相模原障害者殺傷事件 (朝日文庫)

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022620118

作品紹介・あらすじ

2016年7月に神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件。死傷者45人を出した平成最悪の事件はなぜ起きたのか。20年1月から始まり、3月に死刑判決が言い渡され確定した裁判で明らかとなる、加害者の実像に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 2016年7月、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件。死傷者45人を出した平成最悪の事件、加害者・植松聖の実像に迫る。


    相模原障害者殺傷事件のルポルタージュです。
    事件後の面会時の会話から、裁判の開始、判決まで、犯人本人へのインタビューや関係者への取材などから事件の真相、犯人の真実の姿に迫ろうとしているのですが、正直に言って深いところは何もわかりません。
    犯人本人が、上っ面だけ深層について何も語っていないことも大きいんでしょうが、あまり内心を掘り下げるような話が出来ていないのかなと感じました。本当に……日本語を喋っているはずなのに何を言いたいのか全く分からない。宇宙人との会話を見てるみたい。会話をしているはずなのに、会話になっていない。判決が出るまでのどの部分を読んでも、手ごたえがなくて徒労感だけがあります。むしろ理解できない方が良いまであるかもしれない。

    私が通っていた小学校も特別支援学級がありましたし、痴ほうや病気で体が不自由な身内の介護や、介護福祉施設に面会に行ったりすることも結構ありますけど、それが幸せか不幸か、どういう形がいいのかって、当事者じゃない人に勝手に決められたくないな。

  • 朝日新聞取材班『相模原障害者殺傷事件』朝日文庫。

    2016年に相模原市の障害者施設で起きた死傷者45人の大量殺傷事件の犯人の生い立ちと裁判の過程に迫ったノンフィクション。期待を裏切る平凡な作品だった。

    大学を出て、教員免許まで取得している普通の青年が一体何故凶悪犯罪に突っ走ったのか……朝日新聞の取材班が犯人との直接インタビューや多くの知人や関係者への取材、識者の声などで犯人の真実に迫ろうとあがいているだけで、何も見えて来ない。

    本体価格760円
    ★★★

  • 本書は2016年に相模原市で起きた殺傷事件を扱う。書き手は朝日新聞の記者ら。

    被告を悪者にするだけなら、あるいは綺麗事だけ述べて現場が改善されないのなら、意味がないと思う。類似の事件の再発は防げない。

    被告は「楽しそうな人生を送れば、事件は起こさなかった」と語った。

    自分が障害者施設で働いたら、どのような想いを持つだろうか。被告と似通った思想が誘発されないとも断定できない。それが差別感情、優生思想の恐ろしいところだと思う。

    本書の中で「被告が否定したのは人間の、頼り頼られて生きるという性質」という文章が登場する。これは社会学者である最首悟さんの言葉。

    人間の、頼り頼られて生きるという性質

    この言葉に出会えて良かったと思う。この1文に真理が凝集されている。この原則だけは、破ってはいけない。そのように自分の胸に刻みつけた。この言葉こそ、優生思想的な昨今の事件へのアンサーだと思う。

    (書評の全文については、書評ブログの方からどうぞ)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E9%A0%BC%E3%82%8A%E9%A0%BC%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%8F_%E7%9B%B8%E6%A8%A1%E5%8E%9F%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E8%80%85%E6%AE%BA%E5%82%B7%E4%BA%8B%E4%BB%B6_%E6%9C%9D

  •  その事件は2016年7月26日未明に一人の青年が、津久井やまゆり園に刃物等を所持し侵入して、死亡者19名、重軽傷者26名もの戦後最多の殺傷事件を犯した。青年は、元施設職員の植松聖(30)という。同日午前三時過ぎ、津久井警察に自首し逮捕された。
     彼は小学生の頃、一学年下に一人ずつ知的障害者がおり、低学年の時には作文に「障害者はいらない」と記述していた。
    大学の3・4年生ごろ刺青を入れ大麻など薬物を乱用するようになった。
     2016年2月16日、襲撃を示唆する手紙を当時の衆議院議長公邸に提出した。事を重く見た当議長は警察に通報し、身柄を拘束され措置入院をすることになった。
     手紙には何を書かれていたのか?要約すると『私は障害者総勢470名を抹殺することが出来ます(中略)保護者の疲れ切った表情、施設で働いている生気の欠けた瞳、日本国と世界の為と思い、居ても立ってもいられずに本日行動に移した次第であります。私の目標は重複障害者の方が家庭の生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です。要望―逮捕後の監禁は最長2年までとし、その後は自由に人生を送らせてください。美容整形による一般社会への擬態。金銭的支援5億円。』(意味不明!)通報は適切な対処だと思うが、措置入院から解放された同日、医師の証明書をハローワークに提出し、失業給付を受領し、生活保護受給を申請し給付を受けた。☆
     2020年1月8日に初公判。裁判中の模様や、裁判前に記者が被告と面会し、遺族や被害者の口頭陳述で犯行を非難したが、被告の様子に違和感を覚えていた。
     被告が遺族等に対し、謝罪しているが、亡くなった方には、代理弁護士と論争を繰り広げ、被告の論理が破綻しても謝罪には至らず結審した。判決は2020年3月16日死刑宣告、控訴期限は2週間、3月31日死刑確定。
     最後に、僕自身の違和感についてー被告人と代理弁護士の論争の争点が被告人の主張と一致していない。本当の争点は、彼等(重複・重度障害者)が人かということ。被告人は、意思疎通が出来ない人は、人間ではないと言っている。

  • 人間を人間を見なさない、そんな出来事や事件は数多あって。
    けれど、この事件では「自分がそれをしなければならない」いわば正義の代弁者的理由で、多くの人を殺したという点で気になっていた。

    彼の言う「幸せな社会」とは、何を指していたのか、結局最後まで分からなかった気がする。

    始終、「迷惑をかける」ことに敏感だったようだから、誰かが誰かに苦労を強いない、そんな社会を幸せだと言いたかったのだろうか。
    そして、果たして、そうだろうか。

    周りと「言葉が通じなく」なったと書いているけれど、強固な世界観に閉じ、誰の言葉も耳を傾けようとしない彼もまた、彼自身が忌み嫌う意思疎通の出来ない存在に近い、何かだとは言えないか。
    そうした殻の中で、精神的な成長が止まってしまったようにも思うのだ。

    すると彼の掲げる正義とは、現代社会に根差すものなんかではなく、ただの「イタい人」でしかないように思ってしまったのだった。
    敢えて矮小化した言葉を用いたが、そんな物言いをしても事件に取り返しがつくわけではなく、ただ苦しい。

  • 19人を殺害したという行動は明らかに異常だが、その背景となった障害者への差別意識というのは、可能性として誰でも持ちうるもの、社会に確実に潜んでいるものなのではないか、という巻末まとめが本書の肝だと感じた。

    生産性のみを人間存在の価値の基準とし、生産活動すなわち労働ができない重度障害者は価値が低い、もしくは無い。
    生産性が低いイコール仕事ができない、とすると、最近増えているという「職場いじめ」に通底するものを感じる。

  • 沢山の取材を重ねてこの本を作ってくれた人たちには星5なんだけど、あまりにも犯人の動機に同情できなかった……。
    犯人の家庭環境や幼少期のトラウマのようなものが、歪んだ思想を生み出してしまったと思っていたんだけど、そのような影響を感じられないのがめちゃくちゃ怖かった。犯人は自身の信じる「かっこよさ」に捉われていきすぎた優生思想になっていると
    感じたが、この思想は何をきっかけに生じたものなのだろうか…。
    こういう本を読んでいると、育ってきた環境があまりにも辛くて犯人に同情してしまう部分もあるのだが(もちろん犯罪はだめだけど)、ここまで犯人に感情移入できなかったのは初めて。
    被害者遺族への取材部分は読んでいて辛かった。殺されてしまった人たちが、障害の有無に関係なく家族に本当に愛されていたことが伝わってきた。
    犯人には1ミリも同意できなかったけど、読んでるだけで辛い裁判を記事にして、犯人や被害者遺族に取材してくれた筆者ありがとうございます…という気持ち

  • いろんな人がたくさんの人が、取材をしてるし、話をしてるけど、核心をつく、彼をぐらつかせるような質問が誰もできてないと感じた。
    あたりまえすぎる暗黙の了解を、随所できちんと彼にはっきりと言葉にして伝えるべきだったのではと思う。

    自分の気持ちが彼に傾いていきそうな、洗脳されてしまいそうなのを何とか踏みとどまって読んだ。
    どっちがおかしいのかわからなくなってしまう錯覚。
    わたしの中にもある内なる優生思想との闘い。

    いろいろと思うこと、考えさせられることの材料がたくさんあった。
    いくつかある、記者さんのコラムもとてもよかった。

  • 先ずは、このような形で、記録を手にとって読めるようにしてくれたことに敬意を表したい。
    しかし、同時に読めば読むほど、この事件がなぜ起きたのか、植松死刑囚という人物がどのように形成されていったのか、疑問だけが残った。
    気になるのは、両親の存在。
    柳田邦夫氏が「いのち」は生物学的な面だけではなく、『つながるいのち』という視点が重要だ、と言っていたのが印象的だった。この事件は『いのち」の意味について私たちに問うている。

  • 他の大量殺人者などは、家族との関係などが語られるが、家族の話題が全くといっていいほど出てこないのが奇妙だった。自分が思う「カッコよさ」にこだわる被告。ただ単に「自分に都合がいいことだけを見ている人」にしか見えなかった。そしてそれは、大なり小なり誰しも持つものだとも思った。

    そして「日本は大麻合法だっけ?」と思うくらい、大麻が当たり前に語られていたのが驚いた。友達も恋人も親も、なぜ通報しなかったのかしら? 大麻が被告の優生思想をブーストさせていた、と思うのだけど…。

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