独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書) [Kindle]

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  • 海外の書棚にあったわ

  • 戦争の目的がこれまでと違ってしまった。そして、その違いから大きな悲劇を生んだという本
    イデオロギーへの固執がいかに怖いかということがわかる。具体的な数字を出しての解説で非常にイメージしやすかった。最初の方だけでも読んで独ソ戦の規模感を実感してほしい。

  • 名著であり、独ソ戦の凄惨さを描いているとして、その実態を知りたくて読んだ。
    もう少しミクロな、エピソードレベルの諸事象の描写を期待したが、内容的にはもっと大局的な、かつ軍事的な、独ソ戦の作戦進行がほとんどではあった。

    読んで参考になったのは、イデオロギーとしての絶滅戦争であったという点。これは認識できていなかった。
    ゆえに、外交手段としての戦争(の過程や結果で人が虐殺された)のではなく、殺戮殲滅そのものを目的として、手段として戦争が選ばれた、ということの凄まじさをようやく知ることができた。それにしてもこの規模には驚かされる。

    一方で、現在においては戦争以外の手段による絶滅政策は進行している。
    将来において、こうした絶滅戦争が再び起きないことを願わずにはいられない。

  • 予備知識なく読んだので、とても難しかった。筆者も、アカデミックでない本でこの内容を書くのが大変だったらしく、それは大いに理解できる。
    軍拡した結果大敗し、敗戦国ながらも戦後工業大国、経済大国として復興したドイツと日本には共通点があると感じた。
    今のドイツがなぜそうなのか、今のロシアがなぜそうなのか、その手掛かりが少し掴めた気がした。今何が起こっていて、なぜそうなのかは、過去に何が起こったかを知らないと理解できない。

  • ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を捉えて、この戦争はナチズムから祖国を守る「大祖国戦争」だと訴えています。
    われわれにとっては「大祖国戦争」という言葉より、「独ソ戦」という方がイメージは湧きやすいのですが、ロシア人にとっては、われわれには測りがたい独特のイメージがあるようで、本書をそれを解き明かしてくれます。
    また近年、ノーベル文学賞の「戦争は女の顔をしていない」や日本では本屋大賞の「同志少女よ、敵を撃て」など、独ソ戦を舞台にした話題の本も多く、独ソ戦とはどんな戦いだったのが知りたくて、この本を手にしました。

    <祖国戦争・大祖国戦争とは>
    ロシアでは、帝政ロシアが1812年に戦った対ナポレオン戦争を「祖国戦争」、ソ連(当時)がナチス・ドイツと1941年6月~1945年5月に戦った戦争を「大祖国戦争」と呼び、本書は、この対独戦争の詳細を纏めたものです。

    <未曾有の惨禍>
    まず、驚いたのが、この戦争の人的被害です。
    太平洋戦争の日本人の戦死者が、軍民合わせて約300万人と言われているのに対して、独ソ戦では、3000万人強(ロシア:2700万人、ドイツ:350万人)と言われており、日本人の死者の約10倍もの人が死んでいます。

    <殲滅戦争>
    何故このような悲惨な戦争になったのかを、本書では、ドイツ・ヒトラーの世界観から説き起こし、戦争に至った背景、その後の戦争の経緯、レニングラード、モスクワ、スターリングラードの包囲戦に敗れたドイツ軍を、掃討するソ連軍の戦い。
    そして、その独ソ両軍のそれぞれの残虐非道な、殲滅戦争の戦い方を描いています。

    戦後、ドイツでは、この戦争をヒトラー個人に罪を負わせていましたが、新しい事実から見えて来た国防軍・ドイツ財界・ドイツ国民の関わり方、そして、冷戦終了後に明らかになったスターリンの指示によるソ連軍の残虐さ等、最新の学説を中心に、この戦争の概要をコンパクトに纏めています。

    <全体を読み終えて>
    ヨーロッパ各国の世界への帝国主義侵略に、遅れて登場したドイツ。
    その流れの中でのヒトラー流の帝国主義観の内容にも驚きました。(日本も他人事ではありませんが・・・)
    優秀なゲルマン民族を栄えさせるために、東欧を植民化し、さらに民族的に劣っているとみなしたスラブ民族の住む地域も植民地にしようと、当初から考えていた事には、今さらながら驚きです。
    現に併合した東欧から略奪した物資をドイツに還流したので、ドイツ国民は、相対的に裕福な生活を享受していた。ドイツ国民にヒトラーの政策は受け入れられたのでした。

    そして「独ソ不可侵条約」は単に対仏戦争のために背後の憂いを絶つために利用したに過ぎず、対ソ戦は予定通りの行動であった。但し兵站の失敗は想定外だった。フランスとソ連は違っていた。
    そしてヒトラーは劣悪なスラブ民族を殲滅、つまり皆殺しにしようと本気で考えていたことが、この戦争を悲惨なものにしていった。その攻撃を受けたソ連も、復讐心に燃え、さらに壮絶な殺し合いになっていった。

    現在では、ヨーロッパでは、人道主義に反するものは・・・という批判をしているが、もとをただせば、かつての彼らの帝国主義が、このような独ソ戦に繋がっているのも無視できない事実でもあると思います。

    本書を読んで、当時のヒトラー及びドイツ軍が、今日のウクライナ侵攻を始めたプーチンと同じような発想の上に立っていた事が、より鮮明になった。
    共に、電撃戦で、短期決戦で終わるであろうと・・・

    (追記)
    以前から私の中で持っていた疑問は、第1次世界大戦で、帝政ロシアとフランスの東西2正面作戦で失敗したドイツが、第2次世界大戦で、またも同じ東西2正面作戦を取ったのが、不思議だったのですが、本書でその説明もされていました。内容は省略。

  • ドイツとソ連にとっての第2次世界大戦に関する本。

    日本で第2次世界大戦というと日本とアジア、連合各国との戦いを連想してしまいがちだが、第2次世界大戦は別に日本を中心にして起こったわけではなくヨーロッパでも同じく戦争をしていた。その1つが独ソ戦であった。

  • 「つまり、ヒトラーに加担し、収奪戦争や絶滅戦争による利益を享受したドイツ国民は、いよいよ戦争の惨禍に直撃されることになっても、抗戦を放棄するわけにはいかなくなっていたのである」

    ・・・・人間の弱さ、ここに極まれり、といったところですね。

  • 独ソ戦というか、ドイツ軍の評価の違いについて近年の傾向をまとめてくれてよかった。奥の深い世界だと思う。

  • ロシアのウクライナ侵攻の折り、注目を集めた新書。
    ドイツ、ヒットラーとソ連との戦争の実態がわかりやすく書かれている。ウクライナは当時も戦地となっていた。

  • 従来の独ソ戦評価の間違いを、開戦前の両国の政治状況、指導者(両国とも独裁者)の方針などから修正する書。
    独ソ戦が大量の死者を出して壮絶を極めた背景。
    ナチスドイツではヒトラーだけでなく国内にあった他者(反対思想者・ユダヤ人)への排除思想。これの行き詰まりによって、海外への略奪と搾取が掲げられた。対ソ戦の目的がこれであるので、合理的な戦争戦術が無視された(世界観戦争・収奪戦争)。
    ソ連ではスターリン独裁体制完全によって、ロシア圏ナショナリズムの醸成、強制的な徴兵と国民動員、過酷な兵役、非合理的な戦線維持強要が成り立っていた。
    この両陣営のぶつかり合いが独ソ戦の史上例の無い惨禍を生み出した。
    また、捕虜への国際法違反の苛酷な扱い(劣悪な環境に押し込め大量の死者を出す・時には捕虜を殺害する)は両陣営で行われ、これも死者を増加させた。

    独ソ戦にソ連が勝利した理由は、ドイツが戦術のみで戦ったのに対し、ソ連が戦略と作戦術(戦略と戦術の中間橋渡し法)を考えていたから。これは1812年のナポレオンの侵略や日露戦争の敗北などにより、古くからロシアで研究されていた。
    また、ナチスドイツが敗北し消滅した理由もヒトラーによる世界観戦争が原因であった(講和や外交による戦争終結が選択肢に無いのが世界観戦争)。

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著者プロフィール

現代史家。1961年東京生まれ。立教大学大学院博士後期課程単位取得退学。DAAD(ドイツ学術交流会)奨学生としてボン大学に留学。千葉大学その他の非常勤講師、防衛省防衛研究所講師、国立昭和館運営専門委員等を経て、著述業。『独ソ戦』(岩波新書)で新書大賞2020大賞を受賞。主な著書に『「砂漠の狐」ロンメル』『戦車将軍グデーリアン』『「太平洋の巨鷲」山本五十六』『日独伊三国同盟』(角川新書)、『ドイツ軍攻防史』(作品社)、訳書に『「砂漠の狐」回想録』『マンシュタイン元帥自伝』(以上、作品社)など多数。

「2023年 『歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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