アンソロジー 隠す (文春文庫 し 34-51)

  • 文藝春秋 (2019年11月7日発売)
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感想 : 18

「アミの会」第3弾。 今回は通常通り女性作家のみの短編集。

「理由わけ」柴田よき・・・イラストレーターの女性がテレビ評論家を刺した。彼女は決して本当の動機を言わなかった 。刑事麻生は怪しむ。裁判の日ついに彼女は告発する。車の CM に出ていた 評論家、彼は違法駐車でイラストレータの友人の息子を死なせていたのだった。
 場面がほとんど取調室。じわりじわりと心理戦が書かれていてグイグイ読み進められた。 裁判で何を言うのかドキドキしたが、被害者への動機が結構些細なものだったので、ちゃんと評論家は罪を償わせられるのかなと思う。

「自宅警備員の憂鬱」永嶋恵美… 引きこもりの女性。弟が優等生の同級生を連れてくる。 しかし彼の言動には不審な点が多かった。 自宅警備員の勘で怪しいんだ主人公は凶器隠しに来たとわかる。
  主人公の キャラクターが、引きこもりの割には行動的で面倒見が良くて好きになった。探偵ぶりもしっかりしていて好感持てたのでサクサク読める。

「誰にも言えない」松尾由美… 作中作 を作家が書いている設定。 留学生が漆アレルギーだったという発想は面白かった。

「撫桜亭奇譚ぶおうてい」福田和代・・・ 亡くなった父親。裏のハゲ山をひたすら掘り返し埋蔵金を探していた。そのため実家は借金まみれだ。長男は他の兄弟に遺産放棄を促した。 しかしその理由は 父親が子供をさらっては殺して埋めていたと理由にあった。
 ホラーだな。福田和代はホラーも描けるんだなあ 。短編だけでもなかなか衝撃があったので長編だともっと強いと思う。

「 骨になるまで」新津きよみ・・・ 祖母は重篤になるまで病気を隠していた。その理由は昔手術でガーゼをお腹に入れられたままだったのを隠したかったためだ。その手術の執刀医が祖母の息子だったというオチ。
 全く最後が読めず、読後なるほどーと納得。

「アリババと四十の死体」光原百合…アラビアンナイトを新たに解釈し直した作品。 アリババの息子と女奴隷のモルジアナの話。 実はモルギアナが主犯だった。
 彼女は自由を求めての犯行なので後味は悪くない。

「 バースデーブーケをあなたに」 大崎梢・・・ デイケアサービスに住む高齢の女性。 彼女には毎年誕生日に大きなブーケが送られる。しかし花束や バースデーカードは 全て花屋が用意している。
  展開は初めのうちからわかった。でも登場人物が穏やかで、脇役でも丁寧に書かれているので読んでいてほっこりする。大崎梢さんらしい作品だなぁと思う。

「甘い生活」近藤史恵・・・昔から誰かのものが欲しくなる主人公。姉のもの、友人の大事なポールボールペンを取り続けては隠してしまう。数年後、気になる男性とドライブに行く。 実は彼はボールペンを隠された女の子の兄。あの出来事がきっかけで父親の再婚が破談になり、気に病んだ友人は自殺してしまったのだった。兄は復讐のために主人公に近づいたのだ。
 ボールペンがすごく高価なものだったという展開や、それで父の再婚が破談になったという展開は珍しい上にストーリーも無理がなく面白かった。近藤史恵はイヤミスもうまいよな。 主人公の微妙に悪意のある感じが雰囲気ありでよく伝わった。

「少年少女秘密基地 」加納朋子…ハイオクに遊ぶ二つのグループ。 男子のグループが探偵気取りで少女たちが危険にさらされていると推測する。数年後、少女達の側。危なそうに見えた道具は、納屋の持ち主の老女が引っ越しをする準備だったことがわかる。また老女気持ちを病んで寸前だった。それを少女たちが止めたということもわかる。
  回りくどいけど子供達の 活躍が描かれたほんわかミステリー。
 
 今回、どの作品にも共通するのは日本風の漆塗りの櫛。はっきりと道具として書かれているものもあれば、ゲームの中のアイテムだったりしたのでこの感想を書くときに見返して探した。短編だけれども、ほとんどの作品は一瞬で惹きつけられるものがあって面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説
感想投稿日 : 2022年5月7日
読了日 : 2022年5月7日
本棚登録日 : 2022年5月7日

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