ブラックボックス

著者 :
  • 講談社
3.10
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065273654

感想・レビュー・書評

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  • 自転車メッセンジャーとして働くサクマ。
    おそらくADHDと思われる。そんな彼が見る世界。

    この世はブラックボックスで満ちている。自分自身の事ですらクリアに見ることはできない。認知の限界や不安定な世の中で先行き不透明な今後の人生。もやもやとした暗さの一方で、今この場所、少しの変化に目を向ける事への気づきなど人生の本質を描こうとしているように思いました。

    めちゃくちゃ面白かった。時事問題も扱っている点でもっと早く読めばよかった。

  • 一瞬一瞬の細かな描写が面白い。特に冒頭はごく僅かな時間の出来事を鮮明に表現していて、止まった時間の中にいるようだった。なのに疾走感がある。

    メッセンジャーとして働く主人公。初めはごく普通の男性に思えたが、だんだんとその裏にあるものが垣間見えてくる。それが良くないことと認知しているが制御が効かない。
    主人公のたくさんの苦悩、そして僅かな成長を見届けた。

  • 終始暗いと言うか、淡々とサクマの頭の中が描かれている。若者の今、未来に対する葛藤などが描かれていた。
    非正規のメッセンジャーとして働く中で、"ちゃんとしなきゃいけない"でもちゃんとできない、どうしたらちゃんとできるか分からないという考えが渦巻いている。いや、ちゃんとすることがわかっているのに、それが一瞬で爆発してしまう。"ゴールではなく破綻が待ち構えている。どうして自分でその末を定められないのか不思議でならなかった。"
    一体この爆発はどうして起こってしまうのか?
    刑務所の生活の中で少しずつ気づいていき、順応していく。今まではただただ怒りを爆発させることしか出来なかったが、その感情と付き合っていけばいいのではないかと。社会に順応する(変わる)自分が許せなかったのだろうか。しかしそれを認めるということが分かってきた。
    明日どうなるか分からない。今のままではいけない、ちゃんとしないとならない。遠くに行きたい、今の生活から脱したいと願いながらも、安心も欲しかった。でも安心には不快感も持ち合わせている。"どうなるかはだれにも分からない、それでもいい。"最後には明るさが見えてきて良かった。もう怒りを爆発させて刑務所行きにはならないで欲しいなと思った。

    あとは個人的に思ったこと。
    対人関係で揉め事(殴る等)を起こし職を転々とする、無計画にまどかを妊娠させる、健康保険とかその他ややこしい書類や手続きを目の前にすると無理だと諦めてしまう。この辺りから、境界知能とか発達障害までではなくとも、普通に知っててできて当たり前な事、暗黙の了解とか(ブラックボックス)が分からない、という生きづらさをサクマは抱えているのかなと思った。それは、生い立ちはさらりと描かれていただけだが、不仲な両親はサクマに関心を持たず、ちゃんとした教育(というか学校では教えてくれない生きていく上で必要なこと)が足りなかったからなのかもしれない。そしてそんな家庭の中で安心できる場所がないこと、ヨシタケ(子供の時の友達)家から感じた不快感(恐怖)が、大人になってからの遠くへ行きたいとかちゃんとしなきゃいけないとかの強迫観念に繋がっているのかと感じた。"ケーキの切れない非行少年"がふわっと浮かんできて、社会派小説の様にも読めた。
    "ボルトを外す工作機械の甲高い音が昼下がりの子供部屋に響いてくる。台所は積年の油汚れがこびりついて、ゴミ箱は溢れ、テーブルにはベタついたリモコンだのが散らばっている。そういう生活感に息が詰まりそうになった。それは恐怖だ。こうなるぞ、こうなってはダメだ、という恐怖だ。"なんかすごく分かった。こういうのがずっと尾を引くのか。

  • 自転車便のロードバイクのシーンから始まり、閉じた世界に入っていきつつ、自分の問題に少しづつ向き合っていくお話なのか?
    芥川賞作品だから読もうと思ったのか?どうしてこの本を読もうと思ったのかな?と思いつつ読みました。

  • 2022年の芥川賞受賞作品ということで読んでみたが、自分には奥が深すぎるのか、正直そこまでなのかというのが感想である。
    主人公は普段は寡黙であるが、一度点火してしまうと怒りを抑えることが出来なくなってしまう青年が、職を転々とした後にメッセンジャーとして生計を立てていた。
    前半はメッセンジャーとしての話、後半は予想外の展開の中で主人公の内面がえぐられていく。一度ドロップアウトした人生から抜け出すことの難しさが伝わってくるが、著者の真意はもっと奥深いところにあると思われる。

  • 第166回芥川賞受賞作。
    いま流行りの個人で宅配を請け負う仕事を生業とする主人公。冒頭から危険運転で自損事故を起こす、不吉な予感から始まる。刹那的な生き方をする主人公の一人語りで進行する。タイトルが暗示する見えているようで、見えてない世界を浮遊する。
    コンビニのバイトで知り合った彼女との間に子供ができるが、税務署から訪れた職員の何気ない表情から切れ、駆けつけた警官ともに暴行を働き刑務所に入れられる。ここでの生活から、主人公は外ではわからなかったゴールの感覚を理解していくが、脱力感さえ感じさせる思考からは先が見えないなか、どうなっていくのかの答えを提示せず、余韻を残して読者に事後が委ねられる。著者の感覚が投影されたような不思議な空気に包まれた小説である。

  • とても幸せとは言い難い他人の人生をただひたすら聞かされてる気分だった。ずっと「早く終わらないかなぁ」と思いながら、読み進めていった。

    フォントのせいなのか、自転車に興味がないからなのか、読みづらかった。主人公も苦手。不良すぎる。

    この本のメッセージをある程度掴むとするなら、最後の3ページで十分だと思った。

  • 初めから終わりまで終始、主人公のサクマに感情移入出来なかった。お堅い文章かと思いきや、PS4、少年ジャンプ、マジックザギャザリング、Uberなんかも出てくる。

    遠くに、ここではないどこかに…
    ケイデンス、ハンガーノック、地球ロックなど、知らないワードも良かった。

  • 心が元気な時に読んだ方が良い作品だと思う。
    最近辛いことが多かったので、読んでて自分自身のことを考えてしまい、グサグサ来た…。
    自分も、何か少しでも間違ったり、気が緩めば、どん底まで落ちていきそうな気がしてくる。

    「ちゃんとする」とは何か、考えさせられた。
    社会に順応して、社会の一部品として、安定して長く働き、納税することなのだろうか。

    この社会で「ちゃんとする」ことは、刑務所の生活と同じように、毎日ほとんど同じことを繰り返すことなのかな。でも、刑務所と違うのは、どこに向かっているのかゴールは明確に決められていないし、毎日も少しずつ違うということ。

    「明日がわからないということ、昨日と似てはいてもやっぱり今日と明日は違うということはむしろ当然であって、そういう日々を放って一生担保された塀無き刑期を本当は欲しくもないのに求めていた」
    という文章が出てきて、すごく印象的でどういう意味なんだろう?と考えた。

    「ちゃんとすること」は、「安心と不快が両立している」(つまり、将来が決まっている安心感と、毎日同じことを繰り返す不快感が伴っていること)だとしたら、そんな毎日つまらないなと思うけれど、でも毎日は少しずつ違う。ずっと同じではない。

    ほぼ同じ毎日を送りながらも、毎日の小さな違いに気づけることが、「ちゃんとする」生き方のコツなのかな?と思った。

    「ちゃんとする」のに向いてない私は、これを読んでも、ちゃんとできる気がしないけど…。

  • まさかの展開という感じだった。

    ブラックボックス。
    ブラックボックスは世の中にたくさん転がっている。
    雑居ビルの一角、路地裏の一角。
    そこで起きることはその中に入ることでしかわからない。

    他方、ブラックボックスは自分の中にもあるのではないだろうか。
    自分にもわからない未知なる自分。
    このブラックボックスと向き合うためには
    自分で自分の中に入るしかない。
    自己対話をしていくしかない。
    ブラックボックスは誰もが抱えているものだと思う。
    他者を知る、理解する前に自分を知る、自分を理解しようとすることが
    大切だと思う。

    そして「ちゃんとしなさい」という言葉が
    誰かの中にブラックボックスを形成していく。
    ちゃんととは?しっかりとは?きっちりとは?
    曖昧な言葉が曖昧な自己形成を生みかねない。
    一つ一つの言葉に留意して言葉を使いたいものだとおもった。

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著者プロフィール

1990年、大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。他の著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある。

「2022年 『ブラックボックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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