- Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065273654
感想・レビュー・書評
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自転車に詳しくないので、最初は退屈でした。
でも * のところから、急激に面白くなり
眠かったけど最後まで読んでしまいました。
「悪いことをしていない人」を巻き込む凶悪な事件が続いていて、
変な人には近づかないほうがいいなと思っている今日この頃。
この主人公も、結果だけを見ると「わけのわからない人」
でもたぶん一見そうは見えないんだろうな。
読んでいくと彼なりに言い分のようなものがあって。
うーん。生まれ育った家が良くなかったのか。
ただ石原慎太郎さんの芥川賞受賞作『太陽の季節』も
主人公は経済的には恵まれていても攻撃的な性格
結局は本人が経験をどう活かしていくかということなんだ。
『歎異抄』を読んだらいいのかも。
私も読んでみようと思いました。 -
芥川賞受賞作品。
現代の20代の人達によくある風刺みたいな主人公。自分も40代後半になってきて、振り返ってみればそんな時期もあったなと感じる。
咄嗟に「怒り」の感情が理性では押さえきれなくなり、周りに迷惑かける事などはよくあった。
自分のルールと世間のルールのズレを感じていたのだが、そんなのは自分の我儘に似た傲慢さだった。若い頃には気付かないでいた。今にして思えば笑えるのだが、当時はそんな風な未来がくるとは考えてもいなかった。
「遠くに行きたかった」
作中サクマは何度も言う。
似た感じで自分の場合は認められたかった。世間にも親にも職場にも仲間にも。
自分が一人立ちして生きていける力をつけて、誰もにも認めてもらいたかった。
だけど今にして思えば、周りにいた人達に支えられながら導かれながら、今の自分があるような気がしている。感謝でいっぱい。
年を取り、今度は自分がそっちの番だ。
行き詰まる若い子達にどれだけ手を差しのべてあげられるか。
道を示してあげられるか?
支えてあげられるか?
この作品を読んで一層強く今後の自分の取るべき行動言動について考えた。 -
予備知識的に、なんかコロナで大変な世相を反映した社会派、というような煽りを、ちらぁっと見ただけだったので、なんとなく、コロナで大被害を被った業界の人のそこらへんの経済的健康的な困難を描いたものかねぇ、というような想像で読み始めた。全く違った。文章や語彙、文法がとても現代的なので、私のようなダイナソーにはちょっと読みづらかったのだが、総じてテンポがよいのでバランスよく読める。しかも、内容はかなり重く暗いのに、とても読みやすい。不思議な読み心地。この読みやすさは文章が平易であることもたしかにあるかもしれないが、主役の”サクマ"が、ある種異世界人ぽいというか、悩んでいるようで、なやんでないというか、他人事感があるというか、感情というか情動に障害があるような、脳味噌のどこかがノックアウトしてる感じ。芥川賞にありがちな、読了感がどうしようもない作品ではあるが、そんなに嫌な気分が後をひかない。
ジョン・アーヴィングの『サイダーハウスルール』を思い出した。あの、ホーマーのように、まあ、とりあえず全てを先送りにして、なんとなく、どの場所でも適応している風に、適応していない、あのどうにも説明しがたい雰囲気。そして、たまに頭真っ白になって爆発する。
P120
”ここは全然ゴールでもなんでもないことをわかっていく。特に、こなれた振る舞いをする人間ー大体が累犯とか暴力団関係者とかその両方とかーを見るにつけ、なるほどここは最悪のゴールではなく、ある種の人間にとっては、例えば世間における社会人大学院とか海外転勤とか、要するに人生の一ステージに捉えられているということをまざまざと見せつけられた。”
目から鱗がおちた。 -
疾走感のある文章。このまま自転車の話かなーとか思ってたら一転…。
***
遠くに行きたい。ここではないどこかへ行きたい。というとき、たいていの場合、答えは遠くではなく足元にあるものです。でも若い時はそこに気付かず、あがいたりもがいたり背伸びしたり…。
言ってしまえば世の中はブラックボックスだらけなのかも知れません。
どうやったらタワマンの最上階に住めるのか?スタバでパソコンカチャカチャやっている人は一体何をしているのか?セレブは毎日パーティーばかりしているのか?
しかし、華やかに見える世界でも結局は人と人の関わりであり、自分との向き合い方次第で見方や考え方も変えることができる。
そこに気付いたとき主人公のようにループから抜け出せるのでしょう。
そういった意味で本書は人間の小説であり、いかにも芥川賞という感じです。
ループから抜けた先にゴールがあるか?そもそもゴールとは何なのかを考えることも含めて。
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❇︎
ブラックボックス/砂川文次
ちゃんとしたい
どこか遠くに行きたい
繰り返しから逃れたい
そう考え続けたサクマが自分の中の
不快感を飼い慣らせずに爆発させた結果、
刑務所に入ることになる。
刑務所で刑期を勤める中、自分と向き合い
受け入れようとし始める。
変化はすぐには現れないが、誰にも徐々に
何かが変わる瞬間があるのかもしれない。
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ここのところの芥川賞作品では出色!ひとつ前の作品と読み比べましたが、こっちの作品は「化けた!」という気がしました。
ブログとかには、こっちの感想を書きました。よろしければ覗いてみてください。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202206040000/ -
芥川賞受賞作。都心を自転車で駆け巡るメッセンジャーの仕事をしている男性が主人公で、コロナ禍で急増したとされる雇用の不安定な配達パートーナーを現実でもよく見かけるだけに、リアリティを感じた。
"働くというのは、選んでいるように見えてその実選ばれる側なんだ、と思い知らされたようだった。ちゃんとできるなら今すぐにでもしたい。でも今すぐちゃんとしなくてもなんとかやっていける。やっていけなくなる日がいつか来ることだけは分かっているが、そのいつかが分からないから、無限にいつまでもこんな日々が続いていく気もする。"
ちゃんとするってなんなのだろうな。ちゃんとした大人って。
変わらない、変わらない、という嘆きには焦燥もあるだろうが、多分間伸びした安心も含まれている。
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(群像2021.8にて読了)
凄い。このような作品に出会うと語彙力がなくなる。ずっと緊張感を抱きながら読みました。
メッセンジャー(自転車便の配達員)をしている主人公の男性(20代後半)は、自衛隊を退職後、職を転々とする。自己の中に抱く怒りの爆発を抑えられず、その都度、職と居所を変える。
後半部分に入り、ガラッと内容が変わり、主人公は自分のブラックボックスと向き合うことになる。ずっと向き合うことを避けていた、自分の闇の部分と向き合う姿から、この社会を真っ当に生きていく難しさを叩きつけられた。 -
ずっと遠くへ行きたい。
具体的であるようで抽象的。
未熟さ故の暴発なのか。
完成された物への暴発なのか。
止める事の出来ない感情。
感情の行先は何処なのだろう。