犯罪

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488013363

感想・レビュー・書評

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  •  なんとも怖い話でした。何が怖いって、誰でもちょっとしたズレで犯罪者になりうるのだなということ。それも、自分は絶対ないとは言い切れないということ。
     この小説にでてくる登場人物たちも、必ずしも犯罪者になりうる者たちばかりではなかった。本当にちょっとしたズレで犯罪を犯すことになったりする人がほとんど。
     著者は弁護士であり、彼が担当したであろう事件を小説にしているようだ。物語はあくまでも淡々と語られ、それでも人間の心理が痛いほど伝わってくる。
     テレビ等で事件を見るたび、その悪質な犯罪者を憎むことはあれ、なかなかその背景や事情を理解しようとは思わないが、そうしたことにもきちんと向き合わなければならない弁護士等の仕事は大変だと思うし、また、大切なことだと思った。

  • 短編集。淡々と書かれていて読みやすい。
    最終話のエチオピアの男がほっこりするお話ですごく良かった。
    ハリネズミ、幸運、少し後味悪いけど愛情も面白くて好き。

  • 11篇からなる短編集で、いずれも弁護士である著者がかつて実際にかかわった事件にヒントを得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさや愛しさ、人間というものの不可思議さを描く。冒頭の『フェーナー氏』は、生涯の愛を誓った妻を殺害した真面目な男の話。簡潔に淡々と綴られる15頁ほどの文章の行間から、それまでの氏の長い人生の闇のようなものが沸々と立ち上ってくる。どの作品にも、善と悪の境界を揺れ動く微妙なラインがあり、独特の余韻を残す。そういえば、装丁画もジョアン・ミロやパウル・クレーを連想させるようなデザインで印象的。

  • 個人的に印象に残ったのは、長年連れ添った妻を衝動的に殺めた老夫を描いた『フェーナー氏』、コソ泥たちが制裁の恐怖に巻き込まれそうになる『タナタ氏の茶?』、正統派ミステリの『サマータイム』、なんだかスカッとする『正当防衛』、主人公の大河で数奇な人生に感動を呼び起こされる『ナイジェリアの男』…

    けっこう凄惨な描写も多いけど、どこか喜劇的なおかしみがあるというか。
    罪を憎んで人を憎まず、というよりも、罪を憎んですらいない。
    罪は罰すべきものであることを肯定しながら、罰することと憎しみの感情はまた別ものなのである。

  • フランス映画の名匠、ブレッソンの映画を見たような後味。
    印象としてはとっても即物的でハードボイルド。
    とっても悲惨な人々の、悲惨な運命を描き、全てを紡ぐ言葉は「犯罪」。
    作為的なドラマチックな救いはほとんどない。

    ドイツの小説です。とっても評判になっているそうですね。さもありなん。
    作者は実際に弁護士さんのようですが、この短編も全て、弁護士の「私」が自分の関わった事件について淡々と語る、というスタイル。
    語り部がそういうかたちで立ち位置がしっかりしているので、無理が無い印象。

    弁護士にしてみれば、犯罪と犯罪にまつわる人間模様は、毎日関わる日常茶飯事ですね。
    だから、ドライに淡々と語れる。の、だけど、語り部自身は貧困や悲惨や犯罪の対岸。安全圏に居る訳です。なので、小説世界としては悲惨になりすぎずに済んでいます。

    そういう仕掛けの上に、描かれる一つ一つの話が、まあ、なんというか「ザ・人間模様」と言いますか。
    どれもそれなりに辛い人生なんですが、語り口の旨さで、地に足着いて読めます。

    そしてそこには、欧州、ドイツに現在横たわっている、移民問題が浮かび上がりつつ。
    日本でも変わらない格差や貧困や不寛容といった風景もあれば、
    奇妙な運命や奇跡のような希望があったりします。

    語り口の上手さが、なんだろう。なんだかドストエフスキーな、とでもいうべきか。
    微妙に乾ききったユーモア、翻訳もの独特の言い回しも上手くこなれていて。
    衝動買いにしては、衝撃的に面白かった一冊。






    以下、個人的な備忘録。


    ####################

    ●フェーナー氏
    長年実直な開業医だった男。悪妻に悩まされ続けて、生真面目であるがゆえに、老いてからある日、妻を殺害。自首した。

    ●タナタ氏の茶碗
    不良の少年たちが、大富豪の家に窃盗に入る。有名な茶碗を価値を知らず盗んだ。
    だがその大富豪の手回しなのか、窃盗関係者が次々に怪死。
    恐れた少年たちは盗品を返品して、なんとか事なきを得る。

    ●チェロ
    厳格で粗野な大富豪の家で育った、姉と弟。
    家から出て、常にふたりで暮らしたが、弟が大事故で意識理性を含めて障害者になってしまう。
    性欲剥き出しで姉に襲い掛かる弟に手を焼く姉。
    姉は弟を殺害し、自首した。

    ●ハリネズミ
    移民の一家。家族は皆、犯罪者。
    そこで生まれ育った末っ子の男子は、異色の優等生。
    家族に知らせずに別に家を持って、ITも駆使して、もう一つの人生を送る。
    彼の「もう一つの人生」は、家族のだれも知らない。
    兄の一人が犯した犯罪の裁判で、機知を発揮して家族を救う。

    ●幸運
    戦災に巻き込まれた若い女性。輪姦され、全てを失い、国を捨て、ドイツに。
    生きていくために売春をしていた。
    そして路上で出会った若者と同棲を始める。
    しかし、ホテルで客が突然死。
    誤解と誤解が重なって罪に問われることになる。

    ●サマータイム
    中東からの難民の若者。犯罪に手を染めて生きている。
    そこそこ羽振りが良くなり、愛し合う恋人も出来た。
    だが、たちの悪い借金にはまり、命の危機に。
    恋人の女性は、仕方なく大物実業家の愛人になる。嫉妬深い彼には隠している。
    密会の後、その女性が死体で発見される。
    家族も地位もある実業家が殺人罪に問われるが…。

    ●正当防衛
    街のチンピラを、正当防衛で瞬時に殺害した、身元不明の男性。
    どうやっても正当防衛で無罪になってしまい、放免。
    どうやら、「プロ」だったらしい。

    ●緑
    田舎。資産家の名家の息子が、ある種の異常になってしまう。
    羊の目をくりだしたり、羊を殺したり。
    他の人に見えない、「色」「数字」が見えると…。
    知り合いの若い女性が失踪し、彼が殺したのかと疑われ…

    ●棘
    博物館の守衛。
    会社のミスで、同じ博物館で何十年も勤務することに。
    博物館を隅から隅まで熟知した彼は、やがてとある銅像に惚れこんでしまう。
    そして退職の間際に、その像を叩き壊してしまう。

    ●愛情
    恐ろしい一篇。人肉を食べる、という変質者の話。
    恋人と過ごしていた穏やかな日に、彼女に切りつけてしまった若者。
    どうやら、「愛しくて、食べたくなった」らしい…。

    ●エチオピアの男
    「残酷なメルヘンそのもの」な、不幸な生い立ちを歩んだ孤児の男。
    軽犯罪の末に海外に脱出し、アフリカで死にかけたところを、エチオピアのとある集落の人々に助けられる。
    その集落で、村の人の為に働き出した男は、そこで家族を作り幸せになる。
    だが、帰国したドイツで罪に問われ、投獄され、最後にアフリカに戻るために強盗を働く…。
    珍しく最後がハッピーエンド。オオトリにふさわしい、グっと来る一篇。

  • 先に『罪悪』の方を読んでいたんだけど、短くて読後感も冷え冷えするものが多かったあちらにくらべると、これはもうすこし温かみやユーモアの感じられる作品が多い感じ。どちらも文句のつけようのない見事な短編集であることには違いないけど。
    なかでも強く印象に残るのは「タナタ氏の茶碗」。マヌケな3人組が大金持ちの家に泥棒に入ったものの、さっそく街の乱暴者に目をつけられ・・・・という序盤は、ガロテという拷問用具の説明から、突如として凄惨な暴力に変化し、さらに終盤では、そんな物理的暴力よりも、もっと恐ろしいものに背中をなでられたようにゾッとさせられる。と、そこに示される3人組のおかしな会話。この短さのなかで映画を一本見たかのような気にさせる、構成のみごとさよ。
    父親の支配から逃れようとした美しい姉弟の悲劇に、最後にそっと添えられる『ギャッツビー』からの引用が余韻を深める「チェロ」、足から棘を抜こうとしている大理石像にオブセッションをつのらせる孤独な男の話なのに、どこかおかしみのある「棘」、そして、まるでおとぎばなしのような「エチオビアの男」まで、どの話も実に巧みだし、奥行きがある。長編も出たそうで、楽しみだ。

  • 弁護士である筆者が実際の事件から構想を得た短編を11編収録。

    無駄をそぎ落とした事実だけを伝える淡々とした語り口と訳の巧さがあって、思った以上に読みやすかったです。一編一編も20ページ以内で収められていて気軽な気持ちでも読むことができました。

    どの短編でも罪を犯した人たちが出てくるわけですが、その多種多様具合も面白いです。さまざまな悪人たちが事件裏で攻防を繰り広げる『タナタ氏の茶碗』

    皮肉な結末とラストの引用が突き刺さる『チェロ』

    世にも奇妙な話で出てきそうな何とも不思議な犯罪者の話『棘』

    そんな中でも最も印象的だったのは最終話の『エチオピアの男』
    どん底の生活を続けていた男が銀行強盗を犯してからの半生が語られる話なのですが、収まるところに収まったいい話でした。

    筆者の犯罪者に対する目線にどこか不思議な温かさが感じられたのもこの本がよかったと思える理由の一つかもしれません。

    2012年版このミステリーがすごい!2位

  •  短編集。
     基本的に人間のドロドロした部分が描かれていて、かなり猟奇的な場面もあるのに、全てが弁護士の目線から淡々と語られているので、あっさりした印象。物凄いクドい食材で作ったサッパリメニュー、そんな風に思った。

     印象に残ったのは『緑』と『棘』、『エチオピアの男』。
     『緑』は兎に角ラストの「緑」が気になっちゃって。でもこれは、当人は理由なんて分かっていないし、専門家だって全て説明はし切れないだろうなぁ。「きっとこんな理由なんだろう」って想像して満足するしか。
     『棘』、一箇所に延々と勤めさせた事が悪いと言われ、実際この場合それが一因でもあったけど、一箇所で勤め上げるのが普通な日本じゃまず出なさそう。今後は色々変わるかも知れないけど。
     『エチオピアの男』、これが一番好きな話。本の最後にこの話を持って来てくれて有難う、という感じ。

  • とても面白かった。実話にもとづいているらしいが、書かれていることはたいそう異様なのに、まぎれもなくここには人間の真実があると感じさせられる。ドイツミステリは陰鬱な感じが苦手なのだが、これはいい。変わったものが読みたいという欲求にうってつけの一冊。

  • 濃い~。
    短編集なんだけど、どの話もそれで1冊書けてしまいそうな内容。
    人間自体そのものがミステリーというか、
    世の中にはいろんな人がいるんだなーと驚かされっぱなしでした。

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