- Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396633738
感想・レビュー・書評
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前半はゆっくり過ぎるぐらいゆっくりとしたテンポで話が進みますが、中盤からは一気に読める佳作。
心が和み、生きる勇気を与えてもらいました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
蜩の鳴き声が聞こえてくる中読みました。蜩はセミの一種で「キキキキ・・・,カナカナ・・・」と鳴きます。
秋谷は,数年を幼虫として地下生活し成虫期間は1ヶ月ほどといわれる蜩の一生を自らの一生に重ねたとするならば,どこまでが幼虫でどこからが成虫だったのでしょうか。
10年後の切腹を命じられ,その間仕事に没頭する秋谷は,結局切腹に至ります。しかし,残された家族は,秋谷の尽力により,その後の安泰が約束されます。そう考えたとき,秋谷自身を一匹の蜩となぞらえるのではなく,自らの人生を幼虫とし,その後の戸田家の発展を成虫となぞらえたのではないかと思います。
いずれにしても,秋谷のような生き様の男は現代社会でも疎まれるのでしょう。自らを律する様は,弱い人間からしてみれば邪魔であり羨ましくもあるからです。でも,やっぱりそんな男になりたいと願ってしまう僕は,心の中に弱い部分があるということなのでしょう。 -
10年後に切腹を命じられ、それまでの間は藩の家譜編纂を命じられた男。それだけでも十分興味をそそられる内容で、ある種の謎解きミステリーにもなっていて面白かったし、ラストも感動的でした。
「家譜編纂」が事件の大きなカギになるから致し方ないのかもしれないけれど、家譜の説明が結構多くて読み辛かった。そのため☆一つマイナスです。
映画化されるといいいなぁと思いつつ、勝手にキャスティングを思い浮かべてます(笑) -
最近読んだ中では一番だった。
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藩主の側室との不義密通を疑われ、刃傷沙汰まで起こした侍・秋谷がいた。彼に残された時間は十年。その間に藩史をまとめ、そして切腹せよ、と沙汰が下されて七年。同じく刃傷沙汰を起こした若い侍庄三郎は秋谷の藩史編纂事業を見届けよ、との命をうける。そして彼は秋谷のもとへ向かった。
彼の娘と息子、妻、そして村の人々との触れ合いを通し、そして何よりも清廉とした秋谷に影響を受け、庄三郎は秋谷の無実を信じ、彼を助けたいという思いを抱くが――。不作にあえぐ民と締め付ける代官。また家老からの圧力――。全てが絡み合った先には――。
これを読んで藤沢周平の「蝉しぐれ」を思い出したのはわたしだけじゃないと思うんだけど、どうだろう。題名からして、連想されるものがある。
いやもう、物語の清廉とした雰囲気とラストのあの盛り上がりで、感動するなと言う方が無理ムリ! 家老のニヒルな悪役っぷりに秘められた真実を知った瞬間、もうなんという人だ、と脳内をいろんなシーンがよぎった。秋谷の背負うものの重さに、打ちひしがれた…! そしてラストはもうひたすら感動的。「彼」の一気に大人びた姿が眼に浮かんで、それに涙。
うんうん。驚くほどまっすぐでとても描写が美しい、全ての要素が混然一体となってドラマチックで感動的な物語を成していた。とても美しい。 -
じんわりと、じっくりといいですねぇ。秋谷さんはもちろんですが、息子の郁太郎、庄三郎、百姓の源吉までも、彼らの生きるうえでの覚悟がずしんと心に響いてきます。
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「切腹」という武士にのみ許されたケジメのつけかた、これの持つ意味合いについて思いを馳せることに終始する物語だった。
夏を過ぎ土に帰る蜩のように、庇いだての末にひっそりと果てる男の覚悟に、静かな激情と慈愛を覚えた。