水歌通信

  • 左右社
3.50
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本棚登録 : 309
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865283945

作品紹介・あらすじ

ふたりの歌人がお互いの短歌をもとに紡いだ、新感覚の歌物語。

垂直のガラスを蛸があるいてる雨つよくふる都市のどこかに(東直子)

柳の葉は撫でることしかできなくて小川の街でだれを愛すの(くどうれいん)

結婚を打診されるも、かつての恋人の存在が心にひっかかり、素直に喜べないみつき。
同じ街を浮遊しながら思考する謎の存在・ミメイ。
ひとつの街にふたつの意識が浮かび上がり、淡く交信しながら進む物語。

感想・レビュー・書評

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  • 最初は短歌とエッセイのやり取りかと思っていたが、ハギノが度々出てくる頃には違うっぽいぞ……?と気付いた笑
    ハギノ、本人は姿を表さないのになんだか好き勝手言われていた気がする。過去の人ってそうだよなとは思いつつ、ハギノ個人はどんな人なのか気になり始める。

  • 日常を交信するようにはじめた短歌のやり取り。そこからいつしかひとつの街に住むふたりの人間像が浮かび上がってくる。んだって!
    え、そうだったの?本人同士のやりとりだと思っていたがこれはこれで物語だったのか。くどうさんのエッセイのような物語のような文章がとても好きだなと思う。短歌っておもしろい。

  • 短歌の背景を説明する方式ではなく、エッセイにして、表現しているの良かった。
    マッチングアプリの関係性の表現素敵だなあ

    一番最初のページに出てくる、
    不安なときすぐに(人生)と思いたくなるけれど(人生)と思ったところでなにも解決しない。
    という一文、前文は分かる!、後文は辛辣…となって、反省した

  • 短歌や散文に初めて触れることになった一冊。二人の短歌の情景が絶妙にリンクする感覚が楽しかった。

    心に残った箇所
    「櫂として持つ傘とペンどの雨もどの一粒も海へとつづく」
    →傘とペンを櫂と表現し、大きい海、世界へとつながっていることへの緊張や不安が伝わってきた。

  • 短歌とエッセイのセットを交互に。くどうさんは、結婚前提で同棲してる彼のこと、昔好きだったハギノのことをつづり、東さんはいつとは知れず折々の思いをつづっているように見受けられた。「蝶の羽のように重なる桃の果肉するするくずすつめたいパスタ」(東直子)、「長葱とセロリはみ出すレジ袋のわたしのことを見て 撮って いま」「手に入れるのがこわいのに手に入らないのもいやで月がまぶしい」(くどうれいん)が目にとまった歌。◆出会った頃からお互いにうっとりすることをあまり求めていない。◆精神の死と体の死は同時とはかぎらない◆がエッセイの中から気になったところ。

  • 櫂として持つ傘とペン どの雨のどの一粒も海へとつづく

    29歳。この先のことがまったくわからない。自分で選び続けてきた人生であるという自覚がないまま、いつの間にか岸辺の見えない海へ漕ぎ出してしまったような途方うもないきもちになる。わたしはいつから大人になったことになったんだろう。不安なときすぐに(人生)と思いたくなるけれど(人生)と思ったところでなにも解決しない。きょうを、来週を、来月を、ときどきわっと顔を覆いたくなるような不安に駆られながら、これで合っているのかな、と思いながら働いて暮らすほかない。夕方、コーヒーを飲んでいるとつよい雨が降り始めた。外を眺める自分の顔が窓に薄く映って、その顔に水滴がいくつもついて、くっついて、流れた。(p.8)

    4人乗りのうしろ2人が疲れていて右と左の窓を見ている(p.63)

    夏の終わりに夏のはじめのような風どこにも戻るつもりはないな

    考えごとをしている間による担って季節も過ぎていて、救急車も通り過ぎていて、今日は(今日も?)なにもしなかった、なにもしなかったと二度思った。なにかを決めたり、選んだり、頷いたり、否定したり、するようなことはなに一つしなかった。その事実が、沈殿するヨーグルトのようにお腹の底に沈んでいる。なにかを選んでなにかを決定したと思われる関係性の人が目の前を何組も過ぎていった。(pp.70-71)

    変えることにはこんなに暗い自転する星に蒸発する水たまり

    夕方4時20分からの授業の、教室の窓の色の変化を覚えている。季節が変われば光が変わる。この星でしか生きられないわたしたちの短い一生のごくごく短い時間を一時的に切り取って四角い部屋の四角い机の上に両手を乗せていた。四角い黒板と四角い窓に守られて。(pp.91-92)

    読める駅読めない駅をひとつずつ過ぎておおきな森へと向かう(p.138)

  • くどうれいんさんと東直子さんのコラボ作品。

    ふたりの歌人が短歌と散文でつむぐみずみずしい歌物語。
    と本の帯にあります。



    どのパートをどちらが書かれているのか私には全くわかりませんでした。

    みつきという、マッチングアプリで知り合った男性と、同棲して1年になる29歳の女性が主人公です。
    みつきには今の結婚を前提に同棲している恋人の前にハギノという忘れられない恋人がいたのですが…。

    みつきの恋人の
    「おれたちはもう少し、こういう、柿を剥くような時間が必要なのかもしれない」
    という言葉がよかったです。

    恋だと思っていたものが愛になった瞬間をとらえた作品だと思いました。


    <銀の雨にぬれていく人そのひとりの鞄の中の本の栞よ>

    <夏の終わりに夏のはじめのような風どこにも戻るつもりはないな>

    <イギリス人なら気にしない雨だけど 光がにじむ道を歩いた>

    <水たまりを踏んずけ笑う子であれば違う気球に乗れたでしょうか>

    <柿を剥く柿は心底不安なとき手に取ることのない果物だ>

    <愛ならばひかりより言葉がはやくその言葉よりはやいてのひら>

    <読める駅読めない駅をひとつずつ過ぎておおきな森へと向かう>

    • まことさん
      にゃおちぃさん、こんにちは♪

      私は、恋愛系が苦手なので、この作品は、ちょっと苦手な感じでした。なので、星は4つです。
      もう少し待って、図書...
      にゃおちぃさん、こんにちは♪

      私は、恋愛系が苦手なので、この作品は、ちょっと苦手な感じでした。なので、星は4つです。
      もう少し待って、図書館で借りればよかったと思いました。
      2024/01/30
  • 2人の作家が、短歌と散文を、基本的には交互に書いている。
    2人の間の文通のようでもあり、特に関係ないようでもあり。
    散文は短歌の背景説明のようになっている箇所もあれば、少なくとも一見してはあまり関係ないような箇所もある。

    好きなことばたち
    そこでは風は、風であることを忘れてしばらく思考停止をしている
    笛・太鼓・踊りの三手に分かれるとやるせなそうな人たちが笛
    水滴は(…)それぞれが一番しあわせに感じる場所をゆっくり探しながら消えていく
    酒蒸しのあさりの殻を積み上げてほら貝塚だ、ほら、大丈夫

  • とても好みの本だった…話も短歌もイラストも

  • 短歌と散文と時々イラストで交信しながら紡がれた物語。今まで読んだことのない新感覚だけどレトロな感じ。くどうれいんさんは初めてだったので、他の作品も読んでみたい。

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著者プロフィール

歌人・作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身・在住。著書に、第165回芥川賞候補作となった小説『氷柱の声』、エッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』『虎のたましい人魚の涙』『桃を煮るひと』、歌集『水中で口笛』、第72回小学館児童出版文化賞候補作となった絵本『あんまりすてきだったから』などがある。

「2023年 『水歌通信』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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