夏の庭―The Friends (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101315119

感想・レビュー・書評

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  • とても評判がよかったので、夏に向かうこの季節に読んでみました。
    主人公は小学生の少年たち。一人が近親の葬式に参列したことで、死という見知らぬものに興味を抱く彼らは、近所に住む老人を「もうすぐ死にそうだから」という理由で観察し始めます。

    なんと不謹慎な、と思いますが、子供が死に興味を持つのは古今東西変わらないこと。
    『スタンド・バイ・ミー』に似ているなと思います。

    ターゲットの老人は、張りのないつまらない生活を暮している様子でしたが、少年たちに観察されていると知ってからは、彼らの期待に背くように、みるみる生き生きとして行くのが印象的。

    やはり人は、誰かに興味を持ってもらうことで、生きがいが出てくるのでしょう。
    たとえそれが、死を期待しての観察だったとしても。

    生活力を取り戻した老人には、世間知らずの子どもたちは到底適いっこありません。
    いつしか少年たちは、うまいこと使われて、家の手伝いをするようになっています。

    少しずつ深まっていく、老人と少年たちの関係。
    温かい言葉はお互い決して掛け合いませんが、一緒に過ごす時間を楽しむようになっていきます。

    核家族の彼らの祖父代わりとなって、昔のつらい戦争体験をきかせる老人。
    なぜ彼が独りなのかを知った少年たちは、老人のために人探しを始めます。

    夏草と共にすくすくと育っていく互いの絆が、ある日突然途絶えます。

    最初はあんなに待ち焦がれていた人の死が、老人がかけがえのない存在になっていたことで、会ってはならない忌まわしい悲しいことになっていたと、身をもって知る少年たち。
    本当の別れをまだ知らない彼らには、あまりにつらい体験だったことでしょう。
    いつしかとても仲が良くなっていたのに、急に現れた老人の親族たちによそよそしく応対されて、ぼろぼろに傷つく彼ら。

    喪失感の重さを知った彼らは、大人に一歩近づき、老人の思いをさらに理解できるようになったことでしょう。

    切ない物語ですが、少年たちによって生活能力を取り戻し、元気を取り戻した老人も、老人の手伝いをすることで、家事の楽しさを知るようになった少年たちも、はじめこそいがみ合っていたものの、どちらも見違えるほどに生き生きと変化しました。
    そんな彼らが協力し合うことで、平凡な日々が意味深いものとなったひと夏の出来事。

    家で親の手伝いをする自分は格好悪いからと、友だちに隠していた彼らも、いつの間にか率先して取り組むようになっていました。

    死は、誰にとってもやりきれないものですが、子供らしいみずみずしい捉え方で締めているところに、明るさを感じます。
    純粋でわがままな少年たちと、面倒くさがりで偏屈な老人の描写を見事に書き分けている著者の筆力。
    夏休みの読書感想文などに引っ張りだこになりそうな物語です。

  • 児童小説ですが、大人が読んでも響くものがあります。
    小学生3人組が「人が死ぬところが見たい」という好奇心から、近所に住むもうじき死にそうなおじいさんを見張ることに。軽い気持ちで始まった観察だったが、おじいさんに見つかり、少しずつ交流が始まります。
    あらすじを読むとストーリーはほぼわかります。わかっていながらも心打たれます。子供が成長するにはこうした好奇心を持ち、行動し、色々な体験をし、出会いや別れを経験することが必要なんだなと思いました。
    少し懐かしい感じのする夏の物語です。

  • 死ぬってなにか、生きるとはどういうことか、という誰しも考えたことがあるであろうことをみずみずしい子どもの視点からとらえた小説。
    子どもの頃に出会いたい一冊だけれど、大人の今でもじんわりと感じるものがあると思う。

    前に読んだこともあり、呼吸を数えないと落ち着かないエピソードや河辺のトリッキーさは覚えていたけど、細かなエピソードの描写が本当に新鮮なんだと思わされる。

    夏の庭はいつまでも少年達の心に残るんだろうな...

  • 【生きて、死んで、知り合った。】

    死ぬってどういうこと?死ぬ人を見てみたい。
    素朴な疑問から一人暮らしのおじいさんを見張りだした3人の少年。

    無気力だったおじいさんは
    少年たちと出会い、再び生きることに目覚めていく。

    不思議な友情が芽生え、当初の好奇心を忘れる三人。
    おじいさんの死は突然やってきた。


    結局、死ぬってことは死んでみなきゃわからない。
    「でもあの世に知り合いがいるって、心強い。」

    死ぬってことは恐いことじゃないのかもしれない。
    そこから始まる「生きる」が伝わった。

  • 人は死んだらどうなるのか…。これは永遠の謎であり、誰もが一度は興味を持つことではないかと思う。だけど、人の死ぬのを待つと言うのはどうだろうか。
    私が今大人だからそう思うのだろうか。もし私も小学6年生だったら、彼らがしたことが純粋なものに思えたのだろうか。
    おじいさんには彼らがどう映ったのだろうか。最初は憤慨しながらも、もう一度生きてみようと思わせてくれた子供たちに親しみがわいただろうか。
    彼らが本当に一生おじいさんを忘れずにこの夏を忘れずに生きてくれればいいなと思う。

  • 「あそこのおじいさん、もうじき死ぬんじゃないか」
    近所でそう噂されている一人暮らしのおじいさんを3人の少年たちは見張ることにした。おじいさんが死ぬ瞬間を見るために。死を理解するために。

    私は、人は死んだらこの世のどこにも残らないのだと思っていた。誰かの心の中にいるよ、とか、空から見守ってるよ、っていうのは何か違う気がしていた。
    だけど、この物語の中に出てくる死んだ人の思い出は空気の中に漂いながら残るという考え方は素敵だと思った。
    死をどう捉えるかは自由で、自分が生きやすいように考えれば良いのだろうなあ。この本は自分に、死を思い、どのように生きていくかを選ぶ上での新しい道を示してくれたように思う。


    電車の中で読んでいたのだけれども、最後のあたりは泣けてきてしまって駆け足で読んだ。もう一度家でじっくり読みなおしたい。

  • スタンド・バイ・ミーみたいな内容かと思ったら全然違った。あたたかい。泣いた。
    老人ホームに木山達が行ったことに対しての言動とかからおじいさんが過去をこれでいい、と思えるまでどれだけ沢山の経験をして葛藤を抱えてきたんだろうって思った。
    そんなおじいさんとの関わりで少年達の世界がすこしずつ変わっていってるのが素敵。
    死って全部無くなってしまうのではなくて、生前の人が自分に与えてくれた影響とかが浮き彫りになったり、目に見えずとも変わらないものを与えてくれたありがたさや色んな想いが沢山溢れてくる。
    「 おじいさんは見ていないみたいな顔をして、ぼく達をよく見ている。」と文にあるように、子ども、や学校などの諸々のフィルターを無くして真っ直ぐに少年たちを見つめるおじいさん、素敵な大人だな〜。
    ひと夏の出会いを経て少年たちがどんな人生を歩んでいくのか楽しみ。
    読後もじんわりと感動が続いてる。

  • 一度はタイトルを聞いたことがあるという人が多い名作。
    季節的にもぴったりだと思い読みました。

    少年3人がお爺さんと交流することで、
    物事を俯瞰して考えるようになり、それぞれの置かれた環境を受け入れていく過程が、
    繊細に描かれていて、少年達の成長を見れました。

    お爺さんも一人ぼっちの時は、生きる屍のようにただ日々を消費しているような生活だったのに、少年達との交流によって生活にメリハリが出て、生きる気力が増したのが見ていて、安心しました。

    お爺さんも少年達も双方に良い影響が出ているのがわかって、こういう友情も良いなと思えました。

    少年達の心の中にいつまでも
    お爺さんと過ごした「夏の庭」は宝物のように心の土台として、これからも生き続けるのだなと思えました。

    少し寂しく、青春のように爽やかで夏読書にぴったりの名作です。

  • 夏休みだからってわけじゃなくって、映画を先に見たところ「原作のが良い」なんていう感想もあって、ね。どうだろう? あたしは相米監督好きってこともあるからか、映画のほうが良かったかな。

    まぁでもそれは小説なのでね、いささか説明っぽくなるところもあるから、映画の補足として楽しく読みました。子供たちが『死を想う』っていうのはなかなかに深い。メメント・モリでしたっけ? 今こそ必要よね。

  • ひと夏の物語。小学六年生にしては大人びている思考だと思えば、そうでないところもあって、なかなか面白い。夏にぴったり、季節を感じられる。

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著者プロフィール

1959年東京都生まれ。作家。著書に、小説『夏の庭 ――The Friends――』『岸辺の旅』、絵本『くまとやまねこ』(絵:酒井駒子)『あなたがおとなになったとき』(絵:はたこうしろう)など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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