殺す者と殺される者 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M マ 12-4)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488168063

感想・レビュー・書評

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  • 主人公は大学の心理学部の助教授、ヘンリー。
    彼は叔父の遺産を引き継いだことにより職を辞し、母の故郷であるクリアウォーターで暮らすことを決意する。
    そこには彼の想い人である女性、シーリアがいた。
    しかし、彼女は既に結婚して子供までいた。
    そして、その事をヘンリーに教えた従兄は彼が叔父の遺産を引き継いだことを聞き、微妙な態度をとる。

    そんな事があり暮らし始めたクリアウォーターでは彼の周辺で不審な事が相次いで起きる。
    免許証がなくなったり、それを使った誰かが彼の小切手を使い買物をしたり・・・。
    しかも免許証は知らぬ間に元あった所に返されていた。
    そして、ある日、彼のデスクの上には署名のない手紙があった。
    そこにはどことなく見覚えのある文字で、
    『いるべき場所はニューイングランドなのでは?
    このままではふたりとも破滅してしまう。』
    と書かれてあった。
    まるで警告文のような手紙。
    その警告の通り、その後悲劇的な事件が起きる。

    この話は最初から「記憶」について書いており、その事が頻繁に作中にも出てくるので自然に読んでいる方も記憶というものについて考えさせられるようになっています。
    そして、ここまで最初からこのキーワードを強調しているという事は事の真相にそれが大きく関わっているのだろう・・・と読んでいると、中盤あたりで大体の真相はつかめました。
    それは実際には私が思ったよりももっと根が深いものでしたが、大まかには当たっていて、だからラストもそれほど驚くようなものではありませんでした。

    正直、ミステリー小説としては物足りないという印象ですが、この物語のテーマとしている所の記憶について考えた時、興味深いものを感じます。
    私自身、記憶というものは本当に曖昧なものだと感じています。
    以前、私に俳句をしないか?と言ってきた人とその頃の事を話していた時、私が熱心に俳句をしたいと言っていたというのを聞いて愕然としました。
    私は最初、やる気はないとはっきり言ってたのに・・・。
    同じような事は他にも多々あって、そういう事がある度にその人にとっての真実はその記憶に基づいたものなのだと思うと、不思議だし恐いと感じます。
    そういう曖昧なものによって、思い込みが生まれたり、大げさに言うと今の人格が形成されていたり、現在の生活が維持されているのだと思うと・・・。

    この小説ではそのあたりを分かりやすく、オーバーに描いていますが、多かれ少なかれ、こういう事は私たちの中にもあるのだと改めて思う本です。

  •  「忘却の技術を学校で教われるものなら、それはどんな記憶術よりはるかに貴重な贈り物となるはずだ」
     昔、本を読んでいて気に入った言葉に出くわすと、それをカードに書きためていたことがあった。今ならさしずめパソコンに打ち込んで自在に検索できるようにするところだろうが、そんな習慣は今はない。それでも、ああと思うような言葉に出会って忘れないように保存しておきたいという思いにかられることはある。
     神様が人間をお造りになったときに、なぜdeleteキーをつけ忘れたのだろうと思う。忘れたいけど忘れられないことをボタン一発で記憶から抹消できたらどんなに人生は救われるだろう。でも、間違えてとっておきたい大切な記憶を消してしまったら。そう思えば、そんなあぶない装置を装備しておかなかったのは神様のやさしさなのだとも思う。
     記憶というのは不思議なものだ。何を憶え何を忘れるか、ぼくらはどうやって選別しているのだろう。ずっと忘れていたことを何かの拍子に思い出すこともある。忘れるということは引き出しにしまわれているだけであり、無くなってしまっているわけではない、という説明もよく耳にする。パソコンのデータをdeleteしても、FATのインデクス情報が失われているだけで、内容はメモリにちゃんと残っている、ようなものだろうか。
     忘れられない本当に大切なことは、ちゃんと憶えているものだ。もしそれを忘れてしまっているとしたら、それは実際はずっと憶えているに値しないことなのだ。そして悲しいことに、本当に忘れてしまいたい重大なことも、けっして忘れられないものだ。もし簡単に忘れられるとしたら、それもまた実際は大したことではないのだ。
     記憶術の本はたくさんあるけれど、忘却術の本はない。憶えかただけ教わって忘れ方を教われないというのは、とんでもない悲劇ではないか。
     マクロイを読んだのは2冊目。相変わらず細部にわたる文章、人間の造型はとてもうまい。冒頭のようなハッとする成句にも出会える。プロットと内容は瞠目するほどのものではないし、現実的といえるのかどうかも含めて、採点すれば星4個でもちょっと甘いかなというところだろう。だけど、50年以上も前の作品なのに古さをまったく感じさせず、「図書館は自伝をフィクションとして分類すべきだ」と始まってぐいぐいと読み手を引きこむ手腕の確かさには感服するよりない。

  • 叔父の遺産を相続したのをきっかけに、大学での仕事を辞め故郷のクリアウォーターへ移住したハリー。
    そこに住む想い人に会うことを楽しみにしていたが、彼女はすでに人妻となっていた。数ヶ月前のクリスマスにはそんな気配はなかったのに…。
    ショックを受けながらも故郷での生活を始めたハリーの周囲で、小さな異変が次々と起こり始める。
    消えた運転免許証、自分の名が書かれた小切手、差出人不明の手紙、深夜の徘徊者。
    いったいこの町に、そして彼に何が起きているのか?

    ミステリ(というかサスペンスか)のネタとしてはそれほど珍しくもなく、序盤で「これかな?」と予想できるものなのですが、主人公がその結論にたどり着くまでの見せ方がうまくて、楽しく読めました。
    主人公と犯人?との対決シーン(のようなもの)の緊迫感もいいし、ラストの主人公の行動もかっこよかった。
    物語序盤からずっとつきまとう違和感もちゃんとすっきりするように書かれています。

    なんだか何を書いてもネタバレに繋がる気がする…。
    とにかく、おもしろかったです。

  • 69点:夫婦のあいだで何が起きているかは、傍目にはわからんものでしょう?あなたにもわたしにも、あのふたりがお互いをどう思っていたか、本当のところは知りようがないわけです。

    この警部は警部の立場として当たり前のことをちゃんと言ってました。
    小説としては模範的な作りにみえ、基本がしっかりできているという感触はある。
    ただ今読んで面白いかというとなんだか微妙に感じる。なぜか。それは主人公とヒロインがあまり魅力的にみえないから。

  • 最後まで読んでようやくタイトルに納得。気持ちいい!謎解きとかトリックの面白みはなかったけどハッとさせられました。多重人格が判明してからの話が少し長かったです。

  • 小谷野敦氏推薦のミステリーですが、以下はネタバレアリです。

    まず、多重人格者ものを本格推理小説に分類するのは異議ありです。

    別人格の行動が主人公の知らないところで行われている前提では、小説をいくら読みこんでもわかりようがありません。

    もちろん、主人公自身にも違和感や記憶のずれを感じてはいるという描写はあるのですが、それは頭を打った際の記憶障害であるかのようなミスリードもしています。

    まあ、それでも楽しめる人向けのものですが・・
    また翻訳にも数か所読みづらいところがありました。

  • 貧困とねじれた精神は、危険な組み合わせだ。そこにバーボンの水割りでもちょっと加えてみるがいい、恐ろしいものができあがるから。(抜粋)

  • 序盤から行き着く先に不安を覚えさせる「わたし」視点の回想録。
    早い段階で「その」可能性には思い至るのだが、「それ」を結果として用いるのではなく通過点として描ききった作者の技量は見事。「その」手の話で主人公のポジションはあまり読んだことがなく、また「時間」においては気がついていなかっただけに素直に驚いた。伏線はいくつも散りばめられていたのに…。
    客観的事実を都合の良いように解釈する主人公や本心が分からないシーリアにもどかしさを感じつつも、一気読みできたのはマクロイの上手さだろう。もどかしさも含めて心情の描写が秀逸だった。

  • ラストで「殺す者」と「殺される者」の存在が判明。誰でも内なる別の自分、を持っていると思うが、記憶が抜け落ちるというのは大いなる不安なはず。そこをミステリィにからめて一気に読ませた感じ。

  • 序盤の方で、会話の違和感などからあるネタが思い浮かんでしまい、読み進めるごとに確信に変わっていきました。今となっては珍しくない仕掛けですが、フェアに徹しようとするその姿勢には、好感が持てます。
    しかし、もう1つのネタ(これも現在では使い降るされた仕掛け)には素直に驚きました。確かにアレ1つでは説明のつかない事象がすっきりと解消されます。なぜ気付けなかったのでしょうか…
    若干ネタバレ気味になってしまいましたが、これほど昔にアレ系のネタのハイブリッドを高い次元で成し遂げた佳作だと思います。

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著者プロフィール

Helen McCloy

「2006年 『死の舞踏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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