- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043710027
作品紹介・あらすじ
あの夏、白い百日紅の記憶。死の使いは、静かに街を滅ぼした。旧家で起きた、大量毒殺事件。未解決となったあの事件、真相はいったいどこにあったのだろうか。数々の証言で浮かび上がる、犯人の像は――。
感想・レビュー・書評
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本の中に本の話が出てくるというと「三月は深き紅の淵を」が思い浮かびますが、この本では本の内容というよりもその本の元ネタとなっている過去のある事件に焦点が当たります。かなり早い段階で恩田さんは主人公の語り、自問の中で〈書かれていることには嘘が混じっている〉こと、〈最後まで読んでも真相がハッキリしない〉ことを暗に読者に伝えています。なので、恩田さんいつものごとく最後はモヤモヤで終わるんだなという覚悟が早々にできました。ただ、何が嘘なのかという点は注意して読もうと思いました。
読みはじめて感じたのは、とにかく読みづらいこと。インタビュー形式で「」括りになっていたり、なっていなかったり、第三人称的な書き方になったかと思うと、記事のようなものや取材メモがいきなり出てきたり、それでいて時系列はバラバラ。これでは日を分けて読んでいると分からなくなってしまうと思い2日で読み切りました。注目したのは第三人称的な書き方の部分で、ここは真実が書かれているのだろうなと考えました。そして読み終えましたが、最終章の読者振り落とし感は半端なかったという点は強く印象に残りました。
ただ、色んな形式で書かれてはいましたが、多いのは事件について知っている人たちの語りです。ここで面白いと思ったのは、ある人の語りの中で登場した人が、今度はその人が語り手となって出てくることです。状況が分からない読者は順に出てくる語り手に感情移入しながら、他の登場人物をその登場人物がどういう人なのか頭の中でイメージしながら読んでいきます。ところが語り手が変わるとその出来つつあったイメージが否定されてしまったりもする。新しい語り手に今度は感情移入してしまうからです。一体何が真実なのか。
でもよく考えると我々のリアルな世界でもこれは同じことなはずです。AさんはBさんのこと良く思っていないからなぁとか、Cさんは実はBさんのこと好きなんじゃないかとか、Bさんの話は本当か嘘かわからないことがある、とか、知っている人たちだと意識になくても自分の中に持っている他人のデータベースと照合しながら話をします。この本の登場人物は読者にとっては全員が初対面ですが、無意識のうちに知っている誰か何かと重ね合わせたりしながら各登場人物のイメージを作っていく。そのため読者のこれまでの経験によって見える世界も変わってきて、読者の数だけ答えがある。恩田さんが〈最後まで読んでも真相がハッキリしない〉というスタンスをとっている以上、読者の中に出来上がる人物像、そして真犯人が誰かということも人によって違ってくるのも当然なのかもしれません。
この本は、推理小説として真実、結末を追うものなどではなく、茫洋とした独特な世界観の中に描かれる色んな人たちが同じ一つの事象をどう捉えどう見ているか、その人の考え方、感情、そういった心の内を味わう作品なんだと思います。極めて恩田さんらしい作品、この本は特にその印象が強いです。その意味で、話の結末には全くスッキリしませんが、読後感は極めてスッキリです。恩田さんの世界感を存分に楽しませていただきました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
数年前から気になっている作品にいよいよ手を出した。
ある一家で起きた大量毒殺事件をもとに構成された物語。
語り手が頻繁に変わる中、読み進めれば進めるほど真相が分からなくなっていく、なんとも不思議な話であった。
とにかく不穏で、読んでいる間はずっと不安な気持ちにさせられていた。
真犯人は誰なのか。
ユージニアとは。
不気味さが魅力な恩田ワールドを体感できる一冊。 -
なんじゃこりゃぁ!スリリングでテンポよく色々なことが明らかになっていっているはずなのに、剥いても剥いても…こりゃあもう一回読まないと。インタビュー形式で面白い!と思ってたら、なんとなくその体裁をとっている理由もわかった気がする。真実なんて…
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夏のくらくらする蜃気楼みたいな本だった。
ゆらゆらして掴めそうで掴めない真実。
真実を知りたくて読み進めているのに、わからなくても神秘的でいいな、という気もしてくる。
人の揺蕩う時間をゆったりとゆったりと噛み締めていく新しい感覚のミステリーだった。
痛快な推理や動かぬ証拠とかはない。
帯には「全てを疑え!」と書いてあった。
わたしはそんな気にはならなかった。
むしろ「信じるよ」という穏やかな気持ちで読了した。
私は文庫で読んだけれど、巻末に装丁デザインの話があって、素敵なこだわりだった。
単行本でもう一度同じ話を読んでみたくなった。 -
感想
読み終わった時の心境が、ゴールデンスランバーを読み終えた時の興奮と同じくらいの混乱。
大量毒殺事件に多少なりとも関わる人の証言で事件の成り立ちがどんどん明確になっていくが、明確になっていくようで全く明確にならず、読み終わって大混乱。読み込みが甘いのかと、縋る思いでこの本を読んだ人達の考察を自分の感じたことと擦り合わせる。が、みんな同じように混乱していた。
犯人はわかっている。答えに辿り着いている。
なのに、読み終わっても真犯人がわからないって一体どんな現象。
Q&Aを読んだ時も思ったが、ひとつの出来事があったとして、関わった人の数だけ見方や感じ方があり、その出来事の輪郭も色もピタッと合致することはないのだな、と。
そしたら真実とは誰も知ることはできないのでは。気が遠くなった。
一気に読んだので体力を消耗。
2日間で読んだのですが、1週間くらい読み続けていた感覚。
恩田陸さんが描く世界は、独特な雰囲気を纏っていていつも少し不安定で不思議で不気味で閉鎖的で魅力がある。登場人物も然り。いつも早く抜け出したいけどずっとそこにいたい気持ちで、縋るように読んでいる。 -
なんでしょう?
フワフワした酩酊状態のまま、
大量殺人の犯人は特定されるし
動機もなんとなく納得できる
ある大量殺人に関するインタビューで構成されてはいるけれど、物語の核心はそこではない
不思議に包まれてもどかしい
でも真実って、そういうものだねと再確認させられる傑作
どうも文庫本より単行本のほうがイイらしい -
恩田陸らしい、重層で深い世界観に飲み込まれます。
特に前半では、点と点が結びついて、線になりつつも、線が交わったり交わらなかったりして、この物語がどこに続くのかわくわくさせられます。
以下若干ネタバレになりますが、明確な結論をあえて明示しなかったのは、ひとつの答えや真実を求める現代社会へのアンチテーゼのように思えました。
『忘れられた祝祭』はあえて細部の記載が事実と変えられていましたが、そもそも人の記憶は曖昧なもの。インタビュー内容がすべて事実という保証はありません。各章がインタビュー形式になっているのも、それらが意図的にしろ無意識的にしろ、物語の中での矛盾を許容しているものとなっています。
誰かが「真犯人」ということではないことで、もやっとする終わり方ではありますが、分かりやすく誰もが納得する「正解」はないということが、物語の奥行きを出しているように思えました。 -
ずっと霧の中を歩いているようなもやもやした感じがすごくよかった。
語る人によって見方が変わってきたり、混乱しながら読んだ。