拉致と決断

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 108
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103165323

作品紹介・あらすじ

「北」での24年間を初めて綴った迫真の手記!監視下の生活、偽装経歴、脱出の誘惑、洗脳教育、'94年核危機と開戦の恐怖、検閲を潜った親父の写真、飢餓と配給、電撃帰国の真相…感涙のドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • 最近手に取った韓国の本の訳者に「蓮池薫」とあり、翻訳者としてもお仕事されていることを知る。24年間もの拉致生活後に帰国し、南朝鮮の本を翻訳されているって、何て数奇な人生…と感じ入ってしまった。北朝鮮に対する視点はさまざまあれど、拉致という極めて特殊で過酷な経験から見た世界を知りたいと思い、図書館で本書を借りてみた。

    冷静さを保つ文面の底に、政情的に書けないという制約のもどかしさや、当時の心の葛藤が渦巻いてるのが行間から見える。これが北朝鮮だ!と言うものではなく、あくまでも北朝鮮の中でも異質な立場にあった者から見た社会というのが興味深い。

    2012年に刊行された本だが、あの当時とは比べ物にならないほど韓国のコンテンツが増え、そこで描かれる北朝鮮の姿を目にする機会が増えた。エンタメとして描かれる北朝鮮への興味は尽きないが、本書刊行時から拉致問題に何も進展が無いのが悲しい。ポーズや空虚な言葉だけでなく、結果が出るまで政府がこの問題に取り組んで欲しいと願う。

  • 著者・蓮池薫氏は北朝鮮拉致被害者である。
    大学生のとき、交際相手とともに拉致され、24年間を北朝鮮で過ごし、2002年に帰国。北朝鮮での日々を思い起こして綴られ、2012年に出版されたものが本書となる。
    新潮社の雑誌「波」に連載されたものをまとめたとのことで、北朝鮮での生活に関する、またその中で著者が感じたこと・考えたことに関する、数ページの短めのエッセイが30弱、収められている。

    2009年出版の『半島へ、ふたたび』では、拉致事件についてさほど突っ込んだ話が出てこなかったのに比べると、当時の生活についてなどもかなり詳しく書かれている。
    3年の間に、前最高指導者の死亡により、代が変わっている。そのことが前著より本書が詳しい記述になっていることの一因なのかもしれないし、ただ著者がつらかった日々を振り返って文章にするには、時間が必要だったということなのかもしれない。そのへんはよくわからない。

    北朝鮮の食糧事情、経済状況、拉致された者への監視などが冷静な筆致で描き出され、「空気感」が伝わってくる。
    一方で、拉致事件の背景や、子ども達の学校生活がどのようなものであったかは詳細がわからない。
    周囲10メートル四方は詳らかに見えるけれども、その先は霧の中、といった印象だ。
    拉致被害者という立場上、著者が本当に知り得なかったことも多いのだろうし、また、諸事情により現在でも「書けない」こともまだまだあるのだろう、と推測させる。

    冷静な観察眼は天賦のものなのだろう。
    厳しい北の気候の中で、土地から取れるだけのものを得ようとする人々。
    社会主義社会の中の本音と建前。スポーツ選手の光と闇。
    おそらく日本語を思う存分使うこともままならなかった24年を過ごした後で、なお瑞々しく綴られる文章には感嘆させられる。

    稀な犯罪に巻き込まれてしまった人の稀有な記録である。
    著者は囚われた状況の中、乏しい情報の中で、家族のため、子どものため、生き残り、生き延びさせようと懸命に考え、生き抜いてきた。その真摯さが胸を打つ。

  • 北朝鮮での生活について知りたくて読書。

    前書ではあまり書かれていなかった平壌で関わった人たちについて知ることができる。

    著者たちは優遇された生活をしていたようなので、接した人たちは、恵まれている上流階級の人たちだったんだろうと思われる。現実的には平壌にいるだけで本当の庶民ではないと言えるが。

    庶民は庶民なりに懸命に努力して少しでも、家族を幸せにしようとしているのはどの国でも同じだと思った。

    著者たちが帰国して以来、拉致問題が進展する可能性がある昨今、著者たちは、今どう考えているのだろうか。

    読書時間:約1時間45分

  • 突然の拉致から24年間の生活は想像を絶する人生。
    無事に帰ってこれてよかったと思う。
    蓮池さん逞しい。奥さんはどういう想いだったのか知りたいけどここまで表現できるのは難しんだろうな。
    とにかくこんなことが二度と起こらないよう、1日も早く解決できるように祈りたい。

  • 蓮池さんの人生を想わずにはいられない。

    奥さんや、お子さんの人生についても、
    その人生から、自分の人生についても、
    考えずにはいられない1冊。

    正直、私がもっと知りたかったことはここには書かれていなくて、あくまで当時の状況を淡々と。
    もっとも、本当に伝えたいことは、そんなに簡単には伝えることができないだろうし、それが文章から伝わってくるのは私だけではないはず。

    いい年齢になったものの、当時の状況を知る年代ではなかったので、あれこれ文献を読んでみたりしているが、この一連の事件から学ぶことは多いし、大きいし、同じことが起こらないためには、庶民レベルの私たちが日本に対して強く意識していかなければならないことがたくさんある。そのために小さくても声に出し、出し続けなくてはいけないと強く感じさせる。

    当時帰国したときの様子を、今でも鮮明に思い出す。

  • 「拉致問題」の真髄について、言いたくてもまだまだ言えないことがいっぱいあるのだろう。出来るだけ感情を抑え込んで冷静に綴られているところに、蓮池さんのとても知的な人柄が見て取れる。
    北朝鮮に拉致された被害者たちは、私たちには計り知れない悲しみ、戸惑い、諦め、憤り…やるせない日々を送っておられることだろう。
    この本を読んであらためて、一日も早い拉致問題の解決、被害者の皆さんの帰国を願わずにはいられない。

  • ★書けないことのつらさの方が★帰国から10年後の発表。招待所での隔離された生活だったようだが、その中でも北朝鮮の人々のおカネの感覚や市場の実態など暮らしの様子がよく分かる。1978-2002年のことだと思うとそんなに時間がたったのか。
     それでも隔靴掻痒なのは否めない。北朝鮮に残っている人のことを考えれば、当局にセンシティブなことは書けない。拉致後の奥さんとの再会、子育て、ほかの拉致被害者との交流、招待所で暮らすほかの人々との接点・・・。言葉を慎重に選んでいるのが読んでいてつらい。

  • 実際に経験した事が書かれてあるので真実味かある。と同時に、外国人を拉致したと言う事実があるにも関わらず、なぜ世界がそのような非常識な国を罰しないのか?まだ取り残されている人が多数いるにも関わらず、なぜ帰そうとしないのか?非人道的も甚だしいと感じる。

    普通に生活していたのに、いきなり他国に拉致され、言葉も通じない国で軟禁生活を24年。すごい人生だと思います。

  • ある日突然自由を奪われて、希望を捨てきれないまま、目の前の現実を生きて行くしかない…。
    想像するしか出来ませんが、読んでいて私の「常識」は環境が変われば「常識」ではなくなるんだなということがじわじわと恐ろしかったです。
    人の心の奥底までは、変えられない。
    まだ彼の地で希望を捨てずに行きておられる方が、早く望むように生きられればと思います。

  • 書けないこともたくさんあるのだろうけど、それにしても驚くべき手記ですよね…。幸運な一例でしかないと思うと心が思いですが(>_<)。

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著者プロフィール

翻訳家。新潟産業大学経済学部准教授。
訳書に、孔枝泳『私たちの幸せな時間』、『楽しい私の家』、『トガニ 幼き瞳の告発』、
金薫『孤将』(いずれも新潮社)、クォン・デウォン『ハル 哲学する犬』、『ハル2 哲学する犬からの伝言』(ポプラ社)など多数。著書に『半島へ、ふたたび』(第8 回新潮ドキュメント賞受賞)、『拉致と決断』(いずれも新潮社)、『夢うばわれても 拉致と人生』(PHP 研究所)などがある。

「2021年 『韓国の小説家たちⅡ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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