- Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041835111
作品紹介・あらすじ
かけがえのない、高校生だった日々を共に過ごした四人の男女。テストにやきもきしたり、文化祭に全力投球したり、ほのかな恋心を抱いたり-。卒業してからも、ときにすれ違い、行き違い、手さぐりで距離をはかりながら、お互いのことをずっと気にかけていた。卒業から20年のあいだに交わされた、あるいは出されることのなかった手紙、葉書、FAX、メモetc.で全編を綴る。ごく普通の人々が生きる、それぞれの切実な青春が、行間から見事に浮かび上がる-。姫野文学の隠れた名作。
感想・レビュー・書評
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高校時代を共に過ごした4人の男女。卒業してから20年もの間途切れずに続く彼らの絆を、交わされた手紙、FAX、メモなどだけで綴る物語。
高校時代の同級生4人とその関係者たちが交わした文章のやり取りだけで20数年の軌跡を追う一風変わった形式の小説です。「手紙」だけで展開するわけではないですが、一種の書簡体小説と言えるのでしょうか。
特定の対象しか読まない事を前提とした、秘密のやり取りを盗み見ているようでちょっとドキドキします。
今は誰もが携帯を持つようになり、こまめな手紙のやり取りや授業中に友人にメモをまわしたり、交換日記などもそうそうやったりはしないのかもしれませんが、私とは年代がずれているとはいえ、こういった密やかな交信、文章ならではの口語とは違うすこしふざけた、あるいは格好をつけた独特の空気感は学生の頃を思い出して何だか懐かしかったです。
読者に提示されているのは、誰かが文章におこした部分でしかないので、具体的な出来事などは明確にはわかりません。推察による部分がとても広い小説だとは思いますが、だからこそ色々考えられて心に残るのかな。
個人的には、優子が好きでした。頑張り屋で自立し、芯があるようでいて、どこか自分を押し殺し屈折している所のある女性。幸せになってほしいですね……。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
高校生の男女4人組。
それからの20年、彼彼女たちは別々の道を歩んでいく。
その間、お互いの思いを手紙(ハガキ、FAX)などでやりとりしながら、付かず離れず、いや、くっ付いたり離れたりして、人生を歩んできた。
その過程を全編、すべて文章のやりとりだけで構成された異色の作品。
書き損じ、或いは書きながらも投函できなかった手紙なども含め、登場人物の思いが読者に伝わってくる。
青春時代から、中年の時代になるまでの足跡。
高校時代、卒業、就職、結婚。
1970年代、80年代頃の時代に流行した懐かしい音楽やその時代の風俗も思い出させてくれる貴重な物語。
十年以上も前に書かれた作品だが、今読んでもその面白さは十分に伝わってくる。 -
これほど、描かれてない部分がひき立つ小説はない。
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手紙だけの小説。これは誰が誰に書いた手紙なんだろうと最初は考えて、途中からは多分この人の手紙だと思えるようになりどんどん面白くなった。 学生生活から同じ人物を手紙で読むことができて、大人になってからも変わってない部分と変わっている部分が見えてそれもまた面白かった。
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高校の同級生、悦子、優子、都築を中心に、高校〜社会人までの主に恋愛を中心とした出来事を綴った青春群像劇。手紙やFAXで構成されたそれは、時に一方通行だったり、タイミングが合わなかったりでもどかしく、しかしだからこそ、その不便さがドラマチックに作用する。現代から見た物語の時代は良くも悪くも前時代的で、感覚的に少しのめり込めないところはあったけど、手紙やFAXといったオフラインによるやり取りは、その余白に起こった出来事を想像する楽しみが用意されてていいなぁ。
物語の後半は、結婚や離婚などいろいろな出来事を経験し、歳もとってちょっと悟りの境地に達した登場人物たちの哀しくも温かい言葉で手紙が綴られていて、胸に迫るものがあった。
特に都築が離婚して今は離れて暮らす息子に宛てた手紙は、彼の女性遍歴を思い浮かべながら読むと、一層グッとくるものがあるのだった。
ひとを好きになるということは、取りも直さずエゴではあるが、相手を思いやるふりをして自分が傷つくことを恐れるがゆえに、それを押し殺して真摯に振る舞うことだけに意味はあるのか。ひとを好きになるということは、自制できなくなるくらい取り乱してしまうことだ、みたいなことが書かれていて、なるほどなぁ、と思う。
とても面白かった。 -
どん、と強い衝撃を、何度も受ける一冊。
痛かったり、恥ずかしかったり、羨ましかったり、色々な種類の衝撃を不意討ちで、喰らいます。
「地の文」が一切なく、登場人物が他の登場人物に宛てた手紙だけで物語は進みます。
主人公が高校2年生であった時を起点にした、約20年間が描かれています。
同級生への淡い恋心、先生の悪口、同級生の噂話、受験、進学…
そんなことで埋め尽くされていた手紙の内容は登場人物達が年齢を重ねると共に変化していきます。
別離、結婚、不倫、奪取、離婚…。
彼らに起きた様々な出来事が、変化する手紙の内容から、推察されます。
手紙というのは、ある程度自分を客観視していたり、
少なくとも自分の気持ちを文章にできる程度に整理できていないと書けないもので、その上でどうしても他者に伝えたい気持ちが詰まったものなので、出来事の受け止め方や、人の心について、核心をついている表現が多く、そういう意味で、色々な種類の衝撃を受けたのだと思います。
作中にはいくつか、投函されない手紙も登場します。これが非常によい持ち味を発揮しています。
伝えたいと思って書いた後に思い直して、自分の中に仕舞う感情。
これが手紙の書き手の本心を表していて、作品全体をぐっとリアルに仕上げています。
結局投函されなかった手紙の中に
「なんていうのかな、わがままを言ってくれなきゃ応対できないんだよ、他人は。わがままを、ありったけのわがままをぶつけることが、それが他人を好きになるということなんだ。好きな人にはわがままを言われなければ意味がないんだ。
こんなことを言ったら相手に悪いとか、こんなことをしたら相手に悪いとか、そういうことを考えることがもう、冷たいことなんだ。」
という文がありました。強く印象に残りました。
とても素敵な一冊に出会えました。おすすめ。 -
行間を読むということがこんなにも面白い本に出会ったのは初めてです。特に投函しなかった手紙がミソですね。ある種推理小説のような側面もあり、読み返しつつだったので読了までに時間はかかりました。私は優子と似たところがあり、そんな優子を励ます都築らの言葉に涙しそうになる場面も少なからずありました。構成も斬新で、物語全体に厚みがあり、そして懐かしさを感じさせてくれた本でした。
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夏休み、さて何を読もうかと各社の夏のキャンペーンの小冊子を貰って帰って考える。
今年は角川のフェアに惹かれるものが多く3冊注文、その内の3冊目。夏休みに読み切れず今頃読了。
作者は私より2つ年下で、丁度その作者が歩んできた時代を舞台に、全編をノートや手紙、FAXの文章で構成した物語。
今ならば、さしずめメールかラインのやり取りとなるのでしょう。その頃でもこんなに手紙は書かないと思うけど、まあ、いいや。
端々に出てくる小道具はその時代を良く表しており、そこのところは同じ年頃に同じ時代を過ごした者としてくすぐられる。
普通にかわいくてまあまあ頭も良くてエレクトーンが弾けて男子に対しては控えめでという悦子を中心に友人・優子と多少気になる男の子・宏の高校時代から大学、社会人となって結婚と離婚あたりまでが描かれる。当時ありがちな女性が歩んだありがちな人生を語り方の妙で読ませたという感じ。
この作者には「ツ、イ、ラ、ク」という傑作があり、あの切なさにはとても及ばないけれど、こちらも私らが若かった頃の恋愛を語って結構機微なところを突いているなぁと思った。 -
自分は青春小説が好きだ。
社会人となった今の自分に嫌気が指している訳ではない。
学生時代のかけがえのない時間を思い出すことが出来るし、浸りたい時があるからだ。
思い出は後になるほど美化されるものとは良く言うが、学生時代が特にそうではないかと感じる。
著者はあとがきで、「あのころ。なんて単純で、なんて、一日一日が新鮮で、なんでもドキドキしてたんだろう。…」
と記しているが、この文章に非常に共感した。
なんで体育祭の優勝があんなに大事だったか。夜まで教室に残っている日がなんて特別な日だったか。
当時の自分も全く気づかなかった。
もっとも、気づけなかったから思い出に浸るのかもしれないが。
自分は20代半ば。
この小説では第二章といったところか。
三章以降は自分にとって将来のことになるが、人それぞれ、別の道を歩んでいってもこの手紙のように縁が途切れることなく続けていきたいと思う。
最後に一章で数学の教師の当て方を数列で解明するシーンがあるが、懐かしい。
学んだばかりの数列の知識を使って規則性を発見する…自分もやったなぁ。。
こんな些細な事から当時の記憶が色々蘇る。ありがとう。 -
男女4人の高校生のその後の人生が、
恋模様を中心に手紙やFAXのやりとりのみで描かれる。
高校時代の同級生との恋、大学の先輩との恋、社会人になり取引先の人との恋、
年上の女性との愛のレッスン、結婚後の不倫など、いろんな形の恋が詰まっている。
恋に心を囚われるのは、即ち青春なんだなぁ。
姫野カオルコらしからぬ、どこにでも転がっていそうな普遍的な恋愛モノで、
だからこそ共感を呼ぶのだろう。
真面目だったあの都築クンが、変わってしまったのが残念。
どんなにカッコイイこと言っても、もはや性欲のしもべとしか思えない。