- Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167192259
作品紹介・あらすじ
清流と木立にかこまれた城下組屋敷。淡い恋、友情、そして忍苦。苛烈な運命に翻弄されながら成長してゆく少年藩士の姿をゆたかな光の中に描いて、愛惜をさそう傑作長篇。(秋山駿)
感想・レビュー・書評
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少年藩士の成長を描いた時代小説。父が切腹させられ、母と二人貧しい生活を送りながら、剣の腕前を上げていく。終盤は藩の勢力争いに巻き込まれ、ハラハラドキドキ。そして勧善懲悪プラス恋愛モノ。面白かった。
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牧分四郎という少年の青春時代を描いた物語。藩内の派閥争いと父親の切腹、淡い恋、剣術、友人との交わりなど、様々な出来事の中で成長していく姿は、どことなく郷愁をさそる。切ない物語。
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傑作小説だと思う。時代小説を苦手としている人でも、するすると読める。そして、なんといっても清廉で勇敢な主人公が輝いていて、いきいきと生きている。時代背景がら権力争いに翻弄されるのだが、その理不尽ぶりが半端じゃない。この時代に生まれないでよかったと思うこと一回や二回に非ず。よく、武士の時代に生まれたかった、などという人がいるがこのような小説を読むと冗談じゃないと思う。しかし、その制限だらけの時代は人間の生きざまをよりドラマチックにするから不思議。主人公とおふくの違える人生なんていうのはとても切なかった。ほぼ初めて藤沢周平を読んだが、とても嵌った気がする。
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主人公の少年時代から大人になるまでを、
恋と友情と剣と、没落・仕事・派閥争い・懲悪・復讐、
それらをバランス良く配合して
適切に散りばめて描いた良作だと思います。
そしてそれらすべてが、行き過ぎた暑苦しすぎるものではなく、唯一激情と言える場面でさえも抑えた筆致で描かれ、日本的に淡々としていながらもほどよく胸に迫る絶妙なさじ加減。
主人公の性格ともあいまって、清々しい読み心地を与えてくれました。
全体的にはゆったり進行するのですが、クライマックスは息もつかせぬ面白さ。ラストは良かったし納得もするけれど、何か一抹のモヤモヤも残る。このモヤモヤ感は何だろうと考えてみたけれど、今のところその正体は分かりません。 -
小禄の藩士の家に生まれた主人公の少年の成長を、城下町の強い日差しや暮色、四季折々の田圃や山川など、詩情豊かな情景の中に描く。友との友情、淡い恋、剣敵との闘い、お家騒動、と淡々とだがテンポよく印象に残る事件が語られていく。そしてラスト、その思い出深い場面の数々が強く襲ってくることを抑えられなかった。つましく清冽に生きた本作の登場人物たちの世界へ憧れるのは、自分の中の日本人としてのDNAのようなもの呼び覚まされるからなんだろう。解説読んで、最後にブックカバーを外して表紙のイラストを見たら、またまたキュンとしてしまったのだった。
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若い藩士の友情、武勇、そして恋。悲運に翻弄されながらも、己を見失わず一家の主人として、正義に従い運命を切り拓いていく様に、人間の本髄を感じた。最初から最後まで話の主題がブレることなく、伏線を少しずつ、最後は一気に回収してくれるのが良かった。
自然描写が、日本の四季をありありと感じさせてくれ、脳裏に視覚だけでなく嗅覚までも浮かび上がらせてくれた。 -
藤沢周平の時代小説。その昔NHKにてドラマ化。
一人の少年藩士が非業の死を遂げた父の仇を打つため、降り掛かる試練や運命を克服していく。初恋の女性や仲間との友情を通して、主人公の成長を力強く、美しく描いた物語。
いや、「王道って面白い!」ということを改めて教えてくれた小説。時代小説はほぼ全く読まないんだけど、文句無しに素晴らしいと思えた。特に最終章を読んじゃったらもう…だめよ。
雑な言い方をすればジャンプ的というか、少年、成長、友情、初恋、運命、試練、打ち勝つ勇気!みたいなそれこそ王道も王道な物語。なんだけども、その要素一つ一つが圧倒的な筆力でとても丁寧に描かれている為に陳腐な感じを与えない。また元が新聞小説というのもあって、展開というか物語の運び方がとても上手い。要するに、小説としてどこまでも正統派で完成度の高い作りになっている。
清く正しく生きる主人公や、タイプの違う二人の友人 もの静かで清廉な初恋の女性ふく、どれも人物としてとても好感が持てる。それぞれのキャラも非常に物語としてはよくあるタイプの人物像。しかし、繰り返し言うけれどもそれぞれの人物造形が本当に丁寧に描かれて、「あ~あ~こういうタイプのキャラね」とか「こういうやりとりね。あるある」みたいな印象は皆無。人物の息づかいまで感じられそうな描写の丁寧さ、緻密さ。要するに、手抜きが無いのですね。
個人的には主人公とふくの恋愛模様をベタベタ描かずに、必要最低限に押さえたというか最低限にすら届いてないんじゃないかというくらいに絞って描いたことがこの物語全体を見た上でとても良かったんじゃないかと思う。
てな感じで最終章を読むまでは、「めっちゃ完成度の高い時代小説だな~」などと感心しつつもそういう批評的な第三者的な視点が抜けきれなかったんだけど、最終章。
この章の持つ哀愁というか悲哀というか哀切たるや尋常でないものがあり、情景描写の美しさも相まって息が止まりそうでした。
この二人の言葉数の少ない、ほんのちょっとしたやりとり。
胸を穿つでしょう。
100点。 -
日本の原風景。澄んだ小川で、顔を洗う。
出だしの秀逸さは、目が洗われるような感じだ。
自然とサムライが、一体になっていた。
文四郎、逸平、与之助の三人が、それぞれ自分の道を模索し、
大人になって行く。三人の友人としての距離感が、いい。
文四郎の父親への尊敬。母親に対する接し方。
そして、おふくへの芽生え。あぁ。これが青春なのである。
嵐のようにやってくる理不尽さ。その中で、剣に打ち込む文四郎。
確実に、腕をあげて行く過程。興津とのホンのわずかな差。
犬飼兵馬とのしのぎ会い。
藩の権力闘争に巻き込まれざるを得ない状況がありながらも、
自分のポジションをじっと見つめ、守るべきものは何かを考え、行動する。
理不尽に対する、怒り。どこにも、向けられない怒り。
制約の中で、精一杯、清々しく生きる文四郎。
蝉しぐれのなかで、お福との最後の出会い。
その瞬間が、やってくるとは。自分の宿命を堂々と受け止める。
いい作品でした。 -
藤沢作品ではなじみの深い海坂藩で、一人の少年藩士が成長していく姿を豊かな文章力で描き出した作品。牧文四郎とその友輩2人の友情話としても読めるし、隣家の幼馴染との淡い恋を描いた恋愛物としても読める。人によって様々な読み方ができる面白い時代小説である。詳細→
http://takeshi3017.chu.jp/file8/naiyou10002.html