- Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309409719
感想・レビュー・書評
-
会話がとにかく面白かったです。
「説明でなく場面の描写」を意図したという著者の構想ノートのとおり、ワンシーンが映画の長回しのようにじっくり描かれています。印象的なアイテムを登場させるところも、映像的に感じました。
とても現代的な感覚だと思ったのが、兄二人に従兄弟と妹、故郷の祖母という家庭や、隣家は女二人暮らしの家庭を描いていたこと。
どこかおままごとみたいな生活と青春と失恋の憂い。
印象的なバランスで編まれた小説でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
近代文学でこんな"愛らしい"小説に出会えるとは思いもよらず、文庫本を手ににやけてしまいます。
吉本ばななとか少女まんがに近い世界でしょうか?(少女まんがあまり知りませんが)
こういう名作はいつも目に見える場所に飾っておきたい
-
古くからのファンタジィ小説が、資料と小道具をよく織り込むことにも似て、正常の枠から外れたところにある「ひとつの世界」を構築していると感じた。ピアノの「ラ」の高音を叩き続けているような、それをただ聞いているような感覚と、なま温かく奇妙な感覚の同居と調和。
-
「第七官界ってどんな世界だ? 」
ひょんなことから、兄2人従兄弟1人が暮らす男所帯に炊事係として同居することになった小野町子。人間の既成の感覚外である第七官に響く詩を書きたいと願う少女の奇妙な生活とは…。
著者自身が「彼等は結局性格に於ける同族者で、被害妄想に陥り易くて、いたって押しの強くない人物どもです。」と語っているようにヒロイン小野町子を含む4人の家族がクセ者である。
長兄小野一助は分裂心理の患者を診る病院に勤め、次兄ニ助は自室を肥やしの匂いが充満する大根畑にして、苔の恋愛を成就させることによって新種を生み出す研究に没頭している。従兄弟の佐田三五郎は音楽の勉強をしているのだが、それもどれほど真剣にしているのかは怪しい限り。彼等の間で彼等の言われるがままに、生活する町子も何かフワフワしていていまひとつとらえどころがない少女である。
ストーリー的には特に大きな事件が起こるというわけではなく、彼等の日々のやりとりを淡々と描いていくのだが、これだけ癖のある家族の日常はそれを綴っていくだけで、その家族独特の世界が現れてくるから不思議だ。
第七官界ってどんな世界だ?
この至って現代的でライトノベルやファンタジーを想像させる(またこの河出文庫版の装丁がソレっぽい)タイトルから、おそらくそういう興味を持って本書を手にする人も多いと思う。町子に言わせれば第七官とは「私は仰向いて空をながめているのに、私の心理は俯向いて井戸をのぞいている感じ」ということらしい。
だが、実際読んでみて思う。余人をもって代えがたい似た者同士の家族たちの醸し出すこの空気感こそが第七官界なんじゃなかろうかと。そうしてこの世界を彷徨したのは他ならぬ私自身だったとも言える。 -
タイトルに惹かれてずっと気になっていたのですが、やっと読みました~。
何についての話なのか、結局何が言いたかったのか(オチは何だったのか)、聞かれたらとてもうまく答えられない、靄のようなお話でした。
それこそ第七官で感じるような…。
第七官界がどういったものかは書かれていませんが、髪を切ってもらっているときに町子が感じた『霧のようなひとつの世界に住んでいた』感覚が近いのかなあと何となく思いました。
三五郎のセリフ「女の子というものは感情を無駄づかいして困る」というのが気に入りました。 -
女の子という二人称が不思議で私の名前を忘れる。
-
いま読んでも新鮮な感覚、魅力的な文体。これが昭和モダニズムの瑞々しさというものなのだろうか。読みながらこれを筆写していたいという奇妙な感覚に襲われた。またこの文庫に収録された「「第七官界彷徨」の構図その他」も実に興味深い。著者自身によるプロダクションノートなわけだが、映画の絵コンテのようにして小説を練り上げていくという方法は実に面白い。小説の技法論。
-
『尾崎翠全集』の付属の栞の中野翠のエッセイが良いので引用。「尾崎翠を知ってしまったのは、幸運だったか不運だったかわからない。これでいい、これさえあればいいと思ってしまった。私は小説というものに対していろいろなものを求めているけれど、最も切実に……独房の囚人がどんなに小さくともいい、空が見られる窓をほしがるように、切実に求めているのはこれだと思ってしまった。(中略)尾崎翠は取り憑く。心を奪う。魂を魅入らせる。それも晴朗な空のように。『永遠が見える』という言葉を信じさせるような青い、澄み切った空のように。」