妻と飛んだ特攻兵 8・19 満州、最後の特攻

著者 :
  • 角川書店
3.75
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041104828

作品紹介・あらすじ

「女が乗っているぞ!」その声が満州の空に届くことはなかった。白いワンピースの女性を乗せた機体を操縦していたのは谷藤徹夫少尉(22歳)、女性は妻の朝子(24歳)。最後の特攻は、夫婦で行われていた!!

感想・レビュー・書評

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  • 歴史の波に翻弄され埋もれた、壮大な物語

    右にも左にも傾かないルポが素晴らしい

    中盤の中国~満州の部分は、本題と逸れるものの、
    知らない部分も多く、理解の助けになった

  • これはどう評価していいんだろう?というのが正直な感想で、単純な美談ではないのは確か。著者の「~だろう」「~に違いない」といった推測も多く、どこまでが事実なのか?その背景・理由も想像でしかない部分も多く、戦時中の資料が残っていない話を書籍にする難しさを感じた。他の遺族の方の取材がうまくいって証言をもう少し集められればよかったのだろうけど。(許婚がいるのに他の女性と特攻してしまった人の遺族の話もツライ)
    ポツダム宣言受諾後のソ連の暴挙は事実であろうが、それは後にわかった事であり、この終戦2~3日後に現場の人間に特攻を決意させるだけの事が起きたという確認が取れていないのが疑問の残るところ。14日の偵察の状況から「降伏しても、ただではすまないだろう」という想像から追い詰められた行動としか思えない(たぶん沖縄の自決も同じ構造だろうが、終戦しているか否かが大きく違う)。だからこの行動が正しいのか?正しくないのか?(ルール的にはNGだろう)、よかったのか?間違っていたのか?(残された基地関係者がソ連に虐殺されたという事実も確認できない)の判断もできない。そもそも、飛び立ったところまでしかわかってないので、この特攻が最終的にどうなったのか?もわからないし、モヤモヤ感は残る(資料はソ連に残ってないのだろうか?)。が、情報がない中、短期間で判断を迫られ、新婚生活わずか1ヶ月でこういう行動に至ったという事実には胸が痛む。自分ならどうしていただろうと考えてしまう。
    本書の半分ぐらいは主人公に関係のない戦時中の歴史資料的記述で知ってる人には余計な情報も多いのだが、特攻作戦は当初は想定以上の戦果を挙げたが、数ヶ月で対策されその後は根性ありきの非合理な作戦であったにも関わらず故意に続け作戦を拡大し続けた事や、ソ連侵攻の終戦直前までは満州は本土とは違い物資も豊かで平和な楽園だった事などは、知らなかったので参考になった。

  • 終章に向けての、苦しくなる、畳みかけるような物語の構成は小説以上。すばらしい。


    戦争というと、外交の一手法として選ばれるもの。と理解していた。

    しかしながら、戦争は、被害者になるか加害者かになるかはおいておいて、人殺しのことであり、ひとりひとりの人間にとって決して望ましい手段であるとは思えない。

    国を構成するひとりひとりの国民を、この手段に訴えかけてもいいというところまで思いつめさせるのは、やはり、自分の大切な人たちを蹂躙するものを許せない、という心情ではないだろうか。

    しかし、いざ、兵士として、あるいは軍首脳として、戦争を戦う時には、自分の大切な人を守るというより、やはり組織の一員として、その気持ちと直接に関わらない「人殺し」に加担せざるをえないのではないかと思う。

    そこを、迂遠ではあっても、なんとか繋げ、自分を納得させる作業が、軍に、軍人に欠かせないのではないかと思う。

    しかし、そこが、やはり、個人的にはどこか納得いかなそうな気がしている。

    他方、この本の主人公は、軍とその指揮系統を離れ、目の前の同胞、大切な人を救うために、自ら「特攻」という手段を選んだ。
    軍人として、というより、人として、立ち上がった。

    その点で、清冽なものを感じた。
    著者も記していたが、歴史に刻むべき内容であると考える。


    余談にはなるが、この本には醜悪で、倫理にもとるロシア兵等が描かれている。読んでいて、息苦しいものがあった。
    この本には描かれていないが、別の場所・時期においては、もしかしたら日本兵にも類する行為があったのかもしれない。

    私は、その鬼畜に劣る所業は、国籍に付随するものではないと思う。

    今更、そういった行為をあげつらい、自国をなんらかの交渉の優位にたたせるため、金銭のため、他国を貶める言動は浅ましいと思う。
    日本には、日本人には、そのような浅ましい言動を世界に向けて発信してもらいたくないと考える。

    戦勝国の子孫にも、戦敗国の子孫にも、その他の国の子孫にも、互いのこれからのために新しい関係が必要なのではないだろうか。

    新しい悲劇を生まないためにも。
    余談ではあるが。

  • 2015.8.252015.9.8

  • 壮絶なる人生。戦争での凄惨さと、満州国で起きた実話に基づくもうひとつの終戦。
    大戦の背景に占める割合が多いが、説明はよく調べられていて、引き込まれる。

  • この季節になると大戦に関するものを読みたくなる、と言うか、読まなければという気持ちをかき立てられる。戦争や原爆について考えよう、という声がかかるが、知らないと考えがおよばない。知れば自然と考える。だから、大戦について何か知りたくて、それが読むという行為につながっている。
    前置きが長くなったが、本書の内容はそのタイトル通り、自分の妻を飛行機に乗せて飛んだ特攻兵の話。副題の「8・19満州、最後の特攻」からは、なぜ玉音放送の四日後?なぜ満州?という疑問がわくが、読み進めるとその謎の答えが分かる。歌舞伎役者のような凛々しい一人の文学青年が時代の波にのまれ、特攻兵として意を決し、その一方で一人の女性を愛し、その特攻機に共に乗った。特攻機に乗りこんだ二人の心境を思うと、胸が張り裂けそうだ。
    ただ、本書は戦争さなかの愛情物語ではない。全六章のうちの二章を満州事変の記述に割いているように、史実を細かく描いている歴史書だ。しかし、史実を描き、時代をつづった歴史書だからこそ、あの時代を生きた二人の愛情の深さと辛さがじわりとあぶり出されてくる。
    また、本編では機能していたワタシの涙腺の防御壁は「あとがき」で一部が崩壊した。最後の最後まで、大戦が残した爪あとにワタシは揺さぶられた。

  • 「8月15日(玉音放送の後)の特攻隊員」(吉田紗知著)に続き、「妻と飛んだ特攻兵」(豊田正義著・2013.6発行)を読みました。こちらは、8月19日の満州におけるロシア戦車隊への特攻です。ノンフィクション作家の取材と執筆、2年半の作品です。関東軍を怖れたルーズベルトがヤルタでスターリンに参戦して欲しいと熱望したとか・・・。スターリンは参戦の見返りを要求しルーズベルトは承諾したとか・・・。関東軍は居留民を見棄て、ソ連兵は略奪・強姦、そのあとは中国人が身ぐるみ全部を奪ったと。前代未聞の特攻に「涙」です。

  • 私は子供の頃に周りの大人たちに
    『命は大事にしなさい』と教えられてきました。
    きっと自分の子供にもそう言うでしょう。

    この言葉が通用しないのが正しく戦争なのだろうと思いました。
    解説にも書いてある通り、この本は単なる夫婦愛の美談ではなく、悲劇。

    生きても地獄と言って自決していった人たち。
    想像する事しか出来ないけど、怖くて怖くて仕方なかったのだろうと思う。

    これからの日本では子供たちにちゃんと
    『命は大事にしなさい』が通用する国であり続けて欲しい。

  • 戦後70年ということもあり、テレビでは戦争を振り返る番組が頻りにかかっている。

    偶然、私が読んでいたのがこの本だ。特攻隊を考える際、今の我々の死生観や国家観では語れない。リアルな出来事から、想像するしか他ないのではないだろうか。

    本著の大半は、史実の整理に割かれる。この戦争が、いかにも関東軍の暴走から開始したかのような語りだが、ある面では事実だろう。国家の管理が行き届かない事ほど、我々が畏怖すべき事はない。言うなれば、終戦宣言後に独断で、かつ、妻を乗せて特攻する行為もそうだ。組織の体を為さず、もはや末端が独自判断で戦争行為をする事を当たり前に受け入れてしまっている。勿論、ソ連軍の狼藉、既に組織が瓦解している事など、原因はある。

    戦争中のエピソードに、良いも悪いもない。国家観の利害を高次に操作、調整する際、起こるべきは必然。帰結として必然となる戦争を、回避するためには、戦争で得するもの全てを無機能にさせなければならないだろう。

  • 日本降伏後の満州。妻とともに空へと消えた特攻兵がいた。その男、藤谷徹夫と妻朝子の生涯を追った歴史ドキュメント。

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著者プロフィール

1966(昭和41)年、東京生れ。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨークの日系誌記者を経て、ノンフィクション作家に。戦争、犯罪事件から芸能まで取材対象は幅広く、児童書の執筆も手がけている。『ガマ 遺品たちが物語る沖縄戦』(講談社)は、厚生労働省社会保障審議会の推薦により「児童福祉文化財」に指定される。著書に『妻と飛んだ特攻兵 8・19満州、最後の特攻』(角川文庫)、『消された一家』(新潮文庫)他多数。

「2018年 『ベニヤ舟の特攻兵 8・6広島、陸軍秘密部隊レの救援作戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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