- Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309409719
感想・レビュー・書評
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「失恋とは、おお、こんな偉力を人間にはたらきかけるものであろうか。(中略)そして私には、失恋というものが一方ならず尊いもののに思われたのである」(本文 p96)
「第七官界彷徨」という表題のセンス…! そして表題に劣らぬ不思議な魅力を放つ登場人物や、町子の目を通して見る「変な家庭」のお話です。さほど長い話でもなく、すっとこの独特な世界を「彷徨」する感覚は癖になります。分裂心理学、苔、こやし、ぼろピアノ、ボヘミアンネクタイ、蜜柑の垣根……表紙を見ただけでも浮かんでくるこれらのモチーフとにおい、一助や二助の会話……やっぱり惹き付けられますね、しばらく離れなそうです、まるでこやしの臭いみたいに(笑)。こやしの臭いがここまでしっくりくる作品も、そうないでしょうね。もちろん、いい意味で。
それにしても、髪を切られてしまったことに泣いて、男たちを辟易させる町子ちゃん、いいですねぇ。ちょっぴり『甘い蜜の部屋』のモイラちゃんを思い出します。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
森見登美彦や三浦しをんが「おもしろい!」と書いていたのを見て手に取った。
物語の筋を楽しむというよりも、読んでいるときのふわふわした感覚がおもしろい。
そしてなによりタイトルがよい。
SF作品でも使えそうなタイトルだよなぁ。
夢野久作や江戸川乱歩あたりがこのタイトルで作品を書いていたら、なんだかとんでもないストーリーが生まれそうだなぁ、なんてことも思った。
読み返すたびに、味が出そうな一冊。 -
記録
好きな作品。 -
内容はわりとシンプル。人間の五官と第六感を超えた感覚に響く詩を書くことを目指す私(小野町子)、兄の精神科医一助、肥料研究をする学生の二助、いとこで浪人生の佐田三五郎、4人が暮らす家庭が書かれる。みんな恋愛に悩んでおり、それぞれの悲しみを抱えている。最後のふっと書かれる恋愛がシンプルにも関わらず、なんだかよかった。
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尾崎翠 「 第七官界彷徨 」
恋愛小説や滑稽小説として読んでも 意味が全くわからないが、ドッペルゲンガーとして読むと かなり怖い
*この小説は 自殺した少女の霊(もしくはドッペルゲンガー)が 現世を彷徨う物語なのでは?
*主人公の小野町子は 柳氏が好きな詩人の霊(もしくはドッペルゲンガー)なのでは?
*第七官の世界は 死と再生を繰り返す場所、現世と来世を行き来する場所なのでは?
*序盤と終盤で「くびまき」がライトモチーフになっているのは、首吊り自殺を意味するのでは?
*中心モチーフとなっている「肥やし」は 死もしくは再生のための土、「苔」は 生や再生そのものを意味するのでは?
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精神病院に通う一助。
漂う二助の研究するこやしの匂い。
そして音のずれた三五郎の歌にピアノ。
ユーモラスで少々妙ちくりんな生活は、わびしいような悲哀込み。
ちょっとレトロな世界の中、表現の仕方に自由さと謙虚さを感じた。
それなりに健気でまっしぐら人たち。甘酸っぱかった。青春だなぁ。 -
「吹くな風こころ因幡にかへる夜は山川とほき母おもふ夜は」
という短歌で知って心打たれ、気になっていた尾崎翠作品。
しかし小説はとっても瑞々しくてキュートでヘンテコで、いい意味で期待を裏切られとても嬉しくなった。
やまもり三香先生に漫画化してほしいな〜。久米田康治先生の作画でもいいな〜。
有頂天家族が好きな人は好きだと思う!
私は大好きでした。
詩人志望の赤毛の少女、町子が随時係としてやってきた家に住むのは
真面目な精神科医、一助。
ツンデレ?薬学部生、二助。
ヘタレ音大予備校生、三五郎。
4人はそれぞれ片想い中。
この時点で少女漫画ではないですか。
ハチクロじゃないですか。
私の推しは二助さん。
研究用の大根を試験管ごと落としてダメにしてしまい、泣き続ける町子に対して、
「女の子に泣かれると手もちぶさただ。なぐさめかたに困る。(それから彼はくるりと此方を向いて)この葉っぱを今夜おしたしに作ってみろ。きっとうまいはずだ」
なんて、最高にかわいい。
(町子もここで笑い出しそうになっている)
予備校の先生に褒められてもけなされてもヘンなものを買ってしまう三五郎、
朝からみんなでオペラを歌って、一助に怒られるシーンも可笑しい。
終盤の町子と「あの方」の帰り道も名シーン。
詩人志望の子にこんなことを言うなんて、好きになってしまうよね。
「細雪」や「海街ダイアリー」も、どうしてひとつ屋根の下の物語はこんなにも胸が切なくなるのだろう。
誰もが持っていて、失ったり得たりつつ、こうやって描かれなければ消えていくような日常がひたすら眩しくて愛おしい。
「第七官」は「どうしても今を強く焼き付けて残しておきたい」と祈るような時を感じる器官ではないかと私は思った。
だからこの家で過ごした日々やその中での恋こそが「第七官界彷徨」であると。
そしてそれは、私たちにも、今も未来にも存在し続けている。
感じ取れるか、の違いだけで。
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七つめの感覚である第七官―人間の五官と第六感を超えた感覚に響くような詩を書きたいと願う、赤いちぢれ毛の少女・町子。分裂心理や蘚の恋愛を研究する一風変わった兄弟と従兄、そして町子が陥る恋の行方は?読む者にいまだ新鮮な感覚を呼び起こさせる、忘れられた作家・尾崎翠再発見の契機となった傑作。