職業としての小説家 (Switch library)

著者 :
  • スイッチパブリッシング
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884184438

感想・レビュー・書評

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  • 聖母マリアならぬ聖父ハルキといった言葉が頭にうかぶ。誰も傷つけぬよう、私の見解ですとしつこく言うところを見るといっつも言われなき誤解を受けてきたんだろうなぁとちょっとかわいそうになってしまう。

    それぞれ丁寧に噛み砕くように話してくれるのが嬉しい。

    またゆっくり読み返そうと思える本がそばにあるのはとても幸せ。

  • 村上春樹のエッセイ。エッセイなので「私事(わたくしごと)」であるのだが、小説に対する考えなど私事を超えるような赤裸々な小説に対する思いが告白されている。

    MONKEYで連載したエッセイに加筆・修正して単行本として発刊したものだが、もとは連載などを考えて執筆を始めたものではなく、いわば「備忘録」的に書き始めたものらしい。なので、そこに商業的な「受け」を狙った意図はない。すらすら読める。

    印象深い記述は数多くあったが、もっとも残ったのは『多崎つくる~』にまつわる成り立ちのくだり。小説家からそのようなことは聞いたことがあるが、その「現場」を具体的に告白した人は初めてなのではないか。読んでのお楽しみ。

    村上さんの章立てを参考に『職業としての編集者』を備忘録的に書いてみようか…なんて思わせるエッセイ集だ。

  • 「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997 -2011 」ですでに知っている内容も含まれているけど、でも、とても楽しく読んだ。かっこ書きなどで伏線を張りつつ、するりと読ませて納得させられてしまう文体がさすがなのよねー。

    いいなあと思う個所はたくさんあったけど、原発についてのくだりも。ほんとその通りと思った。
    「(略)このような致命的な悲劇の段階にまで推し進められたのは、僕が思うに現行システムの抱える構造的な欠陥のためであり、それが生み出したひずみのためです。システム内における責任の不在であり、判断能力の欠落です。他人の痛みを「想定」することのない、想像力を失った悪しき効率性です。」(P202)
    「想像力の対極にあるもののひとつが「効率」です。(略)今からでも遅くはありません。われわれはそのような「効率」という、短絡した危険な価値観に対抗できる、自由な思考と発想の軸を、個人の中に打ち立てなくてはなりません。そしてその軸を、共同体=コミュニティーへと伸ばしていかなくてはなりません。」(P212)

    小説を書くにあたって、全員の読者を喜ばせるなんて不可能だということで、P253の引用もいいな、と。リック・ネルソンの「ガーデン・パーティー」という歌の歌詞より。

    「もし全員を楽しませられないのなら
    自分で楽しむしかないじゃないか」

    わたしも結婚式の引き出物について考えていたとき、そんなふうに考えることにしました。
    小説を書くのと引き出物選びと一緒にすんなという感じだけど(笑)

  • 私は村上春樹さんの熱狂的なファン、いわゆるところの「ハルキスト」ではありませんが、彼の重要な著作は全て読んでいます。
    本書は、村上春樹さんが小説家としての自分自身と、どのように小説を書くのかを綴った自伝的エッセー集。
    実に、実に、実に面白かったです。
    平易な言葉でどうしたらあのようにまるで音楽のような文章を紡ぎ、独自の(全く独自の)小説世界を立ち上げることができるのだろう。
    恐らく村上作品を読んだほとんどの人が抱く疑問の大半が氷解するでしょう。
    本書で村上さんは云います。
    「僕は思うのですが、小説を書くというのは、あまり頭の切れる人に向いた作業ではないようです」
    と。
    私は、ああ、やっぱり、そうなんだ、と思いました。
    私は下手くそな小説を書いて人生の大事な時間を浪費していますが、自分がもっと頭が良くて何につけ論理的に物事を説明することが出来れば手短に済むのにと思うことがしばしばあります。
    小説という表現形態は実にまどろっこしいものです。
    村上さんはそのあたりを端的に「基本的にはずいぶん『鈍臭い』作業」と書いてます。
    本当に頭のいい人なら、やりませんよね。
    村上さんが初めて小説を書いたエピソードも興味深いものでした。
    村上さんは大卒後、喫茶店を経営して生計を立てていたのはよく知られていることだと思います。
    その頃、神宮球場で広島対ヤクルトの試合を観戦したのだそう。
    1回の裏に高橋(里)が第1球を投げると、ヒルトンはそれをレフトに弾き返して二塁打にしました。
    ぱらぱらぱらとまばらな拍手が起こったその時、村上さんは「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」と思ったのだそうです。
    天啓というやつでしょうか。
    それで何か月かかけて書いたのが「風の歌を聴け」。
    ただ、そうして書き上げたものの、どうも出来栄えが感心しない。
    村上さんはそこでどうしたかというと、いったん英語で書いた自分の文章を日本語に翻訳するというかなり迂回した経路をたどって書き直すという作業に当たりました。
    そうして完成したのが現在の「風の歌を聴け」、群像新人賞を獲得したデビュー作です。
    村上さんの今の文体の原型はこのように出来たのですね。
    もっとも、村上さんはこのせいで「おまえの文章は翻訳調だ」などと、現在も続く批判にさらされることになります。
    思えば、村上さんはデビューからこっち、ずっと文壇(と呼ばれるものがあるかどうか分かりませんが、まあ、守旧派ですね)から批判を受けてきました。
    ただ、村上さんでなければ満足しないファンを着実に獲得していった。
    このあたりの村上さん自身の思いもまた実に興味深いものでした。
    小説家志望者にとって大いに参考になる書ですが、人生指南の書としても読むことが出来ます。
    春樹ファンなら必読でしょう。

  • 理路整然としていてものすっごくわかりやすくて、偉そうじゃなくて、あたたかみもユーモアもある文章がやっぱりすごいとか思った。へえー!とか驚くことはなかったけど、すでに知ってることでもおもしろかった。あとがきにあるように集大成という感じ。

  • 村上春樹が自らの職業である「小説家」について、読者に語りかけるような文体で解説したもの。といっても、小説家一般のことではなく、あくまでも個人的体験としての小説家についての解説である。
    本書は、紀伊国屋が販社を通さずに初版の九割を出版社から直接買い取ったことでも話題となった。それはどうでもよい。発売数日後でもAmazonで普通に買えるし。

    村上さんは、括弧書きで小説家の「資格」という言葉を使う。もちろん小説家になるのに資格試験を受ける必要はない。村上さん自身も、小説とは間口の広いもので、そのためか小説家はこの世界に入ってくる人に対して寛大だという。それでは、小説家の「資格」とは何か。それは、村上さん自身がそう語るように小説を書くことが楽しいことでないといけないということなのかもしれない。書くことは、音楽を演奏するのと似た感覚だという。それを村上さんは「自由でナチュラルな感覚」と呼ぶ。

    小説家の「資格」とともにこの本で書かれているのが、帯でも「自伝的エッセイ」と銘打たれているように小説家となったきっかけやどのように小説を書いているのかなど小説家の「実践」についてつづられている。自身、非常に個人的であると言うだけあって、一般的な小説家とは違っているのかもしれないが、小説家としての実践についてとても自覚的で興味深い。
    もちろん、過去にも何度も紹介されて有名な小説家になることを決めた神宮球場のエピソードにも詳しく触れられている。「「自分は何かしらの特別な力によって、小説を書くチャンスを与えられたのだ」という率直な認識」(p.53)という言葉が印象深い。

    村上さん自身があとがきでも書いているように、本書の内容にはどこかで読んだことがあるような内容も多い。具体的には、『走ることについて語るときに僕の語ること』や『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』などで似たようなことが語られている。人称や固有名などの文体や小説技法のこと、海外での出版売り込みのこと、長編小説は午前中にきっちり十枚程度書き上げること、などがそうである。そういったことが端正にまとめられているが、新しい情報は少なかったかな、というのが正直な印象だ。

    その中でも「第十回 誰のために書くのか」の章にある「著者と読者の間のナチュラルな、自然発生的な「信頼の感覚」」というのは実感がある。村上さんの書くものに対するある種の信頼があり、それが本書も含めて村上さんの書籍は出版されれば読者として常に読むという行為につながっている。村上さんは、小説を書くことは、スロー(低速)で効率の悪い作業だという。言いたいことを表現するのであれば、もっと手短に直接的に言うことが可能だと。それはもちろん読む側にとっても同じだ。また、村上さんが言うような信頼関係を取り結ぶのにも時間がかかる。それでも小説という形を取るのであれば、それは強制ではなく、「ナチュラル」にしか発生しない。そうか、「ナチュラル」であることがテーマであるのかもしれない。


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    紀伊国屋による買い付けはどのような影響を与えたのだろうか。もし仮に買い取りが前提のために地域の本屋さんまで本が行き届かず、結果、在庫があったAmazonから購入するといった行動を読者がすることもあったのかもしれないと思うと、もしかしたら地域の本屋さんでなくネットで本を買うという習慣が作られるきっかけを作ったということになった人もいるのではないだろうか。

  • 村上春樹の作品が好き。
    その小説を書くに至った経緯や、彼の書き進め方、生き方、様々な価値観が集約されていた。
    彼の紡ぐ言葉が好きで好きで堪らない。
    彼の自由な生き方も!
    興味深くて自分が生きていく上で学ぶ要素もあり、村上春樹ファンには是非とも読んで頂きたい。

  • 世界的大小説家の頭の中を赤裸々に公開。小説の書き方を惜しげもなくご教示くださっている。

  • 読み終わった後に何か文章を書きたくなった。

  • 収入の安定していたお店を売却して専業作家になったりアメリカでの出版のために動いたり、村上春樹も要所で大胆な決断してきたのだと知ることが出来た。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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