- Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492371190
感想・レビュー・書評
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資本主義の行く末は…
立場が異なる3人からの視点。
成長至上主義に否定的な経済界の重鎮スティグリッツに、シリコンバレーで「イノベーション」の信奉者まで。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
スティグリッツは、「不平等の是正」。
チェコの経済学者、セドラチェクの話は示唆に富んでいる。ここだけも、この本の価値はある。 -
【Business】欲望の資本主義 / 丸山 俊一 / 20171201 (90/686) < 243/87828>
◆きっかけ
・日経広告、タイトルに惹かれて
◆感想
・経済学者の安田洋祐が、ノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ、24歳でチェコ大統領の経済アドバイザーになったセドラチェック、ベンチャー投資家のフォードの3人との対談を中心としたNHKの番組を書籍化したもの。
・スティグリッツは、不平等の拡大・拡散を懸念しており、政府の政策転換(テクノロジー、インフラ、教育への投資を増やし、経済構造の転換すること)が重要、。セドラチェックは、経済学と他の分野の英知を統合することが大切、現在の経済学は成長に取り憑かれており、成長は大切だが最優先事項ではないと。そして、フォードはイノベーションの大切さを語っている。
・やはりというか、イノベーションというマジックワードが踊っている感があり、その点は辟易。印象に残ったのは、セドラチェックの成長は大切だが、最優先事項ではない、という考え。過去に社会主義から資本主義へシフトしたチェコの大統領補佐を務めていた同氏とあってとても説得力がある。成長に代わる何か別の道しるべが必要なことは薄々感じてはいるが、その成長にとってかわる何かが示されていないのは残念。
・欲望は果てしない、その欲望がドライバーとなって資本主義が発達したのは事実(加えて、社会主義が崩壊したのも)。欲望が巨大化した果てはどうなるのか?成長資本主義に変わる何かは確立されるのか等々、対談の隣で一緒に考えさせられてしまうような本。
◆引用
・自己利益の追求が、見えざる手のごとく社会を良い方向へ導く、というアダムスミスの考えは間違い。見えざる手が見えないのは存在しないから。
・ケインズの美人投票の本質は、勝ち馬に乗ること。そのために勝ち馬と人々が予想する勝ち馬に乗ること。心から美ではなく、人々が思う美を推測すること。そんあメタレベルの二重三重の心理戦が強いられる現代社会では、自らの主体的な意思というものにすら気づくのは難しい。
・成長資本主義はあやまり。民主資本主義の意義は自由にある。
・経済が成長しないのは、これ以上成長する必要がないから。
・ビックデータはインフラ
・現在の経済成長は借金が支えている。GDP=Gross Dept Production(債務総生産)
・需要不足と供給過剰の両方を抱えている -
2017/10/13:
特に、目新しい情報は無かった -
NHKの番組を見られなかったので、この本が出てよかった。
現代における経済の第一人者達へのインタビュー。
スティグリッツ(ノーベル経済学賞受賞)
現代は金融制度を悪用している。
シリコンバレー企業で成功しているビジネスモデルの多くは広告であり、電気や食料のように必須なものではなく、生産性の向上に寄与しない。
セドラチェク(24歳にしてチェコ大統領の経済顧問)
金融緩和に警鐘。ゼロ金利などの政策はトリッキーで危険。
2008年の金融危機は、不況によるものではなく、躁状態で壁に激突した「フルスロットル破産」
2008年に債務が無かったら、危機は発生していない。
次の危機は必ず来る。現在の債務状態で危機が来れば、私達は崩壊。次かその次が最後。収支を合わせよ。
スタンフォード(ゴールドマンからベンチャー投資家)
投資対象はAIやオンデマンド(オンデマンド配車のウーバー、オンデマンドで食事を提供するマンチュリー、オンデマンドで病理検査をするキュー。この会社は自宅にいながら、HIVやインフルエンザなど2.3分・数ドルで検査できる←この会社いいなぁ上場して無いけど株買いたい) -
この本はNHKテレビで放送されたものの書籍化らしいですが、見ていなかったので読んで見ました。読んだ後にテレビで観たかったなぁと思ったのは、Tesla P85Dが『IN-SANE MODE』で走る姿くらいで、後はむしろ書籍でじっくり『欲望』の加速感を味わうことができたのではないかと思っている。
安田洋祐氏(経済学者)が現在の経済の歩んでいる方向をインタビューを通じて、読者(視聴者)に伝えていく手法で進んでいく。最初にノーベル賞学者スティグリッツ、そして異端の奇才エコノミスト・セドラチェクと続いていくのだけれど、
私はセドラチェクが引用した古代ギリシャの話がこの番組を見事にイメージさせてくれたと思っている。
(以下)
〜〜ストア派《ヘレニズム哲学の学派。始祖はゼノン。徳を重んじ、欲望を抑制し人格の完成と心の平穏を追求した》とエピクロス派《欲しい物がこんなにあるのに、これしか持っていないと、需要に対して供給が足りないと主張します。》が論争する中で、ストア派が『供給に合わせて需要を減らせば幸せになる』
という場面が、後にインタビューするスコット・スタンフォード(シリコンバレーの投資家)をエピクロス派に、そしてセドラチェク自身をストア派として例えてイメージした構成したのではないかと感じたのだ。〜〜
というのは、セドラチェクの見つめている視点は訪れるかどうかわからない、“希求する人類の幸福”という未来からのものであるのに対して、スタンフォードの視点は、人間の“欲望”を見事に捉える感性を身につけた、時代を疾走するハンターの見る未来にある。
この対照性をテレビを観た人、本を読んだ人はどの様に捉えただろうか?
スタンフォードとのインタビューのあとで安田氏は『「禁断の果実」の味を知ってしまった人類はこれからも「進歩」の海を進み続けるのだろう。未来は空恐ろしくもあるが、やっぱりこの目で見てみたい。それが僕の欲望だ。』と語っているが、このような時代の流れのなかからの感想めいたインタビューで幕を閉じるわけにはいかない。
【セドラチェクと小林喜光との対談】は「現代の経済は安定を犠牲にすることで成長するシステム」と引き継いだあとに、
丸山俊一(NHKエンタープライズエグゼクティブ・プロデューサー)は、ルネ・ジラールの「欲望の三角形」(人の欲望というものは主体的なものではなく、往々にして他者の模倣であり、人が欲しいものを欲してしまうものだ。)という説、
メラニー・クラインの『人間は本能が壊れた生物』(本能の欠落を擬似的に埋めるのが文化というわけだが、その文化も規範を徐々に失い、記号が氾濫する中、いよいよ自分で自分がわからなくなった哀れな、アダムとイブの物語は流転し続く。)という説を紹介し最後に、
クラインの「羨望」の根源的・破壊的な性格である本質は「良いものほど壊そうとする」こと。人間が最も深いところに抱え込んでいるのが「羨望」という「欲望」の奥に潜む、恐ろしくなる洞察を紹介している。
でも、私にも微かにそういった幻影が見え始めてきている。
……この本で少し目が霞んでしまったのだろうか?
次は『知性の転覆』(橋本 治)を読んでみる。 -
現在の資本主義国では、マイナス金利、デフレなど長期停滞などの問題とともに貧富の差が拡大し、経済理論あるいは経済学者は適切な解を見つけられないでいる。
そんな状況のなかで、日本の若手経済学者をナビゲーターなる解説者を用意して、NHKのプロデューサーが各国の経済学者を語り合ったTV番組を書籍にしたものである。
TVと違って画面や動画がないこともあり、ゆっくり楽しめるが、どこか中身が薄まったような感もあり、内容がいまいち理解できなかったせいか、この現在の状況を切り開くような感心する論説はなかったように思う。 -
経済は生き物なのだから時代の変遷によって経済学、そして共産主義亡き後の教義となった資本主義のあり方(ルール)も捉え直すのが適当ではないか。議題の一つになっているのは、成長を前提とした資本主義の危うさ。技術やサービスによって飛躍的に便利になった生活、食糧やモノに溢れる現代において、我々が更に求めようとするのは一体何か、それは本当に大事なものか、もしくは大事なものだとしたら、それを得たあとはどうするのか。本書では、欲望を追い求め「サイクル」の一環として必ずやって来るクラッシュを待つのでなく、それを不可避としない、持続可能な幸せを見つける事への積極的な肯定を突き付けている。経済を上昇下降でなく躁鬱と表現するラドチェクの話は比喩が巧みで特に面白かった。ナビゲーターのインタビューもよく話者の主張を引き出していて好感。読みやすい割に含蓄に富んだ間違いのない経済本と思う。