ブラックボックス

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065273654

感想・レビュー・書評

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  • 個人的にはい如何にも芥川賞って感じ。

    時間の流れを事細かく描いて、破滅的な主人公がいて。
    読後感があまり良くなく小難しい純文学よりは読み易い。

    予想通りの作品。

  • 【群像 2021年8月号にて読了】

    芥川賞受賞作なので読んでみました。
    作者の趣味の分野なのか、専門用語なども出てきますが、すんなりと読むことができました。

    人はちょっとしたきっかけで転落する危うさを持ち合わせているのだと強く感じました。
    それがふだんありがちなことであり、状況設定も現代そのもの。それがリアリティに繋がったのだと思います。

    この作者は次はどんな作品を書かれのだろう? と思いました。

  •  なんたる詳細、なんとも緻密。なんだ、このリアリティは!?

    「いける、とサクマは即座に判断した。判断すると同時に身体はもう動いている。サクマにとっての判断とは、思考というよりむしろ習性 — 過去の経験と現在との類似性を照合して当てはめるのではなく、その瞬間瞬間の環境に脊髄とか筋肉が反応するという点において — に近いものだ。」

     冒頭すぐにある、こんな刹那を細密に描いた文章があり、驚いた。その後も終始この調子で、なかなかページを繰るスピードがあがらないもどかしさもあるのだが、ついついその実感のこもった描写を時間をかけて目で追っていた。

    「すっかり燃やし尽くしたと思っていたあの感情がまたにおう。」

    「とにかくおれのしたことと結果がブツ切れになっている」

     こうした若さゆえか、主人公が若いからか、芥川賞作品でしか見られないような青臭い表現に触れることが出来るのも、受賞作を読む楽しみのひとつだ。

     メッセンジャーというギグワーカーの主人公サクマが、事件を起こし服役する。その日々をひたすら内省的に、サクマ目線で社会を見据える。詳細な日々の描写が、外の世界でも、塀の中でも不思議なほど連綿とした繋がりがあるところが興味深かった。

     それは、

    「遠くに行きたかった。遠くというのはずっと距離のことだと思っていた。両親も弟も繰り返しを繰り返していた。おれは多分それが嫌だった。遠くに行きたいというのは、要するに繰り返しから逃れることだった。」

     というサクマの思いとはウラハラのようで胸苦しい閉塞感が終始つきまとう。
     が、意外と重くない。暗くない。

    「ちゃんとするってなんなんだ。」
    「自分はずっと遠くに行きたかった。今もそのように思っている。」

     そんな自問を繰り返すサクマは、この後、なんとかなるんじゃないかな?
     そう思えた。

  • "ちゃんとしなきゃいけない"と思えば思うほど、"ちゃんとする"とは何なのか分からなくなる。何なのか分からないから、余計に焦る。

    こうしなさい、ああしなさいと指示されることはとても楽だ。
    予めレールが敷かれていて、そこをその通りに進んでいけばゴールが見えてくるなんて、とても甘美的だ。
    でも、それってきっととてもつまらない。

    明日何が起こるか分からないということ。
    それは不安なようで、だからこそ日々に彩を添える大事なこと。


    「ブラックボックスだ。昼間走る街並みやそこかしこにあるであろうオフィスや倉庫、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようでいて見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。」

    見えるようで見えない。触ることができない。
    自分の内面も分かるようできっと分からない、ブラックボックスのようなものだ。時間をかけて内省してもなお、深層に辿り着くことは難しいのだと思う。

  • 芥川賞を受賞したので、読んだ。
    自転車便。
    書類を急いで配達する仕事。
    早くて稼げるサクマ。
    「クラッシュしました」と連絡を入れる。
    怖い。速度のある自転車。事故もあるよね。
    ハンガーノック→トライアスロンとかロードレースとか水泳とか、長時間、長距離身体を動かすことで体内から糖という糖が抜けて筋肉も頭もまるで動かなくなる症状。
    地球ロック→動かないものに繋いで捕られないように鍵をかける。アースロック。
    この仕事は、社員ではなくアルバイト。
    だから、この先どうするのか?社員にしてもらうのか?違う仕事を探すのか?将来のことも考えてモヤモヤする。
    同居している女性が妊娠。
    なかったことになんかならないのに。
    ちゃんとしたい。でもちゃんとできない人間なのかも。
    キレちゃうのは良くない。
    読後感が虚しい。

    これで、今回の芥川賞と直木賞の候補作を含めた10冊、全て読了。

  • 『張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。そんな予感がぼんやりと心中に拡がる』
    『社会から罰を受けて牢屋に入り、その牢屋からもまた罰を受けた』


    自転車便のメッセンジャーのサクマ。『社会』という枠に馴染めず先の見えない日々を送っている中、自らの負の感情を制御する事が出来ず、その度々で問題を起こしてしまう。
    タイトルの『ブラックボックス』とは、ずっと避けて逃げてきた自らの心の中を指すのだろう。


    第166回芥川賞受賞作品。
    コロナ禍、格差社会、自転車便、すぐにキレる人。「ちゃんとしなきゃいけない」とは一体どんな事なのだろうか…

  • ずっと遠くにいきたかった。今も行きたいと思っている。
    これに共感を覚え、読み進めていった。
    衝動を押さえることができず、コントロールしなければならないと自覚しているにも関わらず、何度も何度もやらかしてしまう、、、サクマのブレない正直な性格だからこそかと思い、もどかしくも感じた。
    最後は、同じような日々でも同じではないと気づいた明るい締めくくりに心が温まった。

  • 前半の疾走感。走って考えて全てが通り過ぎてまた考えて通り過ぎて、どこかへ向かってぐんぐん走っているようでいてその実その場から一ミリも動かず静止していることの苦しさが入り込んでくる。
    後半は罰というものを考えた。無理やり押し止められた事で起こった自分との対峙。この物語はどこへ行き着くのだろうと思って読んでいたが、なるほどと思った。

  • 一度社会のレールから外れると戻るのが大変なこと
    コロナ禍で影響を受ける人たちのこと
    そういう現実を本の中でみて、どんな状況でも人生は続くということを感じた本だった。
    最後の円香からの手紙が何を意味してるのかわからなくてとても気になる〜〜

  • 芥川賞受賞作であり、作者の記者会見からどんな人なのかな?と気になったので読んでみました。

    目に映るいろいろなものが細かく描写されたかのような文章は、流石だなぁと思わされる一方で、メッセンジャー時代の主人公がひたすら暗いので、最後まで読みきれるかなぁ…と思いながら読みました。結果的にずっと暗くて、遠くに行きたいと思って、自転車で未来に向かう話を想像していましたが、全然違っていました。

    終わり方もあっけなく、ちょっとしたことで自分が認められたこととかを自身が認識できるようになったことがワンステップ前に進めているのか、それとも…とわからないまま終わりました。
    環境に恵まれない生き方についても考えさせられました。

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著者プロフィール

1990年、大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。他の著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある。

「2022年 『ブラックボックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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