- Amazon.co.jp ・本 (337ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104596010
作品紹介・あらすじ
連続放火事件の現場に残された謎のグラフィティアート。無意味な言葉の羅列に見える落書きは、一体何を意味するのか?キーワードは、放火と落書きと遺伝子のルール。とある兄弟の物語。
感想・レビュー・書評
-
「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだ。」
これは、この物語の語り手の弟、春が口にした言葉。
作品の内容とタイトルをそのまま言い表しているよう。
癌を患って病床についている父と、二人の息子の物語。
長男の泉水は遺伝子を取り扱う会社に勤めている。
次男の春は、父と血がつながっていない。
しかし、父親が投げかける言葉はいつも素敵だ。
「春は俺の子だよ。俺たちは最強の家族だ」
彼らの暮らす仙台の町で、謎の放火事件が相次ぎ、
泉水と春は犯人を追うことで、自分たちの過去と対峙することになる。
誰が何の目的で火をつけ続けるのか…。
そして、事件はどのような形で終焉を迎えるのか。
登場人物のキャラクター、とりわけ春が魅力的。
脇役である探偵の黒澤も、いい具合に力が抜けていて 最高。
彼等の間で交わされる会話は、どれも軽妙で愉快。
罪と罰、そして贖罪。
重い内容を扱っていながら、文面は一貫して明るく前向きだ。
そして、泉水の夢の中に未来を予言するカカシの話が!
「オーデュボンの祈り」がお邪魔しに?
伊坂さんの作品って、お洒落です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
伊坂幸太郎が「家族愛」を描くとこうなる、という作品。
誰1人作中人物は泣いたりしないし、自分を不幸と思っている人間もいない。
相変わらず軽快なストーリー運びと機智にあふれる会話。
なのに、どうしても泣ける箇所がいくつもあるのです。
伊坂さんって、案外アツイ人なのかもしれませんね。
タイトルの「重力ピエロ」は、空中ブランコを飛ぶピエロが一瞬だけ重力を忘れることが出来るように、どんな困難なことであっても必ず乗り越えられるという信念の例え。
さて、主人公たちの「困難」とは何なのでしょう?
どんな風に乗り越えたのでしょう?それが読みどころです。
話は「私」と言う一人称で語られます。
「私」には「春」という名の弟がいる。
春は、母親がレイプされた時に身ごもった子供。
そして兄の私は遺伝子技術を扱う会社で働いている。
ある日、その会社が何物かに放火され、春は町のあちこちに描かれた落書きと放火との関連性に気が付く。
落書き消しの仕事をしながら、犯人を追う春と私。
父親も参加する謎解きのなかで、関連性の秘密が明るみに出て来る。
それは自分の出生の忌まわしさを否定しなければ生きていけない春の、危うい心の彷徨でもあった…
「春」というキャラクターの何と魅力的なこと。
これまで読んだどの小説にも、こういうキャラは存在しませんでした。
そして、兄「私」との仲には、読者でありながら嫉妬するほど。
何よりも二人の父親の存在は、作品中の言葉を借りれば「賞賛に値します」。
春を産むことを決定し、待ち望み、歓迎した父。
自分を哀れむでもなく、ナルシストでもなく、穏やかに春を慈しんだ父。
終盤、何もかも春の仕業と分かっていて、なお手を差し伸べ握りしめて言います。
「お前は俺に似て嘘が下手だ」。
「遺伝子なんか何だ、血の繋がりが何だ」と、歓喜の声をあげたくなる感動の場面です。
春の取った行動には賛否両論あるでしょうが、あくまでも小説ですから、その結論を導くまでの過程を楽しめればいいかな。
罪と罰を扱う重いテーマでありながら、一貫して明るく前向きな筆致は見事と言えます。
作品中に膨大な量の知識が詰め込まれていますが、場面展開も早く、何より主役キャラの魅力で飽きずに読み進められます。
例によって、他の伊坂作品とリンクします。今回は「オーデュポンの祈り」。順番に読んで来て良かった。 -
こちらの作品のブクログ登録日は、2015年4月19日ですが、レビューを書いていなかったので、本日(2021年6月17日)書いておきます。
著者、伊坂幸太郎さん。
どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。
伊坂 幸太郎(いさか こうたろう、1971年5月25日 -)は、日本の小説家。
千葉県松戸市出身。東北大学法学部卒業。この時期の東北大学には、薬学研究科に瀬名秀明、文学研究科に佐藤賢一、理学部に松崎有理と円城塔など、現在小説家として活躍している人物が在学していた。大学卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。数年後に作家専業となった。宮城県仙台市在住。
で、作品の方も、ウィキペディアを見ると、次のように書かれています。
『重力ピエロ』(じゅうりょくピエロ)は伊坂幸太郎による日本の小説作品、およびそれを原作とした2009年公開の映画作品。 第129回直木賞候補作品、第57回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門候補作品、第1回本屋大賞ノミネート作品、2004年版このミステリーがすごい!第3位。
あらすじは、ウィキペディアを見ると、
仙台の街で起こる連続放火事件。放火現場の近くには必ず奇妙なグラフィティアートが描かれていた。過去に辛い記憶を抱える泉水と春の二人の兄弟は、事件に興味を持ち謎解きに乗り出す。グラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎を解き明かしたとき、その先に見えてくるものとは。
●2023年1月6日、追記。
ウィキペディアに泉水と春のことが書かれていたので、引用しておきます。
---引用開始
泉水(いずみ)
本作の語り手。「ジーン・コーポレーション」という遺伝子に関することを取り扱う企業に勤めている。
春に教えられた放火事件のルールに興味を持ち、謎解きに乗り出す。
春(はる)
泉水の弟、二歳違い。1973年4月8日生まれ。
市内に描かれたグラフィティアートを消すことを生業としている。
誕生日がパブロ・ピカソの命日と同じであることを父から教えられ、自身をピカソの生まれ変わりだと信じており、ピカソのことは親しみを込め「ピカッソ」と呼ぶ。
伊坂の著書『死神の精度』にも登場し、その主人公「千葉」との会話が書かれている。
---引用終了 -
伊坂幸太郎を知ったきっかけ
TVtaroと言う映画に強めのテレビ雑誌が
あって、そこの書評コーナーにこの作品の評が載っていてタイトルにひかれて購入
出だしが良くて、これまでに読んだことのないユーモアの加減
重たい話なのに、ふわふわ浮いてるテンポ
タイトル通りだなって読み終わって感じた。 -
ひとつの犯罪がのちに色々な人にしわ寄せが来る。
-
兄弟、そして親子のやりとりが堪らなく可笑しい。
さすが伊坂幸太郎という感じで、著者の中で1番好きかも。
ただ、最後はうーんという感じでした。残念。 -
犯人は中盤くらいから大体分かってきて、トリックも割と早く気がついたから推理小説としてはいまいち…
でも知識がたくさんついた。
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人とは同時期に生きていて、ホモ・サピエンスだけは絵を描いた、ということ。
お父さんの「ホモ・サピエンスはネアンデルタール人を殺して生き残ったんじゃないのか。生き残るのがいい奴だとは限らないってことだ」っていうセリフ、かっこいいと思った。 -
なんとも知的な兄弟。参考文献を全部読みたい気持ちになって、そのページの写真だけ撮っておいた。
生類憐みの令だけで綱吉が好きっていうのが最近自分でも似たようなこと思ってたので春に親近感湧いた。 -
重たいテーマだけど、軽快なテンポのおかげか、また親子や兄弟の会話が面白く、暗い気分にはならなかった。
連続放火と謎の落書きの真相を追いかけるミステリーだけど、家族愛の作品でもある。