- Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003243831
作品紹介・あらすじ
ドイツ文学者、池内紀さんが逝去―。カフカの翻訳者・紹介者として知られる池内さんの代表作となるのが本作。
実存主義、ユダヤ教、精神分析、―。カフカ(1883‐1924)は様々な視点から論じられてきた。だが、意味を求めて解釈を急ぐ前に作品そのものに目を戻してみよう。難解とされるカフカの文学は何よりもまず、たぐい稀な想像力が生んだ読んで楽しい「現代のお伽噺」なのだ。語りの面白さを十二分にひきだした訳文でおくる短篇集。20篇を収録。
感想・レビュー・書評
-
フランツ・カフカ
チェコを代表する小説家、彼の作品はどこかユーモラスで、孤独感を感じさせる。
発表してきた作品は少ないが、どの作品もとても
素晴らしい世界観を持った作品だと思う。
彼の代表作品「変身」は読んだことがあるのですが、「変身」を読むのは難しくて、ページ数が
少ないわりには、世界観が複雑で、少し難しい
イメージがあったのですが、今作は、短編集なので、違う目線で、それぞれのお話を楽しめたので、とても良かったです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
20世紀プラハの作家フランツ・カフカ(1883-1924)の短篇集、マックス・ブロート版からの翻訳。
□
不可解な物語の意味を読み解こうとして後に残ったのは、意味というものの無意味さの感覚だった。則ち、自分たちの日常が普段依拠しているところの意味なるものが、実はたいした内容物ではなくて、無意味と同じくらい空っぽなものでしかないのではないか、という感覚。意味というのは、無数にある無意味の諸ヴァリエーション(それは言語とその規則の順列組合せだろう)のなかの偶然のひとつ、それ自体のうちには何ら特権的な根拠をもたない偶然のひとつ、でしかないという感覚。意味と無意味の区別自体が無意味なものとなってしまうような、たださまざまな雑多だけがあるというような感覚。
解釈というものが作品の諸要素ならびにそれらの諸関係を世界の既知の諸要素ならびにそれらの諸関係に投影することだとすると、解釈だけでは作品は作品以前に予め与えられている世界の従属物であるということになってしまう。しかし、作品は世界に新たな要素とその関係を付け加えることができるかもしれない、あるいはそうした新たな投影を読み手のなかに芽生えさせることができるかもしれない。作品を読むという行為は、単なる静的な解釈である以前に、ただ言葉の機械的な運用だけに頼っていては沈黙するしかないような、新たな方向に分け入っていくところの体験ではないか。
カフカ作品の意味のわからなさは、日常的な意味以前の、そもそも以前以後というように位相化することができないところの、ある先験的な僕らの前提条件の形式とその規則を、語るのではなく、示そうとしているようにも思われてくる(「橋」「父の気がかり」など)。
□
「あやつは、はたして、死ぬことができるのだろうか? 死ぬものはみな、生きているあいだに目的をもち、だからこそあくせくして、いのちをすりへらす。オドラデクはそうではない。いつの日か私の孫子の代に、糸くずをひきずりながら階段をころげたりしているのではなかろうか? 誰の害になるわけでもなさそうだが、しかし、自分が死んだあともあいつが生きていると思うと、胸をしめつけられるここちがする」(p105「父の気がかり」)。
カフカはこの作品において死後に残される自分の作品をオドラデクに重ねている、という解釈があると知り、なるほどと思った。カフカは自らの死が近づいたとき友人の作家マックス・ブロートに草稿を含めた一切の作品を焼却するように依頼したが、ブロートがその遺言に従わなかった。そのおかげで世界はカフカの作品を知ることになる。カフカは友人が自分の遺言どおりにはしないことを予め知っていたのではないか、とボルヘスは書いているという。これも、なるほどと思わせる。
□
「掟の門」「流刑地にて」「父の気がかり」「雑種」「橋」「夜に」「町の紋章」が特によかった。
なお、田中純『建築のエロティシズム』によると、カフカは1911年にプラハで開かれた建築家アドルフ・ロースの講演「装飾と犯罪」を聴いており、1914年に書かれた「流刑地にて」にはロースの講演の影響が読み取れるという。 -
【判決】
ゲオルグの最大の罪は、真に相手を思いやることができず、常に周囲を見下しているにもかかわらず、自身がそのような側面をもつことを、自分に対してすら偽り、誠実なふりをしていること。
ゲオルグのような偽善的な性質を無意識にもつ人は、わりと自分の周囲にも多くいる。決してそれは好ましいものではないが、とても人間らしくて、程度の差はあれど、誰もが持ち得る感覚であると思うから、「死」という判決はあまりにも重いなと感じた。 -
池内紀さんによるカフカの翻訳。
大学時代に池内教授の授業を受けたことがあるが、穏やかな語り口が印象に残っている。
授業でも取り上げた「流刑地にて」など所収。
話の急展開、ぐらりと地平が歪む感覚、不思議な読後感。
訳者による解説も興味深かった。
短編ばかりなので、原文で読めたら面白かろうと思う。
ドイツ語は赤点スレスレだったので無理ですが。 -
なにこれ、面白い。とにかく読み終わった後の余韻がいい!まさに短編の醍醐味。
表紙にある通り、解釈より感覚にひたりたくなる。
「判決」
タイトルの意味が、最後の方になってやっとわかる。
読んでいるうちに、何が本当の出来事なのかわからなくなってくる。どこまでが彼の中の世界で、どこからが彼の外の世界だったのか。
最後の一文が秀逸。この文を読むと、それまではすべて中の世界だったのでは、とすら思えたり思えなかったり。
「雑種」
本文だけだと3ページ程度の短い作品ながら、とても好き!
「半分は猫、半分は羊という変なやつ」と主人公の男との牧歌的な日常。
ハートフルファンタジーかと思いきや、そこはカフカ。最後の段落でぐっと作品の印象が変わる。
(その文を載せてしまうとつまらないので伏せますが)カフカの他の作品にも通じる異端の悲哀のようなものがふっと感じられて、なんだか切なくなってしまう。
この生物のキメラ的な特性は、精神の分裂を象徴しているという解釈が。言われてみれば納得はできるけれど、そんなことはいいからずっと主人公や近所の子どもたちと幸せに過ごしてほしいな、と思わされる、不思議と愛着のわく「変なやつ」。
「流刑地にて」
正義とはなんなのか。
ただのと言うとなんだけど、ああ恒例の不条理ものかなと思って読んでいくと、自分が確かだと思っていたものがほんの少し揺らぐ。ほんの少し。でも、自分が絶対だと思っているものほど、その「ほんの少し」は大きい。
作中で登場する処刑の機械は、とても残酷なんだけれど、読んでいくほどなぜか荘厳さや美しさを感じてしまう。
機械の針がカフカにとっての「ペン」を象徴している、という考察を読んで、なるほどなと思った。
「父の気がかり」
オドラデクってなんなの!!父って誰なの!!
「夢」
解釈しようとしないで純粋に余韻に浸りたくなる。好きだなぁ。
「夜に」
この感覚は知っている。心の奥深くに共鳴する。
「誰かが目覚めていなくてはならない」
自分は目覚めている人なのか、眠れる軍団なのか。
「中年のひとり者ブルームフェルト」
前後半に場面が分かれている。
前半のめくるめくボールとの攻防が楽しい。「ボールもさるもの」には思わずくすり。
作品を知らない人にとっては何のこっちゃだと思うけれど、ボールとの攻防なのだ。
短編といえば太宰が好きなのですが、カフカの方が好きかも。
前半がすごく良かっただけに、後半の作品があまりピンとこず、テンションが下降してしまったのが残念。
レビュー全文(全作品感想)
https://admin.blog.fc2.com/control.php?mode=control&process=entry -
カフカ寓話集の冒頭に収録されていた皇帝の使者にしても、こうしてカフカ短篇集の最後を飾る万里の長城に収まったこそ、その意図が明確になるのでは、と思ってしまう。やはりカフカは面白い。
-
たぶん池内さんの訳ということで買ったのだろう。本棚に眠っていたのを引っ張り出して読んだ。まあ、解説を読んだだけでも意味はあったかもしれない。「流刑地にて」は機械による死刑執行の様子が事細かに書かれているけれど、最終的には執行人の方が執行台に乗るというかたちで終わっている。何人もの囚人が口にしたフェルトを、将校が意を決して口に入れる。なんともあわれである。夢の中で墓石に自分の名前が刻まれていくという話はどこかで読んだような気がするが、本書自体を前に読んでいたのかもしれない。「掟の門」は「審判」の終盤に登場した話だった。「火夫」もどこかで読んだ覚えがある。こういう話を以前読んだことがある、というかたちで別の小説に登場しているような気がする。村上春樹だっただろうか。パッと調べたくらいでは出てこない。記憶違いかもしれない。「橋」が寝返りを打つ。これはおもしろいけれど、実際にその場にいたら悲惨な結果に終わる。「中年のひとり者ブルームフェルト」に出て来る2人の助手は「城」に出て来る2人と同じような扱いか。前半に出てきた不可思議なボール2つと呼応しているようだ。それにしても、カフカを読んでいると、でそのボールはいったいどうなったのか、というようなことばかりだ。しばらく続けて読んでいるので、もうずいぶん慣れてしまったけれど。さあ、これから文学談議のカフカの回を書こうと思うが、何をどう書き上げていこうか。悩む。はたして小中学生が読んでおもしろいと思うか?
-
カフカという人をあまり知らなかったが、これを読んで恐ろしく頭の切れる、そして神経質な、奥ゆかしい、秘めたがりな感じが窺えた。
「変身」のイメージが大きかったのでとっつきにくかったが(虫が嫌いなので)
でも読んでみると、不思議な感じでとっても好きだった。
んー、え?なんで?
けっきょくなんなん?
みたいな感想が多くある。
これが果たして「喩え」なのか本当によくわからない。
でもたぶん「喩え」なんだろうなと思う。
そういうよくわからないところが秘めたがりな感じなんだ、この人は。
もうちょっとカフカを勉強してみたくなった。 -
だいすき。カフカはちゃんと読めていないので、これをきっかけに読んでみたいなあ、と思った。かの有名な「オドラデク」から、「こま」「人魚の沈黙」「町の紋章」など、短いのがいろいろ入っていて取りかかりやすい。私が強烈に覚えているのは「掟の門」と「雑種」。「掟の門」の終わり方、ものすごく格好いい。カフカはもちろんのこと、訳者も素晴らしいのだろうと心から思う。