- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480438584
作品紹介・あらすじ
キム・ジヨンの半生を克明に振り返り、女性が出会う差別を描き絶大な共感を得たミリオンセラー、ついに文庫化!解説=伊東順子 文庫版解説=ウンユ
感想・レビュー・書評
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知らなかった。私より一回り若い1982年生まれのキム・ジョンが生まれた頃の韓国では、女の子が生まれるとお姑さんに「申し訳ありません」と涙をこぼしてあやまり、二人めも女の子だと「この次には男の子が生まれるから」と「優しく」慰めてもらい、三人めも女の子だと分かると母親は自らその子を無きものにし(中絶し)ていたなんて。実際、90年代の初めには男女の出生比は、男児が女児の二倍以上だったそうだ。このような事情で、次女として1982年に生まれたキム・ジョンの妹になるはずだった子は抹殺され、その下の弟は無事に歓迎されて生まれた。そして、家族の中では、炊きあがった温かいご飯が父、弟、姑の順にいつも配膳され、姉のキム・ジョンにはおかずも形の崩れたものやかけらばかり、学用品も布団も傘も弟にはいつも新しいものが揃えられたのに、姉とキム・ジョンのものはデザインが揃っていなかったり、二人で一つだったりだったそうだ。それでもそれが当たり前だと思って育ったという。
学校での名簿は男子のほうが先で、名簿順に給食が配膳されたので、最後のほうに配膳される女子はいつも「食べるのが遅い」と怒られ、中学校の制服も「男子はスニーカーでも良いが、女子は革靴以外ダメ」など、何故か女子のほうが不当に厳しかったとか。
キム・ジョンの母親世代はもっと辛かった。小学校を出るとすぐに家事や農業、続いて辛い工場での労働を経験し、その給料は兄や弟の学費に充てられたのだそうだ。
確か私が学生の頃だったと思うが、韓国で連日デモや学生運動をしている様子をテレビで見ていたことがある。日本では自分が生まれる少し前の出来事だったよなと思いながら。今、調べてみるとそれはフェミニズム運動とかではなく、民主化運動だったらしいが、そういう潮流もあって社会の考え方がだんだん変わってきたのか?キム・ジョンの時代には「女が学問をする権利」は得ていて、そこへ母親世代の人が「自分たちの分も夢を果たさせたい」と娘たちにエールを送り、キム・ジョンが大学に進学した2001年には大学進学率が、女子が67.6%、男子が73.1%と既に日本を上回っていたのだそうだ。
大学から就職、就労、子育て、ワークライフバランスについては、私の世代の日本の女子でも同じような女性蔑視発言とか差別とか受けていた思うが、幸い私は環境に恵まれていたので、あまり女性差別は実感したことがなかった。けれど、こんな発言のほうが、男性からの女性蔑視発言よりも実は顰蹙なのかもしれない。結局、自分の環境が良かったというアピールなのだから。
女性差別って、「男性が女性を軽く見ている」ということではなく、経済的に余裕がなかったり、格差のある社会の中で、自然に起きてしまうことだと思う。だから、あまり差別を実感してこなかったということは恵まれていたということだと思う。
そんな私が、この小説を「面白い」と言っては叩かれるだろうか?どこが面白いかというと、キム・ジョンのお母さんの生き方だ。自分は小学校しか出られず、兄や弟のために働かされ、結婚した後は姑に気を使っていたが、器用さを活かして美容師をしてせっせと働き、せっせと貯金し、家事も子育ても一人で行ってきた。そのおかげで、マイホームを持つことが出来、お姑さんを抑えて娘達にも部屋を与えた。韓国の経済危機で夫がリストラされ、「友人と事業を始める」とほざいたときも「そんなバカなことをしたら離婚するよ」と言い、代りに自分が投資目的に買っていたビルの一角で「お粥屋さん」を始めさせたらそれが当たって、キム・ジョン姉妹は大学を出ることができた。夫が自分が仲間たちの中で一番余裕のある生活をしていることを知って「半分はお母さんのおかげだよ」と言ったときには「私が七であんたが三でしょ」と言ってのけた。スカッとする。
私はフェミニストではないが、こういう、負の状況でも工夫して頑張って自分も周りの環境も良くしていく女性の物語は朝ドラのようで頼もしい。
この小説はキム・ジョンの祖母の世代からの韓国の女性の生き方が描かれており、全然スケールが違うが、四半世紀くらい前によんだ中国の女性三代にわたるノンフィクション「ワイルド・スワン」を思いだした。1952年生まれのユン・チアンの祖母からユン・チアンまでの三代記。祖母は「纏足」時代の人で、母は文化大革命を生きた人だ。時代の潮流と女性の物語は読み応えがある。
最後に解説の中に「Kポップのガールズユニット レッド・ベルベットのアイリーンが本書を読んだと発言したところ、一部男性ファンが「アイリーンがフェミニスト宣言をした」と言って反発。アイリーンのグッズや写真を破損する様子を動画投稿した」ということが書かれていたが、「フェミニスト」についての議論する価値もないバカはいつの時代も何処の国にでもいるものだと呆れた。「読んでから言え」と言いたくなった。
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本書は、女性への差別や不平等を解消し、男女同権・女性解放を主張する、いわゆるフェミニズムがテーマになっています。
韓国が抱える社会の女性差別問題がよくわかったと言うよりは、実際に日本でも多くの同様の事実があった、いや今もあることを思い起こし、対岸の火事ではないと、その重大さを突き付けられます。
キム・ジヨン氏(韓国で82年生まれの最も多い女性名)、33歳。彼女が精神を病んだ描写から物語は始まります。そこから時計が巻き戻され、彼女の誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児までの半生が克明に回顧されますが、社会の中に当たり前のように潜む女性の困難や差別が淡々と描かれます。
こうした社会構造・抑圧が、韓国の自国女性のみならず、日本も含め今を生きる多くの女性たちの共感を生み、当事者意識をもたせたのでしょう。男性こそ読むべき一冊と言えるでしょう。
ありふれた名前、表紙イラストの顔のない女性、普通の家庭環境など、ごく普通の女性を主人公に設定したことも女性の支持を集め、社会の潮目が変わるきっかけのひとつになったのでは、と思えます。
直近に読んだ『ゴリラ裁判の日』で「人権」について考えさせられ、本書では「女性の権利」を見つめ直す契機となりました。
当たり前がまかり通っている社会構造・通念の危うさをクローズアップし、多くの人が声を上げる機会が増え、真っ当に議論が進んでいく社会になることを、ささやかに痛切に祈念しました。 -
以前から気になっていた一冊
文庫になったので読みました。
韓国映画のように作り込まれたエンタメ系かなと想像していたけれど、淡々と進む話しなのに、やめられず、一気読みでした。
82年生まれのキム、ジヨン氏の産みの母親
オ、ミスク氏は年代としては2〜30年しか離れていないのに、絶対男の子を産まねばと、何の疑問も持たずに思い込み、ひとりで子育て、家事、アルバイト…と精を出す。
父は公務員。
どこの家でも女の子は必要とされず、男の子ばかり望まれた結果、90年代初頭(韓国の男の子達はあぶれて結婚出来なくなる)と言われた。
フェミニズムの小説である。
そしてミソジニー(女性嫌悪)と云うらしいけれど、
徴兵制義務付けの為、「女は軍隊にも行かない、デート費用も出さない…」
被害者意識からなのか?
キム・ジヨン 33歳で精神科を訪れるとこるから
始まる。
かなり衝撃的で今までの自分の事、しばらく考えてしまった。 -
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キム・ジヨンがくれたもの|ちくま文庫|吉川 トリコ|webちくま
https://www.webchikuma.jp/articles/-/...キム・ジヨンがくれたもの|ちくま文庫|吉川 トリコ|webちくま
https://www.webchikuma.jp/articles/-/30372023/03/02
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家族関係・構成も、経済状況も、仕事も恋愛も、「普通」な主人公キム・ジヨンの成長が描かれる作品。
ジェットコースター的な展開や、衝撃的なできごとはない。あくまで「普通」。でも、「女性」であるがゆえに生きにくい韓国人女性の実態がよくわかる。統計や制度の記述もあり、とてもリアル。
日本も女性の社会での立場はいまだに問題点が多くあるし、少子化の深刻化がやっと大問題とされて、子育て世帯の現状に政治家が目を向け始めた。国や制度は違えど、キム・ジヨンに共感できる部分はたくさんあって、たくさんの日本の男性にも読んで欲しい。
とても勉強になったし、今後、課題の山積みな社会で生きる自分の人生に少し不安を覚えた。でも、自分はひとりじゃない。同じような人はたくさんいる。そういうことに気づける作品。 -
三年越しで積読の中からひっぱり出して読んだ本。韓国で136万部売れたとか、どんな本が韓国で興味あるのかと思ったのだが、基本女性が人生で出会う差別を描いている。まさに日本の30年前の状況であり、男はこうあるべき。女性はこうあるべきと、日本では多少男尊女卑的なものは消え失せていると思えるが・・。
そこでふと思うのが、今の政治家さん、お爺ちゃんばかりで思考的には30年、いや40年前で停止しているのでは、それでは今の新しい世の中の変化についていけないだけではなく、自慢たらしく自らブレーキを踏んでいるのではないかと。
政治家にも停年制を導入、降りてからは陰で院政でも引けばまだマシ、国会で堂々と居眠りするような政治活動では、この国はもはや死に体ですな。
人のふり見て、我がふり直せ。良き隣人が傍に居るんだから・・・。 -
女性であるキム・ジョン氏が受けた差別が淡々と描かれています。キム氏の考えは至極真っ当で
しっかりしているから精神を病んでしまったのかな。幸せになってほしいです。 -
読書記録8.(再読)
『82年生まれキム・ジヨン』
主宰している読書会にて
1月の課題本とした
『82年生まれキム・ジヨン』
随分と前に読んだので読書会の為に再読しました
コン・ユさん&チョン・ユミちゃんの映画は韓国での公開初日に現地で見た記憶
本の内容と映画は少しだけ違う展開で終わりますが、姉弟との少女時代、ジヨンの母親、家父長制、仕事、結婚、出産、育児から仕事への復帰といった中での社会の不寛容、女性の生きづらさが描かれます
読書会では
同じアジアの家父長制が残る日本でも
同じような時代を経て来ていることや
「そこまで気にすること?」と思う意見がありつつも
「当たり前のこと」と思い込んできたそのバイアス自体が変わりつつある事を訴えているとの共通認識で会をまとめました
しかし
本の終わりを読むと本当に小さな小さな変化を積み上げても結局…という思い
意識を変えることの難しさを考えさせられる作品だと改めて感じました
課題本を決めての読書会は初開催でしたが参加者様からもとてもご好評をいただきました
ご参加の皆様ありがとうございました -
「僕の狂ったフェミ彼女」に続き、韓国のフェミニズムに関する本。キム・ジヨンの人生が淡々と描かれるけど、読みやすくてあっという間に読了。やっぱり韓国は日本以上に家父長制が根強いために女性は特に生きづらいイメージがある。けれどジェンダーギャップ指数はいまや日本の方が下位にあるようだし、キム・ジヨンが女として生まれたというだけで経験してきた困難は日本でも多くの女性が共感するだろうな。あとがきや評論も韓国社会の変遷について詳しく書かれていて勉強になった。
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どこを切り取っても想像以上にどストレートなフェミニズム文学だった。