いきなり序文が名作です。必死で隠すわけではないけれど、できれば人には見せたくない、時折取り出してはこっそり楽しむコレクション。それを表に出すのはさぞかし勇気と勢いが必要だったことでしょう。
正直なところ、収められた短編のうち理解できたのは2作品だけ。「件」の悲しみもいまいちピンとこなくて、目の前に小川氏がいたとしたら微妙な空気が流れていたでしょう。けれどどの作品も、この人にとって大切なコレクションで、それを打ち明けてくれたのだと思うと無碍に突き放す気になれない。信頼されたようでちょっと嬉しくて、少しは理解できないかと努力したくなる。人間同士の距離の詰め方というのは、こういうものではないかと思います。
各短編に寄せられた解説は、自分とは異なる視点の面白さを感じられました。解説を読んでから短編を読み返すと、全く新しい景色が見えてくるかもしれません。

2023年11月29日

読書状況 読み終わった [2023年11月29日]
カテゴリ 国内小説

ところどころに挟まれる探偵小説の話や辛辣さを含んだユーモア。それ以外はとりたてて特徴のない普通のミステリという印象でした。多様な犯人が生み出されてきた今となっては犯人も意外性はなく、早い段階で察しはつくのではないかと思います。目を見張ったのは解決編のディーンの視点の転換。根拠の不足は認めつつ、想像で埋めることなくフェアに事件の真相にたどり着いた過程は説得力のあるものでした。
作品、作者への傾倒が窺える訳者の解説が秀逸です。作者のバックグラウンドを把握した後に本編を読むとまた興味の持ちどころが変わってきそうです。

2023年1月23日

読書状況 読み終わった [2023年1月23日]
カテゴリ 海外ミステリ

初版が出たちょっと前くらいの話かと思ったら、舞台は60年代。ビートルズに、エリザベス・テイラーに、ジャクリーン風スーツの時代です。南部の風習に則った親切さと、個人の精神に忠実な奔放さを併せ持ち、幼くて抜けてるところすら魅力になる美貌のヒロインなんて、人に好かれるに決まってます。人生イージーモード、嫌いになりたいけど、話してみるとあまりにいい子で嫌いになれないタイプ。作品全体にも同じような感想を持ちました。事件の調査と言いつつ関係者と親しくなったり、上司にうつつを抜かしていたりするだけで、棚ぼた的に有力情報が降って湧いてくる。ミステリじゃないじゃんと思ってしまうんだけど、世間に疎いヒロインの言動が可愛くみえたり、応援したくなったりする。なんだかんだで楽しんで、続編も読みたくなりました。
しかしブラッドリーってそんなにいいですかね…見た目と地位はともかく、能力も性格も大したことないような…。


2022年4月29日

読書状況 読み終わった [2022年4月29日]
カテゴリ 海外ミステリ

人生を謳歌する女性と盲目的な恋に落ちた医師。彼女と結婚するために手放したものが、やがて自分自身を苦しめていく物語です。
前半は恋愛、中盤は夫婦関係、後半はミステリと、変わっていく見処それぞれに読み応えがあります。展開と真相はある程度予測がつく分、登場人物たちの絡み合った心理や、どうやって真相に辿り着くか、どう証明するかを楽しむ余裕がありました。ちょっとした会話の中に興味を惹かれる表現や当時の観念が出てくるのも面白く、特にスポーツに関する医師の私見がなかなか印象的です。後に起こることを思えば、ある種の皮肉を含んでいるような。
愛情と憎悪は表裏一体。我が身を振り返り、意図的な誤魔化しをするのはうしろめたさがあるからだと自覚したいと思います。

2022年4月26日

読書状況 読み終わった [2022年4月26日]
カテゴリ 海外ミステリ

超常現象や怪奇現象かと思いきや、ミステリと思いきや、実は…という作品は多々ありますがどうも相性が良くないようです。とくにこの作品はミステリ部分も成立せず、いっそコメディ要素といってもいいくらい的外れ。怪奇小説と紹介されればまだこちらの心構えも違ったのですが。
ヒロインの独白パートは緊張感と不安が増幅していくのを楽しめました。冒頭の詩的な情景描写もさすがアイリッシュと期待通りでした。けどそこまで。途中から誰か別人が書いたんじゃないかと訝しんでしまいました。なにがどうしてこうなった。

2021年9月9日

読書状況 読み終わった [2021年9月9日]
カテゴリ 海外小説

クリスティが生み出した名探偵と言えば、ポワロとこのミス・マープル。前書きでクリスティが、ファンがポワロ派とミス・マープル派に分かれる、と言ってますが、女性やコージーミステリファンはミス・マープル派が多そうな気が。
見た目は古風で温和なミス・マープルが、編み目を数えつつ鋭い観察力と蓄積された経験でゲストが語る謎を解き明かしていくパターンは実に痛快です。
それぞれのキャラクターの語り口で、細部分まで分かりやすく表現しているのはさすがクリスティ。手がかりはしっかり出すフェアプレー精神も心地良く、時に悪戯心も垣間見え、飽きることがありません。ミス・マープルの抑制された感情と、あらゆる人間への包容力故か、どの話も決して重苦しくならないのも魅力。もっとこのシリーズを読んでみたくなります。
「クリスマスの悲劇」の中の、「若い人は、老人が証拠もなしに他人を誹謗中傷するのは罪深いと非難するけれど、そういう若い人達だって何か言う前に立ち止まって考えることはしない」という言葉に、これは現代でも普遍だと気付きました。小さな村で生きてきながら人間なんて似たり寄ったりだと看過していたミス・マープルが現代に生きていたら、これだけ世界が狭くなったことをなんて表現するでしょう。



2020年9月28日

読書状況 読み終わった [2020年9月28日]
カテゴリ 海外ミステリ

まだ暑いうちに怪談を、と駆け込みで読了。怪談話だけではなく、昔話や日本文化の考察などもあり、怖さで涼むという目的とはちょっと離れてしまいました。
明治に来日し、やがて帰化した八雲の視点がなかなかに興味深く、独自の立ち位置が特に注釈によく表れているように思われます。今の日本人にも当たり前に通じる言葉や当時の日本人の価値観を当時の西洋人にも分かりやすく説明していたり、ギリシャ神話に関しては全く注釈が無かったり。八雲から見た「消えつつある日本人の美徳や気質」については現代の感覚からすると首をかしげるところもあり、時代や文化を比較する面白さがありました。

2020年9月24日

読書状況 読み終わった [2020年9月24日]
カテゴリ 国内小説

もう一人の自分が夫と一緒にいるのを見てしまった妻、自分を轢いたはずのトラックが消えてしまった画家、ある日突然妻が別人になってしまった医師、妻に幽霊扱いされる夫。さらにそれぞれが絡みあい、ある精神科専門病院で連続して起こる事件へと繋がっていきます。
なんらかの説明がつくはずと読者としても頭を捻りますが、疾患による事実誤認以外浮かんできません。その上医師・看護師の前で消失事件が度重なる事態に至っては、夢オチかSFに持ち込むしかないのではないか、全ての謎がほんとうに解決できるのかと心配になってくるほど。事件が重なる度に頭の中が混乱してきて、それこそ幻覚を見せられているような錯覚を起こしかけたところで提示されるトリックで現実に引き戻され、と見事に振り回されます。それでも残る疑問。患者も含めた登場人物達の行動の理由。その全てに答えが出たとき残るのは、虚しさと哀しい滑稽さで、タイトルの「暗色コメディ」が改めて沁みました。
初期の作品らしく、著者の作品の中では本格ミステリ要素が強め。情緒的なものを求めて読みたくなる作家さんですがこういうのも面白いです。

2020年9月3日

読書状況 読み終わった [2020年9月3日]
カテゴリ 国内ミステリ

危険と隣り合わせの閉鎖空間で過ごす船乗りが話し好きになるのは分かる気がします。元々の体験談がも徐々に誇張され、非日常性を帯び、ポーにも匹敵するような怖い話のできあがり。子供向けとはいえなかなか堪える話もあり、読みながらお菓子を食べていた手が途中で止まりました。
その一方で、主人公兄妹の子供らしさが微笑ましく思えます。突然現れた見知らぬ船乗りを留守番中の家にあげる優しさを持ちながら、妹や家を守るため警戒も怠らない兄。持ち前の人懐っこさで来客のお相手を務め、話をせがむ妹。二人が子供らしい振る舞いをするとサッカレーさんが嬉しそうにするのは恐らく…という想像は、元恋人の名前と「黒い船」で確信に変わります。改めて人間関係を考えてみると、兄がサッカレーさんに抱いていた無自覚の反発や、妹の好意の寄せ方もなんとも可愛らしい。
最後まで読み終わると、また細部に施された仕掛けに気づきます。悲しいけれど幸せも感じられる温かいラストシーンでした。

2020年8月26日

読書状況 読み終わった [2020年8月26日]
カテゴリ 海外小説

著者の名前とタイトルに色鮮やかな印象を受け、さらに柔らかな色合いの装丁の絵に心惹かれました。
東北新幹線に乗り、桜の季節と共に北へ向かう人々の「ふるさと」をテーマにした連作短編集です。
読んだのが8月ということもあり、お盆に帰省したときのことを思い出しました。口数が増え活動的になる普段は寡黙な父。兄姉に甘えるいつもは仕切屋の母。そして変わっていくあれこれに戸惑いつつも、両親がそうだったように家を手伝い、親を頼っている自分。既に持っていることに気づいたり、新たに作ろうとしたりはそれぞれですが、人でも土地でも、その人の思い出や血のつながりや基盤が帰属するところがふるさとになるんですね。
何の変哲も無い物や、各章のタイトルの花の描写から舞台が浮かんでくるような文章です。物語の世界の中にすんなり入っていけました。

2020年8月20日

読書状況 読み終わった [2020年8月20日]
カテゴリ 国内小説

若竹作品の杉田比呂美さんの絵は、可愛い絵柄ながら孤独で乾いた雰囲気もあって、コージーかつシビアな文章によく合っていると思います。そんな二人の絵本ですから、コミカルな展開が続くからといって童心に返って楽しめるとはいえません。ノノコちゃんが手にいれたものと失ったもの。成長には一抹の悲しさや寂しさがつきまとうことを思い出しました。

2020年8月13日

読書状況 読み終わった [2020年8月13日]

映画は有名どころを2、3作品見ましたが、読んだことはなかったS.キング。入門者に最適、という紹介にひかれてこの短編集を初読に選びました。
4つの短編については、正直面白さが分からず。行間から読み取れるものがなく、展開が簡単に分かってしまったり突拍子もなかったりで、読んでて眠くなってしまう作品もありました。ページをめくる手が止まらなくなったのは、映画化もされた中編の「ミスト」。嵐の一夜が過ぎたかと思いきや、その後不可解な霧が街を襲う。それが一体何なのかは不明なままで、教訓めいたものもない。純粋に緊張や恐怖、不安を全面に出した作品で、だから「恐怖の帝王」なのかと納得しました。ずっとハラハラしてきただけに、主人公同様最後の言葉には救われます。けど、主人公の絵に描いたようなヒーローっぷりが鼻につく。次々と被害者が出ていく中本人だけはほぼ無傷な展開に、その幸運があれば大人しくしてれば生き残れるんじゃないかとさえ思ってしまいました。
次は心理的な怖さを感じられる作品を読んでみたいと思いつつ、そういえば映画の「ミザリー」もわりと分かりやすい怖さだったような。

2020年8月9日

読書状況 読み終わった [2020年8月9日]
カテゴリ 海外小説

血筋も、社会的地位も、財産もある。容姿にも頭脳にも恵まれ、話の分かる美しい妻も、有力な友人達もいる。全てを手にした男が次に求めたのは完全犯罪の達成だった。
生まれついての庶民と致しましては、自分の退屈しのぎに他人の弱みを利用するようなお貴族様にはぜひ痛い目に遭っていただきたい。どっかでボロを出せ、誰かに逃げられるか裏切られるかしてしまえ、と浅ましいことを期待してしまいます。その一方でどんな計画なのか、本当に達成できるのかが気になって仕方ない。強奪のダイナミックな部分と、妻と面接した男性との繊細な心理描写などにも惹きつけられます。やがて明らかになる真の目的とその結果はなんともいえない余韻を残し、誰にとっても1番御し難いのは自分自身なのかもしれないと思ったりしました。

2020年9月3日

読書状況 読み終わった [2020年3月17日]
カテゴリ 海外小説

40年前に発行された文庫です。当時の講談社の仁木さん作品は装丁が正直怖い。背は黒いし、表紙はこの絵だし、特にこの短編集はタイトルも「穴」だし、仁木さんを知らなきゃどんなホラーかと思われそうです。
サスペンス風の作品が多い一方、どの作品ものちに利いてくる何気ない描写の忍ばせ方が実に巧みで、ミステリ的楽しみも味わえます。解説によると仁木悦子さんは「推理的な要素と小説としての面白さは一つの作品として調和させ得るのか」と長年悩んでらしたそうですが、まさに調和がとれている。…と言いますか、仁木さんの作品でどちらかが欠けてたり、調和してないものなんてあるんですか、と心の中でツッコミ入れました。ミステリだと分かってて読んでも小説として面白くて、最後にはちゃんと驚かせてくれて読後感も残る作品ばかりです。
6編のうち2編で障がいをもつ方が出てきます。超人的でもなくもちろん差別的でもない、その描き方のフラットさに仁木さんの視点が見えるように思いました。

2020年2月14日

読書状況 読み終わった [2020年2月14日]
カテゴリ 国内ミステリ

このタイトルで、装丁にはフランシス・ベイコンで、どんなに得体の知れない怪物がでてくるのかと期待が膨らみましたがちょっと拍子抜け。なかにはこの話のどこにモンスターが?と首をかしげてしまう作品もありましたし、そもそもどういう話なのかよく分からないままの作品もあり、なんらかの解説がほしくなります。こちらの読み込みが甘いのか、想像力の方向性が違うのか、全体的に盛り上がりに欠ける印象でした。 

2020年1月30日

読書状況 読み終わった [2019年11月27日]
カテゴリ 国内ミステリ

昔の作家さんのファンになって何が悲しいって、二度と新作が発表されないこと。マローンシリーズにハマって手に入る作品は全て一気に読み尽くしてしまい、次はもうないと気が付いて愕然とした時から私の積ん読が始まりました。楽しみな本ほど熟成させてから読む。この作品は積ん読山の中でも古株でした。
「幻の女」を彷彿とさせる記憶喪失物。結構無駄な動きをしてるし、明らかに重要な手がかりを見逃してるし、端正なミステリとはいえません。けれどシカゴならではの背徳的でユーモラスな価値観、欠点は多くとも魅力的な人物描写、サスペンスに満ちたストーリー展開が面白く、ずっと読んでいたい、解決するまでもっと時間をかけてほしいと思ってしまいます。やがて判明する事実はフェア氏でなくても気が重くなるものですが、ドライかつシニカルな要素を含み、エピローグでは明るい材料も見せ、決して嫌な読後感にならないのはさすがクレイグ・ライス。だからまた新しい作品が読みたくなる。
今までに読んだ作品の記憶だけ無くせないかなぁ、そしたら初読の楽しみがまた味わえるのになぁ、などとくだらないことを考えてしまいました。

2020年1月30日

読書状況 読み終わった [2019年10月8日]
カテゴリ 海外ミステリ

久しぶりに著者の作品を読みました。現実とファンタジーの挾間のような、独特の世界観の印象が強くて、著者が元々ミステリ書きだったことをすっかり忘れてました…。油断した。
1年後に自殺するつもりの女性の視点と、女性の自殺の真相を追う雑誌記者の視点。食い違いが生じるのは当然で、随所にひっかかるものは確かにあったけれど、あまりに唐突などんでん返しに驚き頭の中は大混乱です。安心半分拍子抜け半分、でも章子はどうなるのか、物語も終盤になってどう収拾つけるのかと余計なお世話なことまで考えてしまいました。結論から言えば、きれいにまとまってはいません。他人を理解し語ることなどできないとはいえ、章子という人物が靄に包まれたままです。一方で、チェーンポイズンのおかげで救われた人がいて、繋がった未来がある。どうか幸せにと祈る。自分の呼吸の一つが巡り巡って届くかもしれない、そういう祈りは生きている人にしか伝わりようも、受取りようもない。
30代を過ぎた頃に始まり、年々強まっていった先の見えない閉塞感、あれは何だったのかと考えることがあります。「孤独」と呼ぶには違和感があるのは、結局恵まれていたからなんでしょう。

2019年8月16日

読書状況 読み終わった [2019年8月16日]
カテゴリ 国内小説

人間心理の冷静な観察力と、それを端的に描写する文章力。ただのミステリではなく「ミステリ小説」と名乗るなら、著者の作品くらい読ませるものであってほしいものです。
強烈な印象を残す「ローフィールド館~」とは異なり、言っちゃあなんですが凡庸な展開です。健康を害した初老の警部が、ロンドンでの休暇中に起きた事件に首を突っ込み、独自に捜査を進めていく。けれど、いくつもの顔をもつ再開発の進むロンドンの雰囲気と当時の社会、警部自身にも向けられる人間が陥りがちな心理状況に目が離せなくなります。時折挟まれる、主に滞在先の家で繰り広げられるユーモラスな描写も息抜きにちょうどいい。「ユートピア」の引用も効果的で、最後まで小道具の役割を果たしています。事件だけ捉えれば結局誰も救われていないように思えますが、陰鬱にならず読後感はむしろよい作品でした。
何人か赤ちゃんが出てきて、彼らに注がれる親の愛情が何とも尊く感じられます。形は様々だし必ずしも理想郷に繋がるものではないけれど、尊いことに変わりありません。

2019年7月12日

読書状況 読み終わった [2019年7月12日]
カテゴリ 海外ミステリ

探偵リンリーのシリーズと、その他短編からなる作品集。冒頭の表題作はエラリー・クイーンや江戸川乱歩が絶賛したそうです。
解決への糸口となる些細なきっかけや、ラストの一言による奇妙な余韻。確かに表題作はユーモアとグロテスクさに高揚を感じました。けれど他の作品では、文章のくどさや指示語の多用などによる読みにくさが先に立ち、十分に楽しめなかったというのが本当のところ。中にはどこにオチがあるのか分からないまま終わってしまい、何だったんだろう?とモヤモヤする作品もありました。かなりの作品中で繰り返し「証拠がないから犯人は捕まっていない」と書かれるのも、ミステリに懲罰求めてないから、と白けてしまいます。それよりせっかくのバカミスっぽいアイディアを存分に読ませてほしかった。

2019年5月21日

読書状況 読み終わった [2019年5月21日]
カテゴリ 海外ミステリ

海外の人がジャパニーズニンジャ!とはしゃいでいるのをテレビで見て、そういや忍者物って読んだことないな、と気がついて手にしました。
程度の差はあれ、特殊体質の持ち主のオンパレード。ある種のエンターテインメントショーのようです。忍者がそんな派手に動いていいのかとか、忍者は感情に流されないとか言ってなかったっけとか、ツッコミどころは多々あれど、言うだけ野暮ですね。ファンタジー漫画と同じで、深く考えちゃいけない。
一個だけつっこむならば、天膳さんは長く生きてるわりに女性を知らなすぎる。見た目は普通そうですが、モテなかったんでしょうねぇ。

2019年4月17日

読書状況 読み終わった [2019年4月17日]
カテゴリ 国内小説

若竹七海さんの「クール・キャンディ」の中で、中学生が読むのはまだ早い、と言われていた作品。確かに妹が読もうとしていたら兄は止めるしかないでしょう。
ロマンス、ダム建設、村の風習、さらには登場人物の家庭環境まで。全てが重要な因子となり、結末へ向かっていく構造はさすがの手腕です。晃二の正体はわりと早い段階で感づくけれど、そう思った理由は分からないくらい微妙な仄めかし方や、そこに至った経緯を想像させ興味を逸らさない話の進め方と、文章としても秀逸。現実には不自然に思われる展開さえ人間の不完全さの証明のように感じさせ、人間の理想像「セラフィタス」をより強く印象づけています。
巻末の解説を読んでいて、日本人には「いやらしくない色気」は難しい、とどこかで聞いたのを思い出しました。この作品、直接的な性描写を繰り返していても諄くなく、日本のミステリとしては珍しい。泡坂氏がこういう感覚の持ち主だから、フランスの女性を奥様に迎えられたのかと妙なところを納得しました。

2019年4月10日

読書状況 読み終わった [2019年4月10日]
カテゴリ 国内ミステリ

ありがたいことに、この歳になるまで身近な人間を亡くしたことはほとんどありません。災害や戦争で亡くしたことは全くない。思い出話はあるし懐かしいけれど、受け止め方に悩むような死に直面したことがありません。
そんな自分が災禍で命を落とした方々、身近な人を亡くした方々の気持ちを想像で埋めることは失礼だと思っていたし、正直想像してしまったら抱えきれなくなりそうで怖い。映像を見て体験を聞いて、胸が押しつぶされそうになったり歯を食いしばったりするのも許せず、目を見開いてこぼれる前に涙を乾かす。悲しむ資格なんかないのにと罪悪感を持つこと自体に罪悪感を持つ。この作品を読んだからといって、すぐにそういう思考に走るのを止められるわけではありません。また大きな災害があって思い悩むときも、そしていつかきっと私にも死者に囚われるときも来る。そんな時もう一度読み返したくなるのだと思います。

2019年3月11日

読書状況 読み終わった [2019年3月11日]
カテゴリ 国内小説

ミステリにカテゴライズしましたが、内容はサスペンスです。
犯罪や捜査と同時に、夫婦間の愛情のすれ違いに追いつめられていく作品です。主人公二人はそれぞれにひどく情熱的。ケンカは嫌でも言いたいことは言いたい、だけど根本の考え方や価値観の違いが大きすぎてかみ合わない。そんな日常的な争いの種が大きくなり、事件に発展し、そんなときでも主人公は妻の無事を願う。型にはめるか、自由を認めるか、どちらも愛情なんだけど、その違いを理解し受け入れられない状況にハラハラします。
馬鹿げた痴話喧嘩だと片付けずに読めるのは、ひどく冷静な作者の視点のおかげ。いまだに繰り返されている「男は、女は」という陳腐な争い事が格好良くさえ感じました。レストランの女主人ほど達観できれば身軽かもしれませんけどね。

2019年3月7日

読書状況 読み終わった [2019年3月7日]
カテゴリ 海外ミステリ

日常とは異なる感覚を生む、旅先を舞台にした短編集。オカルトあり、メロドラマあり、コメディありと、それぞれ違った味わいです。短い話の中でも人物像が浮かび上がってくるような心理描写、得体の知れない不安感の煽りはさすがサスペンスの名手。どう落とし込むのだろうと期待が高まるのですが…。読み込み不足かもしれませんが、謎が謎のまま終わってしまったり、余韻が残らなかったり、物足りなさを感じました。原著で読める英語力と、文化的背景への知識があれば、もっと楽しめるのかもしれません。

2019年2月28日

読書状況 読み終わった [2019年2月28日]
カテゴリ 海外小説
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