄と思えるものでも結果的には種にとって利益となり得るのである。人でもノイズを全て拒絶するよりある程度受容してバランスを取った方が結果的に上手くいく場合が多いのではないだろうか。昆虫でも人でも利益享受の最大化のためにはそのような「遊び」をもたす余裕が大切なのかもしれない。

  • 詳しくは http://fairylight.jugem.jp/?eid=1208 をご覧下さいね。

  • 蟻や蜂は、巣の中の仕事から始まり、最後に巣の外に出て活動するようになる、しかしそれぞれの閾値があり、頻繁に働く個体と、忙しくなる状況に応じて働くようになる個体があり、それがバッファとなりうまく運営できているらしい。
    その閾値があるため全体の2割の個体は、働かないらしい。
    その働かない個体を除くと、残った中の2割が同じようにかなくなるらしい。
    しかし、みんな一斉に休む事が出来ないと言う制約条件では、その一見無駄に感じる2割が実は大切な役割になるらしい。
    会社の仕事の仕方についても、考えさせられる。

  • アリの生態に興味がなくても十分楽しめます! いつもいつも忙しいと言っている方、ちょっとくらい休んでもあんがい大丈夫です。むしろそれは、世の中に必要なサボりだったりしたり…しなかったり?

  • 人間の目で見てみると残酷に思える行動も、アリなど真社会生物においては、種の保存の為に必要な行動である。
    働かないアリとは、反応閾値の振れ幅の大きさの違いで生じるものであり、この「振れ幅」こそが種を存続するために必要。

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著者プロフィール

進化生物学者、北海道大学大学院准教授

「2022年 『面白くて眠れなくなる進化論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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