小倉昌男 経営学

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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822241568

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  • 小倉昌男 経営学 単行本 – 1999/10/1

    ヤマト運輸株式会社の2代目社長、宅急便を開始した小倉昌男氏の著作。
    今、ヤマトグループはデリバリー部門であるヤマト運輸を始め
    巨大な組織になっている。しかしどれもこれもが宅急便という基礎があってこそ。
    どういう途中経過があって今に至るのか、今我々はどこにいるのかを知る意味で
    有意義であろう。(特にヤマトグループに勤務している人は)

    本書冒頭で1972年岡田茂氏が三越社長に就任した際の過酷な経営に
    振り回される様が描かれている。
    押し売りのオンパレードであり消費者、生活者の為にどうするかという視点が無い。
    ヤマト運輸がそんな横暴な三越と取引を辞めることが
    出来たのも宅急便が成長軌道に乗っていたからだ。
    その宅急便を開始、工夫、改善。特に開始する際の反発というのは
    やはりサラリーマン社長には出来ないだろう。
    創業者の息子経営者という特殊な立ち位置にいなければ出来なかったと思う。

    参考になった点、気になった点をあげていくと
    労働生産性の向上 
    車輪のついたロールボックスパレットの導入
    安全第一、営業第二
    車が先、荷物は後(センター、ベース、車などへの先行投資)
    元気な内に役員の定年制を設けた。
    経営者は戦術レベルの発想に止まっていてはいけない。常に戦略的発想をもって事態に対処する心構えを持たなければならない。
    会社にとって今何が第一かを判断し、それを指示するのが経営者の役割なのである。
    攻めの経営の真髄は、需要をつくり出すところにある。需要はあるものではなく、つくるものである。
    経営者は、常に起業家精神を持っていなければならない。
    経営者が、攻めより守りの姿勢に変わってきたら次の世代にバトンタッチする必要がある。
    まだやれると思っていても、余力を残して引退するのが経営者の心構えである。

    人が成功したらすぐ真似をするのは日本人の通弊である。誰がやっても儲からないといわれていた宅配事業でヤマト運輸が成功したと聞いたら、その理由を調べるのが普通であろう。単にクロネコのマークが主婦に受けたなどという単純なものではないことぐらいわかるはずである。‥いずれも長年運送事業をやっている会社だから、ネットワークはなくとも東京と本社所在地の間くらいなら翌日配達はできるだろう。そんな同業者が一気に35社も参入してきたのである。

    運輸省の役人は、「既存業者が反対を取り下げればいつでも免許を下ろしてやる」と、公言するありさまだった。この発言は許せなかった。これでは運輸省など何のためにあるのかわからないではないか。申請後4年を経過した昭和60年(1985年)の12月に、行政不服審査法に基づき運輸大臣に不作為の異議申し立てをした。‥昭和61年(1986年)8月28日、運輸大臣を相手取り「不作為の違法確認の訴え」を起こした。監督官庁を相手に行政訴訟に打って出たのである。運輸省は慌てたと思う。路線延長の申請を5年も放っておいた理由など、裁判所で説明できるわけはないからだ。‥運輸省は本件に関する公聴会を昭和61年10月23日に開き、12月2日には免許を付与した。

    ヤマト運輸は監督官庁に楯突いてよく平気でしたね、と言う人がいる。別に楯突いた気持ちはない。正しいと思うことをしただけである。あえて言うならば、運輸省がヤマト運輸のやることに楯突いたのである。不当な処置を受けたら裁判所に申し出て是正を求めるのは当然で、変わったことをした意識はまったくない。

     3月に申請書を提出したとき、実施は6月1日を予定しているからそのつもりで審査してほしいと要望したのである。そんな背景のもとに、昭和58年5月17日の一般紙の朝刊に1頁3段の大きな広告を出した。それは、これまでより2百円安いPサイズの発売と、その実施時期を6月1日にするというものである。運輸省はヤマト運輸の申請を無視し、審査しようとはしなかった。そこで、5月31日の朝刊に、同じ1頁3段の広告を出した。今度は、Pサイズの発売は、運輸省が未だに認可しないため、6月1日の開始予定を延期せざるを得なくなりました、というものであった。これを見て運輸次官が激怒したと聞いている。しかし世論は、すでに行政管理庁や第2臨調が宅急便の運賃のあり方について改善を勧告していたこともあり、運輸省の対応の遅さを批判する声が強かった。結局、運輸省は7月6日に認可したのである。運輸省に限らず一般に役人は、新聞紙上に活字となって載ることを極度に怖がる習性がある。だから新聞やラジオ、テレビを通じて行政の非を追及するのが、極めて有効である。

    「全員経営」とは、経営の目的や目標を明確にしたうえで、仕事のやり方を細かく規定せずに社員に任せ、自分の仕事を責任を持って遂行してもらうことである。

     SDには、新しく入社してきた人材を多く登用した。問屋の店員だった人などはうってつけだった。一方、同業である他のトラック運送会社の運転手だった人は、原則的にお断りした。なぜかというと、運転以外の仕事をやりたがらないし、基本的に全員経営の理念に対する理解が乏しい人が多かったからだ。その点、問屋の店員の仕事は、注文取り、納品、運転、集金、何でもやるのが当たり前だったから、何の抵抗もなく引き受けてくれた。

     SDも、お客様から特別の処理を求められたときどう処置したらよいか、とっさに判断して行動しなければならない。センターに電話して指図を仰ぐようでは駄目なのだ。また何かクレームがあったとき、ただちに的確な処理をすることを求められる。何よりも新規の荷物を集めるために、どこでどういう渉外をしたらよいか、自分で考えて行動しなければならない。宅急便というものは、地下水を1滴1滴集めるようなもので、第一線のSDの働きからすべてが始まるのである。

     ‥組織図の書き方も変えた。商業貨物を扱っていたときは一番上に支店長がおり、その下に営業課長、また下がって営業係長、一番下に運転手何名という具合に、運転手は十把一からげに書かれていた。それは宅急便ではサッカーチームのメンバー表のように、一番上にフォワードであるSDの名前を連ねて書き、一番下のゴールキーパーのところに支店長の名前を置くように変えた。SDにチームの中心プレーヤーになってほしいからである。

     人間は基本的に、細かく指示されると不愉快になり、任されて自主的にやらせてもらうと気持ちが良いものである。これはブルーカラーでも同じで、むしろブルーカラーの仕事のほうが、自主的にやらせたほうがうまくいくケースが多い。

    人は耳から聞いたことを頭の中で整理し、取捨選択して他人に伝えるのだが、往々にしてその過程で間違って伝えられる。だから、社長と第一線の間にある管理の階層は、なるべく少ない方が良いのである。

     社員の種類を基本的に正社員、準社員、契約社員に分け、雇用の際には、就いてもらう仕事の内容に応じて社員の種類を選定した。まず、SDのようにお客様に接する仕事は正社員があたる。それ以外、たとえば経理や荷物の仕分けなど後方部隊はなるべく準社員、契約社員をあてるようにする。同時に全社員を通して女性の比率を高くする。これが原則である。‥平成11年(1999年)3月末のヤマト運輸の社員総数は、74,880人であるが、その内訳は、正社員53%、準社員3%、契約社員などパートタイマー42%である。また女子の比率は、宅急便を開始した時点、つまり昭和51年は5%だったのが、平成11年3月末は28%まで増えている。

     本来ならば会社にとってクレームほど重要な情報はない。クレームが迅速かつ正確にトップに伝わらないと、会社の商品やサービスの品質維持ができず、同業との競争に負けてしまうことになる。ところがその重要な情報を管理職は隠そうとする。

    運送業界でも、業態化の例はいくつかあげられる。石油製品を輸送するタンクローリー車による専門輸送や、コンクリートミキサー車によるセメント販売などの例がそれである。コンクリートミキサー車による輸送はまことにユニークで、輸送しながらセメントと骨材などを練り混ぜるあの方式を編み出したアイディアは大したものだ。このように業態化とは、営業の対象を絞り、サービスとコストにおいて競争相手に決定的な差をつけることを目標として、徹底した効率化を図ることである。

    品物を受け取った時点から一週間で荷主である通販会社に品代金を支払ったら面白いのではないかと考えた。そうしてまとめたのがコレクトサービスである。‥利用料金は集金額が1万円未満の場合は3百円、1万円以上3万円未満は4百円、3万円以上10万円未満は600円、十万円以上30万円までは1000円である。

    宅急便はいずれ頭打ちになるといわれてきた。けれどもこれまでと違う、まったく想像を絶した新しい需要が創出されることは間違いない。そのとき、全国の100%の地域に張り巡らせた宅急便のネットワークが、絶大な威力を発揮する日がくるのではないか。

    どんな組織にも、共通して内在する欠陥がある。それは、組織というものは必ず自己増殖して、肥大化する傾向を持っていることだ。いわゆるパーキンソンの法則とよばれるものである。

     私の結論は、上司の目は頼りにならないということであった。‥そこで考えたのは、「下からの評価」と、「横からの評価」。下からの評価は部下による評価、横からの評価とは同僚による評価である。そして評価項目は実績ではない。「人柄」だ。誠実であるか、裏表がないか、利己主義ではなく助け合いの気持ちがあるか、思いやりの気持ちがあるかなど、人柄に関する項目に点を付ける。体操の採点のように、複数の社員の採点を集め、最高の点と最低の点を外し、残りを足して平均点を出す。つまり多くの目で評価する。‥もちろん単独ではなく、他の制度と併用するのであるが、私は、人柄の良い社員はお客様に喜ばれる良い社員になると信じている。

     行政訴訟という正攻法で進んでよかったと思っている。私は、政治家のいわゆるパーティー券は一枚も買ったことがない。それは、株主総会でなぜ特定の代議士のパーティー券を買ったのか質問されても返答できないからである。

  • 必読 学び続け 変革 サービスが先 利益は次

  • サービス第一!
    お客様の需要を考え整備。
    理想的な経営、思考力が参考になる

  • ヤマトさんのなりたちがよくわかります。

  • ここまで赤裸々に書いて大丈夫なんだろうか、と思うほど開けっ広げにヤマト運輸のこれまでの軌跡について書かれており、興味深く読みました。

  • クロネコヤマトが現代の宅急便事業に至るまでについてが書かれてる

    国と戦い、顧客と戦い、社内の役員や労働組合と戦い、その歴史が学べる

    情熱的で人間味のある名経営者だったんだなと、、、

  • 小倉昌男氏がヤマト運輸をどのように作り上げてきたか、経営をどのように考え実践してきたかがよくわかる一冊。

    小倉氏の元来の豪胆さや、経営に対する繊細さといった人となりがよく伝わりました。

    運輸業界を志望する方は必読かと思います。

  • まさに優れた戦略は面白いストーリーであり、論理の太い繋がりであり、順列である、という典型的な好事例。企業の存在意義やステークホルダー、サービスドライバーと全員経営の考え方、トップが考え抜く戦略、というものを学ばせていただいた。サービスが先、利益は後、というように、優先順位をわかりやすい言葉で浸透させる妙と、それにブレない強い姿勢も感じた。

  • 超実戦的マーケティング、事業立ち上げ本。
    ロジックを積み上げた実数字を挙げた説明と、計画の後の実行のプロセスまでわかりやすくかつ読みやすく書かれている。
    久々のホームラン本

  • 名著と言われてきたけれど、本当に素晴らしい本。何冊か経営者の本を読んできたけれど、一番痺れたかもしれない。もっと早く読めば良かった一冊。

    まず、宅急便という馴染みがあるサービスを中心にした内容なのでわかりやすいこと。次に、小倉氏の課題認識に対する方針が、非常に考え抜かれており論理的であり、施策も明確であること。最後に、あらゆる角度で圧倒的に顧客目線であること。これらの三要素故に、わかりやすくて刺激を受けた。

    小倉氏はすでに亡くなっており、内容は20年以上前に書かれたものだが、学ぶことは多かった。
    ヤマト運輸は、元々中距離輸送かつ商業貨物輸送のみをやっていたが、戦後に売上も利益率も下がり、創業社長の息子だった著者の昌男氏が、起死回生の一打として肝入りで始めたのが宅急便だった。
    BtoBからtoCへの転換かつ個口輸送のため、できないのでは…と皆が思った内容を、具体的に作っていく過程が詳しく述べられている。

    宅急便は、アメリカの輸送会社、UPSのハブアンドスポーク型の輸送をヒントに作ったサービスだが、巨大な投資がかかる中で、全国の小学校の数をベースに必要な営業所数を検討したり、取次店として酒屋を取り込んでいったり、宅配密度、リピート率を上げるために最初から翌日配送に踏み込んだり、細かいところまで徹底している。また、主婦が使うなら…と、価格の分かりやすさやトラックのラベル、コミュニケーションの宣伝方法まで考えられており、重要なところを外さずに判断していた。

    私にとって、子供の頃から宅急便は当たり前のようにあったが、ヤマトがサービスを始めたのは昭和51年。まだ40年強の歴史なのか。だが、きちんと荷物の輸送トラッキングができる仕組みを運用とシステムも含めて構築し、「できない」点に疑問をもって顧客ニーズもとらえて次々と新しいサービスも作っていっている。
    「サービスが先、利益は後」
    この言葉は何度も本の中で登場するが、顧客目線で先にファンを作っていく方針も、先進的だった。

    この本を読んでふと思い出したのが、数年前のヤマトの運賃値上げ問題。オンライン需要の伸びを受けて、運賃を値上げしたことは記憶に新しい。
    だが、ヤマトが不当な関係にあった三越との関係を切ったことをこの本で読み、Amazonなどに対しても同様のスタンスをとったのかな、と、ヤマト運輸に残る理念を思い描いてしまった。

    いま、小倉氏が生きていたら、どんな戦略を持つだろう。オンライン決済メインで、より通販事業者やプラットフォームそのものが個人と繋がりが強くなり、ヤマトは小倉氏が現役だった時代に比べて役割が「ただの運送会社」という立ち位置になりつつある。それどころか、事業者そのものがラストワンマイルを自分でし始めていたり、UberEatsのように個人が短距離輸送を行う場合もある。

    どこにまだチャンスはあるのか。
    一つあるのは宅配ボックス事業など、受取部分に関する事業だろうか。結局、不在で受け取りづらいなどの不やニーズはある。
    他にも、グローバル化の中での海外含めた輸送、あとはセールスドライバーの強みを活かした宅配周辺事業。訪問きっかけに何かをやる。例えば高齢者のおうちに定期的に行って、様子を画像で映して家族に送るみたいな。

    そんなことを考えつつ…あとで、ヤマトのサイトを見て、経営戦略方針をチェックしてみようかな、と思う。

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