深い疵 (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (521ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488276058

感想・レビュー・書評

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  • これはもう、一気読み。
    事件が起こって、手がかりが見つかれば見つかるほど、事件の謎が深まるというストーリーの上手さ!

    これはひとつの、いや、ふたつの家族の物語でもあり、戦後のドイツの混乱が生んだ悲劇でもある。
    「深い疵」というのは最初、ドイツが負わせた疵のことであり、ドイツが負ってしまった疵のことかと思ったのだが。

    “…、六十年経っても癒えない深い疵を負わせたのです。”
    たった一度、本文の中に出てきた「深い疵」は、ひとりの人間の失われた人生のことだった。
    誰が誰の人生を奪い、誰が誰を糾弾したかを書いてしまうとネタバレになってしまうから書かないけれど。

    そうか。
    だからあの人は最初からああいう態度を取っていたのか、と腑に落ちた。

    ただ、ナチスの武装親衛隊に入るような人は、生粋のドイツ人のはずだけど、ユダヤ人を名乗ってばれないものなのかが疑問。
    だってイメージとしては、ドイツ人は金髪碧眼で、ユダヤ人はカギ鼻という特徴があって、見た目が全然違う気がするんだよね。
    勘違いかな。

    で、元は迫害した側でも、60年間ユダヤ人としてユダヤとドイツのために働いてきたのなら、それでも罪は許されないのかな、なんて最初のうちは思いながら読んでいたけど、読了後は、思想で評価すべきなのか行動で評価すべきなのか、わからくなった。

    哀しい事件の大本は胸が悪くなるような自分勝手で、それが是正されなかったことで、負のドミノ倒しが起きてしまった。
    そんな事件でありました。

  • 面白かった。
    慣れないドイツ系の名前に四苦八苦しながらも、
    ぐいぐい引き込まれていく感じで、
    とても面白かった。
    相棒であるオリヴァーとピアが好対照で、
    お互いをぐいぐいひっぱっていく感じが良かった。
    二人の家庭(同棲)生活が良好なのも、好感がもてる。

    ただ、非常に残念だったのは、これが第三作なこと。
    第一作と二作はまだ訳されていないらしい。
    どおりで、途中でわからない話がでてきた訳だ。
    お願いだから、早く翻訳して出版してほしい。

  • 著者はドイツ人女性ミステリ作家。
    本書を含め、オリヴァー&ピアの警察小説シリーズを(訳者の後書きによれば)5冊発行しており、シリーズ4冊目が販売された後は「ドイツミステリの女王」と呼ばれているそうです。

    また彼女のデビュー方法がちょっと変わっており、上の後書きによれば、当初、著者は自費出版した自著を身近な所で細々と販売していたのですが、販売戦略をたてて自分が経営するソーセージ店のコネを活用。
    肉を配達するドライバー経由で近隣の書店に自著を置かしてもらった所、これがヒットしドイツミステリの老舗出版社ウルシュタイン社の目にとまってデビューが決定したそうです。

    尚、現時点(2013年6月初旬)では上記シリーズの日本語翻訳版はシリーズ3冊めの本書の他、シリーズ4冊目の「白雪姫には死んでもらう」が出版されています。
    シリーズの他の巻、特に1冊め、2冊めは未だ日本語版が出ておらず、訳者によればこれは販売戦略の一環との事で本書と「白雪姫~」がまずまずの売上を見せてからシリーズの他の既刊の翻訳版を出すとか。
    商売の都合を考えれば致し方なしなのかも知れませんが、中々のあざとさを感じずにはいられません(笑)

    では前置きはこの位にして、以下であらすじをご紹介。

    アメリカ大統領顧問を務めたことがある男性が自宅にて射殺された姿で発見される。
    殺害現場には「16145」とのメッセージが残されており、また解剖の結果、ユダヤ人と思われていた被害者の男性が実はナチス親衛隊の人間であったことが判明する。

    この事実が明かになった場合の政治的衝撃を憂慮する上層部が、まるで事件の迷宮入りを狙うかのような動きを見せる中、再び男性の射殺体が発見される。
    殺害現場には最初の事件同様に「16145」とのメッセージが残され、今度の被害者も元ナチスの人間であることが判明。

    一連の事件が連続ナチス狩りの様相を呈し始める中、被害者たちと有力実業家一族カルテンゼー家とのつながりが見え始める。

    捜査にあたるオリヴァー指揮下の捜査11課の面々。
    そして、彼らの眼前にカルテンゼー一族を巡る因縁の数々が明らかになってくる。

    しかし、オリヴァーの新たな上司として、彼との間に<過去>を持つ女性警視が赴任し・・・・



    主人公の一人、オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインの設定は

    ・貴族
    ・既婚(妻:美人、貴族)
    ・ワイン通
    ・常に紳士的
    ・しかし同時にゴジップ大好きでもある

    と言うもので、もう一人の主人公、ピア・キルヒホンの設定は

    ・バツイチ
    ・気立てのよい恋人有り
    ・自分の体型にコンプレックス

    と言う、特に両者の最後の設定には読者の親近感を刺激する物があるのではないでしょうか。

    ストーリーは先の見えないものとなっており、「謎解きこそミステリの命」と言う考えをお持ちの方でも、その点は満足できるのではないかと思います。
    とは言え、(決してつまらなかった訳ではありませんが)アメリカ大統領顧問だった人物が元ナチスでしかもユダヤ人と結婚していたと言う設定(正直ちょっと荒唐無稽な感じが・・・)や、上記のキャラクター設定等を見て想像がつく様に、本書を一言でまとめると「大衆文学」となる感じです。

    いや、ただの「大衆文学」ではなく、「ザ・大衆文学」と言った所でしょうか。
    読んでいて俗っぽさが至る所で感じられるのですが、その一方で練りに練られたストーリー展開。
    本書を食べ物に例えると「最高級の食材を使ってマクドナルドのハンバーガーを作りました!」的な印象です。

    最高級 なのに マクドナルド

    この様に不思議な感じがする小説でしたが、娯楽作品としては十二分の作品となっていますので、気軽な読書を楽しみたい時などにおすすめです。

  • ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問にまで登り詰めたユダヤ人が射殺され、現場には謎の数字が残されていた。
    司法解剖の結果、被害者はかつてナチスの武装親衛隊員だったことが判明する。
    やがて第二第三の犯行が…。

    予想以上に面白かった!
    こういう警察小説大好き。
    容疑者たちに振り回されながらも淡々と進む捜査。
    邪魔にしかならない上司。
    きちんと貼られた伏線。
    惜しむらくは、日本での読者アピールを優先した結果、三作目からの訳出になったこと。
    そのせいで、署内の人間関係を始め、主人公二人の微妙な空気感が今ひとつわからず、悔しい。
    次は四作目になり、その結果次第で一作目から訳出されることになるようなので、なんとか売れて欲しいなぁ。

  • 登場人物 A が あらわれた!
    A は ミスリード を つかった!
    登場人物 B が あらわれた!
    B は ミスリード を つかった!
    登場人物 C が あらわれた!
    C は ミス(以下省略)



    これがNくらいまであると思ってほしい。苦痛!

    でもそんな苦痛を吹き飛ばすシーンが地下室で待っていてくれて、星を四つもぎ取っていく。

    胸に一はけの鮮烈さを遺す作品。

  • 日本語訳にされたのは、これが一冊めのようですが、シリーズとしては三作目。

    基本的に読み切りなので、これ一作だけでも十分楽しめますが、ちょこちょこ過去の話題が出てくるので、やっぱり一作目も読んでみよう!と思うほど、面白かった。

  • 面白いだろ、これじゃあ

  • 翻訳第1作だが、オリヴァー&ピアシリーズとしては3作目。
     前に読んだ「生者と死者に告ぐ」より前の話。であるがゆえに「あれこの人は昔こうだったのか」的な驚きがある。

     謎の数字を記されて殺される老人の謎。捜査がままならない状況から進んでいくミステリ。なぜ老人が次々と殺されるのか。最初はまったく見えない点が線になると、恐ろしい理由が明らかになる。
     そうして、その理由の裏側にある深い疵を負ったとある人物の行動が……もう本当に、それだけでこの物語成立してもいいかもって思える。
     単純な謎解きではなく、人々の生きている証が見えるところがこのシリーズの面白さだと思う。

  • 貴族の出であるオリヴァーとピアの警察官コンビシリーズ。シリーズ3作目にあたるらしい。著名なユダヤ人が殺され、現場には謎の数字が残されていた。さらに犠牲者が出るが、共通点はある老女性実業家だった。彼らの隠された秘密を探るうちに、第二次大戦中に起きた凄絶な事実が明らかになる。たくさん登場人物が出てきて初めはややこしいが、ちゃんと個性が書き分けられてるのでだんだん面白くなる。オリヴァーやピアが今後どうなっていくのかも楽しみ。

  • 世評に違わぬ傑作である。
    被害者○○が実は××だった!! というバッチリOKなつかみから始まって、時代と現実を背景にして「いかにもありえそう」という作品内リアリティの構築にも成功。ドラマに次ぐドラマで盛り上げるが、初期作にあったごちゃごちゃ感は鳴りをひそめて、きちんと整理できている。
    弱点を克服したことで、良さが活きた。そんな印象だった。

    2020/2/7〜2/8読了

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