- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784408537160
感想・レビュー・書評
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直木賞ノミネート作。戦前「乙女の友」という雑誌づくりに携わった乙女の物語ということで興味をひかれて読んでみましたが、思いがけず傑作でした。
大和之興行社のみんな、クセが強くてとにかく魅力的。
無学出身なりに一生懸命働く健気な主人公・波津子と、それを明るく支えてくれるハイカラな同僚の史絵里。
美しい詩をつむぐ有賀主筆と、麗しい少女の絵を描く長谷川潤二、ゴールデンコンビと呼ばれる二人のそのカリスマ性。
最初は受け入れてもらえなかった冴えない波津子が、「乙女の友」に抱く熱意と努力で、少しずつみんなに認められていく姿には素直に胸を打たれました。友へ、最上のものを。
(観たことないけど)この雰囲気って朝ドラっぽいのかなぁなんて思ったり。
順調に雑誌編集に携わっていくかと思った矢先の戦争。思想統制による雑誌の方向性でのすれ違い。出征や疎開でバラバラになってしまう仲間。空襲で瓦礫に埋もれてしまった「乙女の友」。
フィクションでなくこういうの実際にあったことなんだと思うと、何もかもを奪っていってしまう戦争というものに無念が募る。
しかし戦時下と戦後を乗り越え、雑誌のいのちを守り続けた現代の波津子のもとに70年のときを経てフローラゲームか届けられたシーンはとても感動した。が、欲を言えばもっともっとハッピーエンドが用意されていてほしかった……結ばれてほしかったのですが、やはりそうご都合主義にはいかないものなのですね……。
他にも好きなシーンがたくさんあった。
有賀主筆が、最後の日に主筆の部屋で波津子とすごすシーン。シンシアリィの意味と、まるでバトンをつなぐかのようにプレゼントしてくれた万年筆。君は歌え、という主筆の言葉。波津子にとって有賀主筆がどれだけ憧れで大切な存在なのかがひしひしと伝わってきて苦しいほどだった。
あとは霧島美蘭が出征後の有賀に旅館で再会し、秘めていた想いをぶつけるシーン。有賀が未だ気付かずにいる愛の深さを知ってしまったが、それでも美蘭はこの瞬間は彼に愛されていて、それは確かなしあわせで。ずっと戦友のようだった二人が鎧をぬいだ、とても耽美な描写でした。
回想から現代につながったラストで判明した事実まで含めて切なすぎる。
「乙女の友」って、「少女の友」という実在する雑誌だったんですね。気になりすぎてデジタルデータで閲覧したのですが、本当に詩も表紙絵もため息をついてしまうほど素敵。当時の乙女たちはこの雑誌に夢中になったんだなぁと思うと歴史を垣間見た気がして感慨深かった。
とにかく魅力にあふれる物語でした。感想をまとめてる今でさえ油断すると余韻に浸ってしまう。
朝ドラとは言わないから、映画化、せめてスペシャルドラマ、とにかく何かしら映像でみてみたい。潤二先生の役は色白の美少年で。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新聞の書評を読んで図書館にリクエストした本。
伊吹さんの作品は初めてだったが、はまった模様…他の作品もリクエスト中。
最初から最後まで、飽きることなく読めた。
最後は終わらないで!と思ってしまった。
情景が目に浮かぶ作品と評されていたが、本当にその通りだった。
ハツさんと一緒に自分も銀座を歩けたら…と思った。
憧れの主筆のアシスタント?になる強運はなかなかないと思うけど。
両親、幼馴染み、上司、同僚…戦争で次々と散り散りになっていくシーンは辛かった。
でも最後はわずかな期待がどんどん大きくなっていって…感動的だった。
久々に本を読んで涙が出た。
自分の仕事が知らない誰かの力になるなんて、素敵だと思う。 -
戦争関連、得意じゃないんだけどな…と思って読んだけれども、戦争に向かう中で文学と人々が揺れ動く様子に現代の自由をしっかり享受しているかどうか考えさせられた。
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昭和12年から20年にかけての激動の時代
読んでいると胸が苦しくなるがそれでも避けては通れぬ。
興味深い登場人物が
その時代の背景をよりリアルに。
女性にとっては感涙のラブストーリーだと思うが
はてして男性の感想はいかに? -
昭和初期の少女向け雑誌の編集者たちの物語。
戦局が進むに連れ、散り散りになるメンバーと衰退していく紙面。
編集者たちの情熱と、70年かけて明らかになる真実。
直木賞候補作ですが、個人的には受賞作よりこちらのほうが面白かった。 -
NHKの朝ドラ、始まってすぐ戦争の気配がすると、さっそく悲しくなる。
この時代設定、戦争が避けられない。
うわーんって泣きたくなる。
暗い時代があっても、カーネーションもごちそうさんも大好きな朝ドラ。
そんな朝ドラに似た感動。この本も大好きな本になった。
直木賞、とってほしいな。 -
伊吹さんの新刊、楽しみにしていました。出版社で働いていたことがあるので、編集者ネタの物語はツボなのですが、とても心に響きました。
こちらは昭和初期の時代設定で、まだ言論統制や物資が豊かではなかった頃ですが、気に入った部分を切り取ったり、付録に心惹かれる女の子の心は今も昔も変わらないのだと思いました。 -
老養施設で暮らすハツのもとへ、懐かしい小箱が届く。
呼び覚まされた淡い記憶をたどり、物語の時間は巻き戻って、舞台は昭和初期、戦前の東京へとうつる。
父親が失踪し、病弱な母親を抱えて、女中をしながら歌の勉強を続けていた波津子は、雇い主の引っ越しを機に職を失う。
学はないが前向きでひたむきな少女に紹介された新しい仕事は、憧れの少女雑誌『乙女の友』の雑用係。
美しい挿絵、胸を焦がす詩編、最上のものを全国の「友」に届ける仕事に、波津子は臆しながらも突き進んでいく。
彼女の懸命でまっすぐな姿は清々しく、読んでいて楽しい。波津子だけではなく、すべての登場人物が魅力的で、心に残る。ほんのちょっと脇役で出てきた少年さえ、好もしい。
テレビもなく物流も整っていなかった時代、女であるというだけで侮られ軽んじられた時代、少女雑誌はどれほど全国の少女の憧れで、きらきらした心ときめく存在であったのだろう、と思った。
そしてそういった雑誌を作り上げること、届けることに、関わった人たちはどれほどの矜持があったのだろう、とも。
日本は次第に軍国主義へと傾き、富国強兵を謳った戦争がはじまる。
男たちは兵隊にとられ、贅沢は敵だとされ、美しい物を愛でることは悪とされ、好きなものを好きだと言えば虐げられる、恐ろしい時代へと進んでいく。
その息詰まるような辛さが、『乙女の友』の目指す世界とあまりにも対照的で、胸にしみて痛い。
読んでいてどうしようもなく涙が出た。
なんて愚かで切ない時代だったんだろう。
だけどこの時代があったからこそ、今自分が生きている時代があるのだと思う。
いくつかの別れのシーンが特に印象的だった。
伝わらないとわかっていて口にされるスイートハートという言葉、拳を三回つきあげる再会を願う合図、行進の中でそこだけほころんだ口元、アニーローリーの歌声。
大仰に別れを告げるのではない、けれどだからこそ切なさが胸を打つ。
物語としてはきれいすぎるのかもしれない。本当の戦時中はもっともっと殺伐としていたのかもしれない。
波津子の眼を通した世界はどれほど凄惨であってもどこかに希望があり、でもだからこそ読んでいて胸をうたれる。二度とこんな時代、こんな国にはなりたくないと思わされる。
最後の「彼方の友へ」でまた泣いてしまった。
切なくて切なくて美しい物語だった。 -
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「友よ、最上のものを」
戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――
平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。
「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。
そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――
戦前、戦中、戦後という激動の時代に、情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々を、あたたかく、生き生きとした筆致で描く、著者の圧倒的飛躍作。
実業之日本社創業120周年記念作品
本作は、竹久夢二や中原淳一が活躍した少女雑誌「少女の友」(実業之日本社刊)の存在に、著者が心を動かされたことから生まれました。
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現在の佐倉波津子は高齢者施設で夢と現を行き来するような日々を送っている。傍からは、何も考えていないように見えるかもしれないが、頭の中には、来し方のあれこれが渦巻いていて忙しい。そんな波津子が駆け抜けてきた人生が彼女の目線で繰り広げられている。時折現在の様子に立ち戻るとき、そのギャップは人の老いというものを思い知らされるが、頭の中は存外誰でも活き活きしているのかもしれないとも思わされて、勇気づけられもする。そんな波津子の元へ、あのころの思い出の品とともに、関わって来た人たちとゆかりのある若い人たちが訪れ、話を聴きたいと言いう。積年の想いも報われ、波津子と「乙女の友」に関わった人たちの生き様が語り継がれることになるのである。ラスト三分の一は、ことに、涙が止めどなく、あふれるままに読み進んだ。外で読むには向かないが、中味がぎっしり詰まった読み応えのある一冊である。