職業としての小説家 (Switch library)

著者 :
  • スイッチパブリッシング
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884184438

感想・レビュー・書評

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  • 村上春樹のデビュー三作は面白いと思ったけど、そのあとは何が面白いかがわからないまま読み続けていた。でもこの本でなぜ村上春樹が書く小説に惹かれてしまうのか、納得ができた。「走ることについて語るときに僕の語ること」を読んだ時にも感じたことだけど、この本で決定的になった。考えるのはもちろん頭なんだけど、その前にカラダが見たり聞いたり、時には歩いたり触ったり、そして書くというルーティンをすることでものごとが整理されていく。カラダは頭の代わりにせっせと情報取集してくれているわけだ。
    村上春樹の”心の強靭さを維持するためには、その容れ物である体力を増強し、管理維持することが不可欠になります”という言葉にとても共感する。仕事で立ち向かっていく元気をなくしたとき、家庭でのポジションが後退していることに気がついたとき、オイラは走り始めた。カラダが健康になるにつれて、ココロも元気を取り戻し始めた。健康なカラダを維持するための自分なりのルーティンができた。ビックリするくらい、同じことを毎日繰り返すことになる。でも、退屈ではない。これがオイラのココロをいつも元気にする方法だからだ。村上春樹の小説のなかにルーティンをこなす登場人物が出てくることがあるけど、淡々として面白みがなさそうなその姿に好感をもってしまう。健全なカラダで丁寧な生活をすることで、ココロを穏やかに暮らしているんだな、って。だから村上春樹の小説は見かけによらずタフなんだと思う。「気分が良くて何が悪い」「十分に生きる」「健全な野心を失わない」、それぞれ印象的な言葉だ。

  • 一文一文を珠玉のように味わう事ができ、ワクワクするように物語に入り込める数少ない作家が村上春樹だ。小さい頃から彼の文体に馴染み、最近その独特のリズム感を味わう事が減ったのだが、リズム感だけならば、春樹チルドレンと呼ばれるラノベ作家が最近はいるようだ。しかし、村上春樹本人と、チルドレンでは、当然ながらやはり何かが違う。本著は、村上春樹本人による小説論だが、読むと、そのワケがわかるような気がする。

    小説家になったきっかけ。物語を作る時のテクニック論。例えば、できるだけ簡単なフレーズの組合せで短く表現する事。初稿は思うがままに書き上げても、そこから繰り返し何度も手直しする事。手直しする事そのものに価値がある事。書き上げたものを、客観的に見るためにも寝かせる事、定点観測として妻の意見を求める事。環境に左右されないために、外国で執筆に臨むこと。凄い、これはまるで芸術家というより、名文を一つ一つ加工する匠だ。

    そんな作家の日常や職場風景を覗き見る事ができる。春樹好きはもちろん、文筆家志望、ただの本好きにもオススメである。

  • 村上春樹さんの考え方が披露されていて興味深い。随所に本音がたくさんあって面白かった。村上さんの人となり 考え方 がある程度分かりますね♪

  • 村上春樹は評論家に評判が悪いらしい。何を言われているのか知らないが、本人は飄々としているのだと思っていたら、結構気にしているようだ。笑ってしまった。村上春樹も人の子である。そりゃそうか。
    村上春樹の小説の書き方がけっこう詳細に書いてあって、興味深い。ほかの作家がどうやって書いているか知らないから比較のしようがないし、小説家志望のひとが真似をしたら意味があるのかもわからないけれど、ああいうものが、こういう方法で出来上がってくる、というのを知るのは面白い。村上春樹の小説は音楽みたいだな、と思ったことがあったけれど、本人がそういうことを言っていて、やっぱり、と思った。

    ぼくはこの人のものの考え方が好きなんだろうと思う。考えた結論ではなくて、考える過程のほうだ。またこの人の文章が、音楽的な意味で気に入っている。独特のメロディライン。夏目漱石の文章に感じるものに近い(印象は近くない)。小説は面白かったりつまらなかったりするが、今のところ読んで後悔することはない。読んでモチベーションが上がったり、ROIが上昇したりすることもないが、別に構わない。音楽を聞くのと一緒。それで十分だ。

    ふと、この人もしノーベル賞なんか取っちゃったらどうするんだろうと思った。やっぱりテレビで記者会見したり、安倍晋三から電話がかかってきたりするんだろうか? 見たくないような、見たいような。

  • 「職業としての小説家」村上春樹さん著 読了。

    ・日本を代表する世界的な小説家の村上春樹さんによる、「小説を書くこと」に関するエッセイ集。

    ・まず、そもそも「小説家」とは何者なのか、どういう人間なのか、という考察から始まります。
    ・小説家は頭の良い人には向いていない仕事だと述べています。(私は春樹さんはとても頭の良い人だと思いますが…)
    ・なぜかというと、頭の良い人ならわざわざ物語というような回りくどい形式を使わなくても物事を表現できるからだとか。
    ・小説家とは不必要なことをあえて必要とする人種であり、そういった不必要なところや回りくどいところにこそ真実や真理が潜んでおり、それを書くのが小説家の仕事だと。

    ・ところで春樹さんは「文章を書いている」というよりは「音楽を演奏している」という感覚で小説を書いているそうです。
    ・確かに、春樹さんの独特でシンプルな文章を読んでいると、音楽を聴いているような気になりませんか?

    ・文学賞については、何より大事なのは良き読者であり、どのような文学賞も、勲章も、好意的な書評も、実際に本を買ってくれる読者に比べれば、実質的な意味を持たない、と。

    ・オリジナリティーについても深い考察をされているのですが、長くなってしまうので簡潔に説明します。

    ・同時代のオリジナルな表現を現在進行形で評価するのは難しい。
    ・なぜなら、同時代の人の目にはそれが不愉快に見えることも少なくない。
    ・多くの人々は自分に理解できないものを憎む。
    ・特に、既成の表現に浸かり、その中で地歩を築いてきたエスタブリッシュメントにとっては唾棄すべき対象になり得る。それらが自分たちの立っている地盤を突き崩しかねないから。

    ・端的に言うと、オリジナリティーとは、「新鮮で、エネルギーに満ちて、そして間違いなくその人自身のものであること」で、同時代に理解されるとは限らず、時の経過を経て理解され輝く表現も多数ある、と。

    ・小説家を目指す人に対して春樹さんのアドバイスも書いてあります。
    ①本をたくさん読むこと。
    ②目にする事物や事象を子細に観察。
    ③すぐにはものごとの結論を出さず、時間をかけて考える。
    ④健全な野心を失わない。
    ⑤世界はつまらなそうに見えて、多くの魅力的な謎めいた原石に満ちている。それを見出す目を持ち合わせているのが小説家。

    ・もっとご紹介したかったのですが、長くなりすぎてしまうので、そろそろ終わりにします。

    ・この本は、いわば春樹さんの小説を作っている秘伝のレシピを公開している本で、ここまで公開してもいいのかと戸惑うことも多数ありました。
    ・小説家を志す多くの人たちにとって長い間バイブルになることでしょう。

  • 小説家としての考えが余すことなく書かれてるように思う。思ってたよりも正直だし書ききっていて嬉しい。ファン目線だと色んな作品について言及されていて面白いし、仕事に対するありかたに人生の師としても勉強にもなった。私は『走ることについて語るときに僕の語ること』が大好きなのだが、走ることについても少し書かれていたことにも満足した。

    • ぐっちょんさん
      走ることについて語る…に近い感覚ありました
      走ることについて語る…に近い感覚ありました
      2023/01/17
  • 「職業としての小説家」村上春樹。switch 2015初出。

    村上春樹さんは、個人的には1986年頃に(つまり「ノルウェイの森」1987の前夜に)、本屋さんで「風の歌を聴け」をなんの気になしに買って以来の「大好きな小説家」です。当時中学生でした。ただ、なぜだか村上春樹さんの小説を読みたくない時期も10年くらいあったんですけれど。

     この本は村上春樹さんが、ご自分が「職業としての小説家」であるということを主な題材として書いたエッセイ、と言っていいと思います。村上さんがおそらく60代のもの。ある年代以降、こういうのもそこここでマイペースに書かれています。やっぱり基本読みやすくて面白かった。けれど、致し方ないんですが題材がそうである以上、ぶっちゃけていうとどうしても自慢話ぽくなってしまうんですよね。なんにせよ、2015年当時から、村上春樹さんくらい長く(80年代、90年代、00年代、10年代)小説家・文章家として売れて、海外でも読まれている人って、日本史上いなかったですから。しかも明確に「売れそうなものを書いているわけじゃない」という非常に個人主義的なスタンスで。

     実は村上さんのこの手の自分史的な文章は今までもよく読んできたので、目新しい発見というのは無かったんですが、面白かったのは、

    ●創作する人として、最終的には「自己満足」のところで充足するしかないし、そこがあれば良しとするしかないよね、という感覚を明言していること。

    ●団塊の世代、学生運動の世代として、ある種の反骨精神を村上さんは貫けてしまった人なんだなあ、という感覚。別段村上さん自身が激しい学生運動家だったわけではないのでしょうが(わかんないですけど)、精神的に強い反組織、アンチ権威、個人主義、リベラリズム、フロンティア精神、前の世代の大人たちとの距離感、闘争的な理想主義、そして「戦争を知らない子供たち」としての劣等感みたいなもの、そんなものがごちゃごちゃと、明確にあるんだなあ、と思いました。

     なんかその我が道をゆく的な個性とか、でも時代を経る中で自分なりにスタイルが変貌・成長していく感じとか、表現者としてはちょっと「中島みゆき」とか「手塚治虫」とかを感じてしまいました。

  • 【読むきっかけ】
    大学の図書館で目に留まった一冊。なんとなく、小説を書いてみたいと思っていた矢先、小説を書いてみたい人に向けた本は沢山あると思うが、どうせ読むなら日本で最も売れている小説家のものを読みたいと思ったからである。ちなみに、これまでに読んだ村上作品『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『海辺のカフカ』の2作品である。なので、そんなに村上ファンという領域には到底言っておらず、なんとか彼のリズムが分かったという程度である。

    【本書の概要】
    本書に書かれている表現を一部拝借すると、この本は「村上春樹の自伝的エッセイ」であるといえる。小説家という人種の説明に始まり、著者の作品との向きあい方や彼を取り巻く環境、具体的な執筆プロセスから海外での活動経緯に至るまで書かれている。そこには村上春樹を知る上で、そして専業作家としてのあるべき姿勢の1つの答えを知る上で必要なことが載っている。

    【本書の位置付け】
    出版されたのが2015年の9月であるため、長編小説で行くと『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の後に書かれたエッセイである。また、全12章構成であり、7~11章部分が書き下ろし箇所となっている。

    【感想】
    期待を超える内容だった。
    正直に言うと、職業作家とはどのようなメンタリティなのか、どうすれば彼らに近づけるのか。というぐらいのことを知るために手に取ったところではるが、それを超えてプロフェッショナルの有り方や、新たな世界の見方を得ることに繋がった。

    本書明かされた重要な情報の1つに、彼の執筆ルーティーンである。毎朝4時に起きて4時間~5時間程度、原稿用紙10枚と決めて執筆にとりかかっているというものであるが、ここまでの売れっ子が毎日これを守っているということに、並大抵の人ではないことが伺える。私はこのプロフェッショナルに驚愕し、かつその生活に憧れをやはり感じた。

    また、面白い表現の1つに「小説は頭の悪い人達が書いている」というのがった。物事を短い言葉で説明できずかつ要領を得ない人だから創りだせるものがあるのだと。これは誤解を生む表現かもしれないが納得できる。プロセスに美を見出す。結論を書いてもなににもならない。野球のスポーツニュースを結果だけで見たらいいじゃんじゃいというのと同じである。

    この本を参照にした際には、自分が小説家に向いているかどうかをチェックてみよてほしい。{読書家であるか、学校を楽しいと感じなかったか、空想をするのが好きか、結論を保留にする傾向があるか、周りを観察しているか、多くの人と会っているか}これらの質問の答えが「Yes」であれば小説家に向いていると、村上は言う。

    村上が自分のスタイルを英語を用いて確立したというエピソードも面白かった。一度英文で筆を走らせ、その後その文章を日本語に逆翻訳するのだ。一見、非効率で手間に思えるが、そうするこで表現が洗練され他の文章と変わった独自性が生み出されるという。私はこの文章を読みながらある出来事を思い出した。中学の時の美術の先生が、私達生徒に対して「今日は絵を逆さにして描いてみて」と言ったことである。例えば、リンゴの静物画を描くのであれば、へたの部分が自分よりになるように描く、という具合にである。おそらく、この概念と同じ論理なんだろうと私は思った。

    身銭を切ってくれる人の為に書く。
    ここは、本書において私に最も響いた箇所である。村上春樹は自分の本を買ってくれる人にのみ向けて書いているという。多くの人が面白いと感じてくれるかどうかは問題ではない。大切なことは、お金を出してくれる人が面白いと思える内容かどうかだと。

  • 村上春樹の Work ethic を学べる良い本だった。特に、「第六回 時間を味方につける——長編小説を書くこと」という章は、共感の嵐。また別の章では、日本の学校について比較的強めの言葉で語っている。これは新鮮だった。こういう意見はしない方だと思っていた。

  • まるで継承のための本のようにも読めてしまう本です(本人はあくまで自分のために書いているようではあるのですが)。継承しに来る者は拒まず、でも、バトンを取りに来たからには全力が前提条件、みたいな感じです。賞の選考委員をこれまでやらずにきたことに後ろめたさを感じることもあるという村上春樹さんの、選考委員をやることではないかたちでの社会的責任としての態度かもしれません。村上春樹さんご自身をお手本としたり、彼の考える小説家像について、いろいろと「小説家」について見ていく本です。村上春樹さんはかなりの読書家でもあるので、その小説家像には言外にですら含蓄を感じるくらいです。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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