裏庭 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 7964
感想 : 805
  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253312

作品紹介・あらすじ

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた-教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。

感想・レビュー・書評

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  • 率直に感動した。大作だった。
    己の傷と対峙することのどれほど険しく難しいことか。傷との融合の話でもあったのかと思う。印象に残る文が多くて、それぞれの箇所について感想を言い合いたくなる。
    日本の家庭って、家に庭って書くんだね。その庭をどう手入れし育み作り上げていくかは庭師次第なのだと。
    エピローグ後の展開も気になるけど、それはそれぞれ私たちの中でまた育てていくものなんだろう。
    最後に河合隼雄氏の解説があるのもよき。

  • いまお医者さんのはしごをしていて「閉鎖病棟」は待合室で読むのにちょっとためらわれたので持ってたこれをちょっとだけ、と思ったらとっても読みやすくて止まらない。ドキドキな世界観。ナルニアと昭和がそこに。併読しようと思います。

    梨木香歩さんデビューしました。
    6年前、双子の弟、純くんを亡くした照美ちゃんという女の子が主人公。日本にある英国人が昔住んでいたバーンズ屋敷という古いお屋敷が主な舞台です。石垣の穴を潜り抜けて忍び込む裏庭は、何世代もの子どもたちの密かな楽園。
    実はここにある大鏡は異世界のドア。
    照美は、テルミーとしてここで大冒険を繰り広げます。
    そのなかで彼女はたくさんの出会いと経験と試練を繰り返して成長してゆきます。
    スナッフ・キン、テナシ(コロウブ)、レベッカ、妙さん、ハシヒメ、ソレデ、カラダ、ハイボウ、キリスゲ、ビャクシン、タムリン、音読みの婆
    3人の音読みの婆の
    傷を恐れるな
    傷に支配されるな
    傷はそだてていかねばならない
    そこからしか自分は生まれない が好きです。

    このお屋敷の持ち主バーンズさんたちは日本に親しい人々と親交を持ったけど、戦争で母国に帰国。お屋敷はそのままで残り、照美のおばあちゃんと親しかったバーンズ家の少女、レイチェルは、孫世代が彼女たちとおなじ年頃になるころ、再び日本に戻ってきて数人と再会を果たします。
    レイチェルと家政婦マーサ・レイノルズさんとの会話の
    115ページから117ページが軸なんじゃないかなぁって思いました。家庭は家の庭と書く。裏庭なんて言葉が大嫌いなマーサ。どんな庭も大切な庭。裏なんて表現は許せない。そんなふたりがとてもステキ。

    年端もいかない女の子の照美に知恵遅れの弟の純のことを任せきりで仕事に没頭する両親。その母にずっと厳しくあたり続けた祖母。庭は何世代もの長い時間を経てできあがってゆくものだといいますが、家や人もまたそうだと思わずにはいられません。長い時間を経て環境が生むものは大きそうです。
    純の死に後悔する照美ですが、純を守る方法がなにかあったのではないかと思ってしまいます。読んでいると、庭師の不在が招いた不幸だともいえるかもしれない、と。パパは純と照美が庭に入ってゆくところを偶然目撃していたし、もう少し照美達という「家の庭」をみつめてほしかった。照美ばかりが罪を背負うには、幼なすぎる。
    子どもたちを優しく、日本の庭のように、理想的な混沌のなかで見守ってあげてほしいという大人への願いと、厳しい世界のなかでも子どもたちが逞しく優しく育ってほしいという願いを感じます。
    綾子ちゃんのおじいちゃんのジョージさんの10ページのお部屋がとても好き。懐かしい昭和の匂い。

  • 梨木さんの本はこれで三冊目。
    まるで壮大なアニメを観るような感覚で読み終えました。
    作品の肩書きは「1995年第一回児童文学ファンタジー大賞受賞作」。
    主人公は思春期の少女、照美。
    タイトルの「裏庭」とは、照美の家の近所にある、かつて英国人一家の別荘だった洋館の遊び場のこと。
    同時に彼女自身の内面をあらわします。

    双子の弟「純」を亡くしてから、両親との間の溝を乗り越えられない照美。
    友人の祖父から聞いた近所の屋敷の「裏庭」にある日入り込み、不思議な鏡の声を聞いて「裏庭」への長い旅に。
    それは照美自身の内面への旅でもあると読者も知らされていくのです。

    まるでRPGのような照美の冒険と、「裏庭」に関わる現実の人々との話は並行して進んでいきます。途中に織り込まれる幾多のメッセージが照美を目覚めさせ、読み手の心も大きく揺さぶられます。

    一貫して流れるのは「家族の再生」というテーマ。
    悲しみにはきちんと向き合って泣かなければならない、大切な家族には「あなたが大切だ」と態度でしめさなければいけない、そんな当たり前の事を知るための、照美の旅の辛さには思わずエールを送りたくなってきます。
    家族に対して感じている遠慮や諦め、何となく埋まらない溝。
    それらをうやむやにせず言葉で表現する本作品は、特に若い方にお薦め。

    当たり前な家族のあり方が出来なくなっている大人にもお薦め。
    導入部でワクワクさせ、途中では心のストライクゾーンに何度もヒットを打ち込まれ、最後まで読むと暖かい気持ちになる、さすが梨木さん。
    展開のドラマティックさと、色彩感の豊かさとは、アニメ化しても良さそうな気がしますが、読まれた方はどう思われますか?

    今日は体調がすぐれなくて寝ていたのですが、そのおかげで本作品を読み終えました。風邪に感謝。

  • 一日中のんびりと本を読みました。梨木香歩「裏庭」です。児童文学ファンタジー賞を受賞した作品です。大作という感じで読み込むのにかなり力が必要でした。ファンタジーの部分が多く、この前に読んだ「西の魔女が死んだ」の方がシンプル(一つ一つの心情などはすごく深いですが)で素直に心の中に入ってきました。

  • 穏やかそうな装画から受ける印象に反して、とても壮大なファンタジーだった。
    家族との関係性が希薄で孤独を感じている小学生の照美が、打ち捨てられた洋館の裏庭に迷い込んで、冒険しながら自分自身や様々なつながりを取り戻す話。
    図書館ではティーンズ文庫のコーナーにあったけど、大人でも結構難し目の話で、読みながら現実と対比させて考えることが沢山あった。

  • 私にとって世界観に違和がない作品。のみならず変化や導きを感じる作品。誘導される際の抵抗感は全然ない。きれいな丸みを帯びた、すべすべした鉱物を一個ずつ世界に配置したら、こんな物語になる気がする。それを一個ずつ指先で押さえるような嬉しさ。ときに拾い上げて掌に収めるときの安堵感。いつの間にか、私にとっての地図を広げている。

    石の持つ、硬さ。清潔さ。冷ややかさ。沈黙。

    それなのに、描写は木々や花々を追う。土くれ。そして風の感触。水辺も。ときに火が上がる。

    そのときに、その炎がどれほどのものか、水の決壊がどれほどのものかと、なぜかその感情が真に伝わってくるようだ。

    石、という自分の本質を横に一度置いてでも、この世界の鮮やかさを語りたいと願うその切実さに息を飲む。それほどの献身に胸が震える。母だ。物語を産む母なのだと思う。この子のためなら、と宝を差し出す母。

    母は何を差し出すか。梨木香歩が、母が、母を語る。祖母から母へ。その母から娘へ。贈り物の内容を語る。

    贈り物は「私は誰?」という問への「教えよう、君に」という応答だった。物語のはそもそもの始まりは、主人公である孫娘に祖母が授けた名前。照美。「Tell me」なのだ。

    祖母が最後に渡そうとする物は、磨き上げられた鉱物。たくさんの研磨を、傷を受け入れて輝く魂。「こんなにきれいに仕上げてくれた」と祖母が主人公に労いのことばをかける。
    美しい抽象化を書き綴る、その淡々とした調子に不思議なほど冷静な私がいた。でも、やっぱり「これはママへ」は衝撃だった。がつんと後頭部を殴られたような驚きだった。梨木香歩はすごい。絶対ニヒリズムに屈しない。素朴な感情の愛しさをこんな風に書いてしまうのか。すべてを兼ね備えた直球。ここでも鮮やかなコントラストが際立っている。

    確かに、戦争を始めようと決めた人間は、宣戦布告の当事者は、民間人にはいないだろう。でも、名指しはされないはずなのに、当事者だって「自分じゃない」と言いかねないというのに、戦争は私たちの中でこそ起きた。起きている。戦争で犠牲になった祖母とレベッカの女性性は浄化の道を歩み始めた。両国の女性性が共に、その道を。

    舞台となる町を覆い尽くした大空襲の炎の因縁さえ、レベッカの裏庭で、クオーツアスの炎が制していく。

    子孫は、生命の更新として、生まれたとき何もない地平に立たされるようだけれど、やっぱり幽霊たちは期待している。願いを込めている。そしてそのために生まれたいと思う子供たちもいる。照美は裏庭から帰ってから悟る。誰の役に立たなくても、もういいんだ、と。だけど、それは照美が課題をこなしたからだ。

    誰かを助けるために得た、銀色の両腕。彼女は裏庭でそれを見た。

    その課題は、誰の役にも、の誰、が誰なのか。他人と自分の境界線を見極める力を得ること。そのあるようで、ないような境目、を知ること。

  • 読み始めて5ページで「この話好きかも!」と思った
    。一人の女の子が古鏡から裏庭に迷い混むお話。『鏡の国のアリス』のような『オズの魔法使い』のようなファンタジー。梨木さんの世界観は好きだ。
    人は心の中に裏庭を持っている。裏庭を育てるにはエネルギーが必要で、時には傷付く事もあるけれど、それを恐れてはいけない。支配されてはいけない。大事に育んでいく。裏庭って結局、自分自身(人生)なのかなと思った。

  • こどもでも読める平易な文章で、こんなにも深い世界を描いてしまう梨木香歩さんに驚いた1冊。

    双子の姉として生まれた照美に象徴されるように、表と裏、現実と異世界、傷つけられる私と傷つける私、というふうに、「ふたつの相反するもの」がモチーフになっていて、ストーリーに巻き込まれながらも、作中の「ふたつのもの探し」に夢中になってしまった。。。

    この本をきっかけに、本棚に一気に梨木さん作品がふえたという、大切な1冊です。

    • まろんさん
      ふふ(*'-')♪
      だってtorachanさんと私は、パラレルワールドでは隣のクラスで、同じ本を手にとってハッ!とするはずだった二人だし!
      ...
      ふふ(*'-')♪
      だってtorachanさんと私は、パラレルワールドでは隣のクラスで、同じ本を手にとってハッ!とするはずだった二人だし!

      私もtorachanさんのオススメ本とかが気になって、本の在庫が加速度的に増えてるから、おあいこってことで(*^_^*)
      2012/05/11
  • この愛すべきファンタジィの感想を、未だ書いていなかったことに驚いている。梨木香歩さんの本は、どれも「しみじみと」沁みるけれど、この「裏庭」も私たちの感性(普段意識しないかもしれないけれど、確かに体が感じているもの)と地続きに感じられる。届きそうで届かない、或いは取りこぼしている物語をひたひたと寄せてくるのだと思う。その水は(私の鼻には)淡水のにおいがする。
    絡み合って行く、いくたりものひと。ひとが持つ記憶ーー物語。テルミィが餓鬼をゆるすシーン(と、その餓鬼の正体がわかるところ)がいちばん、父さんが泣くシーンが次点で好き。もちろん、そこまで運ばれてくる重層の織りなしがあってこそ、だけれど。ああ。感想をしたためていたら、私も私のファンタジィを書きたくなった。

  • 小さい頃は単なるファンタジーとして読んだけど、再読したらいろいろ分かって大人になったな、と冷静な気持ちで読めたのが感慨深かった。

    自分の心が傷を持っていることを自覚しないとその傷を自分のものにすることはできない。認めて次に進むこともできない。
    傷ついていることをごまかして、見せかけの癒しに頼ったり、向き合わずに他の人に同調して自分の正直な気持ちを失って生きていくのでは解決にならない。
    大人になったって傷つくことはあるし、悲しかったら泣いてもいい。その経験も含めて自分は自分なんだと、堂々と生きて行ったらいい。
    悲しいことに直面したときに認めるのは難しいけど、傷ついていないふりをしていると、楽しいことにも鈍感になってしまう。喜怒哀楽を感じられる、そのうえで自分をコントロールできる大人でいたいと思う。

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著者プロフィール

梨木香歩 1959年生まれ。作家。小説に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』、『丹生都比売 梨木香歩作品集』(共に新潮社)、『家守奇譚』(新潮文庫)、『海うそ』(岩波書店)、『椿宿の辺りに』(朝日新聞出版)など。エッセイに『ほんとうのリーダーのみつけかた』(岩波書店)、『炉辺の風おと』(毎日新聞出版)など。児童文学作品に『岸辺のヤービ』(福音館書店)などがある。

「2021年 『草木鳥鳥文様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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