- Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101235011
作品紹介・あらすじ
一体のミイラと英語まじりの奇妙なノートを残して、ひとりの老女が餓死した-老女の隠された過去を追って、人の生き方を見つめた「おばあさんが死んだ」、元売春婦たちの養護施設に取材した「棄てられた女たちのユートピア」をはじめ、ルポルタージュ全8編。陽の当たらない場所で人知れず生きる人々や人生の敗残者たちを、ニュージャーナリズムの若き担い手が暖かく描き出す。
感想・レビュー・書評
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沢木耕太郎は何を読んでもハズレがない。孤独死した老人の謎に迫る話、売春婦のための養護施設の話、屑屋の人間模様の話など、社会の日陰に焦点を当て、じっくりと伝えてくれる姿勢が好きだ。際どいトピックが多いが週刊誌的な下世話さはなく、人の声を拾って地道に、誠実に実像を浮かび上がらせていく。
内容は綿密かつ膨大な取材に基づいていると思われ、とにかく人を探しては訪ねて話を聞き、体験できることは何でも自分の体で体験して書くという姿勢が徹底されている。それでいて単なる事実の羅列にはならず、読んでいて引き込まれる。ジャーナリストとしての圧倒的な好奇心と度胸、文章力に感服する一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
社会の片隅の片隅に生きる人々の姿を伝えるルポであった。ミイラと同居し汚物まみれで孤独死した老婆、元娼婦たちの保護施設、日本列島の最南端と北端、資源ゴミをお金に変えて生活する人々、先物取引に見る栄光と挫折、天皇不敬罪で公安警察に追われる人たちの人間模様、憎めない老婆詐欺師とその被害者たち。興味深くて面白くてしんどくて、しんどいけれども多様であり人間味もあり、社会というものは様々な人々を抱えつつ全体として生きているのだなと思った。まだ24歳の生き生きした沢木耕太郎氏の目に映る風景を通して、みんなが色々なところで生きている実感のようなものが伝わって来くる。マスメディアばかり見ていると中央集権的な視点で周縁を切り捨てがちだが、切り捨てた部分からの視点で見渡すとより鮮明に見えてくるものがある。
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圧倒的傑作/ 絶対に読んだ方がいい/ 特に意識に残ったのは
「おばあさんが死んだ」
まるで映画のような兄妹の最期
「視えない共和国」
与那国の雪を見たことのない少女が、クリスマス前に色紙を細かく切っているシーン/ 自給自足でき資源が豊富な独立したシマも、国家に属した途端に最果ての辺境になってしまうという角度のあて方/ そして国家の中央に向いて人が流出していく――本当は独立したシマなのに、国境に最果てにされてしまう
「不敬列伝」
天皇に対してアクションを起こした、不敬罪廃止後の不敬罪を追う/ 「ゆきゆきて、神軍」の奥崎謙三が映画の前であるのに登場して驚く/ ヤマザキ、天皇をピストルで撃て!の叫びに胸を打たれる/ 付き合いのある編集者が独立する際に100万円をポンとくれてやって商売のアドバイスをするくだりには人間の二面性が垣間見えて、泣きそうになる/
こういうノンフィクションをもっと読みたい。 -
陽の当たらない生活を強いられた人々を描いた沢木耕太郎のノンフィクション集。昭和40年代後半という時代の出来事であり、私の生まれる数年前~直前にこのような世界が日本にあったという事実に驚かされる。いや今も存在していて、自分が目を背けているだけなのかもしれない。近づいて肌身で感じたい世界だとは決して思わない。それでも引き込まれてしまうのは、各短編に出てくる人々の生き様が強烈すぎるからだろうか。
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今から50年くらい前の社会を切り取ったルポルタージュが8編。隔世の感がある。
1編目「おばあさんが死んだ」は、亡くなった老婆(といっても72歳)の家の中に転地療養で離れているはずの兄のミイラ化した死体があった。兄が死ぬまで老婆は昔とった杵柄の歯科医の仕事が続けられているふりをしていたが実はとっくに職はなく、先細りの生活を続けていたというもの。現代にあってはこういうケースをときどき見聞きするけれど、当時としてはある種、衝撃的な事件だったのだろうか。よくあることだからいいってわけではないが、やや感傷的に過ぎる気もした。
2編目は数年前に訪ねてみようとした「かにた婦人の村」を取り上げている。虐げられた女性たちの安住の場をつくろうというのは立派だが、男たちの上から目線が気になった。
3編目「見えない共和国」は日本の南の果てを、4編目「ロシアを望む岬」は北の果てを訪ねたもの。どちらも大変だけど、逆に現地ならではの国境がないような交流があったりとあっけらかんとした実像がうかがえたりもする。このあたり、現代はどうなんだろう。
5編目「屑の世界」はその名のとおり屑・廃品扱いの世界に飛び込んでのもの。6編目「鼠たちの祭」は相場師たちの姿を追うもの。このあたりは50年もたてば業界の世界など様変わりして、とてもじゃないけど本書で描かれるようなある意味、牧歌的なアナログな世界は消え失せていることだろう。
7編目「不敬列伝」は、戦後に天皇への不敬的な行為で話題になった人たちを追ったもの。一時の思想にかぶれてその後の人生にケチがついて回っている感じの人が多い気がして、世間の怖さを感じた。
8編目「鏡の調書」はちょっとした滑稽譚。流れ者のばあさんが街の人から広く浅くお金をいただいてしまう話。
これらを書いていた頃は沢木耕太郎も20代。自分の気の向いた話題のところへ行き、すると何らか取材を受けてくれるような糸口ができ、1編のルポルタージュができ上がるという感じだろうが、世知辛く個人情報を大切にする現代ではなかなか難しいことだろう。 -
一行目:ひとりの老女が死んだ。
短編集。「屑の世界」「鼠たちの祭」「不敬列伝」あたりが面白かった。
批評できるほど著者の本を読めていないけど、旅ものよりは、その3つあたりが面白く読める。
で、「視えない共和国」に違和感があったのだが、途中で、沢木耕太郎って東京周辺の出身では?と思い至った。
著者自身に「自分もそうなるかもしれない」とか「自分もそうだったかもしれない」という視点がなさそうなので、地方の話に当てはめたときに、都会者が単純に好奇心でものを見るような、そんな感覚を味わったのだ。
もちろん、ルポライター(とご自身で書かれている)としてはあえて題材を「他人事」と見ているのかもしれないが。
今回印象的だったのは以下。
「漁民は信仰深いという。それも当然だ、とその時のぼくには思えた。この荒々しい自然の前で、どうしてぼくら人間がなにものかでありえようか。」
「《〜女王陛下の行列に向かって、野卑なことをいう人も出てくる。〜イギリス人はかなりきつく罰します。理由は、彼はいくらでも「馬鹿野郎!」と叫びつづけられるけど、パレードの中から女王陛下が「馬鹿野郎!」といい返すことは絶対できないじゃありませんか。フェアーじゃない、というのです》」
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先日、『ある行旅死亡者の物語』を読み終わって思い出した。
そういえば、沢木さんのルポに似たような作品があったな、と。
本棚を探しまくって発掘したのが本書である。冒頭に収められ
ているルポのタイトルは「おばあさんが死んだ」だ。
おばあさんの死は全国紙に掲載された。栄養失調と老衰で
貸家で亡くなったおばあさんだが、その家にはもう一体、
ミイラ化した遺体があった。
遺体はおばあさんの実の兄だった。何故、ふたりは孤独に
亡くなったのか。おばあさんの過去を遡る過程をまとめたルポだ。
40年以上前のルポだが、現在でもひっそりと孤独死する人たちにも
それぞれの軌跡があるんだよな、と改めて考えさせられた。
そして、本書に収録されている「棄てられた女たちのユートピア」
で取り上げられている「かにた婦人の村」は、発足当初は一般社会で
の生活が困難な元売春婦たちの為の施設であったが、現在は性被害
や暴力被害に遭った女性たちの安住の地になっている。
「屑の世界」は実際に建場で働いた著者が見聞きしたルポである。
この作品を読むと。名作『チリ交列伝』を再読したくなるとの
誘惑に駆られる。やべぇ、読書の蟻地獄だぜぃ。
最終章「鏡の調書」も興味深い。自分を大金持ちだと思わせて
詐欺を働いた老女の話なのだが、こういう人はネットにもいる
よね。「自分は銀座に店を持っている」とか言っちゃって、
札束を積んだ拾い画を「証拠だ」と言い張る人。嘘はばれます。
収録されている8作品はどれも昭和の時代に書かれたものだ。
時代背景が違うから、その時代を知らない世代には違和感が
あるだろうが、私はすんなり再読できた。ま、ばあさんで
あるということだな。
それはともかく、やっぱり沢木さんの視線は温かいんだな。
切なくて、それでもじんわりと胸の奥に浸みる作品ばかりだ。 -
知ることがなかった世界
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「沢木耕太郎」のルポルタージュ『人の砂漠』を読みました。
『王の闇』に続き、「沢木耕太郎」のノンフィクション作品です。
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一体のミイラと英語まじりの奇妙なノートを残して、ひとりの老女が餓死した―老女の隠された過去を追って、人の生き方を見つめた『おばあさんが死んだ』、元売春婦たちの養護施設に取材した『棄てられた女たちのユートピア』をはじめ、ルポルタージュ全8編。
陽の当たらない場所で人知れず生きる人々や人生の敗残者たちを、ニュージャーナリズムの若き担い手が暖かく描き出す。
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20代だった「沢木耕太郎」が窮乏者、元売春婦、辺境の孤島に住む人々、鉄くずの仕切り屋、革命家、詐欺師等、社会の影と思われている位置する人々にスポットを当て、綿密な取材を行ったうえで作品化した八篇が収録されています。
■おばあさんが死んだ
■棄てられた女たちのユートピア
■視えない共和国
■ロシアを望む岬
■屑の世界
■鼠たちの祭り
■不敬列伝
■鏡の調書
同じ日本に生きていても、人の生き方って、環境や地域、職種等の様々な要素や条件によって多様なんだなぁ… と、当たり前のことを改めて感じさせられた作品でした。
最も印象に残ったのは、最初と最後を飾る作品で、いずれも孤独な老女を描いた『おばあさんが死んだ』と『鏡の調書』。
ミイラ化した兄「敏勝」の遺体と供に社会から隔絶した状態で暮らしていた『おばあさんが死んだ』の「佐藤千代」、岡山市奉還町の人々を三年間もの期間≪銀座の百万長者≫として信じ込ませ、十数人もの相手から六百万円もの詐欺を働いた八十三歳の詐欺師「片桐つるえ(滝本キヨ)」。
両者とも気位が高く、社会に頼らず自分の力で生きていこうとする姿勢や、頼る者がなく社会的に孤立しているところが共通していました。
もっと早い段階で、周囲がなんとかできなかったのかなぁ… という思いと、自分が当事者だったら積極的に関与することは避けようとしたのかなぁ・・・ という全く逆な思いとの間で葛藤しながら読みました。
これから高齢化社会がどんどん進展していく中で、このような不幸な事件が再発しないことを祈るばかりですね。
そして、日本の南の果て与那国島を描いた『視えない共和国』と、北方領土を望む街、根室を描いた『ロシアを望む岬』は、実際にその地に行ってみたくなるような作品でした。
南の島って、昔から、なんだか憧れる部分があり、『視えない共和国』の舞台となっている与那国島については、行くだけでなく、実際に住んでみたい感じがしましたね。
『ロシアを望む岬』の舞台となっている根室は、当時(約30年前)とは状況が変わっているのかもしれませんが、北方領土返還に関する根室漁民の切実な思い(利権に関する実態)を考えると、複雑な思いになりました。
売春婦の養護施設「かにた婦人の村」を描いた『棄てられた女たちのユートピア』と江戸川の瑞江にある仕切場(建場)の親方と曳子を描いた『屑の世界』も忘れられない作品になりそう。
身近に存在しているはずなんだけど、自分の知らない生活(ある意味、知っているけど目を背けている世界)の一端を垣間見ることのできた作品でした。
それらの作品に比べ、穀物相場に人生を賭ける男たちを描いた『鼠たちの祭り』や、天皇への不敬行為を働いた人物を追った『不敬列伝』については、興味の薄い分野だったので、あまり印象に残らなかったですが、登場する人々の生き方について、色々と考えさせられました。
本当に人の生き方や考え方って多様ですよね。
ステレオタイプな考えや観念に捕らわれず、善悪の区別はしつつ、人それぞれの生きかたや考え方を尊重したり、共感できるようになりたいなぁ。
本作品を読むまで全く知らなかったのですが、、、
本作品に収録されている『おばあさんが死んだ』、『棄てられた女たちのユートピア』、『屑の世界』、『鏡の調書』を原作とした映画が、現在公開中らしいです。
この世界観を映像化するのは難しいと思うし、映像化された時点でフィクションになっているような気がするし、観たいような、観たくないような複雑な心境です。