ブラックボックス

著者 :
  • 講談社
3.10
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本棚登録 : 2850
感想 : 295
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065273654

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞のイメージに当てはまる作品。

    前編、サクマを寂しいやつだと見ながらも、自らにも当てはまる部分が多く、いわば現代の普遍的な人物の心情を詳細に書き記す文面の数々に疲弊したりもした。
    周りの人間を蔑んで自分を保つサクマを悪としても見れなかった。改善の余地を見出しても負けてしまうある種の人間らしさも垣間見えるからだ。
    楽な決断に逃げる様など。
    どんな日々を積み重ねたら納得できるゴールがあるのかは分からない。

    後編、刑務所。「繰り返しを繰り返すことが嫌だった」
    繰り返しから逃れること。を望んでいたのに繰り返す生活の最たる例の刑務所で改められる。
    自分。全てが自分。
    自らで生きづらくしてしまう。
    サクマは前編で感じたよりも不器用な男だった。
    この時代では特に生きづらさを感じるであろうことが心情と考えの描写でよくわかった。
    作者はどちらのタイプなのだろうか。どちらにせよここまでサクマを描き切るのはすごいと思った。
    日々は対して変わらないが、変わったとしても生活は続くし、終わったとしても終わりはない。哲学だった。

  • 芥川賞ということで読んでみたが、半分で辞めました。合わない。こういうのは。

  • 自転車に乗って配達の仕事をしている前半部分は、知らなかったことを知れた面白さもあり、物語がどうなっていくのかと気になっていました。後半は暴力が多く怖いという気持ちも多く、話に入りきれずに終わった感じです。

  • 主人公がダメ人間。苦役列車と似たり寄ったり。

  • 前半後半で全く景色の違うお話。ちょうどテレビでメッセンジャーや宅配員の特集を見た後に読んだので、前半はかなり生き生きと登場人物が動いていた。主人公はたがが外れると問答無用に相手を攻撃する。全く寄り添えないし、描写は怖かったけれど、それもまた本を読む醍醐味のような気がします。

  • 自転車便のメッセンジャーとして働くサクマ。不安定な雇用でなかなか先が見えない。同棲中の彼女がいるが、未来が見えない。そんな若者の暮らしが表現されており、そこから現実を見てみると、今の若者とサクマのような立場で生活せざるをえない人がたくさんいるのではないだろうか。本人が悪いわけでもない、でも社会を否定するわけでもない、その無力感が作品に出ていると感じた。20代くらいの人が読めば、大きな共感を得られるかもしれない。サクマも普通に暮らしているだけ。でも普通の世間での暮らしと刑務所での暮らしで何が変わるのか。バブル崩壊後の若者に厳しい日本の閉塞感を見事に表現していると思う。

  • 怒りの衝動を抑えられない主人公には全く共感できないが、昨今の事件の加害者たちはこんな感情や気性を備えているのかもしれないなぁと思いながら読んだ。理解はできないけど、知ることはできる。そういう意味では、読んでよかったと思える作品。

  • 嫌いじゃないし、それを描きたかったのかもしれないけど、圧倒的に足りなくて描写の細部までこだわっているのはわかるけど、自分がそこに響くものを感じとれなかった。最初、誰の目線なのかわからなかった話が、乖離していたサクマ自身でという仕掛けも、途中の大きく変わる場面転換も、強引に感じてしまった。何か大きく変わるというよりは、兆しのようなものが見えて終わるのだが、それがカタルシスの直前で停止しているような、ADHDの非正規雇用の鉄格子の中の人を感じられた不思議な読後感。

  • 生きづらさ
    もがく心の
    揺らめきを
    あらわす主役に
    共感できず

  • 芥川賞受賞作ということで、まずは文芸春秋誌に掲載されていた号の中で読み始めた…なんと、私と共通の趣味のロードバイクを題材としているではないか…都会での雨の中を走る描写であるとか(私は都会、ましてや雨の中などここ数年走ってはいないが…)なかなかに緻密で正確で清々しい描写であり、面白く読み進めると同時に書籍版で読み始めた…

    ただ、読み進めるうちに、主人公はどうやら私とは年齢も生きている時代も異なる、Z世代とでも言うのか…ロスジェネと表現したら良いか?、「生きづらい時代を、自らの性分でさらに生きづらくしている、出口の見つからない人生、を過ごしている」人物像であるように感じられ、読み始めた時の「さわやかな」感想は、だんだんと私の中で曇っていった…

    余談であるが、この作品には「章」なるものが見当たらなかった(ように思う)。私が唯一見つけたそれらしいものは、主人公がいろいろな障壁にぶちあたりながらもせめて社会生活を送っている日々の描写と、それが性急に刑務所の中での生活に切り替わった時の描写、そう、例えて言うなら細い一本の赤い線を隔てて人生が切り替わっていくタイミングでの文中にあった、ひとつの「*(アスタリスク)」マークだけだったように思う…

    後半はその赤い線を越えて、それでもなお淡々と生きようとする主人公の自分語りが殆どであり、その赤い線を越えてしまうことが如何にたやすく、如何にその後の苦痛を伴うものであるのか?を私たちに教えてくれているようにも思う。さらに余談だが、後半の淡々とした色のない刑務所内での生活の描写とその部分が占める全体での構成は、かつて読んだジョージ・オーウェル著作「1984年」での表現を思い出させた…

    最後はそれなりのかすかな希望、闇の向こうにさす光、をもって書籍は閉じられたように私は感じた。にしても、芥川賞受賞作である。私の無知であるかもしれないが、難読漢字、熟語も多々ある。漢字検索アプリも片手に勉強の意味も込めて読むことができた。作者の今後の新展開、新境地の開拓、に、大いに期待したい。

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著者プロフィール

1990年、大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。他の著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある。

「2022年 『ブラックボックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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