2023年2月11日
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なんとかしなくちゃ。 青雲編
- 恩田陸
- 文藝春秋 / 2022年11月7日発売
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恩田陸の平穏な小説読んでると全然違う作家の小説みたいに感じて不思議。
恩田陸の暗い面を好んで読んでいるからそういうことになる。
この作品も暗くて怖い方なんかなって思ったら全然違っていた。
作中でも書かれているけど、朝ドラ!たしかに!と、うなずいた。
朝の連続テレビ小説。この作品のことじゃん。
人の長い人生がちょっとずつ進んでいくのを読みながら並走しているような感覚。
ちょっと変な人たちが出てきて、それを変だなと主人公が感じるんだけど、
主人公その人がそもそも結構変で面白かった。
まぁ普通の家なんてどこにもないしな、と思うのであった。
2023年2月9日
山田詠美の濃縮還元!
私小説。こんな人生送ってきた人が書く小説、そらあんな毒と魅力に溢れているわけだよ。
小説家は人殺しを自分がその目で見てきたように書くのが職業の人たちなので、私小説って言ったって信用してはならないのだけど。
それにしても面白かった。
山田詠美の小説を好きな人たちが読みたい山田詠美の話だった。
サービス精神に溢れた人なんだと思う。
作中に描かれる名のある小説家たちも魅力的だったなー
絶対仲良くはなれない、なりたくないけど、その生態を覗き見してみたい。
見ては憧れてこうはなれないなって諦念をいだきたい。
2023年1月31日
好きな作家がこんなに四苦八苦しながらも名作と呼ばれる作品を面白く読んでいて、親近感をめちゃくちゃ感じて嬉しくなってしまった。
こうやって読んだことを文章にできるのだからやっぱり作家は作家なのですが。
読みながら登場人物に対して「ほんまきっしょ」とか出てくるところが好きです。
でもちゃんと感覚を言葉で説明できるのであーこういう文章が書けたらいいだろうな、と思った。ただの憧れ。
知り合いに読んだ本の話聞いてるみたいな距離感でよかったな。
ちゃんと面白いとことわけわからんとことあって。
お、これなら読めるかも、とか、これはたぶん無理やなって思いながら読んだ。
紹介されてる本、読んだことあるのもあるけど、本当に、特に海外小説に関しては無知なのでちょっとずつメモしながら読んでみたい。
あとがきで、「楽しく本を読んでいろいろ考えること自体は、特に文学的な知識がなくてもできるんだなと感じていただければそれでいいや、と思います。」とあって、この一文が知識を持って読まなければ…!となっている私のような人間には福音のように聞こえた。
あとウクライナへの侵攻について触れられているのも誠実だなと思う。
2023年1月26日
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イマジナシオン (新鋭短歌シリーズ)
- toron*
- 書肆侃侃房 / 2022年2月14日発売
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手に馴染みやすい短歌だな、と思えばときたま刺されるので要注意、という感じ。
日常にある、言葉になる前の感覚を日常使うものや見る景色で言葉にしてくれる。
そういう短歌が詰まっていたように思う。
エモいね、とか、切ないね、とかに集約しきれないこまごまとした気持ちの襞があって、そこを指でなぞられるような感覚があってそわっとして面白かった。
2023年1月21日
2023年1月14日
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青木きららのちょっとした冒険
- 藤野可織
- 講談社 / 2022年11月10日発売
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藤野可織の本を初めて読んだような気がする。
シュールというのか、湿っぽい話がある割に手触りは乾いてて面白かった。
「トーチカ」が好きだったな。名前を失ってゆく話。
でもこの本の物語はぜんぶでもそういう話なのかもしれない。
名付けることと個が失われてゆくこと。
名前をつけるって分類するということでもある。群のなかに飲み込まれていくこと。
スカートの話なんてまさにそうで、匿名の痴漢が忌み嫌っていた青木きららに押し流されて飲み込まれていく。グロテスクなのにやっぱり手触りはからっとしているのだった。
2023年1月7日
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朝倉かすみリクエスト! スカートのアンソロジー
- 朝倉かすみ
- 光文社 / 2021年8月24日発売
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面白かったー!
作家が好きな作家に書いてもらうていうのがいい。
しかもちゃんと自分も書かねばならないという罰ゲーム感つき。
朝倉さんの前書きも正直で楽しかった。
好きな人にどう思われるかめっちゃ怖い。作家もそういう感覚あるんだな。
読んだことない作家が半分くらいかな?
個人的にハズレだと思う作品がなくてよかった。
一言感想みたいなところで、朝倉さんが佐原ひかりさんをフレッシュ枠みたいな感じで書いていてなるほどと思ったりした。
佐原さんの作品好きだな。今ならではって感じの話なんだけど、だから中学生くらいの年齢の人にも読んでほしさがある。
何者かに押し込めなくていいという、願いみたいなもの。
あと佐藤亜紀がさすがすぎて…!
こんな風に書けたら楽しいだろうなぁ。
虚構の紀行文をこんなリアルな肌触りで書けるの、フィクションの醍醐味だなと思う。
2022年2月1日
小田雅久仁の新刊嬉しいなー!
これで3作目?これまでの作品とはまたちょっと違ってて、でも小田さんだなって感じで面白かった。
短編集。月にまつわるいろんな話。
人間どうしてこうも月を書かずにはいられないんだろうか。
この本もSFってくくりになるんだろうか。面白い設定ばっかりだったな。
そして思ったよりもめちゃくちゃロマンチックな終わり方だった。
小田さんの歪さというか、ヘンテコさが好きなんだけど、その中にこんな愛そのものみたいなことを書けるんだなとびっくりしちゃった。
でも同じような変さを持っている森見さんにしたって万城目さんにしたってそういうところはあるのか、とも考えたりする。
2022年1月25日
直木賞の候補作。初めて読む作家。
優しくて誠実な小説だと思った。
大変なことがたくさんあって、それはそれぞれの話の中でなにか劇的に好転したりしない。むしろ悪くなったこともある。
そんなどうしようもなさをとりあえず連れて歩かなきゃいけない30代、グサグサ刺さる。
年齢を重ねて得た諦めと、諦めきれなさが揺らいでる。
玄也が菜穂に「おれやかやのんにおこってください」と言うのは大人としてすごく好きだった。
それぞれのしんどさがあっても、親や大人としてやるべきではないという行為はある。子どもにそれを赦してくれと請うのではなく、ちゃんと怒れ、と言うことは大切よね。
2022年1月20日
めちゃくちゃしんどい話だったので、読み終わってとても疲れた。
でもいま読むべき物語であったように思う。
帯に「作家のエゴ」という言葉があったのだけど、確かにそれもその通りだ。
だけど小説なんてすべて作家のエゴだろう。
だから書こうと思ったときに書きたいように書いてほしいな。
読者だってそれを勝手に受け取るのだしね。
ここで書かれた話が、まだ2016年の日本なんだと思って愕然とした。
ここから2022年の現在までに起こってきた出来事や事件が、今じゃもうただの過去になっていて怖い。世の中で、ということももちろんあるけど、自分の中でももうただの過去になってしまっていることがあまりに多い。
一度転んだら、起き上がることがこんなに難しい国に生きている。
2022年1月12日
今ここにあるところから地続きのへんてこさで面白かった。
どの短編にも好きになれる人が全然いなくて笑う。
悪趣味だし露悪的だなと思うんだけど、ぐいぐいと読んでしまうのよね。
読んでいる人の怖いもの見たさとか、臭いものをつい嗅いじゃうとか、そういうところをうまいこと突かれている。
2022年1月8日
芥川賞受賞作。
土地とはなんなんだろう。
柴崎友香が帯を書いていて、ああこの人も土地と人を書く人だものなと思った。
そして群像の賞の審査員なのね。
地震や津波に対して思い起こる感覚が日本と外国では全然違う。
その土地で生きていないとわからない感覚がある。
それは長い時間をかけて身体に染み込んでいるものなんだろうな。
距離が離れてしまうと記憶になるっていう表現が面白かった。
違う土地に移ると、またじわじわと身体に違う感覚が染み込んでいくんだろうな。
2022年1月4日
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考えごとしたい旅 フィンランドとシナモンロール
- 益田ミリ
- 幻冬舎 / 2020年12月9日発売
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益田ミリ、いつだって安心して読める。
お父さんを亡くしてからこっち、益田ミリの考えごとの中で「死」についての比率が増えたように思う。
このエッセイの中でも「これから失いつづけていく」みたいな文章があって、人生ってまぁそうだよなってなると同時に、年齢と経験が正しく経た人だなという感覚がある。
順当に生きていられれば、自分の生まれる前から存在していた人から先に亡くなっていくんだけど、その感覚って何度繰り返しても慣れないものだけど。
あと私が益田ミリを好きなの、美しい場所を見て、「初めて涙がこぼれました」とかじゃなくて、「美しいものを見て泣くのは初めてではないけどやっぱり泣いた」みたいに書くとこ。
文章で語る自分に酔ってないところが信用できる。
ほんわかエッセイを書く人だと思わせといて、この人はいつも冷静だ。
2021年11月3日
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ヒトコブラクダ層ぜっと(下)
- 万城目学
- 幻冬舎 / 2021年6月23日発売
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万城目さん、いよいよ日本を飛び出していて笑ってしまった。
よくこんなとんでもない設定で上下巻を書ききったな。好き。
三兄弟の中では梵地が好きなんだけど、自分の好みが全然ぶれなくてそこもなんだか自分で笑ってしまった。
梵地ガールズって気の抜けた響きがまたいいよね。
梵人の「本物の戦い」って、人を殺したり人に殺されたりするようなことなのかなと考えて読んでたんだけど、三秒を失ってからっていうのはよかったな。
なんか朗らかじゃん。負けないってわかってるゲームはつまんないもんね。
三兄弟以外では銀亀さんとキンメリッジがとても好き。
銀亀さんの「憎しみに囚われるな」って感じの台詞のあたり、物語の後ろに作者がちょっと透けて見えるようでちょっと珍しいなと思った。
今の情勢などが私の頭の中にあって、それを踏まえて読むからそう見えるのかも知れない。
基本的に万城目さんの本はコメディだと思って読んでいるんだけど、
その中にきっちり人情とか仄暗いものが混ぜ込まれているとこが好きだな。
面白さの中に湿っぽいものが滲んでくるのぐっときてしまう。
うまいことできたコメディなんだろうな。
あと神様の話がめっちゃ面白かったー
冥界下りらへんの話とか、日本の神話でもギリシャ神話でもおんなじような話出てくるの面白い。人間の想像力の共通項という感じがする。
全く違う場所で、違う民族で、違う言語をもっているのに物語の形式が似てくるの不思議だ。民俗学って勉強したら面白いんだろうなー
2021年11月3日
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ヒトコブラクダ層ぜっと(上)
- 万城目学
- 幻冬舎 / 2021年6月23日発売
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感想は下巻で。
2021年10月26日
2021年10月14日
小山田浩子の本読むの2冊目くらい。短編集。
最後の方にまとまってあった野球についての何篇かが好き。
カープファンというわけではないんだけど、野球ファン、どこも似てて面白い。
「継承」で観戦する試合ぜんぶ負ける話とか、明るくはないんだけど、ジメジメした湿度がなくてあんまり悲壮感もないのが不思議だった。
表題作の「小島」もやっぱり印象的で災害のあとのことを考えるなどする。
生活が続くということ。その人のうしろにある感情についてなど。
2021年10月13日
柴崎友香と共著の『大阪』が面白かったので、岸政彦はどんな小説を書くんだろうと思って読んだ。
やっぱり岸さん外からきた人なのに関西弁の文章がとても滑らかで驚く。
それでなくても方言で文章を書くことって難しいと思う。
いわゆる標準語のしゃべり言葉を書くよりも、その正しさが読む人にとって違ってくるし最大公約数が小さくなるからかな。
この本の言葉はすっと入ってきて私にはとても読みやすかった。
ストーリーとしては結構ありがちな感じかと思う。
ずっとモラトリアムの中で生きているような男が女と出会ってどうこう、的な。
『大阪』の中でも書かれていた、今はちょっともう難しい生き方の話。
雑誌に載ってた記事の話で、父から褒められるのがいちばん傷つく、という話があってそこにめっちゃ頷いた。
「最初からかわいいと思ってるひとから、かわいいって言われても、それはありがいけど、うれしくないねん。」という一文に自分を言い当てられたような気になる。
私の場合は祖母に「かわいい」と言われるとすごくもやもやした時期があって、それがこういうことなんだよなって。
祖母も父も、最初に関係があるから孫であったり娘であったりする「私」をかわいいって言うんやろうなって。文章にするとすごいこじらせかただな。
で、そう思うの可笑しいんやろかって思ってたけど、本の中におなじ人が出てくると面白くなっちゃってよかった。
2021年7月8日
この本読めてよかったな。
大阪に住んでいる人は、この本を読んで自分の大阪をたくさん思い出すと思う。
大阪府というよりは、大阪市という街の話。
大阪から出て行った人と、大阪に来た人の話。
なのになんか、二人の語る大阪は、ちゃんとひとつの街で面白かった。
単一ということじゃなくて、いろんな顔を持ったひとつの街。
大阪が変に美化されてないのもいいんだよな。
人情の街だ、とかそういうの。
ちゃんと、かつての勢いはもうなくて、いろんなごちゃごちゃとしたものがのっぺりとしたシンプルさに覆われていく途中の大阪、という現在がこの本の中にはある。
私はなんでこの街が好きなんだろうな。自分の言葉では言語化できないものを二人が代わりに書いてくれているような感覚があった。
2021年6月30日
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Day to Day
- 講談社
- 講談社 / 2021年3月25日発売
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去年のこの時期、こんな感じだったな、と少しずつ思い出すように読む。
コロナ渦での作家たちの物語とエッセイ。
なんか話がさくさく読めるので、これはフィクションか、これはエッセイか、みたいに判断するのが間に合わなくてちょっとそのあわいのような作品もあって面白かった。
このくらいの掌編を書くのって、相性があるなって思う。
好きな作家の書いたものがそんなにだったり、普段読んだことない作家のものが意外と合ったりした。
2021年6月22日
あーーー山田詠美節!って思いながら読んでた。
もう最初っからフルスロットルで山田詠美。
そういうところが好きだったな、と思い出すような。
倫理とは、とか思うようなこともあるけど、そういう話じゃないもんな。
倫理や人道みたいなこと考えると全然駄目な話で、そういったところを加味しなくていいのが小説の面白さなんだなー
そして山田詠美はそこをジメジメした怖さじゃなくて、カラッとした明るさで書ききってしまえる作家なんだと思う。
2021年6月12日
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肉体のジェンダーを笑うな
- 山崎ナオコーラ
- 集英社 / 2020年11月5日発売
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短編集。山崎ナオコーラの本久しぶりに読んだ。
肉体のいろいろ。
タイトルがもう好き。
最近は身体性についての本によく当たるな。
まぁ自分がそういう本を選んでいるんだろう。
想像することは面白い。
いま、現在にはなくて、でもちょっと進んだ先にはあるかもな、というような感覚になる物語が多かった。
だから私はこういうときにどう感じるんだろう、どう動くんだろう、と想像しながら読む。
自分の頭を柔らかくして読んでいるつもりでも、結構固まってんなと思うことがあってその気づきも面白かった。
母乳で育てた人が、その話をしたがるの、武勇伝を語りがるのと一緒っていうのめっちゃいいな。
だから無視すればいいっていう話じゃなくて、聞いてあげられる人は聞いたらいいよね、って。
話を聞くというのと、それに従うというのはまた別の話だもんな。
2021年6月8日
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【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ
- ディーリア・オーエンズ
- 早川書房 / 2020年3月5日発売
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久しぶりに海外小説読んだー
本屋大賞の翻訳家部門第1位。なんかちょっと意外。
帯の感じから感動に全振りかと思ったら全然そんなことなかったな。
主人公のカイアがとにかく美しい。
野生的な美しさがある。
でもなんというか、ピュアで何も知らないみたいな書き方はされてなくて、賢くて動物みたいにしなやかで美しい。
チェイスがカイアに惹かれたのはその異質さなのだろうな。
自分と自分を取り巻く環境の中にいない女性で、そこらへんはとてもスタンダードな流れだなと思う。
だからチェイスがカイアをただ弄んだだけというよりは、もうちょっと細かな感情の流れがあって面白かった。
文章、身体的な感覚をうまく書く人だなぁと思った。
カイアとテイトとの関係性が変わりそうなシーンとか、まず身体が動くというか、身体の動きに心があとから連動してくるような感じが面白かった。
あと個人的にはアメリカの黒人文学をちょっとかじっていたことがあるので、ホワイト・トラッシュと黒人の関係性みたいなところもうちょっと勉強したくなったな。
普通にミステリとしても面白くて、ラストまで読むとやっぱりカイア、純粋でかわいそうなだけの存在じゃない、というのがわかる。
一本筋の通ったどこまでも美しい主人公だった。
2021年5月31日