- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167860011
作品紹介・あらすじ
9月にドラマ化決定。驚きのラストが胸を打つ!元英語講師の梨花、結婚後に子供ができずに悩む美雪、絵画講師の紗月。3人の女性の人生に影を落とす男K。著者渾身の傑作ミステリ。
感想・レビュー・書評
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映画を見ていて、ふと白ける瞬間があります。主人公が電話に出る場面。いつの時代のケータイだよと、何だか気持ちがスッと引いてしまう感覚ってないでしょうか。恐らく映画撮影時は最新鋭機種だったであろうそのケータイが逆にその時代を象徴してしまっているが故に、物凄く古臭く、ダサく見えてしまうのだと思います。そして、その印象に引っ張られてその映画自体まで時代が特定されるが故に古臭く見えてしまいます。ケータイは過去にも現代にもありますが、変化が大きすぎるものの代表でもあります。一方で、同じ身の周りのものでも太陽とか月だとか、雨とか雪だとか、森の樹とか、花、まあ品種改良されすぎるものは別にして自然に咲く花なんかは時代が変わっても見る人に同じイメージを与えます。一方、人が作ったものであったとしてもその街の名物、例えばたいやきであったり和菓子であったり、こういったものもそれだけが描かれていてもそれがいつの時代かを特定することはできません。特定の時代を象徴しないもの、それだけではいつの時代か特定し得ないものがある。これは映画だけでなく小説であっても同じことが言えると思います。特定の時代を象徴するものが登場しない限り、読者はそれがいつの時代の話なのかを伺い知ることはできません。時代が変わっても人の心は大きくは変わらないもの。その時代、その時代に精一杯生きる、生きた人たちがいる。
勤めていた英会話スクールが経営破綻した梨花、父母を亡くし一緒に暮らしていた祖母が悪性腫瘍に侵されていることを知ります。手術費用の捻出に悩む梨花は、かつて父母が亡くなった時に援助を申し出てくれた『K』という人物を頼ろうとします。『親類縁者もおらず、わたしにはKさましか頼る人がいません。援助してくださいとは言いません。お金を貸してください。どうか手遅れにならないうちに祖母を助けてください』と手紙を書く梨花。そして、『K』から会いたいという返事が届きます。亡くなった母の誕生日に今も届き続ける『K』からの大きな花束。『K』とは誰なのか、何者なのか。
『美雪ちゃんの結婚のお世話をさせてもらえないかしら』、伯母の紹介から和弥と結婚した美雪。『子どもなど、結婚すればすぐにできるものだと思っていました』という美雪。でも、『一年経ち、二年経っても、子供は授かりませんでした』そんな二人。和弥は思い悩む美雪を庇います。その一方で、『目標ができたんだ。今自分の持っているものすべてを賭けてもいいと思えるくらい大きな目標だよ』と話す和弥。勤めていた会社を辞め、美雪のいとこが代表を務める設計事務所に移り、県が進める香西路夫の美術館の設計コンペティションへの出品に全力を傾けていきます。
『絵の道を志していたわけではない。学生の頃に高山植物の心覚えとして描いた花のイラストが、ある山小屋でたまたま出版社の人の目に留まり、有名な作家の山岳小説の表紙に使ってもらえることになり、あれよあれよというまにイラストレーターになって画集までだしていた』という紗月。そんな紗月は短大時代に加入したW大学の山岳同好会の歓迎会でその場にいた先輩に『お父さん』と呼びかけてしまいました。そこから始まる二人の関係、何万分の一かの確率での出会いの真実が明らかになっていきます。
『駅前のアカシア商店街にある「梅花堂」っていう和菓子屋』の『きんつば』、この街の人々に八十年以上にもわたって笑顔を送り続けてきた地元の名物。親子何世代にも渡って紡がれる地元の人なら誰でも知っている街の象徴が最初から最後まで作品のモチーフのように描かれていきます。また、『りんどう』の花が梨花、美雪、紗月のそれぞれの人生に豊かな彩りを与えていきます。
巧妙に張られた伏線の数々。中盤を過ぎる頃から、あれ、これ、もしかして?という謎解きがそこかしこに覗きだすと気持ちがどんどん集中していくのを感じました。そして、怒涛の伏線回収とホロリとくる結末。う〜ん、湊さんこういった作品も書くんだ、という驚きをまず感じました。解説の加藤泉さんも書かれているとおり、この作品は湊さんの『白』作品です。湊さんというと、うぐぐ、という嫌な読後感が定番です。それが、この作品の結末に読書が目にするのは、もう信じがたいような、目も眩むような後光が差す、神々しいまでの真っ白な世界です。素直に感動しました。
湊さんはこの作品を『次の自分を引っ張ってくれる作品だと思っています』と語られています。そして、『読んだ後で、誰かに「ありがとう」と言いたい気持ちが湧いてきたら、これほど嬉しいことはありません』とも語られる湊さん。
湊さんの作品を読んで9作品目にして、湊さんに思い抱いていたイメージがすっかり変わることになった、とても強く印象に残る素晴らしい作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
三人の女性それぞれの視点で展開していく中、毎年豪華な花束を贈ってくるKとは何者なのか、謎が明かされつつ、三人の女性それぞれの人生が、徐々に重なっていき、最後にはひとつになる。
著者特有の独白形式で進んでいくのだが、時系列と登場人物の相関図を整理せず読み進めたために、私の読解力では、一読ですんなりと物語を受け止めきれなかった。
悔しくて流し読み再読。
ようやく相関図と雪月花というワードを理解できて、実はなんとも素晴らしく綺麗に纏まっている物語だった。
しかしながら、費やした時間の割には物足りなさが残ったのは少々残念だった。 -
梨花、美雪、紗月3人の女性の物語が次々進む。Kとは誰か。途中、頭を整理しようと、相関図を書き、3つの繋がりはと、共通点も書き出しました。それを見つつ読む(最近特に頭が働かないので)。
段々先が見えてきて、繋がった時が気持ちのピーク。物語に気持ちを入れ込むよりもそちらに躍起になってしまった。
著しく身勝手な登場人物がいた。こういう人もまかり通る世の中ですね。かき乱されて不運を辿った美雪さん。美雪さんの語り調が古風に聞こえたけどやっぱりそうだったんですね。良妻賢母でそして強い人だ。
起きてしまったことはどうにもならないし、相手を変えることはできない。自分の気持ちの持ち方次第、そういうことだなあ、と解釈。
陽介側の人間と美雪側の「人間の差」を感じた。
渓谷の事故の件は報われない!やりきれない。
互いを傷つけないように、胸の内に封印することってある、と思った。 -
3人の女性のつながりを整理しながら読み進めました。特に美雪さんの丁寧な話し口調とキャラクターがお気に入りです。母と娘の関係が描かれているシーンもじんわりと色々考えさせられました。
最後まで読んで謎が明らかになったあとで、すぐに最初から読み直したくなり、2度目はさらに楽しめました。お話に出てくる「きんつば」が美味しそうで、買いに行きました。 -
湊作品は『サファイア』『母性』を以前に読んでいた。
『イヤミスの女王』?って呼ばれているらしいがイヤミスの意味はわからないけど、旦那はあんまり好きなタイプではないと言うが、私は同世代だからか何かダークな部分に共感するところがある。
この人の面白さといえば私は『仕掛け』だと思う。
あちこちに散りばめられた『仕掛け』が、最後すべてのピースが揃ったときに「あ!」と驚かされる。
今回もそれぞれ3人のヒロイン達が、どう繋がるのかと思ったら、「そういう繫がりだったのか!」と驚かされた。
やっぱり湊作品は改めて面白いと思った。 -
『花の鎖』
美雪と紗月と梨花、3人の女性の物語が順に繰り返される中で、3人を繋ぐ物語が見えてくる。
各章のサブタイトルで、雪月花が容易にイメージ出来た。その上、ドナー提供とKの存在とくればミステリー好きなら早い段階で先が読めてしまう作品だと思う。
私も、終始推理どおりに展開したため、途中でやや退屈してしまった。加藤泉さんの解説では2回連続で読むことを勧められているが、うーん…中弛みしてしまうので2度目は無さそうだ。
余談だが、私はどうしても希美子のようなタイプが苦手だ。人を対象にどっちかを選ばせるとか…こんな発想の女性を、何故浩一が妻に選んだのか疑問だった。
でも感覚がズレている同士で義母の夏美さんとは合うのかもしれないが。
ミステリー要素はさておき、本作で描かれている母親像については、世代背景の影響を踏まえて、上手く描いているなぁと感じた。女性の生き方や、母性を意識した作品の多い湊かなえさんらしい作品だと思う。
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うわ~なんかTVドラマになりそうな小説…
って思っ読んでたら…TVドラマになるみたいです。
母親を亡くし、唯一の肉親のばあちゃんを救うために見知らぬあしながおじさん的な存在のKに手紙を書く梨花
友人の希美子に誘われて入った山岳部で運命の出会いをする紗月
建築家を目指す夫を支える幸せな日々を送る美雪
3人の女性たちが”花の鎖”でつながっていく…
そして驚きのラストは…
ラストで真実がわかって
やり切れんような、もやもやした気持ちが…
いや、真実がわかったよかったんだけど
も~ホントにね~
人の気持ちがわからない人はなにをやってもわからないんだよね…
いやはや…それが現実か… -
同郷の湊かなえさんの作品を初めて読みました。
イヤミスの女王と言われているので、実は少し敬遠していたのですが、今作はそこまでじゃないとの感想をみて手に取った次第です。
「花の鎖」には3人のヒロインが登場します。
その3人の話がそれぞれ交互に語られるんですが、最初はコロコロと場面が変わるので混乱しながら読み進めました。
途中から「もしかしてこういう事?」と推理するのが楽しくなって、たびたび手を止めては考え、まるで湊さんに挑むような状態に……
湊かなえさん……すごいですね。