ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書 2257)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022578

感想・レビュー・書評

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  • 悪は悪人が作り出すのではなく、思考停止の凡人が作る。
    今でも、人類が引き起こす、ジェノサイトとは特別な何かではなく、普段の我々の横に寄り添う、思考停止の症状でしかない…

  • 1933年から44年までの間に、およそ23,000人から25,000人の知識人たちがヨーロッパからアメリカに移ったと言われている。知識人の大移動とも呼ばれるこの事態は、アメリカの学問や文化をきわめて豊穣にしたけれども、ヨーロッパにとってそれは、回復に時数十年を要するほどの知的大損失だった。新世界での知識人たち自身の経験や適応状況は、知名度や年齢や学問分野によって様々であった。アインシュタインやトーマス萬といった国際的著名人は、アメリカでも同等の地位と名声を得るのに困難はなかった。しかし彼らほど知名度のないい教授たちにとっては、パスポートをもたない難民としてのスタートは、かなりの心労をともなうものであったようだ。アーレントはドイツで博士号まで取得していたが、すでに獲得した地位があったわけではなく、英語を習得しなければやっていけない世代に属していた。アーレントより2歳年上でのちに著名な国際政治学者となり彼女の親しい友人にもなった1904年にドイツに生まれたユダヤ人のハンス・モーゲンソーは1937年にニューヨークに移ったが、最初はエレベーター係として働き英語を学んだという。彼らには年長の世代のような名声への期待はなく、アメリカでネットワークを広げなければ生きていけないという覚悟があった。またアメリカの知識人社会では英語の訛りなどは問題ともならず、ヨーロッパからの有能な人々を受け入れる開放性があった。彼らよりももっと若い世代は、アメリカで教育をうけ、訛りのない英語を話すことになる。

  • 【目次】
    目次 [iv-ix]
    まえがき [i-iii]
    写真(ハンナ・アーレント) [x]

    第1章 哲学と詩への目覚め―― 一九〇六‐三三年 003
    I 子供時代 004
    父の死と祖父の支え/ケーニヒスベルクのユダヤ人/反ユダヤ主義的風潮のなかで/母の教えとその姿勢/哲学を学ぶことを決意/母の再婚と親友たち
    II マールブルクとハイデルベルクでの学生生活 022
    ハイデガーとその弟子たち/秘められた恋/ヤスパースのもとへ/博士論文「アウグスティヌスにおける愛の概念」/ブルーメンフェルトとの出会い
    III ナチ前夜 036
    ギュンター・シュテルンとの結婚/アカデミズムの枠におさまらない問題意識/ラーエル・ファルンハーゲンという女性/忍び寄るナチの影

    第2章 亡命の時代―― 一九三三‐四一年 047
    I パリ 048
    旅券なしの出国/ユダヤ人としての仕事/パリの亡命者たち/ブリュッヒャー/ベンヤミン「ブレヒトの詩への註釈」/亡命者と友情
    II 収容所体験とベンヤミンとの別れ 065
    第二次世界大戦勃発/ギュルス収容所/ベンヤミンとの最後の日々/文書の壁

    第3章 ニューヨークのユダヤ人難民―― 一九四一‐五一年 075
    I 難民として 076
    アメリカ到着/生きるための英語習得/家族それぞれの苦労/論争的エッセイストの誕生/『アウフバウ』への寄稿
    II 人類にたいする犯罪 088
    「アウシュヴィッツ」の衝撃/人間による人間の無用化/パーリアとしてのユダヤ人/ドイツの敗戦/友人たちの消息/雑誌『ヴァンドルング』の創刊
    III 『全体主義の起原』 103
    成り立ちと構造/反ユダヤ主義/帝国主義/全体主義

    第4章 一九五〇年代の日々 117
    I ヨーロッパ再訪 118
    知識人それぞれの選択/帰郷/ハイデガーとの再会/シュテルンベルガーとの応酬/「イデオロギーとテロル」
    II アメリカでの友人たち 130
    ニューヨークの仲間/沖仲仕の哲学者ホッファー/「砂漠のなかのオアシス」
    III 『人間の条件』 141
    成立の背景/労働・仕事・活動/公的なものと社会的なもの

    第5章 世界への義務 153
    I アメリカ社会 154
    世界疎外/リトルロック事件/「教育の危機」
    II レッシングをとおして 164
    『現代政治思想の疑わしい伝統在庫品』/高まるドイツでの評価/レッシング賞受賞/「暗い時代の人間性」/レッシング的な思考/ユダヤ人であること/政治の現在形を認識すること
    III アイヒマン論争 180
    アイヒマン裁判/『イエルサレムのアイヒマン』/友人たちとの絶縁

    第6章 思考と政治 191
    I 「論争」以後 192
    /非難の嵐のなかで/彼女を支持した人びと/ヤスパースによる励まし/さらなる理解のために/「独裁体制のもとでの個人の責任」/ラジオ・テレビへの出演
    II 暗い時代 205
    ケネディとロンカッリの死/真理と政治/死者との交わり
    III 「はじまり」を残して 217
    精神の生活/満足を与える生き方/思考と活動

    あとがき(二〇一四年二月 矢野久美子) [227-230]
    主要参考文献 [231-237]
    ハンナ・アーレント略年譜 [238-239]

  • 友だちが貸してくれなきゃ絶対に読まない感じの本だけど、何の知識もない方の話だった割には興味深く読めた。その分サラーっと全体をなぞってる感じでもうちょっと彼女の研究部分とかを知りたいと思うと物足りないだろうな。伝記としても飛び飛びな部分があるし。

  • タブロイドっぽい人物評が中心。思想メインで解説して欲しかった。

  • アーレントの生涯を辿りつつ、同時代の様々な課題と取り組んだ彼女の思想を描き出す新書。『全体主義の起源』、『人間の条件』、『イェルサレムのアイヒマン』など彼女の主要な著作のポイントを紹介しつつ、その中にレッシング論や公民権運動とアーレントの関わりといった問題を組み込むことで、アーレントの思考の論争的な部分にも行き届いた解説が加えられている。

  • 2016年1月6日読了。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784121022578

  • 素晴らしい人生。素晴らしい思想。アーレントは人間の条件を読んだだけだが、難しかった。しかし、本書はの記述は焦点を絞り、易しく分かりやすい。無国籍問題の重さをつよく感じた。

    ・「ひとたびすべてが〈政治化〉されてしまうと、もはやだれ一人として政治には関心を持たなくなる」。総力戦を戦うとき、選択や決断や責任に対する自覚が失われる。
    ・反ユダヤ主義はナショナリズムの昂揚期ではなく、国民国家システムが衰退し帝国主義になっていく段階で激化した。
    ・共同体の政治的・法的枠組みから排除されている彼らは、すべての権利の前提である「権利を持つ権利」を奪われている。
    ・カトー:独りだけでいるときこそもっとも独りでない
    =オアシス
    ・「社会というものは、いつでも、その成員がたった一つの意見と一つの利害しか持たないような、単一の巨大家族の成員であるかのように振る舞うよう要求する」(『人間の条件』)。そして、統治の最も社会的な形式として「誰でもない者」による支配、「無人支配」である官僚制をあげた。
    ・加害者だけでなく被害者においても道徳が混乱することをアーレントは全体主義の決定的な特徴ととらえていた。
    ・「どんな悲しみでも、それを物語に変えるか、それを物語れば、耐えられる」:アイザック.ディネセン
    ・アーレントにおける権力は暴力と異なり、人々が集まり言葉と行為によって活動することで生まれる集団的な潜在力だった。

  • 映画を見て(インテリアが)すごく素敵だったので読んでみた。ここで描かれる「全体主義」がそのまま今の日本の状況に当てはまるので冷え冷えとした気持ちになる。またいつか読み返したい。

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著者プロフィール

(やの・くみこ)
1964年に生まれる。東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了。現在 フェリス女学院大学教授。著書『ハンナ・アーレント——「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』(中公新書)、訳書『アーレント政治思想集成』全2巻(共訳)、アーレント『反ユダヤ主義——ユダヤ論集 1』『アイヒマン論争——ユダヤ論集 2』(共訳)、ヤング=ブルーエル『なぜアーレントが重要なのか』『ハンナ・アーレント——〈世界への愛〉の物語』(共訳、以上みすず書房)他。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2023年 『ハンナ・アーレント、あるいは政治的思考の場所 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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