玄人受けする本。
トリックありきでいろいろ設定が決まった感じ。
10年前に連続殺人の現場となったファイアフライ館を成金の先輩が買い取り、大学のオカルトスポット探検サークルのメンバー(名字が長崎の地名縛り)が合宿に訪れる。
で、館の持ち主の先輩が殺される。
初日から雨が降りやまず、唯一の橋は不通になって、クローズドサークル完成。
私はあまり填まらなかった。
トリックの良し悪しというより、館に隠し階段があって地下には鍾乳洞が広がってたりと、「そんなの聞いてないよ」的設定が後から披露されるところが受け付けなかった。
諫早視点の三人称に見える地の文章は、実は長崎の一人称なわけだけど、最初のモノローグは一人称にしか思えないのにいきなり諫早視点の三人称(に勘違いするような文)になるので、なんか文章が下手なヒトみたいで「麻耶さんどうした?」と思ってしまった。しかも、「三人称だと勘違いしたオマエが悪い」と言える余地を残す曖昧な文体だから、結果、余計に不自然に感じる。
まぁでも結局騙されて諫早三人称だと思って読み進め、全員揃ってる場面でも明らかに長崎に関する描写がないので、全員いるんだよね?とか数ページ戻って確かめたりした。
これだけ違和感を感じつつも諫早三人称を疑わなかった自分は見事に術中にはまったわけだ。
それでも、島原が平戸に推理を披露してるところを立ち聞きするあたりで(やっと)諫早じゃないんじゃね?と思い始めた。(遅っ)
もうひとつのトリック、千鶴は実は男装してて作中人物はみな男だと思ってた、っていう一周回って戻っきたみたいな斬新なトリックも、「ボクっ娘!」とか「百合!」とか不都合を勝手に解釈してスルーしてて、さすがに、2つある風呂をわざわざ1つしか使わないのには違和感覚えまくったけど、それでも全く見抜けなかった。
その上、この「千鶴を女だと知ってた問題」は、犯人を確定する重要な要因なくせに、そのロジックが細かすぎて、イマイチ沁みて来なかった。
諫早の自殺(に見せかけた他殺)が発見された際の、登場人物達の冷めた態度もいただけない。ジョージの共犯者に同情の余地はないとしても、もう少しショック受けてあげてほしかった。
なぜ諫早は佐世保に彼女を捧げたのか、って核心には全く触れられなかったけど、多分ターゲットに定めてから彼女にしたのかなと。恋人を殺された元彼氏にしては事件のこと普通に語ってた違和感はそれで払拭される。
そしてラスト。10年前の連続殺人も今回の殺人も見事に解決したのに、さらっと土砂崩れでみんな死亡ですか。また真相は闇の中じゃないですか。(麻耶さんらしい)
絶望ですよ。
生き残ったのは誰か問題、名前から長崎って説と、松浦って説に分かれてるらしい。
佐世保と学生たち7人が遺体で発見されて、うち女性1人の身元が不明、1人生き残り。合計8人になる。学生は6人しか居なかったから、1人は小松響子かフミエ、でも地下の鍾乳洞が警察に発見されるとは考え難いから(死臘は土砂かぶったら粉々だろうし)フミエ、ってのが大方の説。
確かに素直に読めば、身元不明の女性がフミエで、松浦が助かったように読める。ここであたかも女性は1人みたいにミスリードしちゃうけど、男女の内訳は書いてないんだよね。
島原は、フミエは諫早によって橋付近の雑木林に埋められたと推理している。これが事実なら、土砂崩れでもさすがにファイアフライ館の面々と車で数分離れたとこに埋められた死体とが一緒くたにはならないだろう。
てことは、身元不明の女性1名が千鶴、ってことにはならないだろうか。
ここで思い出されるのは、冒頭、去年はいつの間にか1人増えてた、ってくだりである。
もしかして、これ大きな伏線で、身元不明の女性は千鶴で、今年もどこかでいつの間にか1人増えてたってことはないよね? まさかね? でも麻耶さんならやりかねないよね? あの分かりにくい地の文のどこかでやらかしてない? と、またしたも前に戻って探ってしまうのだった…
☆3つの割にはいいように翻弄されたな私。