- Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065273654
感想・レビュー・書評
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ロードバイクの疾走感ある描写が素晴らしかった。
コロナ禍の中、非正規雇用で働き続けるサクマの葛藤。サクマほど手が早くなくとも、同じようにな働き方の中で悩んで模索している人はこの現代多そうだなぁ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ブラックボックスというタイトルは、何を意味しているのか? 主人公サクマの心情・脳か、サクマが入ることになった刑務所のことか? 原因と結果のつながりが不明であるということであれば、急にキレてしまい、しまいには刑務所行きとなるサクマの心の中のことかもしれない。
独居で50日間の隔離で自分を見つめ直し、自分なりの心の整理ができてきたのに、最後、差し入れられた本にも手を付けられず、円佳からの手紙にも結局返事を書かなかった。人間、簡単には変われない、ぐるぐる回って同じ失敗を繰り返し(ループ)、遠くのゴールにたどり着くのは大変なのだ。 -
役所にいくと、よくぞこんなに沢山の説明員がと思う時がある。一方で確定申告、補助金申請関連書類は、これでもかという程、分かりにくくされているから、その説明員に救われる時がある。全ての人を対象にするから、自分とは関係ない属性の聞き慣れない専門用語が一緒に記載され、それが多義的だから尚更分からなくなる事もあり、確認をする。理解や対人、経験が乏しい人には難しい社会だ、という気がしていた。
刑務所は制度だと、それを希求していたと制度に従えない人間が呟く。制度が分からなくても、それを単純化し、何時におきて、何をしなさい、何をしてはならないと、刑務官が役所の説明員以上に、まるで制度の介護士のように寄り添う世界だ。塀なき刑期。生き難い層は、一定数存在する。 -
小説の冒頭、サクマのメッセンジャーとして自転車での疾走感に惹き込まれる。
仕事のできる男かと思いきや、読み進めるごとに、不穏な空気になっていく。
きちんとしないといけないと思いながらも、感情の爆発を抑え切れずに、問題を起こしてしまう。
そりゃ、切れるわな、と思う場面ばかりだが、そもそもそうなる原因は、サクマの生きるチカラの弱さにありそうだ。
発達障害なのか、家庭環境なのか、学習障害もありそうで、生きづらさを抱えている。
メッセンジャーで働いていた時が、一番輝いていた。
感情が爆発する時は、いつもそばに居る人が理不尽な扱いを受けた時であり、案外、いいやつなのかもしれない。
最後、得意な事に自分も周りも気づいた感じが、希望を持たせる終わり方だった。 -
当たり前が当たり前にできない世界線で生きている主人公。
暴力はコミュニケーションのサボりである、そんな言葉を思い出しました。
自分と向き合うことで、見なくて良かったものをそのまま見ないようにするのではなく、1つ1つ見られるようになったら良いなと思います。 -
冒頭のベンツとの事故シーンの描写の迫力はハリウッド映画のオープニングをも彷彿させるような勢いを感じた。この筆力に魅せられ気持ちよく読み進められた。
サクマは極端な例かもしれないが、衝動的な怒りや同じ毎日を繰り返す日々に飽き飽きする気持ち、また本当に大切な事を考えることを先送りするために目の前のことに集中するなどは誰しも身に覚えのある感覚なのかと思う。少なくとも自分はそうだ。
色々起こる社会の複雑な出来事を周りは何で容易くやり過ごせるのか?その頃合いがいつもわからない自分にとって他人事に思えない気がした。
中盤に唐突に切り替わる刑務所の場面。ここからは時間軸が切り替わり現在から過去を回想するが、この流れも内省的な内容を上手く演出していていい。
変わらぬ日々の繰り返しから抜け出せないということへの諦めと葛藤から、日々の変化に気付き決して同じ毎日ではないことに気付くことで少し未来に対する希望の芽が芽生えて来たラストには、温かい気持ちになった。
文学的装飾でなく飾り気のない平易な文体でありながらその構成によって各シーンの空気感を演出しているのは見事。『むらさきのスカートの女』以来のお気に入りの芥川賞作品です! -
「ケーキの切れない非行少年たち」が頭を過りましたが。その本を知らなかったり、認知機能トレーニングを必要とする人達のことを知らなければ、ただ主人公を不快に感じるだけの物語になるかもしれないですね。
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主人公はまさに今を生きている人物。
衝動的で、楽な方を選び、難しいことは考えない。
先の読めない世の中だからこその処世術にも思えるが、なかなか共感のしづらい人物だった。
単調な日常の中で、今日と明日は似ていても違う、という言葉には、今を生きたい主人公にとっての大きな機転となるのかもしれないと思わされた。