ブラックボックス

著者 :
  • 講談社
3.10
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065273654

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わってみると、サクマという人物のドキュメンタリーを観ていたような感覚になった。私は自転車に詳しくないので専門用語が出てくると少し読みにくさを感じたりもしたけれど、自転車で配達をする時の疾走する描写や、後半でガラッと場面が変わってからの描写も、非常にリアルに感じながら読んだ。刑務所での生活やルールのようなものまで、すごく詳しく書かれているけれど、あれは全て取材によるものなのだろうか…。そしてコロナ禍の世の中が舞台になっている点も、リアルさを増す要素だったのかもしれないと思う。
    主人公のサクマのような人、サクマの気持ちがちょっと分かるなって人、結構いるのではないかなぁ。私も、部分部分では、少しだけ共感できるところがあったけれど、しかしそれがはっきりと「これ!」と言い切れるようなものではなかったりして、だからそれらを表現するためにこの小説は書かれたのかな、なんて思ったりした。
    それにしても、サクマは、何かしらの変化をしていっているんだろうけれど、でもやっぱりサクマのままなんだな。それが子供という存在が出来たことでもう少し変わっていってほしかった。
    複雑な表現も時々あったけれど全体的に読みやすい文章で今現在の空気感を感じられる小説だった。また時間を置いて再読してみたいと思う。

  • 芥川賞受賞作として手に取りました。

    感情などの表現はとても良く、惹き込まれるように読んでしまいました。

    職を転々とし、自転車便の配達員にありつき、というストーリーは今の世界情勢上、誰にでもあり得るため、この話は自分と全く無関係ではないと思った。

    ただ、今の自分には少し難しい気がしたが、近くも遠くも自分の将来のことを考えることになったとき、また読みたいと思えました。

  • ちゃんとしなきゃな、ってずっと思ってる癖に、変化が怖くて動けず、理由を見つけて能書き垂れてる自分とサクマを重ねる。もうこの年だからって止めてしまうけど、10年後の自分から見ると若いんだよね。何が幸せか正解か誰にもわからない。自分と向き合って、不安を抱えながらも勇気を持って心のブラックボックスを開ける。そして飛び込んだ世界も未来がわからないブラックボックス。でもちょっとした事で、自分の心次第で周りも変わる。変わったことを認める。(☜向井さん)そんな風に私は受け取った。刺さりました。

  • 非正規雇用の業務は肉体労働か単純な事務作業がほとんど。じゃあこの先どうする?と将来を考えたとき新卒のレールに乗らずやりたい事もはっきりしないと『このまま派遣かバイト』または『ただ業務量が多い正社員』のどちらかを選ぶしか無い。これしか選択肢を知らないから。一人で『暗い未来しか待ってない現実』から抜け出すことは正直難しくて、誰かが他の未来を提示して背中をちょっと押してあげなきゃいけない。そんな暗い日本の構造がただ辛かった。

  • 暴力的なんだけれども文章にするととっても共感出来てしまうのは、多分自分の頭の中では繰り広げられている光景だからかもしれません。いけ好かない上司、弱いものに食ってかかるコンビニ客、理不尽ないじめをするやつ。頭の中ではボコボコにしたり悪態をついたりしています。でも実生活では全然そんなことできないし、当然しない。自分だって誰かの頭の中ではボコボコにされているかもしれない。全てはブラックボックスなんですよね。

  • コロナ以降の状況を反映した今どきの作品だが、描かれる若者の心情は割と普遍的なものを扱っていると思う。漠然とした将来への不安や、現状に対する閉塞感、どこか遠くへ行きたい気持ちなど、ありきたりな若者のありきたりな心情を具体的に捉えて良く描写されていると感じた。

  • “ずっと遠くに行きたかった。
    今も行きたいと思っている。”

    すごくよくわかる

    高校卒業後ぐらいからずっと、どこか遠くに
    行きたいと思い続けている
    海外に住んだ、海外旅行をしてみた、
    知らない土地に行ってはみても、一時的には
    満たされてもすぐにまた遠くに行きたい衝動に
    襲われる
    結局それは場所じゃないんだ、内面が変わること
    なんだと気づく

    主人公サクマはバイクメッセンジャーから、
    いきなり遠くに行ってしまい、なにも満たされない
    日常に思い至る
    物語は淡々としているけれど、訴えくるものは大きい

    サクマの苛立ちはよくわかる
    男社会のあざとさや煩わしい人間関係をやり過ごす
    ために身につける気持ちの悪い処世術…
    一体いつになったらこの日常のループから抜け
    出せるのか? 
    10年後、20年後になればゴールにたどり着ける
    のだろうか? 
    たぶんたどり着けない

    そういった雑念を振り払う自転車の疾走感は何ものにも代え難い、雨の日だって関係ない

    とはいえ、日常のループだって毎日同じではない
    同じことを繰り返していても毎日微妙違う、そこにきっと明日を生きるヒントが隠されていると信じる

  • 都会を颯爽と走るメッセンジャーの話かと思って読み進めたら、なんと刑務所内の出来事にまで。
    タワーマンションに住むつもりはもうないと表現されていたけれど人生、何処でどう転がってしまうか分からない。
    格差問題って事でもなくただもう不運な話。堪え性のない、キレやすい性格…でも、サクマは自分に正直にいつも過ごしていただけ。
    手は器用でも、生き方が不器用。そういう人間、いくらでもいるし、自分だってそうかもしれないと思ってしまう。
    人間はいつだって1人なんだ…しみじみ思う。

  • 「ブラック・ボックス」by砂川文次

    第166回芥川賞受賞作

    自衛隊を辞め、不動産屋を辞め、今は自転車メッセンジャーの仕事についているサクマ、38歳。

    メッセンジャーを生業としつつも、特に何という目標も積極性をなく過ごす毎日。

    目の前の仕事をこなすこと、それに夢中になることで本来向き合うべきことから逃げていることも分かっている。そんな流されている自分への苛立ちがつのるか、それとも性分なのか、突然暴力的にキレてしまう。

    その結果、後半では拘置所に入り、そこでも事件を起こす。 ここの部分は筆者がインタビューに応えて言っていたが、「主人公を究極的に自分に向き合わせるには拘置所という設定が良いと思った」とのこと。

    サクマはさかんに「ちゃんとしなきゃ!」「ちゃんとするってどういうことなんだろう?」とつぶやき、目の前のことに逃げる自分を責めるようなくだりが多くあり、ちゃんと出来ないことの葛藤が描かれる。

    毎日を忙しくすることで何かをしているような気になったり、忙しくすることで本当は今すぐ向き合うべきことを棚上げにしていく感覚はよく分かる。

    でも私なんか「別にちゃんとしなくてもいいんじゃないの?」と思ってしまう。「何かしなきゃ」とか「いつまでにしなきゃ」とか、他人の基準で生きるんじゃなくて、今の自分で生きることでいいんじゃないの?と思ってしまう。逃げたい時期もあるじゃないかと。

    チコちゃんに叱られるかも知れないけど、「ぼ~っと生きていていいんじゃないの?」

  • 落ちてゆくのは簡単。でも、そこから這い上がるのは、何倍も何十倍も難しい….若い時は今しかないなんて、若い時は気づかないんだよなぁ〜と。そんな作品。

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著者プロフィール

1990年、大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。他の著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある。

「2022年 『ブラックボックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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